ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ

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第08話 絡みつく変態の魔の手

01.遊んでよ、お姉ちゃん

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 ***

 第二夫人・ミオはカップに熱いコーヒーを注ぐ。

 午前十時。早々に自室の家事を済ませ、ソファーに腰掛けて優雅に読書に耽る。手に取っているのは国際政治に関する専門書。

 夫のヴァンは政治・軍事・経済・社会保障・治安維持と多分野の仕事を同時にこなしている。全てはこの国を立て直して世界を救うためだ。妻として彼を支えるミオも、こうして情報収集を欠かさない。

 ヴァンはいくら分身で増えたとて結局視点を同じくする同一人物である。ときにそれは盲点を生んでしまうし、別の視点からの意見が必要になることもある。普段は厄介なお姉さん扱いされている彼女も、彼に寄り添う者としてしっかりと責任を果たしているのだ。今日はこの読みかけの本を読破し、さらにはもう一冊読み────

「ミオ姉! 何読んでんだ?」

 ────たいところだったが、邪魔が入った。ノックもせずにいつの間にかミオの部屋に侵入していたのは第八夫人・ユウノ。ミオはため息と共に本を閉じる。

「何よぉ、ユウノちゃん。ノックもせずに……」

 ミオは不満げに眉根を寄せる。せっかくノってきたところだったのに。

「ミオ姉だっていつもしねえじゃねえか」
「……まあそうなんだけどねぇ」

 ぐうの音も出なかった。ミオはノックもせずに入ってびっくりさせるのが好きなのだ。しかしそれは本当に入ってはいけないタイミングがなんとなく見抜ける魔性のお姉さんだからであって────。

「で、何読んでんだ?」

 思考に割り込まれる。マイペースな後輩だった。興味津々に猫耳をミオに向け、尻尾を大きく揺らしている。ミオは表紙を見せ、わざわざタイトルを朗読してあげた。

「こっちが『スナキア家と政府の狭間』でぇ、こっちは『隣人を愛せる者へ』。国際政治の本よぉ」
「小難しそうだな。ちゃんと意味わかんの?」

 ユウノの尻尾がだらんと垂れる。途端に興味を失ったらしい。

「わ、わかるわよぉ。お姉さんは────」

 ヴァンさんの妻なんだから、と言いかけてやめる。同じくヴァンの妻であるユウノはおそらくわかっていないし、わからないままでもいい。妻の在り方、みたいなものを押し付けてしまうのは憚られた。

「────昔は政府関係のお仕事してたんだもん」

 ミオは急遽文章の結びを変更する。

「昔って……ミオ姉今いくつだっけ?」
「あら、女の子に年齢聞いちゃダメなのよぉ?」
「いいだろ家族なんだし。つーかミオ姉全然若いだろ? だから聞けるんだよ」
「嫌がる子もいるかもしれないから気をつけるのよぉ? えっと、来月で二十六だけどぉ」

 ミオは学年的にこの家で一番年上である。夫のヴァンもミオの一つ下に当たる。「お姉さん」を自称する程度には自分が年長者であることに対して不満も焦りもない。

「じゃあアタシの四つ上か」
「な、なんかそれはちょっと効くわねぇ……」

 だがこうして計算してみると結構インパクトがある。自分が高校生の歳のときユウノは小学生だ。何だか急激に自分が年寄りな気がしてきた。というより、この子が若い。

「ミオ姉、今日はアタシとどっかに遊びに行ってくれ」

 突如、ユウノがおねだりする。切れ長の目をキラキラと輝かせて、真っ直ぐにミオに見せつけていた。

「えー?」

 一方、ミオは難色を示す。あまり気持ちの昂らない提案だった。

「何が嫌なんだよ」
「ユウノちゃんの遊びってアクティブなんだもん。お姉さんインドア派なの♡」

 ユウノはわんぱくだった。体を動かすのが好きだし、外に出るのが好きだ。人妻で大人の女性だというのに、野山を駆け回って泥団子を作るのすら似合ってしまいそうだ。

 対するミオは一日中家の中にいてもへっちゃらで、本を読んだり映画を観たりが中心だ。運動なんてたまに思い出してうろ覚えのヨガをちょっとだけやり、「日課にしてますけど?」みたいな顔をする程度のものだ。

「アタシらは全然趣味が合わねえ。それは分かってる。その上でミオ姉がいいんだ」
「あらぁ、分かった上でなのねぇ……。じゃあわがままはお互い様ってことでいーい?」
「いいぜ!」

 ユウノは朗らかにサムアップをキめた。ミオは愛おしそうに目を細める。変な会話だった。

「何でお姉さんなのよぉ?」
「それだよ。今日は年上のお姉ちゃんに遊んで欲しい気分なんだ。アタシ、実家では子供の頃から『姐さん』って呼ばれてたからな。妹側をやってみてぇんだ」
「はー、なるほどねぇ。それで私なの。いいセンスしてるわぁ♡」

 ミオは選ばれてご満悦といった表情を浮かべたものの、脳内ではユウノに充てがう別の候補者を探していた。今日は読書の気分なのだ。せっかく淹れたコーヒーだってまだ暖かい。

「ユウノちゃんより歳上っていうとぉ……、ジルは?」

 第一夫人・ジルーナはヴァンと同じくミオの一学年下に当たる。第二夫人ミオにとって年下の先輩だ。

「ジル姉は真面目だからアタシが行きたいようなところ楽しくないだろ」
「わ、私も楽しくないって言ってるのにぃ……!」

 ユウノはミオの事情なんてお構いなしだった。すでに充分妹っぽい態度を披露しているのではあるまいか。

「じゃあ……フーちゃんはぁ?」

 第四夫人・フラムはミオと同学年。「ミーちゃん」、「フーちゃん」と呼び合うこの家の最年長コンビだ。

「アタシが行くような荒っぽい場所にフラム姉を連れまわしたらかわいそうじゃねえか」
「ねぇ! 私はかわいそうじゃないの⁉︎」

 何だか不公平な扱いにミオはむくれてみせる。お姉さんがいいと言うわりに、あまり年上として尊重されていない気がする。しかしその理由は自分でも何となくわかった。日頃から後輩の面倒見が良いジルーナやフラムと違い、ミオは人を翻弄するのが好きな厄介さんだからだ。

「……あ、シュリちゃんも年上になるんじゃなぁい?」

 ミオはもう一人の候補を思い出す。第三夫人・シュリルワだ。

「そうだけど、シュリはあんまお姉ちゃんって感じじゃねえんだよな。歳ほとんど一緒だし。あとちっちゃいし」
「そうねぇ、どうしてもちびっ子のイメージが……」

 シュリルワはミオの三学年下。ユウノとは一つしか違わない。ミオからすればどちらも年下グループのメンバーだった。

「あとアタシ……さっきシュリに叱られたばっかなんだよ……。寝坊して洗濯係に遅れたから……」
「き、気をつけるのよぉ?」

 生活態度があまりよろしくないタイプのユウノは、ガミガミ言うタイプのシュリルワに度々注意されていた。今日は遊びに誘えるような状況ではないらしい。どうやらユウノの遊び相手は消去法でミオしか残っていないようだ。

「頼むよミオ姉! いつもお姉さんぶってるんだからいいじゃねえか!」

 ユウノはミオが他の候補を並べ連ねたことにご不満の様子だった。ミオが日頃から散々お姉さんアピールしているからこそ、こうして甘えに来たのだろう。

 ────その言い草に、ミオは刺激される。

「ぶってるって何よぉ。本当にお姉さんなんだから……!」

 ミオはスラリと立ち上がって、細身・長身のモデル体型を見せつける。大人っぽいボブをはらりと擬音が書き添えられそうな所作で払った。誰しもゾッとするような蠱惑的な笑みを浮かべ、堂々と宣言する。

「お姉さんらしいところ見せてあげる♡ ……どこに行きたいのぉ?」

 ミオがようやくその気になると、ユウノはしめたぞとばかりにニヤけ顔をお返しした。
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