最強種からとんでもなく愛されています

赤金武蔵

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プロローグ②

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 タイト君にやられた数日後。ようやく体の痛みも取れてきて、仕事が出来るようになった。

「お、おはようございます……」

 とある建物の中に入ると、既に来ていた別の従業員が僕に気付いた。

「あ? 何だテメェか……組合長ー、ゴミが来ましたぜー」

「……おう、こっち来いや」

 部屋の奥から聞こえてくる、怒気を孕んだ声。行きたくなさ過ぎる……。

「……お、おはようございます、組合長……」

「…………」

 挨拶が返ってこないのはいつもの事。だけど、今日は顔付きがいつもより険しい。いや険しいんじゃなくて、まるで鬼のように眉間に深い溝を作っていた。

「……テメェ、誰に断って四日も休んでやがるんだ。あ? コラ、ボケ。言ってみろよクソゴミが」

「そ、その……怪我してまして……」

「怪我だァ? 怪我程度で休まれてちゃ、こっちも迷惑なんだよ! 使えねぇゴミみてぇなテメェを雇ってやってんのは誰だと思ってんだ! 言ってみろや!」

「く、組合長です! 心の底から感謝してます!」

 腰を折って頭を下げる。今の僕に出来るのは、頭を下げる事だけだ。

「よーし。感謝してんなら、今から四日分は無給で働いてもらう。欠勤してんだ、当然だよな?」

「えっ……そ、それだと生活費が……」

「嫌なら辞めてもらって良いんだぜ」

「っ……わかりました……」

 再び頭を下げて、更衣室で仕事着に着替える。

 ここで反発してクビにされたら、こんな僕を雇ってくれる所なんてもう無いだろう。今は我慢……我慢だ……。

 僕の働いているのは、ゴミ処理組合という場所だ。道端にあるゴミ捨て場から荷車を使ってゴミ集積所に集め、そこから使えるもの、使えないものを仕分けする。

 仕事着のツナギに着替えて、荷車を引いて僕の担当地区へ向かう。僕の担当は、街の西地区。僕を含めた貧困に喘ぐ人達がいる地区だ。

 裏路地を使って密かに歩き回り、ゴミ捨て場からゴミを回収して、また歩く。

 貧困層の地区だから、基本的に本当に要らないものしか捨てられてない。何でもかんでもリサイクルする僕達にとって、ゴミらしいゴミは本当に僅かだ。

 ゴミ捨て場とゴミ処理組合を往復する事六回。ようやく西地区のゴミを回収出来た。

 この時点でもう昼過ぎ。これからはゴミの仕分けだ。

 売れるもの、売れないもの、使えるもの、使えないものを分ける。売れるものは組合を通じてフリーマーケットで売り、使えるものは、後で組合の皆で山分けになるけど……僕には、ギリギリ使えるか使えないかのゴミしか残されていない。僕は一番の下っ端だから、仕方ないけど……。

 でも、この組合には一つだけ暗黙のルールがある。それは、仕分け中に一つだけなら好きな物を自分のものに出来るのだ。

 貧困層のゴミは本当にゴミだから、そのルールを僕が使ったことは無い。それなら、裕福層の集まる東地区に行って、ゴミを漁った方が早い。

 だけど、今日はちょっと違った。

「ん? これ……」

 手の平サイズの写真立て、かな? こんな完璧な形で残ってるなんて珍しい。

 白い縁に、黄、赤、オレンジの絵の具で可愛らしい花が描かれている。ちょっと良さげだ。

 ……あ、そう言えば、再来週テスタちゃんの誕生日だっけ。……よしっ、これをプレゼントしよう! 二週間もあるし、ちゃんと磨けば喜んでくれるよね!

 あっ、そうだ! 四日後には僕の給料も復活するし、お金を貯めてちょっとだけ良いものを買おう! えへへ、喜んでくれるかな……。

 何だかやる気が出てきた! 頑張るぞ!



「いってて……まさか組合長に殴られるなんて……」

 タダ働きを命じられたのに、写真立てが欲しいって言ったからだけど……うわっ、右目の周りが青くなってる!

 冷やす物も無いし……はぁ……このまま帰るしかないか……。

 でも……やった、やったぞ! 写真立ては貰うことが出来た! やっぱり誠心誠意お願いすれば、組合長も分かってくれるんだよ!

 よーし、この調子で二週間後のテスタちゃんの誕生日、盛大にお祝いするぞー!

 ──────────

 四日後、ようやくタダ働きが終わり、僕にもお金が入るようになった。

 その間、おじさんにはしこたま殴られたけど……けど大丈夫だもんね! 目標があれば、人は頑張れるんだよ!

 さて、今日のゴミはっと……ダメだ。やっぱり良いものがない。貧困層の西地区だと限界があるな……。

 ……こうなったら……!



 その日の夜。酔って爆睡してるおじさんに気付かれないように家を出ると、裏路地を走って街を横断した。

 裏路地にいる貧困仲間に罵声や石を投げつけられても、止まることなく走る。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……な、何とかここまで来れた……」

 裕福層の東地区。西地区のボロ小屋を集めた感じではなく、ちゃんと整備された街並みと煌びやかな街灯。それに、着ている服もどこか輝いて見える。

「……ん? 何か臭くない?」
「あらやだ、本当」
「卵が腐ったような臭いだ……!」
「くさーい!」

 っ、もうバレて……!? 早くしなきゃ……!

 裏路地を縫うように進み、目的のゴミ捨て場に着いた。

 ゴミは……沢山ある! 本もあるし、食べられそうなパンも捨ててある! よしよし、良いぞ!

 持ってきた麻袋に取り敢えず使えそうなものを詰める。食べ物も何も関係ない。とにかく、運べる分だけ詰める。

 よしっ、こんなもんか。撤収!

 影に紛れるように走り、走り……や、やったぞ! 家まで帰って来れた!

 おじさんは……寝てるっ!

 音を立てないように家に入り、ゆっくり部屋に入っていった。

「……は、はは……やった……やったぞ……!」

 ま、まだ手と脚が震えてる……けど、やったんだ、僕は!

 本来、ゴミ捨て場から物を盗るのはご法度だ。組合でも厳重に言われている。

 だけど僕は知ってる。他の人は、ゴミ捨て場から運ぶ時に少なくない数の物を別の所に隠し、それを後で回収してるのを。それと、やってる事は同じだ。僕にだって生きる権利はある。生き抜くために、何でもやってやる……!

 麻袋に入っている食べかけのまま捨てられていたパンを頬張る。美味いっ、美味い美味い! これが裕福層の食べてるパンか……! 中に入ってる、白くてとろーりとしてるのは何だろう。物凄い甘い……!

 それにこれ、腐りかけてるけどイチゴだ! こんなものもあるなんて……!

 とにかく袋に入っている食材を食べまくり、腹を満たす。

「ふぅ……食べた……」

 こんなにお腹いっぱいになったの、初めて……。

 だけど、これで終わりじゃない。本番はこれからだ。

 苦しいお腹を我慢して起き上がり、麻袋に入っていた物を取り出す。

「本三冊、指輪、服、花瓶、水筒……すげー、宝の山だ……!」

 この服、少し大きいけど僕でも着れそうだ。水筒も使えるし、本も……今は読めないけど、どこかで覚えられるかもしれないし、取っておこう。

 でも、この指輪……テスタちゃんに似合うかな?

 ……いや、どうせ指輪をプレゼントするなら、これを売ったお金で、安くても新品な指輪を買おう。

 あと十日。やり切るぞ……!
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