ダンジョン警備員 〜ダンジョンの治安を守ってただけなのに、いつの間にか配信されて伝説になってました〜

赤金武蔵

文字の大きさ
26 / 50
ダンジョン警備員

第26話 下層ボス

しおりを挟む
   ◆◆◆


「さ、最下層……!? そんなっ。てことは、ここボス部屋ってこと……!?」
「しょだね」
「しょだね、て……」


 慌てる八百音に対して、モチャはいつも通り気の抜ける返事をする。
 まさかの事態に、美空は困惑しすぎてリアクションできずにいた。
 横浜ダンジョンの下層ボスと、最下層に通じる門。長年、先人の攻略者たちが捜し求めてきたものが、こんな所にあるなんて。


『おおおおお!』
『これは歴史に残る』
『マジかすげぇ』
『俺たち、歴史の目撃者になれるのか』
『頑張れモチャ、お前なら勝てる!』


 大盛り上がりのコメントだが、1つ気付いたことがある。
 それは……ダンジョンボスに挑む条件だ。


「あの、モチャさん。ダンジョンボスって、この場にいる全員が挑まないと現れないんじゃ……?」
「そう、それが問題にゃんだよねぇ。モチャたちが落下した場所、あそこギリギリでボスの標準圏内でさ。3人がこの広間に入らないと、ボスが現れないんだよ」


 参ったねこりゃ、と肩を竦めるモチャ。
 モチャは強いから問題ないが、美空と八百音にとっては死活問題だ。まだ中層のボスにも挑んでいないのに、いきなり下層のボスなんて勝てるわけがない。


「に、逃げましょうっ。なんとかあの穴を登れば……!」
「無理かな。上層、中層、下層をすべてぶち抜くほど深い穴だよ。登るのは不可能に近い」
「なら助けは……」
「救助隊でも、深すぎる穴からモチャたちを助けるのに何週間……下手すると何ヶ月もかかる。どっちにしろ、死ぬよ」
「そ……んな……」


 今までも何回か、死に直面したことはある。
 だが、ここの死は今までの比にならない。進むも死。進まぬも死。こんなの、絶望以外どう表現すればいいのか。


「助かる方法と言えば、1つ。ダンジョンボスを倒すと、地上に戻るゲートが開かれる。それしかない」

『え……』
『これやばい?』
『やばいなんてもんじゃない』
『通報はしたけど、いつ到着するかわからないって言われた』
『まずあの壁を破壊しないといけないから……』
『俺も通報した』
『私も』
『ど、どうする? 俺たちにできることないのか?』


 通報という言葉に、美空は急いで他の画面を開いた。
 コメント、SNS、スレ、テレビニュース……何もかもが、ここの配信のことで持ち切りだ。
 ニュースでは、自衛隊ダンジョン特殊部隊が向かっているというニュースが流れているが、それもいつ到着するかわからないと言う。
 日本だけじゃなく、世界中がこの配信に注目している。同時視聴者数は、数えるのも馬鹿らしくなるほどの数だ。
 本来なら嬉しいはずなのに、嬉しくない。
 進んで死ぬか。待って死ぬかの前に、数字なんて意味はないのだ。

 絶望の表情を浮かべる2人だが、モチャは1歩前に踏み出して、朗らかに笑い振り返った。


「あーんしんしなって、お2人さん。モチャがぜってー護ってやんよ。……2人は死なせない。モチャに任せなさいな」


 こんなピンチなのにいつも通り笑うモチャに、2人の心は少しだけ軽くなった。
 けど、本当にそれでいいのだろうか。すべてモチャに任せてしまって、許されるのだろうか。


「も、モチャさん……」
「でも……」
「にゃははー。未来ある若人を護るのも、先輩の勤めだからねぃ。……入ったら、柱の影に隠れること。良いな?」


 有無を言わさぬ言葉の圧に、2人は頷くことしかできなかった。


「っし、やったるどー!!」


 気合いっぱいのモチャが、広間に足を踏み入れる。
 まだ恐怖で足が竦む。だけど、ここで何もしないよりマシだ。
 美空と八百音ははぐれないよう、手を繋いで広間へ入っていき──突如、背後の穴が塞がった。まるでここから逃がさないとでも言うように。
 壁沿いに刻まれている溝に青い炎が走り、広間全体を照らす。


「2人とも、隠れてな」
「は、はいっ」
「モチャさん、お願いね……!」


 急いで柱の影に隠れた。ここからじゃ戦いの様子は見えないから、モチャと自分の配信画面を開く。
 開かれた画面には、険しい顔で宙を睨むモチャと、部屋の中央に浮かぶ青白い炎の球体が映し出されていた。


「こいつがボスかな……?」
「わ、わかんないけど……動かないね」


 青白い炎は揺らいでいるだけで、その場から動かない。警戒しているモチャもそれに気付いたのか、トールハンマーを両手で握った。


「動かないなら……ソッコーで決めるッ!!」


 先にモチャが動いた。
 全身に紫電をまとうと、髪も逆立ちトールハンマーも稲光を放出する。
 あれは、美空もよく使う身体強化魔法、《魔法付与エンチャント・フレア》の雷版、《魔法付与エンチャント・カムイ》だ。
 炎属性の身体強化魔法は、破壊力と延焼力が爆発的に上がる。対して雷属性は、破壊力はそこそこだがスピードが段違いだ。

 自身の体に雷を付与したモチャは、体を捩って力を溜めて、溜めて、溜めて……。
 

「フッ──!!」


 超速で、地面を蹴り抜く。
 初速からトップスピード。カメラでも視認できないスピードで白炎に迫ると、溜めた力を解放した。


「《殲滅アナイアレーションの雷鎚・オブ・トール》!!」


 解放した力に推進力が加わったトールハンマーの一点集中の打撃が、白炎を襲う。更に解放された雷が、それぞれ無数の雷の雨となって白炎に降り注がれた。

 防御不能の超攻撃を受け、白炎は大きく揺らぐ。
 この魔法は、モチャが中層ボスを倒した時に使われたものだ。あの時の動画は、美空も鮮明に覚えている。初めての中層ボスへの挑戦だったのに、この一撃で終わったのだ。
 できることなら、モチャもこれで終わらせたいという気持ちがあるのだろうが……険しい顔は変わらない。むしろ、悔しそうに舌打ちした。


「クソッ、硬ェ……!! ッ……!?」


 何かを察し、モチャが慌てて距離を取る。
 直後、モチャのいた場所に炎撃が放たれた。目標を失った炎撃は床に当たり、深く溶かし抉った。
 美空の炎とはえらい違いの威力に、2人はギョッと目を見開く。


「な、なんて破壊力よ……!」
「モチャさん……!」


 一旦距離を取ったモチャが、白炎を睨みつけた。


「今ので手応えがないとか、さすがに初めてだねぃ……!」


 モチャの配信を見ていればわかるが、基本モチャは一撃で魔物を倒す。多くても二撃だが、それでも一撃目で瀕死に追い込み、直ぐに仕留める。
 そんなモチャの……ボスも一撃で屠れる程の威力の攻撃を持ってしても、あの白炎はビクともしない。余りにも、格が違いすぎる。

 白炎は揺らぎ、モチャに向かって無数の炎弾を放った。
 かなりのスピードだが、まだモチャの方が速い。余裕を持って避けきっている。
 避けつつ、モチャも雷球を放つ。
 手数では負けているが、衝突と同時に雷球が弾けて周囲の炎弾を消し飛ばす。おかげでだいぶ動きやすそうだ。
 モチャはトールハンマーを担ぎ、炎弾を縫うように走って再び白炎に接近する。


「湧き上がるは永久とわの雷光──
 導くは地獄の門か、はたまた極限の楽園か──
 汝の罪、堕ちるか逝くか、神のみぞ識る──
 神の玄翁よ、今我らの敵に罰なる鉄槌を──」


 モチャが何かを呟くと、トールハンマーから迸る紫電が、数十を超える魔法陣を形成した。
 白炎を囲う魔法陣が回転し、より強く発光する。
 炎弾のすべてを掻い潜り、トールハンマーを大きく振り上げ……。


「《ラース・オブ・トール》!!」


 振り下ろした。
 同時に、烈しい迅雷が四方八方から白炎を襲う。
 目を開けるのも難しいほどの雷光と、耳をつんざく雷鳴が響き、2人は思わず頭を抱えて身を屈めた。


『詠唱魔法!?』
『マジで!?』
『モチャ、詠唱魔法まで使えるの!?』
『初めて見た……!』
『すげぇ』
『これはガチや』


 本来、簡単に使える魔法は、詠唱を必要としない魔法が多い。
 だがしかし、通常魔法を遥かに超える力を持つ魔法には詠唱があり、それらを総じて詠唱魔法と呼ぶ。
 詠唱魔法は、詠唱を知っていればできるというものではない。
 通常魔法を極め、肉体を極め、心身が極まった者にのみ、脳裏に詠唱が浮かび上がる。そうして、初めて使役できるのだ。
 詠唱魔法を使える攻略者は、世界中を捜しても3桁もいない。
 つまり……モチャの強さは、本物ということだ。

 攻撃が止むまでの数分間が、嘘のように長く感じる。
 我慢することしばし。ようやく収まり、2人は頭を上げた。


「み、美空、大丈夫?」
「う、うん。なんとか……けど……うわ、モチャさんすっご……」


 顔を覗かせると、土煙が晴れた先にモチャが立っていた。
 床や壁や天井は抉れ砕かれ、柱も何本か倒れている。その代わり、白炎の姿はない。どうやら、あの魔法で消し飛んだらしい。
 これが、モチャの持つ最大火力の魔法。とんでもない威力だ。
 が……モチャは険しい顔をして立っている。


「モチャさん、終わったの?」
「勝ったんですよね、モチャさん!」
「……いや──まだっぽい」


 モチャが視線を上に向け、2人も後を追って上を見る。
 と……そこには、膝を抱えて丸まっている、青白い鎧をまとっている騎士が浮いていた。
 メキッ……ミシッ……パキッ……。妙な音を立て、騎士がゆっくりと四肢を伸ばす。
 それは、不思議な生物だった。
 脚は2本。腕は4本。両腰に剣が1本づつ。背中に槍が2本。
 だが胴から伸びる首は2つあり、右側が女の顔。左側が男の顔をしている。


「参ったね……さっきまでやり合ってたの、あれを守る殻だったって訳か」


 モチャがひたいから冷や汗を垂らし、顔をひきつらせる。
 その表情で、察した。
 あれは、さっきの奴より強い、と。

 ────────────────────

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
 ブクマやコメント、評価、レビューをくださるともっと頑張れますっ!
 よろしくお願いします!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります> 「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。  死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。  レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。  絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、 「え?、何だ⋯⋯これ?」  これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...