ダンジョン警備員 〜ダンジョンの治安を守ってただけなのに、いつの間にか配信されて伝説になってました〜

赤金武蔵

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ダンジョン警備員

第28話 抗う

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 詠唱が完了した瞬間、モチャの周囲を球体状の魔法陣が現れる。それが二重、三重、四重と広がり、雷光と共にモチャの姿を隠した。
 数秒もしない内に魔法陣が圧縮するように縮小していき、白い光に包まれているモチャが現れる。

 髪の毛が迸る紫電のように変貌し、眼光も紫紺色へ変わる。
 服装もギリシャ神話の最高神、ゼウスのようなマントを羽織り、胸にはサラシを巻いていた。ひたいに雷の角が生え、背中に雷光の環が浮かぶ。
 トールハンマーも形状を変え、ヒヒイロカネの黄金の色から、赤紫色へ変化した。


「行くよ、ミョルニル」


 美空も、噂で聞いたことがある。
 神の名を冠する、憑依魔法。魔法を極めた者のみが到達する、魔法の極地のひとつ。
 雷の神。その名は──ゼウス。
 モチャの目がギョロりと動き、美空と八百音を見る。


「5秒しか持たない。回復薬準備」
「「ッ!!」」


 何を言いたいのか即座に察した2人は、射線から外れる。

 残り、4秒。

 攻撃が止み、騎士は白炎の翼を羽ばたかせて飛び上がった。が、それよりも早く、モチャが騎士に手の平を向ける。上下左右前後。騎士を囲うように魔法陣を展開した。


「《稲妻の十字架クロス・オブ・アルゲス》」

【【────!!!!】】


 魔法名を唱えた直後、魔法陣が発光。
 超轟音と共に雷の十字架が現れ、中央にいる騎士の体を貫いた。発動した雷を魔法陣が反射し、何度も、何度も、何度も騎士を穿ち抜く。

 残り、3秒。

 だが、まだ終わらない。
 モチャはミョルニルを掲げ……。


「《閃光ステロペス》」


 文字通り雷の迅さで騎士へ接近。
 ミョルニルから赤紫色の雷が放出され、圧縮。掲げるミョルニルが、雷鳴を轟かせながら強い光を放つ。


「世界を終末に導く大戦争──
 天は雷雲に包まれ、地は死に満つる──
 しかし神は我らを見捨てぬ──」
 この撃が、満つる死を打ち払んことを──」


 詠唱完了。ミョルニルに破壊の力がすべて注ぎ込まれ、自壊を始める。

 残り──


「《終末の滅鎚ラグナロク》──!!」


 ──1秒。

 ミョルニルを騎士の心臓部分に叩き込んだ瞬間、世界を揺るがす程の超爆発が発生。
 爆風と雷光によって吹き飛ばされ、平衡感覚が無くなる。
 今自分は立っているのか、寝ているのか、それとも壁にぶつかったのか、まだ飛ばされているのか。
 わかることは、モチャはこれを見越して回復薬の準備と言ったのだ。
 手に握っていた回復薬を口に含み、無理にでも飲み込むと、体の感覚が戻ってきた。明滅していた視界も回復する。

 慌てて立ち上がって周りを見渡すと、広間は完全に崩落していた。まだ辛うじて天井と壁が残っているから、生き埋めにはなっていない。
 上を見ると、柱の陰に隠れていたからか、美空とモチャのドローン型のカメラはまだ生きているみたいだ。


「……ぁっ。や、ヤオ、無事!?」
「……おー、なんとかぁ~……」


 土煙の向こうから、八百音の声が聞こえる。よかった、死んではいないみたいだ。
 じゃあモチャは?
 慌てて爆心地に向かう。土煙が邪魔でよく見えない。


「も、モチャっ……モチャさん! 無事ですか、モチャさん!!」


 ……返事がない。気絶しているのか、はたまた……。
 嫌な考えが脳裏を過ぎり、レーヴァテイン・レプリカの炎で上昇気流を作り出し、土煙を払った。
 いた。モチャだ。
 全身が雷で爛れて息も絶え絶えだが、生きている。
 残りひとつの回復薬を手に、急いでモチャの下へ駆け寄り……。


「ぐ……る……な゙……!」
「ぇ……?」


 眼前に迫る何か。自分の動体視力では認識できないそれは……当たったら、間違いなく死ぬ。


(あ、無理──)


 その時。足元の岩が崩れると同時にバランスを崩し、運良く何かを避けられた。
 剣だ。騎士の持つ、あの青白い。
 ということは……。





【今のは危うかった】
【死を覚悟したのは初である】
【我らをここまで追い詰めるとは】
【【天晴れなり、矮小なる若人よ】】





「……嘘……」


 声がした方を振り向く。そこには……身長5メートルの巨大な騎士ではなく、人間サイズまで縮んだ、奴がいた。


「な、んで……だって、今……」

【身を縮め、躱した】
【誇れ。此奴は強い】
【だがしかし、これ以上苦しむことはない】
【せめてもの慈悲とし】
【【我が一撃で葬ってくれよう】】


 右手の剣で美空を。左手の剣でモチャを。両手の槍を投擲するように、八百音を狙う。
 詰み。文字通り人生の……命の、詰みだ。
 これ以上どう足掻いても、死ぬ未来しか見えない。
 でも……。


(なんでだろ。……すごく、冷静だ)


 立ち上がり、レーヴァテイン・レプリカに炎を灯す。煌々と燃え盛る赤い炎が、剣を通じて美空を包み込んだ。


【負けが確定した今】
【なぜ抗う、人の子よ】

「……確かに、負けが確定してるかもしれない。ウチ、ここで死んじゃうかも。……でも、だからって挑まなかったら、それこそ無駄死にでしょ」


 美空の言葉に、騎士は無言で耳を傾ける。


「勝つから。負けるから。そんなことで、戦いを挑んでなんかない。立ち向かうことで、少しでも生きられる道があるなら……惨めでも、泥臭くても、最後まで抗ってみせる。それが……ウチがパパとママから学んだ、諦めない心だッ……!!」


 吹き荒れる炎を操り、レーヴァテイン・レプリカに圧縮する。
 赤い炎はより紅く、朱く、赫く色を変え、周囲を歪ませるほどの熱気となる。


「フッ──!」


 剣を振り上げ、騎士の剣を弾く。それを皮切りに、八百音も砂の槍を無数に放った。
 だが、騎士は表情を変えず弾かれた剣を巧みに操り、砂の槍を一刀で斬り伏せると……流れるままに、美空の頭部へ狙いを定めた。

 ──斬られる。間違いなく。

 意気込んだは良いものの、やっぱりまったく刃が立たなかった。それもそうだ。相手はモチャを退けた、最強の化け物。自分程度じゃ、どうやっても……。
 死を覚悟して目を閉じ……





【【──強くなりましたね、美空──】】





「────」


 今、の。優しい声……。
 目を開けると、騎士と目が合った。
 先程までの無表情な顔ではない。……甘く、優しく、どこか厳しげで……哀愁のある、微笑みを見せていた。
 この笑顔、見たことがある。
 どこで……どこかで……いったい……。


「──まさか」

【【去ね】】


 容赦なく振り下ろされる斬撃。
 青白い凶刃は、美空の体を脳天から真っ二つに──





「やれやれ、間に合いましたか」





 ──ピタッ。

 することなく、突如現れた何者かが、片手で刃を止めた。
 防がれた斬撃は衝撃波となり左右へ分かれ、左右の地面を深々と抉る。
 土煙が舞う中、美空は思わず目を閉じてしまった。


【【何者だ】】

「何者、ですか。強いて言うなら……ダンジョン警備員。と言ったところでしょうか」


 誰もを落ち着かせてくれる、優しい声。
 傍にいるだけで安心させてくれる雰囲気。
 薄目を開けて見えるのは、力強く、逞しく、頼りになる背中。
 兵服を身にまとい、兵帽を被るその人は……誰よりも待ちわびた、憧れの人。


「お……鬼さん……!」
「申し訳ありません、美空さん。怖い思いをさせましたね」


 肩口から振り返る鬼さんが、優しく微笑む。
 あぁ、泣きそうだ。今にも崩れ落ちそうになる。
 けど、まだダメだ。まだ助かったと決まったわけではない。

 鬼さんは騎士に向き直り、変わらない抑揚で声を掛ける。


「提案です、下層のボスさん。部屋に踏み入ったことは謝罪致しますので、どうかここは、穏便に退いてはくれませんか?」

【【笑止】】

「ふむ……なるほど、赦してはくれませんか。なら、攻略者の皆様の安全を護るため──」


 次の瞬間。掴んでいた刃に指を食い込ませ……粉々に砕いた。ただの、握力で。


「──業務を執行致します」

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