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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第三章・王を冠する世界1
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「ゼロス」
ゼロスの背中に呼びかけます。
でも聞こえているはずなのにゼロスは返事をしてくれません。
「ゼロス、お返事をしてくれないのですか? ゼロス?」
諦めずに何度も呼び掛けます。
すると、「むーっ」と小さな呻り声。
「ぼく、おこってるの」
私に背中を向けたままゼロスが答えました。
そう、ゼロスはプンプン怒っているのです。
それというのも、私とハウストがゼロスに内緒で酒場へ行っていたことを知ったのです。しかも酒場でイスラと会って食事をしてきたことも。
『ぼくも、いきたかったのに!』
ゼロスはとても怒ってしまいました。
酒場に幼い子どもを連れていけないので仕方ないことだったのですが、もちろんゼロスが納得できるはずがありません。
プンプンしてます。とてもプンプンです。
「ゼロス、こちらを向いてください。ね?」
「だめ、おこってるの!」
「そんなに怒らないでください。あなたに内緒で行ったことは謝ります。でも、子どもは入れないお店だったんです」
「でもでも、ぼくもいきたかったんだもん! ちちうえもあにうえも、ずるいっ……」
「そうですね、ではゼロスがもう少し大きくなったら連れて行ってあげますから」
「……おおきくなったら?」
ゼロスがおずおずと窺うように振り返りました。
どうやらもうひと押しのようです。
「はい、大きくなったら。だから今はクッキーを作ってあげますから機嫌を直してください。 あ、ジュースもいいですよ? 楽しい飲み方も教えてあげます」
「ほんと?! やくそく?!」
ゼロスの顔がパァッと輝く。
嬉しそうに足に抱きついてきて、私も抱っこしてあげました。
顔を覗き込むと満面の笑顔を浮かべている。機嫌が直ったようですね。
「はい、約束です。それじゃあ、お出掛けする準備をしてください。ハウストもイスラも待っていますよ」
「わかった!」
私の腕からぴょんっと飛び降りて、準備をする為に部屋を出て行きました。
そんな様子にコレットが安心したように話しかけてきます。
「ゼロス様の御機嫌が直ったようで良かったです」
「はい、ずっと怒っていましたからね。ハウストとイスラも泣いて怒られたと困っていました」
「ではブレイラ様も支度を致しましょう」
「はい」
侍女によって目隠しの衝立が立てられ、女官が着替えや外出の支度を手伝ってくれる。
その最中、繊細な彫刻が施された小箱が目に入りました。
小箱を手に取り、その中に入っている腕輪に目を細める。重厚なデザインが特徴の腕輪です。
「ブレイラ様、その腕輪はいったい……」
見慣れない腕輪にコレットが目を瞬く。
これは一般の宝飾店に並んでいるような腕輪で、普段お城で身に着けているような物ではありません。でも私にとっては特別な腕輪。
「これは記念なんです。ハウストとお揃いなんですよ」
先日、ハウストに王都の酒場に連れて行ってもらいました。
初めての酒場に緊張しましたがハウストと王都を出歩けることがとても嬉しくて、すっかりデートを楽しんでいたのです。その記念にとお揃いの腕輪を買いました。非公式の外出で買った物なので日常使いには出来ませんが大切な宝物です。
「その腕輪、ブレイラ様が普段着用される物とは雰囲気が少し違いますね」
「似合いませんか?」
「そ、そのような事はありませんっ! とてもお似合いです!」
「ふふふ、ありがとうございます」
分かっています、本当はあまり似合っていませんよね。
でもいいのです。私には似合わなくてもハウストに似合うのですから。
せっかくお揃いの物を選べたのですから、ハウストに似合うデザインの物が選びたかったのです。
先日のデートを思い出すと自然に頬が緩んでいく。でも一つ、気になることがありました。酒場の従業員の男のことです。
男の診断結果は二日酔い。とても重度の二日酔い症状が出ていたようです。でも問題はその症状が薬物によって誘発された可能性があるということ。そう、あの異常な巨大化も。
現在、男は診療所で目覚めて今では職場復帰できるまでに回復しました。幸い後遺症もなく、あの異常な現象は一時的なものだったようです。
しかし、男が所持していた薬袋の中身を調査すると、一般的に流通していない薬が入っていました。成分を確かめると四界のとても希少な薬草を使ったもので、人間界で調合されたということが判明しました。
男に確認すると、それは人間界に行っていた友人から『酔い醒ましに』と貰ったということです。でも男の友人から事情を聞くことが今も出来ていません。男の友人は薬を渡した後、またすぐに人間界へ転移してしまったのです。現在、男の友人を捜索していますが手掛かりは掴めていないそうです。もしこの危険な薬が人間界に出回っているとしたら……。
「王妃様、支度が整いました」
「ありがとうございます」
女官に声を掛けられて礼を言う。
姿見に映った姿に、「お綺麗です」とコレットが褒めてくれました。
用意されたのは上等な絹生地で織られたローブです。裾と袖には刺繍で繊細な模様が描かれていました。
「ブレイラ、入るぞ」
部屋の扉がノックされ、ハウストとイスラが入ってきました。
ハウストは穏やかに目を細め、私の手を取って指先に口付けてくれる。
「お前はいつも美しいな」
「ありがとうございます。あなたも素敵です」
お返しにとハウストの頬に口付けました。
次にイスラに向き直る。差し出されたイスラの手に手を重ねると、そっと唇を寄せられました。その所作は凛として気品を感じさせる。
私にとってイスラは息子。幼い頃の印象が強いので内心慣れませんが、すっかり様になりましたね。誇らしいけれど少しだけ寂しい。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いいや、大丈夫だ」
イスラは優しく目を細め、「綺麗だ」と褒めてくれます。こういうところはハウストを見て育ったのが分かります。
「ブレイラ、じゅんびできたー!」
今度は部屋にゼロスが飛び込んできました。
ゼロスの両手には絵本が二冊。
「ブレイラ、これとこれももってく!」
「いいですよ、今日も頑張りましょうね」
「うん!」
ゼロスが大きく頷きました。
今から四人で出掛ける場所、それは冥界の玉座。
そう、今日はゼロスが冥界を安定させる為に玉座に行く日。今から出発でした。
ゼロスの背中に呼びかけます。
でも聞こえているはずなのにゼロスは返事をしてくれません。
「ゼロス、お返事をしてくれないのですか? ゼロス?」
諦めずに何度も呼び掛けます。
すると、「むーっ」と小さな呻り声。
「ぼく、おこってるの」
私に背中を向けたままゼロスが答えました。
そう、ゼロスはプンプン怒っているのです。
それというのも、私とハウストがゼロスに内緒で酒場へ行っていたことを知ったのです。しかも酒場でイスラと会って食事をしてきたことも。
『ぼくも、いきたかったのに!』
ゼロスはとても怒ってしまいました。
酒場に幼い子どもを連れていけないので仕方ないことだったのですが、もちろんゼロスが納得できるはずがありません。
プンプンしてます。とてもプンプンです。
「ゼロス、こちらを向いてください。ね?」
「だめ、おこってるの!」
「そんなに怒らないでください。あなたに内緒で行ったことは謝ります。でも、子どもは入れないお店だったんです」
「でもでも、ぼくもいきたかったんだもん! ちちうえもあにうえも、ずるいっ……」
「そうですね、ではゼロスがもう少し大きくなったら連れて行ってあげますから」
「……おおきくなったら?」
ゼロスがおずおずと窺うように振り返りました。
どうやらもうひと押しのようです。
「はい、大きくなったら。だから今はクッキーを作ってあげますから機嫌を直してください。 あ、ジュースもいいですよ? 楽しい飲み方も教えてあげます」
「ほんと?! やくそく?!」
ゼロスの顔がパァッと輝く。
嬉しそうに足に抱きついてきて、私も抱っこしてあげました。
顔を覗き込むと満面の笑顔を浮かべている。機嫌が直ったようですね。
「はい、約束です。それじゃあ、お出掛けする準備をしてください。ハウストもイスラも待っていますよ」
「わかった!」
私の腕からぴょんっと飛び降りて、準備をする為に部屋を出て行きました。
そんな様子にコレットが安心したように話しかけてきます。
「ゼロス様の御機嫌が直ったようで良かったです」
「はい、ずっと怒っていましたからね。ハウストとイスラも泣いて怒られたと困っていました」
「ではブレイラ様も支度を致しましょう」
「はい」
侍女によって目隠しの衝立が立てられ、女官が着替えや外出の支度を手伝ってくれる。
その最中、繊細な彫刻が施された小箱が目に入りました。
小箱を手に取り、その中に入っている腕輪に目を細める。重厚なデザインが特徴の腕輪です。
「ブレイラ様、その腕輪はいったい……」
見慣れない腕輪にコレットが目を瞬く。
これは一般の宝飾店に並んでいるような腕輪で、普段お城で身に着けているような物ではありません。でも私にとっては特別な腕輪。
「これは記念なんです。ハウストとお揃いなんですよ」
先日、ハウストに王都の酒場に連れて行ってもらいました。
初めての酒場に緊張しましたがハウストと王都を出歩けることがとても嬉しくて、すっかりデートを楽しんでいたのです。その記念にとお揃いの腕輪を買いました。非公式の外出で買った物なので日常使いには出来ませんが大切な宝物です。
「その腕輪、ブレイラ様が普段着用される物とは雰囲気が少し違いますね」
「似合いませんか?」
「そ、そのような事はありませんっ! とてもお似合いです!」
「ふふふ、ありがとうございます」
分かっています、本当はあまり似合っていませんよね。
でもいいのです。私には似合わなくてもハウストに似合うのですから。
せっかくお揃いの物を選べたのですから、ハウストに似合うデザインの物が選びたかったのです。
先日のデートを思い出すと自然に頬が緩んでいく。でも一つ、気になることがありました。酒場の従業員の男のことです。
男の診断結果は二日酔い。とても重度の二日酔い症状が出ていたようです。でも問題はその症状が薬物によって誘発された可能性があるということ。そう、あの異常な巨大化も。
現在、男は診療所で目覚めて今では職場復帰できるまでに回復しました。幸い後遺症もなく、あの異常な現象は一時的なものだったようです。
しかし、男が所持していた薬袋の中身を調査すると、一般的に流通していない薬が入っていました。成分を確かめると四界のとても希少な薬草を使ったもので、人間界で調合されたということが判明しました。
男に確認すると、それは人間界に行っていた友人から『酔い醒ましに』と貰ったということです。でも男の友人から事情を聞くことが今も出来ていません。男の友人は薬を渡した後、またすぐに人間界へ転移してしまったのです。現在、男の友人を捜索していますが手掛かりは掴めていないそうです。もしこの危険な薬が人間界に出回っているとしたら……。
「王妃様、支度が整いました」
「ありがとうございます」
女官に声を掛けられて礼を言う。
姿見に映った姿に、「お綺麗です」とコレットが褒めてくれました。
用意されたのは上等な絹生地で織られたローブです。裾と袖には刺繍で繊細な模様が描かれていました。
「ブレイラ、入るぞ」
部屋の扉がノックされ、ハウストとイスラが入ってきました。
ハウストは穏やかに目を細め、私の手を取って指先に口付けてくれる。
「お前はいつも美しいな」
「ありがとうございます。あなたも素敵です」
お返しにとハウストの頬に口付けました。
次にイスラに向き直る。差し出されたイスラの手に手を重ねると、そっと唇を寄せられました。その所作は凛として気品を感じさせる。
私にとってイスラは息子。幼い頃の印象が強いので内心慣れませんが、すっかり様になりましたね。誇らしいけれど少しだけ寂しい。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いいや、大丈夫だ」
イスラは優しく目を細め、「綺麗だ」と褒めてくれます。こういうところはハウストを見て育ったのが分かります。
「ブレイラ、じゅんびできたー!」
今度は部屋にゼロスが飛び込んできました。
ゼロスの両手には絵本が二冊。
「ブレイラ、これとこれももってく!」
「いいですよ、今日も頑張りましょうね」
「うん!」
ゼロスが大きく頷きました。
今から四人で出掛ける場所、それは冥界の玉座。
そう、今日はゼロスが冥界を安定させる為に玉座に行く日。今から出発でした。
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