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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第七章・勇者の左腕奪還大作戦8
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◆◆◆◆◆◆
魔界。魔王の居城にあるフェリクトールの執務室。
宰相フェリクトールの元には多くの上級士官や高官が入れ替わり立ち替わり訪ねてきている。
現在、魔界は魔王不在の為、その留守役を担っているのがフェリクトールなのである。
フェリクトールは日常的に激務であるが、今は以前に増して激務であった。それというのも普段の仕事に加え、教団本部に潜入した内偵の報告書の処理などが加わったからである。中でも一番大変なのは…………。
「フェリクトール様、イスラ様から追加の依頼書が届いております」
そう言って士官が執務机に書類の束を置いた。そう、束を。
フェリクトールは忌々しげに舌打ちする。
「……勇者め。やはり遠慮というものを知らないのか」
地を這うような声で吐き捨てた。
勇者の依頼書を一度承認処理してからというもの、イスラはなんの遠慮も躊躇いもなく次から次へと大量の依頼書を通してくるのである。医薬研究院には優先的に処理するように命じてあるが、それにしても、それにしてもっ……!
フェリクトールは頭を抱えたが。
「ねえねえ、こっちとこっち、どっちがいいとおもう?」
子どもの声に話しかけられた。そう、ゼロスである。
ギロリと睨むも、もちろんゼロスが気にすることはない。うーん、うーん、と悩みながら花を見せてきた。白色とピンクと黄色の花だ。
「ぼくはね、しろだとおもうの。でも、ピンクもかわいいし、きいろもきれいだから……。ブレイラにはどれがいちばんにあうとおもう? やっぱりしろいのかなあ~」
「……そんなものは知らんっ」
「えええっ、わかんないの?! フェリクトールなのに?!」
ゼロスが驚きの声をあげた。
しかも、「フェリクトールなのに、わかんないんだってー!」と執務室で仕事をしている士官たちに話しかけだしてしまう。
その無邪気な様子に士官たちは表情を和らげるも、フェリクトールがギロリと睨むとサッと目を逸らした。今やフェリクトールは鬼のような形相になっていたのだ。
それというのも、普段はフェリクトールの厳格な性格を表わしたかのような緊張感ある執務室だが、ゼロスが訪れてからというもの、ちょろちょろちょろちょろあっちへ行ったりこっちへ行ったり。もちろん何度も執務室から追い出そうとしたが。
『どうして、ぼくにいじわるするの!』
怒りだすのである。プンプンしながら逆ギレだ。
まだ魔王の執務室から追い出されそうになった時のように泣いて嫌がれば可愛げがあるものを、ゼロスは今ここで全てが自分の思い通りになると思っている。なぜなら、ゼロスは自分が冥王であることを本能の部分で理解しているからだ。
ゼロスはまだ三歳の子どもで、その性格は甘えん坊でちょっとワガママで寂しがり、そんな純粋で無邪気な子どもである。とても子どもらしい子どもといえるだろう。しかしその子ども特有の純粋な本能が自覚しているのだ、自分の冥王としての力を。
子どもとは無邪気で残酷である。剣術訓練の時もハウストやイスラが相手の時は『ハイッ、がんばりますっ!』と泣きながらも健気に振る舞うが、教官が相手の時は『おやすみしよ~』と甘えだすのである。これだって本能で分かっているのだ、この教官よりも自分の方が強い魔力を持っていると。
今より成長すれば変わっていくだろうが幼い今は本能が強く出るものだ。といっても、四界の王は魔王も勇者も精霊王も自分勝手なので、成長したとしても自分勝手なままだろうが……。
その辺りはブレイラがなんとかすると信じたい。
『ゼロス、ワガママはいけません。いい子にできますか?』
『うん! ぼく、いいこにできるよ!』
『お利口ですね』
そう言ってブレイラがいい子いい子と頭を撫でると、ゼロスは嬉しそうに笑ってとてもいい子に振る舞うのである。本当に物分かりのいいお利口になる。品行方正の真似事だってできる。ブレイラがお願いすれば。
なんという事だ……、フェリクトールは頭が痛い。イスラにとってブレイラがそうであるように、ゼロスにとってもそうなのだ。
ブレイラは普通の人間である。それどころか剣を握って戦う術も持たず、魔力はゼロ。はっきりいって非力で特別な才覚もない取るに足らない存在だ。
でも、イスラとゼロスにとってブレイラは特別。…………世の中には生まれて初めて目にした者を親だと思い込む動物がいるが、まさにそれのようだとフェリクトールは思った。
だからかして冥王はブレイラ以外に容赦なく自分勝手である。
「ねえねえ! わからなくてもちゃんとこたえて! どれがいいとおもう? ぼくはね、しろがブレイラににあうとおもうの!」
「…………」
……しつこい。ゼロスはフェリクトールが答えるまで諦めるつもりはないのだ。
フェリクトールは最高にイラッとした。ゼロスが持っている花をちらりと見る。
「私は黄色だと思う。白より黄色だ」
イラッとしたのでゼロスの答えと違う答えを選んだ。もちろんわざとだ。
だが。
「え~~っ、ちがうよ! しろだもん! もうっ、フェリクトールは~」
「っ、この……!」
聞いたのはゼロスなのに、なぜか反論された。四界の王はやっぱり自分勝手だ。
いったいなんなのだ、フェリクトールの額に青筋が刻まれていく。
「フェリクトール、しろいおはな、たくさんあつめておいて!」
こんなに多忙だというのに追加された仕事。フェリクトールの青筋が増えていく。
勇者といい冥王といい、使えるものはなんでも使う精神なのだ。
「しろいおはな、かざってこよ!」
ゼロスは言いたいことだけ言うと、執務室に広がっている絵本やおもちゃの場所へ戻った。これだってそうだ。最初は執務室の片隅で遊んでいたのに、あれよあれよと気が付けばおもちゃを広げる範囲が広がっていた。執務室が徐々に侵略されつつあるのだ。
ゼロスは執務室の隅でフェリクトールに背を向けてしゃがみ、床に白い花を並べだす。
「ぼくとブレイラ、けっこんかあ。たのしみだなあ~」
フンフン鼻歌を歌いながらゼロスは花を並べている。
結婚式場をイメージして花を並べているのだ。
「ブレイラのおようふく、みどりいろがよかったかな~」
「けっこんしたら、ブレイラにたくさんおててモミモミしてもらうの。モミモミ、ぎゅっぎゅっ、こしょぐったい~!」
「ブレイラ、はやくかえってこないかなあ~」
……おしゃべりが好きなゼロスは独り言も多い。
天真爛漫すぎるゼロスは、ブレイラが帰ってきたら魔王と勇者の前で結婚式を強行するつもりだ。
フェリクトールは頭を抱えつつもゼロスの小さな背中を眺める。
小さな子どもの背中だ。しかし四界の王の一人、冥王である。
ふと、フェリクトールは思う。ブレイラは分かっているだろうか、四界の王を育てているという意味を。
そう、四界の王だ。この世界を構成する世界は四つ、魔界・精霊界・人間界・冥界。四つの世界を統治する四人の王。
神格の存在である四界の王は無尽蔵の魔力を持ち、その力も絶大。
それは世界の道筋を決定付けることも可能なもので、安寧か破滅か、すべては王の意志で決まるのだ。
ブレイラは今、この世界で最も四界の王に近い場所にいる。まだ幼い王たちと言葉を交わし、触れ合い、慈しみ、意志を伝えて寄り添っている。命を捧げる事すら厭わないそれは殉愛だ。
ブレイラにとっては皮肉なものだろう。ブレイラはイスラに勇者をやめさせようとしたのに、ブレイラがいるからイスラは王の道を歩み、勇者であることを受け入れた。ブレイラがイスラを勇者にしたのである。
現在、勇者イスラだけではなく、冥王ゼロスも、そして次代の魔王クロードもブレイラによって育てられることが決まっている。
ブレイラは普通の人間の男でありながら、魔王の妃として魔界に受け入れられ、勇者・冥王・次代の魔王の御母上と呼ばれる存在になったのだ。そんな特異な存在は四界の有史以来、いや有史以前もいなかっただろう。
はたして、ブレイラはその意味を分かっているのか……。
フェリクトールは報告書の文字を目で追いながらも、頭の中は今後の心配でいっぱいだった。
ブレイラを他国の王妃と鑑みるに明らかに自覚が足りていないように思える。
本来なら今回の教団潜入も王妃みずから実行するものではない。いや今回だけではない、ブレイラの開き直りによる突発的問題行動には今まで頭を痛めてきた。ブレイラにはブレイラの事情も意志も思いもあることは分かるが、もう少し裏で調整する者の身にもなってもらいたい。
だいたい魔王も魔王なのである。厳しく叱れと進言し、ようやく叱ったと思ったら……。
『ブレイラ、いい加減にしろ』
『ごめんなさい、ハウスト。ご迷惑をおかけしました』
『もういいぞ。分かればいいんだ』
即、終わった。
何がいいんだ、なにをブレイラに分からせたのだ。説明してほしい。
まだ幼いゼロスがブレイラに教育されて、
『ゼロス、ごめんなさい。許してくださいね』
『いいよ!』
謝罪されると反射的に許すが、まるで同じだ。
とにかく魔王は王妃に甘い。当代魔王は歴代屈指の聡明な魔王であるはずなのに情けないことである。
フェリクトールがため息をつくと、扉がノックされて士官が入ってきた。
「失礼します。内偵からの定例報告です」
「ああ、ご苦労だった」
フェリクトールは報告書の束を受け取る。
教団本部に潜入している内偵に定期報告を命じてあるのだ。
「魔王と王妃が教団本部に入ってから教団側に変わった様子は?」
「教団側に目立った変化は見られませんが、しかし……」
言い難そうな士官にフェリクトールは訝しむ。
「なんだ、言いたまえ」
「はい、あの、……報告書の最後の書類を」
「どれだ。――――ッ?! なんだこれは!!」
フェリクトールは引っ繰り返りそうになった。
信じたくなくて何度も書類を読み返す。しかし中身は変わらない。変わってくれない!
【魔王の妃が近衛兵と密通】
【王妃が寝所に愛人を連れ込む】
【魔界の王妃は十二人の愛人を囲っている】
【貞淑な麗人といわれていたが、実は淫らで奔放な王妃だった】
などなど、そこに書いてあったのは教団本部でまことしやかに流れ出した魔界の王妃の醜聞……。
もちろんこれも計画の内だろう。それは分かる。分かるがっ!
フェリクトールの肩がワナワナ震える。あまりの報告内容に卒倒しそうだった……。
◆◆◆◆◆◆
魔界。魔王の居城にあるフェリクトールの執務室。
宰相フェリクトールの元には多くの上級士官や高官が入れ替わり立ち替わり訪ねてきている。
現在、魔界は魔王不在の為、その留守役を担っているのがフェリクトールなのである。
フェリクトールは日常的に激務であるが、今は以前に増して激務であった。それというのも普段の仕事に加え、教団本部に潜入した内偵の報告書の処理などが加わったからである。中でも一番大変なのは…………。
「フェリクトール様、イスラ様から追加の依頼書が届いております」
そう言って士官が執務机に書類の束を置いた。そう、束を。
フェリクトールは忌々しげに舌打ちする。
「……勇者め。やはり遠慮というものを知らないのか」
地を這うような声で吐き捨てた。
勇者の依頼書を一度承認処理してからというもの、イスラはなんの遠慮も躊躇いもなく次から次へと大量の依頼書を通してくるのである。医薬研究院には優先的に処理するように命じてあるが、それにしても、それにしてもっ……!
フェリクトールは頭を抱えたが。
「ねえねえ、こっちとこっち、どっちがいいとおもう?」
子どもの声に話しかけられた。そう、ゼロスである。
ギロリと睨むも、もちろんゼロスが気にすることはない。うーん、うーん、と悩みながら花を見せてきた。白色とピンクと黄色の花だ。
「ぼくはね、しろだとおもうの。でも、ピンクもかわいいし、きいろもきれいだから……。ブレイラにはどれがいちばんにあうとおもう? やっぱりしろいのかなあ~」
「……そんなものは知らんっ」
「えええっ、わかんないの?! フェリクトールなのに?!」
ゼロスが驚きの声をあげた。
しかも、「フェリクトールなのに、わかんないんだってー!」と執務室で仕事をしている士官たちに話しかけだしてしまう。
その無邪気な様子に士官たちは表情を和らげるも、フェリクトールがギロリと睨むとサッと目を逸らした。今やフェリクトールは鬼のような形相になっていたのだ。
それというのも、普段はフェリクトールの厳格な性格を表わしたかのような緊張感ある執務室だが、ゼロスが訪れてからというもの、ちょろちょろちょろちょろあっちへ行ったりこっちへ行ったり。もちろん何度も執務室から追い出そうとしたが。
『どうして、ぼくにいじわるするの!』
怒りだすのである。プンプンしながら逆ギレだ。
まだ魔王の執務室から追い出されそうになった時のように泣いて嫌がれば可愛げがあるものを、ゼロスは今ここで全てが自分の思い通りになると思っている。なぜなら、ゼロスは自分が冥王であることを本能の部分で理解しているからだ。
ゼロスはまだ三歳の子どもで、その性格は甘えん坊でちょっとワガママで寂しがり、そんな純粋で無邪気な子どもである。とても子どもらしい子どもといえるだろう。しかしその子ども特有の純粋な本能が自覚しているのだ、自分の冥王としての力を。
子どもとは無邪気で残酷である。剣術訓練の時もハウストやイスラが相手の時は『ハイッ、がんばりますっ!』と泣きながらも健気に振る舞うが、教官が相手の時は『おやすみしよ~』と甘えだすのである。これだって本能で分かっているのだ、この教官よりも自分の方が強い魔力を持っていると。
今より成長すれば変わっていくだろうが幼い今は本能が強く出るものだ。といっても、四界の王は魔王も勇者も精霊王も自分勝手なので、成長したとしても自分勝手なままだろうが……。
その辺りはブレイラがなんとかすると信じたい。
『ゼロス、ワガママはいけません。いい子にできますか?』
『うん! ぼく、いいこにできるよ!』
『お利口ですね』
そう言ってブレイラがいい子いい子と頭を撫でると、ゼロスは嬉しそうに笑ってとてもいい子に振る舞うのである。本当に物分かりのいいお利口になる。品行方正の真似事だってできる。ブレイラがお願いすれば。
なんという事だ……、フェリクトールは頭が痛い。イスラにとってブレイラがそうであるように、ゼロスにとってもそうなのだ。
ブレイラは普通の人間である。それどころか剣を握って戦う術も持たず、魔力はゼロ。はっきりいって非力で特別な才覚もない取るに足らない存在だ。
でも、イスラとゼロスにとってブレイラは特別。…………世の中には生まれて初めて目にした者を親だと思い込む動物がいるが、まさにそれのようだとフェリクトールは思った。
だからかして冥王はブレイラ以外に容赦なく自分勝手である。
「ねえねえ! わからなくてもちゃんとこたえて! どれがいいとおもう? ぼくはね、しろがブレイラににあうとおもうの!」
「…………」
……しつこい。ゼロスはフェリクトールが答えるまで諦めるつもりはないのだ。
フェリクトールは最高にイラッとした。ゼロスが持っている花をちらりと見る。
「私は黄色だと思う。白より黄色だ」
イラッとしたのでゼロスの答えと違う答えを選んだ。もちろんわざとだ。
だが。
「え~~っ、ちがうよ! しろだもん! もうっ、フェリクトールは~」
「っ、この……!」
聞いたのはゼロスなのに、なぜか反論された。四界の王はやっぱり自分勝手だ。
いったいなんなのだ、フェリクトールの額に青筋が刻まれていく。
「フェリクトール、しろいおはな、たくさんあつめておいて!」
こんなに多忙だというのに追加された仕事。フェリクトールの青筋が増えていく。
勇者といい冥王といい、使えるものはなんでも使う精神なのだ。
「しろいおはな、かざってこよ!」
ゼロスは言いたいことだけ言うと、執務室に広がっている絵本やおもちゃの場所へ戻った。これだってそうだ。最初は執務室の片隅で遊んでいたのに、あれよあれよと気が付けばおもちゃを広げる範囲が広がっていた。執務室が徐々に侵略されつつあるのだ。
ゼロスは執務室の隅でフェリクトールに背を向けてしゃがみ、床に白い花を並べだす。
「ぼくとブレイラ、けっこんかあ。たのしみだなあ~」
フンフン鼻歌を歌いながらゼロスは花を並べている。
結婚式場をイメージして花を並べているのだ。
「ブレイラのおようふく、みどりいろがよかったかな~」
「けっこんしたら、ブレイラにたくさんおててモミモミしてもらうの。モミモミ、ぎゅっぎゅっ、こしょぐったい~!」
「ブレイラ、はやくかえってこないかなあ~」
……おしゃべりが好きなゼロスは独り言も多い。
天真爛漫すぎるゼロスは、ブレイラが帰ってきたら魔王と勇者の前で結婚式を強行するつもりだ。
フェリクトールは頭を抱えつつもゼロスの小さな背中を眺める。
小さな子どもの背中だ。しかし四界の王の一人、冥王である。
ふと、フェリクトールは思う。ブレイラは分かっているだろうか、四界の王を育てているという意味を。
そう、四界の王だ。この世界を構成する世界は四つ、魔界・精霊界・人間界・冥界。四つの世界を統治する四人の王。
神格の存在である四界の王は無尽蔵の魔力を持ち、その力も絶大。
それは世界の道筋を決定付けることも可能なもので、安寧か破滅か、すべては王の意志で決まるのだ。
ブレイラは今、この世界で最も四界の王に近い場所にいる。まだ幼い王たちと言葉を交わし、触れ合い、慈しみ、意志を伝えて寄り添っている。命を捧げる事すら厭わないそれは殉愛だ。
ブレイラにとっては皮肉なものだろう。ブレイラはイスラに勇者をやめさせようとしたのに、ブレイラがいるからイスラは王の道を歩み、勇者であることを受け入れた。ブレイラがイスラを勇者にしたのである。
現在、勇者イスラだけではなく、冥王ゼロスも、そして次代の魔王クロードもブレイラによって育てられることが決まっている。
ブレイラは普通の人間の男でありながら、魔王の妃として魔界に受け入れられ、勇者・冥王・次代の魔王の御母上と呼ばれる存在になったのだ。そんな特異な存在は四界の有史以来、いや有史以前もいなかっただろう。
はたして、ブレイラはその意味を分かっているのか……。
フェリクトールは報告書の文字を目で追いながらも、頭の中は今後の心配でいっぱいだった。
ブレイラを他国の王妃と鑑みるに明らかに自覚が足りていないように思える。
本来なら今回の教団潜入も王妃みずから実行するものではない。いや今回だけではない、ブレイラの開き直りによる突発的問題行動には今まで頭を痛めてきた。ブレイラにはブレイラの事情も意志も思いもあることは分かるが、もう少し裏で調整する者の身にもなってもらいたい。
だいたい魔王も魔王なのである。厳しく叱れと進言し、ようやく叱ったと思ったら……。
『ブレイラ、いい加減にしろ』
『ごめんなさい、ハウスト。ご迷惑をおかけしました』
『もういいぞ。分かればいいんだ』
即、終わった。
何がいいんだ、なにをブレイラに分からせたのだ。説明してほしい。
まだ幼いゼロスがブレイラに教育されて、
『ゼロス、ごめんなさい。許してくださいね』
『いいよ!』
謝罪されると反射的に許すが、まるで同じだ。
とにかく魔王は王妃に甘い。当代魔王は歴代屈指の聡明な魔王であるはずなのに情けないことである。
フェリクトールがため息をつくと、扉がノックされて士官が入ってきた。
「失礼します。内偵からの定例報告です」
「ああ、ご苦労だった」
フェリクトールは報告書の束を受け取る。
教団本部に潜入している内偵に定期報告を命じてあるのだ。
「魔王と王妃が教団本部に入ってから教団側に変わった様子は?」
「教団側に目立った変化は見られませんが、しかし……」
言い難そうな士官にフェリクトールは訝しむ。
「なんだ、言いたまえ」
「はい、あの、……報告書の最後の書類を」
「どれだ。――――ッ?! なんだこれは!!」
フェリクトールは引っ繰り返りそうになった。
信じたくなくて何度も書類を読み返す。しかし中身は変わらない。変わってくれない!
【魔王の妃が近衛兵と密通】
【王妃が寝所に愛人を連れ込む】
【魔界の王妃は十二人の愛人を囲っている】
【貞淑な麗人といわれていたが、実は淫らで奔放な王妃だった】
などなど、そこに書いてあったのは教団本部でまことしやかに流れ出した魔界の王妃の醜聞……。
もちろんこれも計画の内だろう。それは分かる。分かるがっ!
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