勇者と冥王のママは暁を魔王様と

蛮野晩

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勇者と冥王のママは暁を魔王様と

第九章・二つの星の輝きを11

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「行くぞ」
「う、うんっ……」

 ゼロスは少し青褪めて、ゴクリっと息を飲む。
 そんなゼロスにイスラの檄が飛ぶ。

「恐れるな! 高い場所はかっこいいぞ!!」
「か、かっこいいっ……!」
「高い場所から現われるともっとかっこいい!!」
「もっとかっこいい!!」

 ゼロスは気合いを入れてぎゅっと拳を握った。
 そう、高い場所はかっこいい。そしてブレイラはかっこいいのが好き。ならば迷いはない!

「行くぞ!!」
「うっ、うぅっ、……っ、ええいッ!!」

 イスラが飛び降りて、ゼロスもそれに続いた。
 勇気を振り絞り、えいっと思いっきり飛んだのだ。最高にかっこいい事がしたかった。だが。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

「ッ、あぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!!」

 凄まじい急落下。息も出来ない落下速度に頬の肉が上に向かって波打つ。
 ゼロスは悲鳴もあげられなかった。
 風圧に負けて口が閉じられず、情けない声が漏れている。
 このまま意識が遠のきそうになったが、視界に映ったイスラに驚愕した。

「ッ?!」

 イスラは腕を組んで仁王立ちの姿で落下していたのだ。顔つきも口を一文字に引き結んで、とにかく凛々しすぎる。
 その堂々たる姿にゼロスは瞳を輝かせた。かっこいい!! かっこよすぎる!!
 ブレイラは高い所が似合うかっこいいのが好きなのだ。これが出来るようになればブレイラも『素敵です!』とうっとりしてくれるに決まっている!! 兄上と同じことがしたい!!!!

「くっ、うぐぐぐぐぐぐッ……!!!!」

 ゼロスは風圧に負けていた口をグッと引き結んだ。
 凄まじい重力と戦いながら、じりじりと腕を組み、胸を張り、気合いで仁王立ちの体勢になった。ちっちゃい仁王立ちの完成である。
 こうして兄と弟は力強く仁王立ちをし、二人揃って断崖絶壁を落下した。
 そして。

 ――――ズドオオオオオオオオオン!!!!
 ――――ズドオオオオン!!!!

 地面を揺るがす凄まじい衝突音。
 隕石が落ちたような衝撃波が広がって、イスラとゼロスは地上に着地した。
 土埃が舞い上がる中、イスラは腕を組んだ仁王立ちのまま威風堂々と立っている。
 隣のちっちゃい仁王立ちも堂々と着地したが。

「い、いたい~~!! あしが、あしがジ~~ンッてするの!!!!」

 ゼロスは飛び上がり、足を抱えて猛烈に地面をゴロゴロした。
 足がジーンッとして足から頭へと痺れが走ったのだ。
 ゼロスは半泣きで「ジ~ンッて、ジ~ンッて、すごいジ~ンッて!」と激しくゴロゴロしまくっている。これだけ元気なら大丈夫だ。着地ポーズはともかく、とりあえず成功だ。

「ゼロス、立て!」
「うぅ、あしが……」
「筋力が足りてないんだ。もっと下半身を鍛えろ」
「…………。そ、そうかな?」

 そういう問題かな……、ゼロスは絶壁の崖を見上げる。自分が冥王でなければ間違いなくぺちゃんこの高さだ。
 …………。ゼロスは考えるのをやめた。深く考えてはいけない気がした。ブレイラがかっこいいと思っているならそれが正解だ。
 ゼロスはよろよろと立ち上がった。
 さあ、あとは薬草を手に入れるだけである。

「ゼロス、目的の薬草はこの先にある」
「やくそう!」
「そうだ、薬草を採ったら人間界だ。――――だが、その前に」
「え?! わあああっ、へんなの、いっぱいきた~~!!」

 森の木陰から怪物が姿を見せた。
 怪物の数は二十体。おそらく元は人間で教団の信仰者たちが薬で姿を変えている。
「ど、どうしよ~!」とゼロスは慌てているが、イスラは口元にニヤリとした笑みを刻む。

「ゼロス、最後の訓練だ。こいつら倒して、その先にある薬草を手に入れる。それが出来たら人間界に連れて行く」
「ぼ、ぼくもたたかうの?!」
「そうだ、戦え。お前だって訓練してるだろ」
「そうだけどっ……」

 魔界で剣術の訓練はしていたが実戦経験はない。
 だがこうして焦っている間もイスラが右手に剣を出現させた。

「先に行くぞ!」

 イスラは怪物に向かって走っていく。現在のイスラは隻腕だが、片腕だけでも見事な剣捌きと体術で怪物を倒していった。
 ゼロスは困惑した顔でそれを見ていたが、背中に括り付けていた訓練用の剣を抜いた。
 剣を構え、怪物を見据える。
 足はカタカタ震えていたけれど、大丈夫、戦える。イスラと修行を始めてからゼロスだって頑張ってきたのだ。魔界でも剣術や体術をたくさん教わってきたのだから。
 ゼロスは勇気を振り絞って戦闘中のイスラに向かって駆け出した。

「あにうえ、ぼくも!!」
「よしっ、来い!!」
「はいっ!」

 ゼロスはイスラの隣に並び、巨大な怪物に対峙した。
 見上げるような大きな怪物に怖気づきそうになるけれど、ぎゅっと剣を握って向かっていく。
 怪物の巨大化した拳がゼロスに向かって振り下ろされる。

「わあっ、きた!」

 ゼロスは驚いた声をあげたが、くるり!!
 拳に襲われる寸前、くるりと体を回転させた。
 咄嗟に体が動いていた。無意識のそれは、訓練で猛獣の群れにポイッと放られた時に会得したものである。
 しかも空振りした怪物に大きな隙ができて、ゼロスはそれを見逃さない。狩りの時に覚えたタイミングだ!

「ええい!!」

 ゼロスは剣を怪物に打ち込む。
 ドゴオォォッ!! 怪物の巨体が衝撃に吹っ飛んだ。

「や、やったああああ!!!!」

 ゼロスの顔がパァッと輝いて、興奮してぴょんぴょん跳ねまわった。
 初めて一人で怪物をやっつけたのだ。

「あにうえ、ぼくできた! やっつけたよ!!」
「よくやった! その感覚を覚えておけ!!」
「はいっ!」

 ゼロスは初めての戦闘と勝利に昂揚した。
 覚えたばかりの感覚を握り締めるように剣を握り、襲いくる怪物を倒していく。
 集中すれば怪物の動きが見える。読める。どの軌道で剣を振るい、力を使えばいいか分かる。これが戦うという感覚。
 ずっと夢見ていた。今まで怖くて戦えなかったけれど、父上や兄上の戦う姿にずっと憧れてきた。
 今まで父上や兄上が戦いに赴く時、ゼロスはブレイラに手を引かれて見送りする役目だった。ブレイラに手を繋いでもらえるのは嬉しかったけれど、見上げたブレイラの横顔が目に焼き付いている。

『ご武運を』

 ブレイラは祈るような面差しで、声で、見送りの言葉を紡ぐ。
 琥珀の瞳は切なさを帯びるけれど、その奥には強い意志を宿している。信じているのだと深い思いが伝わってくるのだ。
 その姿はとても綺麗で、ゼロスはいつか自分もとずっと憧れていた。
 ゼロスはぎゅっと剣を握る。
 戦える! 自分も父上や兄上のように戦える!

「ゼロス、お前は右側にいる奴らを片付けろ!」
「わかった! スプーンのおてて!」

 ゼロスは右手を確認し、その方向に向かって駆けだした。
 次々に襲いくる怪物を剣で倒し、身軽に翻弄して「えいっ!」とやっつけていく。
 こうして教団から送り込まれた怪物はイスラとゼロスによって全て始末された。

「おわった~! やったああああ!!」

 ゼロスが歓喜し、ぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぎまわる。
 イスラも満足して頷いた。ゼロスにとって初めての戦闘だったが上出来だ。今まで魔界で行なってきた基礎訓練と、イスラが強制的に叩き込んだ厳しい特訓で、見事に戦闘の感覚を開花させたといえよう。そもそも冥王であり神格の存在であるゼロスは、イスラと同様に誕生した時から無尽蔵の魔力を持ち、体の頑丈さも身体能力も規格外なのである。ゼロスに必要なのは戦う勇気だけだったのだ。

「よくやったな」
「うん! ぼく、がんばった! ……ん? ああっ! あにうえ、あそこ!!」

 ゼロスが近くの巨木に向かって駆け出した。
 そう、そこには薬草が群生していたのだ。
 特徴的な丸い葉の白い花。

「あにうえ、これ?!」
「そうだ。その薬草が目的のものだ」
「やった~!」

 さっそくゼロスは薬草を採る。
 陽の下に掲げると青空を背にキラキラして見えた。
 無事に薬草を採取し、とうとう目的を果たしたのだ。
 ゼロスはドキドキしながらイスラを振り返る。

「あにうえ、ぼくもにんげんかい、いける?!」
「ああ、連れて行く。教団も動き出しているようだしな」

 イスラは倒れた怪物を見回した。
 この怪物も元は人間、教団の開発した薬によって怪物化してしまった。それは人間の王として許し難いこと。

「ゼロス」
「は、はいっ!」

 ゼロスはピンッと背筋を伸ばした。
 ぴりりとした雰囲気にゼロスも緊張する。

「ここから先、一切の油断と妥協は許されない。死ぬぞ」
「はいっ……!」

 ゼロスは小さな拳をぎゅっと握る。
 イスラは頷いて、前を見つめた。
 二人の足元に転移魔法陣が出現する。
 行き先は人間界のピエトリノ遺跡。そこにはブレイラがいるのだ。
 魔法陣が発動し、二人は冥界から人間界へ転移したのだった。





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