【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩

文字の大きさ
31 / 53

第31話 まるで恋人みたいな……

 あれから侍女が起こしにきて、朝の支度を終えて朝食の時間になりました。
 食間でエヴァンと待っていると、朝議を終えた陛下がやってきます。
 私とエヴァンは立ちあがって出迎えました。

「陛下、おはようございます。朝議お疲れさまでした」
「兄上、おはようございます。おつかれさまでした」
「おはよう。待たせて悪いな」

 陛下が着席すると私とエヴァンも着席します。
 朝食が始まると料理が運ばれてきました。
 私はいつものように朝食をいただきますが、いつもと違うことが。

「マリス、きょうは午後のお稽古がはやくおわりそうなんだ。午後からいっしょにボードゲームで対戦しよう」
「いいですよ。お手柔らかにお願いします」
「マリス、弱い?」
「どうでしょう。でもエヴァンは強そうですね」
「得意なんだ」

 エヴァンが朝食を食べながら楽しそうに話しかけてくれます。
 初めて世話役になった時は嫌味をたくさん言われたものですが、今では素直に接してくれるようになりました。生意気なところはありますが、それがエヴァンらしいですね。
 私はエヴァンと話しながら朝食を食べていましたが、さりげなく正面の陛下から目をそらしてしまう。
 陛下を見ると昨夜のことを思い出して、どうにも恥ずかしくなってしまうのです。この朝食の時間を迎えるのもどれだけ緊張したか。
 でも陛下に「マリス」と呼ばれてしまう。

「な、なんでしょうか……」

 おずおずと顔をあげました。呼ばれてしまったらさすがに目をそらすことはできません。

 ああ、目が合うとダメです。意識してしまって心臓がバカみたいに高鳴りました。

 そんな私の気持ちも知らずに陛下は動じた様子はありません。でも。

「朝議とはいえ一人で残して悪かった」
「えっ……」

 だって、それって……。

「い、いえ、……どうかお気になさらず」

 そう答えるのがやっとでした。
 顔が熱くなって、胸が苦しいほどいっぱいになっていく。
 陛下も気にしてくれていたんですね。
 朝議の時も私のことを思い出してくれていたんですね。
 それがたまらなく嬉しくて、甘い気持ちに満たされました。



 朝食後にエヴァンを講義に見送ると、私は支度をして外出届をだしました。
 もちろん行き先は貧民区です。
 昨日あんなことが起きたばかりなので外出届は受け取ってもらえないかと思いましたが、護衛兵を同行させるという条件付きで許可をもらえました。
 どうやら護衛兵は陛下が命じてくれていたことのようです。
 いつものように裏門に向かって回廊を歩いていると、ふと背後から陛下に呼ばれました。

「マリス、待て」

 振り返ると陛下がたくさんの士官や侍従を従えて歩いてきました。
 政務中だったようで背後の士官たちは書類の束を抱えています。
 でも陛下は構わずに私のところにまっすぐ歩いてくる。陛下に従う集団も一緒に歩いてくるので……目立ちます。とにかく目立ちます。
 回廊を歩いていた女官や侍女たちもなにごとかと振り返り、陛下を見つけると慌ててお辞儀していました。
 私は少し気恥ずかしくなりながらもお辞儀します。

「陛下、いかがされましたか?」
「少しいいか?」
「はい」

 呼ばれて不思議に思いながらもついていきます。
 陛下は従えている集団に待つように命じると、私を連れて近くの部屋に入りました。
 背後で部屋の扉が閉じた、次の瞬間。

「ん、……っ」

 陛下に口付けられました。
 そのまま覆いかぶさるように抱きしめられて、私も陛下の背中に両腕をまわします。
 ぎゅっと抱きつくと陛下は目を細め、ゆっくりと唇を離しました。

「本当は朝目覚めてすぐに口付けたかった」
「陛下……」

 私の口元がほころびました。
 朝食の時に言葉をいただいただけでも嬉しかったのに、こうして陛下が会いにきてくれたのですから。

「わたしも、あなたと……」

 そう答えて、熱くなる顔を隠すように目を伏せます。
 すると陛下の大きな手が私の頬にそえられて、そっと顔をあげさせられました。

「顔を見せてくれ」

 そう言って陛下がまた口付けてくれます。
 ついばむような口付けを繰り返されて、くすぐったさに肩をすくめてしまう。
 そんな私に陛下が頬に貼ってあるテープを指で優しく撫でてくれます。

「痛みはないか?」
「だいぶ痛みは引きました。朝食の前に医師に診ていただきましたので大丈夫です」
「痛みと痣が完全になくなるまで毎日医師に診させる」
「え、毎日ですか?」

 目を丸めてしまう。
 あとは痣が引くだけなので、毎日医師に診てもらうというのは……。
 でも陛下は本気なようでした。

「駄目だ。痕を残すな。見るたびに思い出して不快になる」
「そ、それなら……」

 機嫌が悪くなってしまうのは困ります。
 了承した私に陛下が満足そうに頷いて、肩を抱かれてまたついばむような口付けを一つ。
 お話しの合間に口付けられるというのは、なかなか恥ずかしいものですね。照れてしまいます。

「今から貧民区へ行くのか」
「はい」
「そうか……」

 陛下は頷きながらもなにか言いたげです。
 私が見つめていると今度は目元に口付けられました。

「お前を襲った暴漢についてだが」
「陛下、そのことについてですが、やはり釈放しゃくほうをっ」
「俺は許せないと言ったはずだ」
「陛下……」

 遮るように言われて言葉に詰まりました。
 私は視線を落としそうになりましたが、陛下が小さなため息をついて言葉を続けます。

「だが、お前が被害届を出すつもりがないなら、いつまでも収監しておく理由はない」
「だ、出しません! 被害なんか受けてないので出しません!」

 ガバッと顔をあげて言いました。
 そんな私に陛下が「被害でてるだろ……」と少し呆れた顔になります。
 でも私は嬉しくて、陛下から一歩離れると深々と頭を下げました。

「陛下の温情に感謝いたします」
「……恩赦おんしゃだ。通常なら許していない。だが二度目はないぞ」
「心得ました」

 ゆっくりと顔をあげると陛下の両腕に抱きしめられました。
 そして耳元で低く囁かれます。

「今夜も行く。寝所の鍵を開けておけ」
「はい……」

 返事が微かに上擦ってしまいました。
 甘い夜の約束にとろけてしまいそう。
 まるで恋人にでもなったかのようなやりとりに胸が高鳴りました。


 その日の夜。
 日付けが変わる前に陛下が私の寝所を訪れました。
 約束どおり来てくれたことが嬉しくて、ベッドへ辿たどりつく前から何度も口付けを交わします。
 今夜は二度目の夜です。もう初めてではないのに、陛下に夜着を乱されて素肌をさらされていくとやはり恥ずかしい。
 でも口付けをわしながらのまじわりは私を熱く昂らせて、初めての夜よりもさらに快楽を得るものでした。
 まるで体を作り替えられていくような快感を少し怖いと思ってしまう。でもそれがお慕いする陛下ならと受け入れていきました。




 この陛下との特別な夜は毎夜のように続きました。
 一カ月が経過した頃には、陛下が私の寝所に通っているということを城内で知らない者がいないほどに。
 そういった色恋の話題は広がるのが早いもので、次には城内を飛びだして帝国の貴族たちにまで広がっていきます。

『皇帝が人質の男を寵愛している』

 この噂は国境を越えて他国へも広がりだしました。そう、私の祖国であるヘデルマリア王国へも伝わっていたのです。





感想 3

あなたにおすすめの小説

【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!