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Episode1・ゼロス、はじめてのおつかい
お静かに、これは尾行です。13
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「ゼロス、こちらを向いてください。拭いてあげます」
ハンカチでゼロスの口の周りを綺麗に拭いてあげました。
んっと突き出す小さなお口が可愛いですね。
「はい、綺麗になりましたよ」
「ありがとう、ブレイラ!」
ゼロスを綺麗にしたら、次はイスラの番です。
「イスラ、あなたも手をこちらに」
「俺も? 別にいいのに」
躊躇いながらも差し出された手を丁寧に拭いてあげます。
少し恥ずかしそうで可愛いですね。
「ほら、あなたの手も綺麗になりました」
「ありがとう」
「いいえ。さあ、他にもこの山には食べられる果実がありそうですね。一緒に探しましょう」
そう笑いかけて、また四人で山を歩きます。
しばらくすると今度はイノシシを見つけました。
遠目にも丸々太った獰猛なイノシシです。私一人なら逃げるところですがハウストとイスラにとっては脂ののった食材。
「狩ってくる。イスラ、お前はブレイラの側にいろ」
「分かった」
イスラも狩りに行きたそうですが、私の側にとハウストが指示をします。
「私は大丈夫ですよ? だからイスラも」
「ダメだ。山にブレイラを一人にできない」
イスラに反対されてしまいました。
イスラが行きたいのならと思ったのですが余計な事のようでした。
「イスラ、ありがとうございます」
「当たり前だ」
こうして私とイスラがここで待つことになりました。もちろんゼロスも私と一緒に待たせるつもりでしたが。
「ぼくもいく!」
ゼロスが張り切って手を挙げました。
この立候補にハウストがぎょっとする。
「来るのか、お前が……?」
「ぼくもいく~! ちちうえといく~!」
ゼロスはハウストの足にしがみ付いて一緒に行きたいと駄々をこねる。
ハウストは全力で拒否したいところでしょうが、悩むような顔でゼロスを見下ろします。イスラがゼロスくらいの頃にはすでに狩りも戦闘もしていたのです。
「……分かった。だが、勝手にふらふらしないと約束しろ」
「する! ぼく、ふらふらしたことないよ?!」
胸を張って答えたゼロスに、うそをつくな……とハウストが脱力する。
でもこうしてハウストとゼロスが狩りに行き、見事に夕食のイノシシを狩って来てくれます。
戻って来たゼロスはなぜか泣きべそをかいていましたが、……理由を聞くのが怖いです。
日が暮れて、山はすっかり夜の闇に覆われました。
川辺で焚火を起こし、満天の星空の下で夕食後ののんびりした時間を過ごします。
今夜の夕食は豊かな山の幸でした。青々とした山菜や甘い果実。ハウストとゼロスが狩ったイノシシの肉。イスラが魚を釣ってくれたので川魚もありました。
急に決まった野営でしたが私たちはお腹いっぱいに食事を楽しむことができました。
ゼロスなどは城では食べられない料理が珍しかったようで、あれもこれもと手を伸ばして大満足したようです。特にイノシシのお肉は格別だったようですね。
今も私の膝に座ってイノシシを狩った時のことを話してくれている。
「あのね、ぼくがイノシシにわあってしたの。そしたら、ちちうえがえいって。でもぼく、ちちうえにコラーッてされて、え~んってした」
「ゼロスがわあってして、え~んってなったんですか?」
「うん。わあって、え~んって」
ゼロスが身振り手振りで教えてくれる。
でもあまり意味が分からなくてハウストを見ると、違うそうじゃない……とばかりに彼が首を横に振ります。
「……俺は隠れていろと言ったんだ。だがゼロスの奴、突進するイノシシの前にいきなり踊りでて、なにをしたと思う」
「な、何をしたんです?」
聞きたいような聞きたくないような……。
ごくりと息を飲んだ私にハウストが重々しい口調で語ってくれる。
「……わあっと、驚かしたんだ。怪我がなかったから良かったようなものを……」
「それは大変でしたね……。ゼロスなりに手伝っているつもりだったんでしょうが」
「さすがに叱った」
「それでゼロスは泣きながら帰って来たんですね」
ああ、やはり何も起きてないわけじゃなかったんですね。
狩りに行った二人が戻って来た時、ハウストは肩にイノシシを担ぎ、その隣をゼロスがグズグズ鼻を鳴らしながら歩いていたのです。何かあったと思いましたが叱られて泣いた後だったのですね。
「ゼロス、走ってくる動物の前に飛び出してはいけませんよ。危ないじゃないですか」
「……だって、おてつだい、したかったから」
「そうだったんですね。でも、それであなたが怪我をしたら悲しいです」
「かなしい?」
ゼロスが私を見上げて首を傾げる。
大きな瞳にじっと見つめられて優しく目を細めました。
「はい、私はきっと泣いてしまいます。だから気を付けてくださいね」
「わかった! もうしない!」
「お利口です」
ゼロスの頭をいい子いい子と撫でて、ハウストを振り返ります。
「ゼロスをありがとうございました」
「……なんとなく、こうなる事は分かっていた」
「ふふふ、お疲れ様です」
「お前は俺達が狩りをしている間どうしていたんだ。なんともなかったか?」
「はい、イスラがいてくれたので大丈夫です。イスラの魚釣りを見学させてもらいました。すごいんですよ? あっという間に竿を作って川魚を次から次へと釣りあげたんです。ね、イスラ?」
イスラがこくりと頷く。
イスラの返事はぶっきら棒ですが、あれは照れている時の顔ですね。
「イスラが釣ってくれた魚、とても美味しかったです。旅をしている時も釣りをするんですか?」
「時々してる。気分転換に丁度いいんだ」
「そうでしたか。手際が良いので驚きました。また釣りに付き合わせてくださいね」
「ああ」
こうして私たちは今日の出来事を語り合う。
気が付けば夜空の月も輝きを増して、抱っこしているゼロスの頭がこくりこくりと揺れています。
「ゼロス、眠くなったんですね」
「……ううん。まだねむくない」
ゼロスは首を振って、重い瞼を擦ります。
無理やり目を覚まそうとする姿に小さく笑う。
今日がとても楽しくて、今の時間がもっと続いてほしくて、眠ってしまうのが勿体ないのですね。
その気持ち、私も同じです。
でも今日が終わっても楽しい時間は終わりません。これからも続くものです。
ハンカチでゼロスの口の周りを綺麗に拭いてあげました。
んっと突き出す小さなお口が可愛いですね。
「はい、綺麗になりましたよ」
「ありがとう、ブレイラ!」
ゼロスを綺麗にしたら、次はイスラの番です。
「イスラ、あなたも手をこちらに」
「俺も? 別にいいのに」
躊躇いながらも差し出された手を丁寧に拭いてあげます。
少し恥ずかしそうで可愛いですね。
「ほら、あなたの手も綺麗になりました」
「ありがとう」
「いいえ。さあ、他にもこの山には食べられる果実がありそうですね。一緒に探しましょう」
そう笑いかけて、また四人で山を歩きます。
しばらくすると今度はイノシシを見つけました。
遠目にも丸々太った獰猛なイノシシです。私一人なら逃げるところですがハウストとイスラにとっては脂ののった食材。
「狩ってくる。イスラ、お前はブレイラの側にいろ」
「分かった」
イスラも狩りに行きたそうですが、私の側にとハウストが指示をします。
「私は大丈夫ですよ? だからイスラも」
「ダメだ。山にブレイラを一人にできない」
イスラに反対されてしまいました。
イスラが行きたいのならと思ったのですが余計な事のようでした。
「イスラ、ありがとうございます」
「当たり前だ」
こうして私とイスラがここで待つことになりました。もちろんゼロスも私と一緒に待たせるつもりでしたが。
「ぼくもいく!」
ゼロスが張り切って手を挙げました。
この立候補にハウストがぎょっとする。
「来るのか、お前が……?」
「ぼくもいく~! ちちうえといく~!」
ゼロスはハウストの足にしがみ付いて一緒に行きたいと駄々をこねる。
ハウストは全力で拒否したいところでしょうが、悩むような顔でゼロスを見下ろします。イスラがゼロスくらいの頃にはすでに狩りも戦闘もしていたのです。
「……分かった。だが、勝手にふらふらしないと約束しろ」
「する! ぼく、ふらふらしたことないよ?!」
胸を張って答えたゼロスに、うそをつくな……とハウストが脱力する。
でもこうしてハウストとゼロスが狩りに行き、見事に夕食のイノシシを狩って来てくれます。
戻って来たゼロスはなぜか泣きべそをかいていましたが、……理由を聞くのが怖いです。
日が暮れて、山はすっかり夜の闇に覆われました。
川辺で焚火を起こし、満天の星空の下で夕食後ののんびりした時間を過ごします。
今夜の夕食は豊かな山の幸でした。青々とした山菜や甘い果実。ハウストとゼロスが狩ったイノシシの肉。イスラが魚を釣ってくれたので川魚もありました。
急に決まった野営でしたが私たちはお腹いっぱいに食事を楽しむことができました。
ゼロスなどは城では食べられない料理が珍しかったようで、あれもこれもと手を伸ばして大満足したようです。特にイノシシのお肉は格別だったようですね。
今も私の膝に座ってイノシシを狩った時のことを話してくれている。
「あのね、ぼくがイノシシにわあってしたの。そしたら、ちちうえがえいって。でもぼく、ちちうえにコラーッてされて、え~んってした」
「ゼロスがわあってして、え~んってなったんですか?」
「うん。わあって、え~んって」
ゼロスが身振り手振りで教えてくれる。
でもあまり意味が分からなくてハウストを見ると、違うそうじゃない……とばかりに彼が首を横に振ります。
「……俺は隠れていろと言ったんだ。だがゼロスの奴、突進するイノシシの前にいきなり踊りでて、なにをしたと思う」
「な、何をしたんです?」
聞きたいような聞きたくないような……。
ごくりと息を飲んだ私にハウストが重々しい口調で語ってくれる。
「……わあっと、驚かしたんだ。怪我がなかったから良かったようなものを……」
「それは大変でしたね……。ゼロスなりに手伝っているつもりだったんでしょうが」
「さすがに叱った」
「それでゼロスは泣きながら帰って来たんですね」
ああ、やはり何も起きてないわけじゃなかったんですね。
狩りに行った二人が戻って来た時、ハウストは肩にイノシシを担ぎ、その隣をゼロスがグズグズ鼻を鳴らしながら歩いていたのです。何かあったと思いましたが叱られて泣いた後だったのですね。
「ゼロス、走ってくる動物の前に飛び出してはいけませんよ。危ないじゃないですか」
「……だって、おてつだい、したかったから」
「そうだったんですね。でも、それであなたが怪我をしたら悲しいです」
「かなしい?」
ゼロスが私を見上げて首を傾げる。
大きな瞳にじっと見つめられて優しく目を細めました。
「はい、私はきっと泣いてしまいます。だから気を付けてくださいね」
「わかった! もうしない!」
「お利口です」
ゼロスの頭をいい子いい子と撫でて、ハウストを振り返ります。
「ゼロスをありがとうございました」
「……なんとなく、こうなる事は分かっていた」
「ふふふ、お疲れ様です」
「お前は俺達が狩りをしている間どうしていたんだ。なんともなかったか?」
「はい、イスラがいてくれたので大丈夫です。イスラの魚釣りを見学させてもらいました。すごいんですよ? あっという間に竿を作って川魚を次から次へと釣りあげたんです。ね、イスラ?」
イスラがこくりと頷く。
イスラの返事はぶっきら棒ですが、あれは照れている時の顔ですね。
「イスラが釣ってくれた魚、とても美味しかったです。旅をしている時も釣りをするんですか?」
「時々してる。気分転換に丁度いいんだ」
「そうでしたか。手際が良いので驚きました。また釣りに付き合わせてくださいね」
「ああ」
こうして私たちは今日の出来事を語り合う。
気が付けば夜空の月も輝きを増して、抱っこしているゼロスの頭がこくりこくりと揺れています。
「ゼロス、眠くなったんですね」
「……ううん。まだねむくない」
ゼロスは首を振って、重い瞼を擦ります。
無理やり目を覚まそうとする姿に小さく笑う。
今日がとても楽しくて、今の時間がもっと続いてほしくて、眠ってしまうのが勿体ないのですね。
その気持ち、私も同じです。
でも今日が終わっても楽しい時間は終わりません。これからも続くものです。
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