二の舞なんてごめんですわ!

一色ほのか

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第1章 幼少期(7歳)

54 ★レイオス視点

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「アーシャは」
「部屋で休まれているようです」
「こちらの動きを気付かれないように。今はまだ知らせない」
「分かりました。……まさかこんなに早く動くとは」
「ああ。まさかヴィクトリア・シュベーフェルが自殺・・するとはね……」
 
 それも、俺達を前にした投身自殺だ。
 
 今日、アーシャをスージーに任せ、俺とテッドはヴィクトリア・シュベーフェルの屋敷に足を運んでいた。
 本人からこの日にカトリーナ・ベルジュを連れて来てほしいと乞われたからだ。
 カトリーナ・ベルジュにならば全てを話してもいい、その横で誰が聞いていようとも構わない、と。
 アーシャの提案でカトリーナ・ベルジュの現状を話したその日に、そう言われたんだ。
 ほんの5日ほど前のことだ。
 
 話をした時の彼女の表情を今でも思い出せる。
 驚きと、絶望を色濃く映した目。
 その後は全て諦めたように、カトリーナ・ベルジュの現状をただ聞いていた。
 あの時彼女は一体何を考えていたのだろう。
 
 護衛も、見張りもいたから油断していた。
 全てを諦めた人間がどんな行動を取るか、分かっていなかった。
 
 彼女を死に追いやったのは、俺だ。
 
「殿下。ヴィクトリア・シュベーフェルは罪人です。彼女の死に殿下が罪の意識を持つ必要はありません」
「でも」
「彼女は歩けないと偽装していました。殿下を相手にですよ。彼女は最初からこうすることを視野に入れていたと考えていいかと」
 
 それは、そうなんだけど。
 今まではベッドの上に居たのに今日は椅子に座って窓辺に居たことを、もっと疑うべきだった。
 彼女は結局真実を何も語らず、この世を去ってしまったのだから。
 カトリーナ・ベルジュに掛けた魔法を解除し、一通の手紙を残して。
 彼女の目的は初めからそれだったんだ。
 真実を話すつもりなど一切なかったんだろう。
 
「結局真相は闇の中、か」
 
 本当に。アーシャに一体どう説明したらいいんだ?
 いや、まあ、前回の説明で大体は纏まってるんだけど。
 それじゃあきっと納得しないよね。あの子は。
 もっと裏まで読んで、彼女がどう行動するか予想していれば。
 今更後悔したところで遅いけれど……。
 
 





 ――――――数刻前。
 

 眠らせた状態のカトリーナ・ベルジュを連れ、俺達はヴィクトリア・シュベーフェルの屋敷に訪れた。
 今まで散々追及を躱してきた彼女が、女一人を連れてきたところでどう出るか。
 正直に言って分からなかったがこれ以上引き伸ばしたくないという私情もあって、話を進めた。
 
「ようこそ御出で下さいました――――レイオス第一王子殿下」
 
 やはりやつれた顔で、しかし凛と、女主人は待っていた。
 全てを話すと覚悟を決めたからか、きちんとした正装で、ベッドの上ではなく窓辺に近い位置で椅子に座っていた。
 柔らかな風に、白いレースのカーテンがはためいている。
 それにほんの少しの胸騒ぎを感じたが、俺は話を進めることを選んだ。
 
「貴方の願い通り、カトリーナ・ベルジュを連れてきた。約束通り、話してもらおうか」
「ええ、勿論。では、彼女を起こしてもらえますか?」
「そういう約束だからね。だが、目覚めれば貴方に襲い掛かる可能性が高い。拘束をしてから、」
「いいえ。彼女にはその権利があります。やり過ぎるようでしたらお止めください」
 
 真っすぐに俺を見て、ヴィクトリア・シュベーフェルは言う。
 カトリーナ・ベルジュから暴力を受けることも覚悟の上、ということか。
 まあ、目の前でそんなことをされても面倒だから止めるが。
 
 カトリーナ・ベルジュを用意させた椅子に座らせ、両脇に騎士を配置し、起こさせる。
 呻き声と共に目を覚ましたカトリーナ・ベルジュは真正面に座るヴィクトリア・シュベーフェルを見、目を見開いて――――――、
 
「っあぁあああっ!離して!離して!邪魔をしないで!あの女――――あの女が!私から全てを奪ったのよ!」
 
 椅子から飛び上がりヴィクトリア・シュベーフェルに飛びかかろうとしたカトリーナ・ベルジュを騎士が床に押さえ付ける。
 
「夫は殺され!娘は取り上げられた!それなのにあの女の子供の世話をさせられ続けて!あの女そっくりの孫娘の世話も!どうして!どうして!!」
 
 力で敵うはずがないのに暴れ髪を振り乱し泣き喚くカトリーナ・ベルジュ。
 それを、ヴィクトリア・シュベーフェルは感情の読めない目で見ていた。
 
「そう……オリオンの娘は、私によく似ているのですね」
「色合い以外は、貴方によく似ている。瓜二つと言ってもいい」
「そうですか。だからかしら?掛けていた魔法が歪んでしまったのは」
 
 静かに目を伏せ、それから、真っすぐにカトリーナ・ベルジュを見る。
 
「申し訳ありませんが、カトリーナを手の届く範囲まで連れて来ていただけないでしょうか」
「……構わない」
 
 騎士に合図を送り、暴れるカトリーナ・ベルジュを引きずるようにヴィクトリア・シュベーフェルの前に連れていく。
 魔法を掛けた張本人が解いてくれるならば、その方がいいからだ。
 騎士に拘束された状態でカトリーナ・ベルジュが動けるはずがないし、満足に動けないヴィクトリア・シュベーフェルがカトリーナ・ベルジュに害を加えるとも思えない。仮に何か起きても止められるだろう。
 
「大人しくして頂戴カトリーナ。上手く解けないわ」
「なんなのっ!?これ以上私から何を奪おうというのッ!!」
「奪う?違うわ。還す・・のよ」
「何を――――、ぇ、あ……?」
 
 カトリーナ・ベルジュの額に触れて、離す。
 その指が離れた時、今まで焦点が合っていなかった目が、初めてはっきりとヴィクトリア・シュベーフェルの姿を映した、ように見えた。
 先程のような狂気はなく、ただ愕然と、ヴィクトリア・シュベーフェルを見つめている。
 何度か口を開こうとし、言葉を発せず、閉じるを繰り返している。
 
「最初から全て話していれば、きっとここまで歪むことはなかったのでしょうね」
 
 静かに、零すように。
 だけどヴィクトリア・シュベーフェルは、カトリーナ・ベルジュを見ているわけではない。
 どこか遠くを見ている。
 
「それでもできなかった。できなかったのよ。貴方にだけは憐みの眼で見られたくなかった」
 
 そう言って、椅子の背の方に手を伸ばし、一通の手紙を出してきた。
 それを、カトリーナ・ベルジュに差し出す。
 カトリーナ・ベルジュは狼狽えていたが、俺の合図を受けた騎士が拘束を片手のみ解いたから、それを受け取った。
 
「その手紙をどうするかは、貴方が決めて。貴方だけにその権利があるの――――ルリナ」
 
 カトリーナ・ベルジュに、真っすぐに、柔らかく微笑んで。
 ごく自然に立ち上がって身を翻し・・・・・・・・・・・・・・・、開け放たれていた窓から身を投げた。
 
「――――は?」
 
 何が起きたのか。
 すぐには、理解できなかった。
 何か重い物が地面にぶつかる鈍い音で、同時に上がった甲高い悲鳴で、やっと何が起きたのか理解したんだ。

 ヴィクトリア・シュベーフェルが、死んだと。
 
「いやああぁぁぁぁあぁっ!!トリシア!トリシア!トリシア!!」
「っ、下に人を!すぐに確認させろ!」
「はっ!」
 
 騎士が慌てて外に出ていく。
 この場に残っているのは俺とテッド、カトリーナ・ベルジュ、それから連れてきた騎士達とこの家の家令のみ。
 
「どうして、トリシア、トリシア……ッ」
 
 呆然と涙を流し、ヴィクトリア・シュベーフェルの愛称を呼ぶカトリーナ・ベルジュ。
 
 トリシア、と、ルリナ。
 彼女達の名に合わない愛称は、互いのみで呼ぶと決めたものだろう。
 それは、この国では特別な意味を持つ。だから俺もそれを作ったんだ。
 カトリーナ・ベルジュがヴィクトリア・シュベーフェルをトリシア、と呼んだ時点でおかしいと思っていたが……そんな名を持つ二人が、ここまで拗れていた?
 どこが始まりか。オリオン・シュベーフェルの予言がそうだと思っていたが、もっと前から始まっていたのか?
 
「殿下。……駄目です。後のことは任せて城に帰還しましょう。国王陛下に報告しなくてはなりません」
「……そう、だな」
 
 ここで悩んでいてもどうしようもない。
 ヴィクトリア・シュベーフェルは死んだ。情報はカトリーナ・ベルジュに渡った。
 手紙の中身が何かは分からないが、今取り上げるわけにはいかないだろう。
 魔法を解かれ正気に戻ったらしいところに目の前で特別な名を交換し合った相手が死んだのだ。今は監視を厳重にした上でそっとしておいた方がいいだろう。
 ああ、この屋敷にも監視を増やした方がいいな。逃げたり何かを隠滅されてはならない。
 その指示を出して、俺達は屋敷を後にした。
 



 
「……カトリーナ・ベルジュの様子を逐一報告するように通達を」
「分かりました」
 
 こうなってしまったら、今までの調査結果と状況証拠で犯人死亡で処理もできるが。あの手紙がある以上、それは選びたくないな。
 まあ父上次第なんだけど……。
 アーシャを知った時は、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったな……はぁ。


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