執着から始まる

一色ほのか

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 例の合コン騒動から大体一ヶ月程経った。
 警戒していた黒幕とやらからの接触も更なる事件も起きず、平和……というか、代わり映えしない元の日常に戻った。一部を除いて。
 
 瀬能さんとのメッセージのやり取りは、予想外にも続いている。
 すぐに音信不通になるかなと思っていたのだけど、日が開くことはあってもちょいちょい愚痴らしきものが届く。
 その流れで2回くらい誘われて二人で飲みに行ったりもした。あの個室のお店。そして奢り。
 流石に何度も悪いって半分は支払うと言っても誘っているのは自分だから、と断られてしまった。
 前回食い下がってみたら、金額は聞かない方がいいですよ?と。7割以上が自分の方の金額だから、気にしなくてもいいって。
 それは、そうなんだろうけど。
 申し訳ないというか、それ以上に……金銭感覚とか、なんというかやっぱり生きている世界が違うんだなって。
 普通ならこんな風に、というかで会うこともないだろう人なんだなぁと、思ったわけです。
 だから今回のお誘いは、最初断ったんだけど。何か物凄く食い下がられて、いくつかの代替え案が出たところで、昼休みが終わりそうになって。同僚にいつまで話してるの?彼氏?って揶揄われて。
 瀬能さんは瀬能さんで引きそうにないし、結局お誘いを受けることになってしまった。
 
 そして至る現在。
 瀬能さんの自宅にて。
 
「確かに僕は透哉の従弟ですし血筋は近いですけど、4人姉弟の末っ子なんですよ。年もそれなりに離れてて。だから金銭面で苦労はないですけど影響力なんてゼロに等しいんですよ!そんなの調べればすぐに分かることなのに『自分の家が後ろ盾になるから及川や姉弟を追い落とせ』だとかイカれたことばかり!」
 
 物凄く荒れてるー……。
 よほど腹に据えかねてるらしい。ちょいちょい敬語が抜けている。あと飲むペースが速い。
 
 聞いていた感じ、親類関係の祝いの席があったようで。そこで何やら色々とあったみたいだ。
 瀬能さん自身に従兄である及川さんや姉弟の足を引っ張る気は一切なくても、周りは彼を利用したいってことらしい。瀬能さんと年齢が近く釣り合う血筋・地位のある女性が多いことも影響が大きいとかなんとか。
 まあつまり、そういうこと婚約云々だね。
 瀬能さんの姉弟は既に結婚しているか婚約者がいて、及川さんは候補は居ても特定の相手は今のところいないんだって。
 ただ及川さんは立場的にガードが固いから、瀬能さんから切り崩そうって魂胆だろうとかナントカ。
 
「僕がさっさと婚約なり結婚してしまえばいくらかは落ち着くんでしょうが。その相手も家族や及川に悪影響のない女性を選ばなければならない。でもこんな状況でそんな女性を探すのも難しくて……表立って動けばこれ幸いにと自分達に都合のいい女性を押し付けてくるとか妨害とかされるでしょう」
「た、大変ですね……」
 
 これって私が聞いていいことなのかな?
 あとそんな状況で私と飲んでて大丈夫???
 
 いや、愚痴りたい気持ちは分かるけどね。本当に大変そうなんだもの。
 こんな愚痴、弱音?身内には話しづらいのかな。
 家族仲が悪そうな感じじゃないけど……。
 
「会社関係で探せたら楽なんでしょうけれど、例の……助けてもらった件のようなこともあるので極力避けるように、と……及川が。自分に関わる面倒事も多いからと。そうなると学生時代の伝手しか残らないんですけど、大分疎遠になりましたし」
「わ、わぁ……」
 
 思った以上に厳しい。
 そんな中で誰もが納得できるような無害な女性を探すって、至難では?
 
「ご、ご家族から紹介してもらうとかは」
「最後の手段ですね。なんやかんやと一生揶揄われそうなのでできれば避けたい」
 
 深い溜め息と共に肩を落として言う。
 一生揶揄われるって。どんな家族なの一体……。
 
「ええと、気になる女性とかはいないんですか?」
「居るには居るんですけど僕にあまり関心がないようで。というか恐らく異性として見ていないですね」
「ええ?全然ですか?瀬能さん格好良いのに」

 瀬能さんの見た目で異性として見てないってどういうこと?
 んー、今の瀬能さんを知らない、とか?学生時代の先輩とかだったらあり得そう。
 
「…………全然ですね。なんと言うか、僕とはあまり関わり合いになりたくない感じかと」
「あ、そういう」
 
 私と同じタイプの人かぁ。
 その気持ち、とっても分かる。
 今の距離感くらいならいいけど、結婚とか考えるのは無理だよね。だって育ちが根っこから違うんだもの。
 ああでも、元から瀬能さんの知り合いなら私みたいな一般人じゃない、かな?
 
 …………ん?というか。
 
「えっと。勘違いでなければ一応意中の方がいるのに、私と飲んでいて大丈夫なんです?」
「それは大丈夫です。むしろそれで少しでも意識してもらえたらありがたいんですけどね」
 
 ふむ。へぇ。
 つまるところ私、ダシにされてる?当て馬??
 気分の良い話ではないけど、逆に安全かもしれない。意中の人がいるなら私にどうこう、はないよね。こうして真正面から話してるくらいだし。
 だけど、うん。なんか前置きもなく協力者にされたのはちょっと……ねぇ。
 最初からそういうつもりでいたわけじゃないとは思うけども。
 
「この話はこれくらいにしましょうか。面倒な話を聞かせてすみません」
「あ、いえ。話を聞くくらいしかできませんけど」
「十分です。そういえば、お酒の方はどうですか?度数の低い女性でも飲みやすい物を、と聞いて勧められた物なので自分では分からなくて」
「大丈夫です、おいしいですよ」
 
 殆ど見たことない物ばかりだけど。
 うん……馴染み深い手頃な値段のお酒は一つも無くて、私でも知ってるような手が出ないくらい高いメーカーのお酒がちらほら。
 ちょっと怖くて手が出せない。

 これはもしかしなくてもお店で飲んでた方が私の分のお金が掛からなかったのでは。
 わざわざ店員に聞いて購入してきたようだし逆に負担が大きかったのでは。
 現状だと代金を払う、とは言えないし余計にお金と気を使わせたのでは???
 
「なら良かった。あ、この辺りとかおすすめらしいです」 
 
 可愛らしいラベルの瓶を指差す瀬能さん。
 それ知ってる、女性人気が高くて、酒飲みの同僚が一度は飲んでみたいって言ってたやつ。値段は、うん。一度は、って言うあたり、お察し。
 気になってついつい見ちゃってたの、気付いてたのかな。
 
「折角だから飲んでみましょうか。…………はい、どうぞ」
「ぇあ、ハイ」
 
 お酒を注がれたショットグラスを差し出され、咄嗟に受け取る。
 瀬能さんは既に口を付けていて、ただ、ちょっと顔を顰め気味?
 なんでだろうって思いつつ、そこはかとなく気が引けるけど、一口含む。…………これは、ああ、うん。
 
「瀬能さん、甘いの駄目ですか?」
「駄目、とまでは言いませんが……ここまで甘いと、ちょっと」
「そうですね、私もあまり」
 
 美味しいとは思うけれど、好みではない、かな。
 こう言うとあれだけど、値段が高かったり人気があっても、自分に合うかは別の話だよね。
 
「じゃあこれはとりあえず寄せておいて、こっちどうぞ」
「えっ、あ、あの、そんなに飲めない、」
「度数が高くないので大丈夫ですよ、多分」
「多分!?」
 
 なんだかふわふわした言動の瀬能さんに驚いている間に、新しいショットグラスを手渡される。
 これ、瀬能さん、結構酔っているのでは???
 いつもより飲むペースが速いしちゃんぽん状態だし。
 そろそろ止めて、私も帰ろうかな……時間も時間だし。
 …………って、あ!また別のお酒開けようとしてる!?
 
「せ、瀬能さん、そろそろ止めませんか?」
「え?まだ開けてない方が多いですけど」
 
 首を傾げる瀬能さん。うーん、普段から考えると完全に酔っ払い。
 というか用意したの全部飲む気だったの?まだ手を付けてないの沢山あるよ??
 
「1日で飲み切ることはないですよ!また今度に残しておきましょう?」
「今度……、そうですね。じゃあ次に二人で飲む時に取っておきましょうか。あ、でもこれは開けてしまったので」

 目を細めて笑い、開けたお酒を差し出してくる。
 飲まなきゃ駄目かぁ。
 というか今さりげなく言質取られたような。…………いやきっと社交辞令だよね。ということにさせて。

 次はちゃんと断らないとなぁ。
 そう思いつつ、最後の一杯を飲み下した。
 



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