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「うっわ。マジでまた指輪付けてる」
大騒ぎの月曜日から数日。
話を聞きたそうに寄ってくる人達がいるけれど、徹底して流すか無視している。
それで大分落ち着いてはきたよ。しつこいの以外は。
…………こいつは恐らく、それを見計らって声を掛けてきたと思われる。
道を塞ぐようにしている以上、私を目的に来たのは明白。
だってこの男の所属部署は私の所と大分距離があるのだ。
「何か用でも?」
「冷たいなぁ。わざわざ来たのに。俺達の仲じゃん」
「学生時代の同級生というだけでしょう。誤解を招く発言は止めてください」
はっきりとした声量で言い切る。
下手に声を抑えたり、ちゃんと否定しておかないとおかしな噂にされかねない。
ただでさえ今、目立っているから。
「昔はもう少し気も弱くて可愛かったのになー。また余所で男引っ掛けてくるなんてやるね。どうせ身体目的でしょそいつ」
「自己紹介ですか?」
冷静に、冷静にと頭で考えながら吐き捨てるように言う。
こういうやつに嫌悪感を隠してはいけない。隙を見せてはいけない。
そのまま睨みつけていると、背後からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
驚いて振り返った先に居た女性の、そいつを見る目は非常に冷たい。
「そうね。分かりやすい自己紹介だったわ。他部署にまで来てセクハラなんて、上に報告しないとならないわね」
「っ、いや、その、」
「言い訳は結構。常習的にこの手の問題行動を行っていると苦情が来ているの。全く何をしに来ているのかしら」
「ええと、あの、っ失礼します!」
バッと頭を下げてそのまま逃げるように去っていった。
相も変わらずクソらしい。
「ごめんなさいね、うちの部下が。気弱そうな女性を狙って問題を起こしていて……」
「あ、いえ。対処していただけるなら」
「もちろんよ」
そうにっこりと笑って、女性はあいつが走り去った方へ歩いて行った。
…………責任を取る立場というのも大変そうだ。あんなのの相手もしないといけないんだもの。
もう社会人になって相当立っているのにアレだ。接する人は本当に苦労するだろうね。私は出来る限り関わりたくない。
でも、忘れた頃にあっちから来たりするんだよね……。
昔もあいつとの接点なんで殆どないし、会社でも顔を合わせることは殆どない。だから見た目と昔の印象か何かで舐められてるんだろう。面倒過ぎる。
一体何年経ったと思ってるんだろうか。あの頃と変わらない、なんてことはないのに。
とりあえず常習らしいし同じ部署の友人達に気を付けるように言っておこう。
あの女性が対処すると言っても、すぐにどうこうはならないだろうしなぁ。
****
「結論から言うと、不具合に近い仕様でした」
帰ってくるなり話がある、と言われ。
何事かと戦々恐々としていたら、FOLの制限機能についてだった。
「天音さんは最初から制限機能をONにしていて外したことがなかったんですよね?どうやらそれが駄目だったみたいで。本来掛かるところ以外の部分にも制限が掛かった状態だったようです」
「それって大丈夫なやつ?」
「ぎりぎりのところで致命傷ではない、という感じですね。該当者がそこそこいたので告知の後、それなりの期間を取って緊急メンテナンスが入る予定になってます」
「…………結構大事?」
「うちは紙一重回避した、と言いますか。制限機能の大元が大事になりそうですね」
あー。開発元かー。
そっちまで行っちゃうなら確かに運営は紙一重、だね。
むしろ拙そうな不具合発見で感謝されるまである?
「じゃあしばらくFOLはできないね」
「そうですね、長引いても2週間くらいになりますが。これを機にゆっくり休みましょうか。天音さん、FOLで夜更かししているの多いようでしたし」
「ゔ」
おっしゃる通りで。
零の件で土曜日はマシになってたものの、他はほぼいつも通りだったし。
FOL、基本的に現実の息抜きや八つ当たりだったからね。平日でも日を跨ぐぐらいはINしてた。遅くて深夜2時くらい。
それくらいならよくあるよね!……あるよね?
「ほぼ日課だったから手持無沙汰になりそう」
「ログインしたらいつも居ましたから相当だろうとは思ってましたけど、日課レベルでしたか」
「色々とストレスは溜まるんだよ……」
通勤状況とか社内のアレソレとか。
依存レベルではないはず。やり過ぎてる自覚はあるけど。
「少しFOL離れ、しましょうか。俺との時間も欲しいので」
「うん……、へっ?あ、ぅ。ハイ……」
最初の部分で返事をし、次の言葉で少し言葉を詰まらせつつも頷く。
意味するところに思い至り、ちょっと目が合わせづらい。顔が赤くなってる気がするので。
そうだ。
今はもう自由の効く一人暮らしじゃなくて、大輝さんとの二人暮らしなのだ。
正直に言うと、まだ全然慣れていない。家族以外の誰かと一緒に暮らすのは、初めてじゃないけど。やっぱり最初は緊張する。慣れて当たり前になる日が来るのも、分かっているけれど。…………失ったことがある身からするとちょっとだけ怖い。
そもそも現状だって、まだちゃんと確定してるわけじゃないし……。
「すぐに慣れろ、とは言いません。強引に手に入れた自覚はありますから」
「強引とかいうレベルじゃない……」
「我慢しきれなかったことに関しては申し訳ありませんけど、多分時間の問題でした」
「だから、笑って言うことじゃないってば」
言っても無駄だって分かってるけど。
その通りだったろうなって思うけど。
自分の毒され加減も存外に酷い。
あんまり慣れちゃいけない類のなのは分かってるんだけどねー……。
大騒ぎの月曜日から数日。
話を聞きたそうに寄ってくる人達がいるけれど、徹底して流すか無視している。
それで大分落ち着いてはきたよ。しつこいの以外は。
…………こいつは恐らく、それを見計らって声を掛けてきたと思われる。
道を塞ぐようにしている以上、私を目的に来たのは明白。
だってこの男の所属部署は私の所と大分距離があるのだ。
「何か用でも?」
「冷たいなぁ。わざわざ来たのに。俺達の仲じゃん」
「学生時代の同級生というだけでしょう。誤解を招く発言は止めてください」
はっきりとした声量で言い切る。
下手に声を抑えたり、ちゃんと否定しておかないとおかしな噂にされかねない。
ただでさえ今、目立っているから。
「昔はもう少し気も弱くて可愛かったのになー。また余所で男引っ掛けてくるなんてやるね。どうせ身体目的でしょそいつ」
「自己紹介ですか?」
冷静に、冷静にと頭で考えながら吐き捨てるように言う。
こういうやつに嫌悪感を隠してはいけない。隙を見せてはいけない。
そのまま睨みつけていると、背後からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
驚いて振り返った先に居た女性の、そいつを見る目は非常に冷たい。
「そうね。分かりやすい自己紹介だったわ。他部署にまで来てセクハラなんて、上に報告しないとならないわね」
「っ、いや、その、」
「言い訳は結構。常習的にこの手の問題行動を行っていると苦情が来ているの。全く何をしに来ているのかしら」
「ええと、あの、っ失礼します!」
バッと頭を下げてそのまま逃げるように去っていった。
相も変わらずクソらしい。
「ごめんなさいね、うちの部下が。気弱そうな女性を狙って問題を起こしていて……」
「あ、いえ。対処していただけるなら」
「もちろんよ」
そうにっこりと笑って、女性はあいつが走り去った方へ歩いて行った。
…………責任を取る立場というのも大変そうだ。あんなのの相手もしないといけないんだもの。
もう社会人になって相当立っているのにアレだ。接する人は本当に苦労するだろうね。私は出来る限り関わりたくない。
でも、忘れた頃にあっちから来たりするんだよね……。
昔もあいつとの接点なんで殆どないし、会社でも顔を合わせることは殆どない。だから見た目と昔の印象か何かで舐められてるんだろう。面倒過ぎる。
一体何年経ったと思ってるんだろうか。あの頃と変わらない、なんてことはないのに。
とりあえず常習らしいし同じ部署の友人達に気を付けるように言っておこう。
あの女性が対処すると言っても、すぐにどうこうはならないだろうしなぁ。
****
「結論から言うと、不具合に近い仕様でした」
帰ってくるなり話がある、と言われ。
何事かと戦々恐々としていたら、FOLの制限機能についてだった。
「天音さんは最初から制限機能をONにしていて外したことがなかったんですよね?どうやらそれが駄目だったみたいで。本来掛かるところ以外の部分にも制限が掛かった状態だったようです」
「それって大丈夫なやつ?」
「ぎりぎりのところで致命傷ではない、という感じですね。該当者がそこそこいたので告知の後、それなりの期間を取って緊急メンテナンスが入る予定になってます」
「…………結構大事?」
「うちは紙一重回避した、と言いますか。制限機能の大元が大事になりそうですね」
あー。開発元かー。
そっちまで行っちゃうなら確かに運営は紙一重、だね。
むしろ拙そうな不具合発見で感謝されるまである?
「じゃあしばらくFOLはできないね」
「そうですね、長引いても2週間くらいになりますが。これを機にゆっくり休みましょうか。天音さん、FOLで夜更かししているの多いようでしたし」
「ゔ」
おっしゃる通りで。
零の件で土曜日はマシになってたものの、他はほぼいつも通りだったし。
FOL、基本的に現実の息抜きや八つ当たりだったからね。平日でも日を跨ぐぐらいはINしてた。遅くて深夜2時くらい。
それくらいならよくあるよね!……あるよね?
「ほぼ日課だったから手持無沙汰になりそう」
「ログインしたらいつも居ましたから相当だろうとは思ってましたけど、日課レベルでしたか」
「色々とストレスは溜まるんだよ……」
通勤状況とか社内のアレソレとか。
依存レベルではないはず。やり過ぎてる自覚はあるけど。
「少しFOL離れ、しましょうか。俺との時間も欲しいので」
「うん……、へっ?あ、ぅ。ハイ……」
最初の部分で返事をし、次の言葉で少し言葉を詰まらせつつも頷く。
意味するところに思い至り、ちょっと目が合わせづらい。顔が赤くなってる気がするので。
そうだ。
今はもう自由の効く一人暮らしじゃなくて、大輝さんとの二人暮らしなのだ。
正直に言うと、まだ全然慣れていない。家族以外の誰かと一緒に暮らすのは、初めてじゃないけど。やっぱり最初は緊張する。慣れて当たり前になる日が来るのも、分かっているけれど。…………失ったことがある身からするとちょっとだけ怖い。
そもそも現状だって、まだちゃんと確定してるわけじゃないし……。
「すぐに慣れろ、とは言いません。強引に手に入れた自覚はありますから」
「強引とかいうレベルじゃない……」
「我慢しきれなかったことに関しては申し訳ありませんけど、多分時間の問題でした」
「だから、笑って言うことじゃないってば」
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