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第四章:瞳子さんと一郎さんの事情
17:瞳子さんの想い
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一郎さんの夢を渡る力は、決して知られてはいけない世界を示唆する。管理局に関わることが他者に露見した場合、いったいどうなるのか。
「誰にも、どこまで世界が復元されるのかわからない。もしかすると、私が一番傷ついた時期をもう一度繰り返すことになるかもしれない。――一郎は優しいから、そんな選択肢は選べなかった。代わりに管理局に黙認される方法をとった。それだけなの」
「でも、瞳子さんが大切だから、夢に入ってまでなぐさめ続けていたんじゃ?」
「それは、妹を大切に思う気持ちと同じよ。家族愛みたいなもの。私が一郎に抱いている気持ちとは、まるで違うものだわ」
「そんなーー」
本当だろうか。一郎さんは女性として瞳子さんを見てはいないのだろうか。
「私は一郎には幸せになってほしい。彼にはまだ、もっと違う誰かに出会う機会があるはずだと思っているの」
「でも、そうしたら瞳子さんは……」
「私はもういいの。世界がすっかり変わってしまって、一郎のことを忘れてしまうぐらいに変わってしまっても」
「そんなの、良くないです!」
「きっと大丈夫よ。だって、もう充分すぎるくらい一郎には与えてもらった。家族として。」
「でも――」
「あやめちゃん、私は思うの。もし、世界が復元されて全てがなかったことになっても、気持ちは残っているんじゃないかって。結びつく記憶がなくなっていても、心の中にだけは、何かわからないまま、でも宝物のように残っているんじゃないかって」
「気持ちだけが?」
「そう。そんなふうに考えた方が、素敵じゃない?」
気持ちだけが残る。
記憶を失えば気持ちも形を失ってしまうだろう。でも、形を失っても、残っているんだろうか。
何か、大切なものだけが。まるで懐かしい温もりのように。
「はい、そんなふうに考えた方が素敵です」
「でしょ?」
瞳子さんは華やかに微笑む。自分の境遇を嘆いているわけでもなく、ただ一郎さんに幸せになってほしいだけ。
う、切ない。
でも、引っかかる。一郎さんの本当の気持ちはどうなんだろう。本当に演技だろうか。
そもそも瞳子さんは、大和撫子な美人で素敵な女性である。
こんな美女が四六時中そばにいたら、心が傾くと思うのだけど。
わたしは食い下がってみた。
「たしかに素敵な考え方ですけど。でも、その前に一郎さんの気持ちを信じてみるというのもアリじゃないですか?」
「――そうね。でも、私には難しいかしら」
一郎さんがどれほど愛を語っても、瞳子さんには同情になってしまう。そして管理局を黙認させるために、一郎さんが犠牲になったという呵責になる。
決して、届かない気持ち。
まるでパラドックスのようだ。
「私は一郎に自由に人を好きになって、幸せになってほしいだけ。私が奪ってしまったその機会を、もう一度もってもらいだけなの。だから、抗えるうちは抗うつもり。それが一郎の可能性になると思うから」
一郎さんの可能性。そうか、瞳子さんは一郎さんの未来を犠牲にしたという気持ちに苛まれているんだ。
「だったら、瞳子さんが一郎さんを幸せにしてあげるっていう、そういう選択肢はないんですか?」
「それは最終手段ね。誰もいなかったら、もちろん私が幸せにしてあげる。そう努力するわよ!」
悪戯っぽく瞳子さんが笑う。わたしは少しほっとした。
なんだ、じゃあ、一郎さんと瞳子さんの幸せは約束されているようなものだ。
「わたしは瞳子さんと一郎さんを応援します」
はっきりと意思表示すると、瞳子さんが黒目勝ちの綺麗な目を丸くする。
それから華やかな笑顔が咲いた。
「ありがとう、あやめちゃん。でも、これは二人だけの秘密よ」
「はい」
ジュゼットが戻れば、この夜のことも忘れてしまうけれど。
今は、二人だけの秘密。
「誰にも、どこまで世界が復元されるのかわからない。もしかすると、私が一番傷ついた時期をもう一度繰り返すことになるかもしれない。――一郎は優しいから、そんな選択肢は選べなかった。代わりに管理局に黙認される方法をとった。それだけなの」
「でも、瞳子さんが大切だから、夢に入ってまでなぐさめ続けていたんじゃ?」
「それは、妹を大切に思う気持ちと同じよ。家族愛みたいなもの。私が一郎に抱いている気持ちとは、まるで違うものだわ」
「そんなーー」
本当だろうか。一郎さんは女性として瞳子さんを見てはいないのだろうか。
「私は一郎には幸せになってほしい。彼にはまだ、もっと違う誰かに出会う機会があるはずだと思っているの」
「でも、そうしたら瞳子さんは……」
「私はもういいの。世界がすっかり変わってしまって、一郎のことを忘れてしまうぐらいに変わってしまっても」
「そんなの、良くないです!」
「きっと大丈夫よ。だって、もう充分すぎるくらい一郎には与えてもらった。家族として。」
「でも――」
「あやめちゃん、私は思うの。もし、世界が復元されて全てがなかったことになっても、気持ちは残っているんじゃないかって。結びつく記憶がなくなっていても、心の中にだけは、何かわからないまま、でも宝物のように残っているんじゃないかって」
「気持ちだけが?」
「そう。そんなふうに考えた方が、素敵じゃない?」
気持ちだけが残る。
記憶を失えば気持ちも形を失ってしまうだろう。でも、形を失っても、残っているんだろうか。
何か、大切なものだけが。まるで懐かしい温もりのように。
「はい、そんなふうに考えた方が素敵です」
「でしょ?」
瞳子さんは華やかに微笑む。自分の境遇を嘆いているわけでもなく、ただ一郎さんに幸せになってほしいだけ。
う、切ない。
でも、引っかかる。一郎さんの本当の気持ちはどうなんだろう。本当に演技だろうか。
そもそも瞳子さんは、大和撫子な美人で素敵な女性である。
こんな美女が四六時中そばにいたら、心が傾くと思うのだけど。
わたしは食い下がってみた。
「たしかに素敵な考え方ですけど。でも、その前に一郎さんの気持ちを信じてみるというのもアリじゃないですか?」
「――そうね。でも、私には難しいかしら」
一郎さんがどれほど愛を語っても、瞳子さんには同情になってしまう。そして管理局を黙認させるために、一郎さんが犠牲になったという呵責になる。
決して、届かない気持ち。
まるでパラドックスのようだ。
「私は一郎に自由に人を好きになって、幸せになってほしいだけ。私が奪ってしまったその機会を、もう一度もってもらいだけなの。だから、抗えるうちは抗うつもり。それが一郎の可能性になると思うから」
一郎さんの可能性。そうか、瞳子さんは一郎さんの未来を犠牲にしたという気持ちに苛まれているんだ。
「だったら、瞳子さんが一郎さんを幸せにしてあげるっていう、そういう選択肢はないんですか?」
「それは最終手段ね。誰もいなかったら、もちろん私が幸せにしてあげる。そう努力するわよ!」
悪戯っぽく瞳子さんが笑う。わたしは少しほっとした。
なんだ、じゃあ、一郎さんと瞳子さんの幸せは約束されているようなものだ。
「わたしは瞳子さんと一郎さんを応援します」
はっきりと意思表示すると、瞳子さんが黒目勝ちの綺麗な目を丸くする。
それから華やかな笑顔が咲いた。
「ありがとう、あやめちゃん。でも、これは二人だけの秘密よ」
「はい」
ジュゼットが戻れば、この夜のことも忘れてしまうけれど。
今は、二人だけの秘密。
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