次元境界管理人 〜いつか夢の果てで会いましょう〜

長月京子

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第六章:カウントダウンを刻む世界

28:睡眠不足の一郎さん

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「でも、一郎。次郎君の様子がただ事じゃなかったわ。何か心当たりはないの?」

 ジュゼットが落ち着きを取り戻すと、わたしの不安を代弁するように瞳子さんが問いかけてくれる。思わず一郎さんを見るわたしの目にも力がこもってしまう。

「ただ事じゃないって、いったいどんな感じだったわけ?」

「あやめちゃんが、ジュゼットを見て全部思い出しちゃった時みたいにな感じよ。蒼白な顔をして、すごく狼狽えていたわ。そのぬいぐるみに宿っている11D?――カバさんも、次郎君なら思い出したかもしれないって」

「11Dの言うことは鵜呑みにできないけど、次郎が狼狽えること、か」

 わたしは一郎さんに、次郎君の様子が変わった時のいきさつを説明した。

 繰り返し見る、次郎君のそっくりさんが出てくる真夏の凄惨な夢。
 カバさんと、その真夏の光景の中で出会ったこと。

「――あやめちゃんは、ずっとその夢を見ていたんだ……」

「あ、はい」

 あっさりと一郎さんにも語ってしまったけど、やっぱり恥ずかしい。次郎君のそっくりさんが出てくる夢についてを話すのは。

 うう、顔が熱い。パタパタと手のひらで気休めに顔を仰いでいると、瞳子さんと目があった。大丈夫といいたげに微笑んでくれる。

「そうか。あやめちゃんにつながっていたのか」

「一郎さん?」

 なんだろう、夢の中でカバさんも同じようなことを言っていた気がする。

(――お嬢ちゃんにつながってるんか)

 カバさんもわたしにつながっていると言っていた。
 いったい何が? 何がわたしにつながっているんだろう。

「あの、つながるっていうのは?」

 全く心当たりもなく、想像もつかない。素直に一郎さんに聞くと、彼ははぁっと深く息をついた。

「たぶん、俺は次郎にめちゃくちゃ責められるな」

「え?」

「きっとあやめちゃんも俺を罵るに違いない」

 いやいやいや、一郎さんどうしちゃったの? 全く意味がわかりません。

「とにかく眠たい」

 は?

「ちょっと、一郎? 会話になっていないわよ。あなたまでどうしたの?」

「どうもしない、とは言えないけど、……あやめちゃん」

「はい!」

 一郎さんが苦笑する。振りまかれる色気のある仕草に、冗談でごまかしきれない影が見え隠れしているように感じるのは、気のせいだろうか。たんなる寝不足による疲労感かな。

「次郎はすぐに戻ってくるよ。俺のことを問いただしに。だから、心配しないで」

「一郎さんを問いただすっていうのは?」

「あいつが戻ってきたら、全部わかるよ。――悪いけど、今は寝不足で頭が回らない。続きは次郎が戻ってきてからにしよう」

 気怠げにこめかみを抑える一郎さんの様子が辛そうで、わたしには「はい」としか言えなかった。

「ごめんね、あやめちゃん」

一郎さんがソファからゆっくりと立ち上がる。

「今は少し寝かせてほしい」

 再び自室へ戻ろうとする一郎さんの足取りに力がないのは、睡眠不足のせいだろうか。たしかに現れてからも、ずっと気怠げだった。

 眠るために引きこもろうとする一郎さんの背中に、瞳子さんが戸惑った声をかける。

「でも、知っているなら説明が先じゃないの? あやめちゃんが不安よ? 一郎?」
 いつもの調子で言い募る瞳子さんだけど、振り返った一郎さんの顔色を見て言葉をなくす。

「悪い、瞳子。今は、本当に限界……」

 青白い顔で申し訳なさそうにされて、さすがの瞳子さんも追撃できないようだった。わたしもそんな一郎さんを引き止めてまで事情を伺う勇気はない。
 次郎君が戻ってくるなら、それで良いと自分に言い聞かせる。

「あの、大丈夫です。瞳子さん。次郎君が戻ってくるなら、それまで待ちます」

「あやめちゃん」

「それに一郎さんもあの調子だと危ないですよ。今はゆっくり寝かせてあげましょう」

「……そうね」





――11D、消息不明、継続。
――D(次元)一部消失、継続。
――D(次元)崩壊拡大、確認。
――AD(全次元)、カウントダウン。

――9。
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