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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

7日目② ロイとミランダ

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ロイはドクンと大きく心臓の音が鳴った気がした。

(…なるほど…)

そう心の中で頷きながら、ロイは前ローラン王が言った。

【見かけは幼い王女だけど…危ないぞ。】
【だから心してかからないと、幼い王女に心を見られるどころか…心を奪われる。】


その意味を知った。いや、知ったと言うより感じた。


木を登ろうとする姿を見た時、前ローラン王が言われた言葉に(大げさな)と内心思っていたが…本来の姿はこれなんだ。


ルシアン殿下に似ていると言われていた自分だったが、ルシアン殿下に初めてお会いした時、思わず跪いてしまうほど、その纏う空気は違い、ルシアン殿下と同じ黒髪で、赤い瞳であっても、どんなに体格が似ていても、凡人な自分とは違う、入れ替わるなど絶対無理だと思った。

その時と同じだ。

野生動物のように感じたんだ。
目の前の方は支配する側で、自分は支配される側だと。


人を惹きつけ、この人の為ならと思わせる凄まじい存在感。
ミランダ姫も同じだ


だが、もし…
そう、もしもだ。

支配する側のこの方たちが、心を病み、暗くおぞましい世界へと身を落としたら、この方たちに魅了された人々も、暗くおぞましい世界へとついて行ってしまうのではないだろうか…。

この方々だって、人だ。
傷つき、その傷の深さによっては、心まで血を流し、そして…壊れるということもある。

そうあの方は…前ローラン王はそうだった。

前ローラン王は王として必要なものをすべて持っていらしたのに…なのに…

そう思った瞬間、愚かなことが頭に浮かんだ。

スミラ様が兄妹でなかったら…前ローラン王は悪魔にその魂を売ったりはされなかっただろうにと

あの頃の前ローラン王が何を考えていらしたかはわからないが、私はこう思っている…すべてを破滅させるおつもりだったのではないかと、だが、直前であの方は踏みとどまれた。

ブラチフォード国で何かがあったのは間違いない。
そしてその事に、ルシアン殿下やミランダ姫が関わり合った事も間違いない。

前ローラン王は変わられた。
今まで、未来を見ることをされなかったのに、今…ローラン国の未来を見たいと思っていらっしゃる。
だから、言われたのだ

【おまえにしか言えない。頼む、ローラン国を、そしてルシアンを助けてやってくれ。】…と


あの方々は善にもなり、そして悪にもなれるのだ。
なら、その分かれ目はなんなのだろう…。




ロイは唇を噛んだ。
一瞬ミランダは、表情が変わったロイに眉をあげたが、また黙ってロイを見た。
その視線に気が付いたロイも黙ってミランダを見た。


ミランダはクスリと笑うと
「いろいろ分析しているようだけど。でも、今日はここまでにしてくれないかしら。」

「…ぁ、あの…」

「悪いけど、今日は時間が惜しいのよ。私は中庭での結婚式には出られないから、その前にロザリーには絶対会っておきたいの。ロザリーは騎士としては上級者なんだけど、女としてはまだまだ初心者だから心配なの。」


満面の笑みだった。

心配と言いながら嬉しそうに話すミランダに、ロイはまた感じた。


ミランダが【ロザリー】と口にした途端、空気が変わったことを…。
空気が柔らく変わったことを…。



ロザリー様…なのか?

ロザリー様がおふたりの側にいらっしゃるから?


「中々、感がいいのね。また何か感じた?」

突然、ミランダはそう言うと、ロイの前に手を差し出し
「でも、ひとつ外れているわよ。私は…」

ロイはミランダが何をしたいのかわからず、差し出された手を見て、その視線をミランダの顔へと移した。

ミランダはクスリと笑うと
「私は悪魔に魂なんか売らないわ。」

「えっ?」

「だいたい私は、まるで天使と言われるほど可愛いの。だから悪魔だとキャラが違うから、やらないわ。」


そう言って、ケラケラと笑い
「だから心配しないで、私の臣下になりなさい。」

そう言って、手を取れと言わんばかりに小さな右手を上下に振り

「ローラン国の王位継承権を放棄するんでしょう?なら、問題ないじゃない。私のところに来てよ。今、人材不足なの。叔父様にロザリーは取られるし、キャロルもだし…。だからね、ウィンスレット侯爵と一緒に私を支えて欲しいの。」

まだキョトンとした顔で、この状況が理解できないロイにミランダは、ロイに差し出した右手を、今度は左手の手の平に合わせ

「お願い!この通りよ。」


参った。

ロイは思わず、心の中でそう呟いた。

敵うはずはない。
人を惹きつけ、この人の為ならと思わせる凄まじい存在感に、敵うはずなどない。



ロイは微笑むと、両手を合わせていたミランダの右手を取り、そっとキスを落とした。

ミランダは大人びた綺麗な微笑みを浮かべ、その美しさに茫然とするロイにミランダは小さな声で
「私の側でローラン国が豊かで、平和な国になって行くのを見たらいいわ。」


ロイは慌てて深く頭を下げ、零れそうな涙を隠した。


先々代を思い出させる自分がこの国いたら、災いのもとだという事は、充分わかっていた。
自分に二心などない、だが、ルシアン殿下の即位を拒むバウマン伯爵のような方がいる以上、先々代の子である私は利用しやすい人間。新しい国には邪魔な人間。

だからルシアン殿下がローラン王になられたら、この国を出るつもりだった。

でも…寂しいと思っていた。

いろいろあったが、ここは、この国は自分が生まれ育った国。その国が新しくなるのを手伝うことができずとも、遠くから見たいと心の奥底で思う気持ちがあった。

ミランダ姫はわかっていらした。私の心を…

「私の側にいるとかなり刺激的で、楽しいわよ。」

ミランダの声に顔をあげたロイは震える声で
「…御意。」


ミランダは満面の笑顔をみせ
「では、初仕事よ。ロザリーのところに行くからついてきて。」

そう言って、両手をロイの前に出したミランダにロイは…
「あ、あの…」

「抱っこ。」

「えっ?」

「ロザリーの部屋まで遠いのよ。だ・か・ら・お願い。」


ロイは大きな声で笑うと
「確かに、ミランダ姫の側にいると刺激的です。」

「そう?」

ミランダは微笑むとそう言った。




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