王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

文字の大きさ
1 / 214

プロローグ

しおりを挟む
【恋には秘密が必要】

などと…仰る方がいらっしゃいますが、
その秘密に振り回される男女もいるわけで…
ましてや、その秘密を作ったのが本人の意思ではなく、他の人の思惑だったら…

ほら、ここにも…
赤い糸を縺れさせようとしている御仁が…



ウィンスレット侯爵は、隣の部屋を気にしながら、神に祈っていた。
日頃から信心深いのなら、その姿は違和感がないのだが…
日曜日のミサも、前日に深酒をしたあくる朝は、なんやらかんやらと理由をつけ、ベットからなかなか抜け出せない御仁が…もうそれは、必死に…

「今度こそ!今度こそ!男でありますように!」

まぁ…6人続けて女が生まれ、もう諦めかけて折の懐妊、ましてやこの国ブラチフォードでは、爵位を継げるのは男子のみだったから、このままだと爵位は…眼中無人な弟ライアン伯爵の息子へと、侯爵家は継がれることになってしまうからだ。


「お願いします。男子でなければ、あの忌ま忌ましい弟…ライアンの息子エイブが次のウィンスレット侯爵になってしまいます。どうか、どうか…もう、酒など飲みません。」

でもお酒ぐらいで、神様はどう思われたのか…




オギャ、オギャァ~

「マーガレット!!!」と妻の名前を叫びながら、叩いた扉の向こうから…

「……お嬢様でございます。」と、か細い侍女の声

やはり、神様はお酒ぐらいでは、その願いを叶えてはくれないようで、恨めしげに天上を見上げた、ウィンスレット侯爵だったが…

小さく頭を横に振りながら小さな声で

「いかん!いかん!子供は宝だ。」

両頬をパンパンと叩くと、産室の扉に手をかけ、扉を開こうとした途端、侍女が笑みを浮かべて飛び出して来た。

侍女はキッと睨らんできたが、ぶつかりそうになった相手がウィンスレット侯爵だと、気が付くと慌てて頭を下げて、引きつった声で、「お、おめでとうございます。」と言って逃げるように走り去っていった。

その後姿に、ウィンスレット侯爵はまた頭を横に振ると
「あの者、笑みを浮かべておったな。ライアンの手の者か…」

大きな溜め息をつき弱々しい笑みを浮かべ、ベットに横たわり、生まれたばかりの我が子を抱く妻に近づきながら、ぼそぼそと独り言のように
「…男子が生まれたということにして…取り合えず、この場を凌ぐというのは…どうだろうか…」

先程の侍女のことがあったせいで、思わず浮かんだアイディアを口にしたが…軽く頭を振り
「だめだよなぁ。今、ライアンの手の者が飛び出して行ったしなぁ…」

「だ、旦那様…?!」

夫の脈略のない言葉に妻は眉を顰め、もう一度
「旦那様。」

ウィンスレット侯爵は、ようやく自分が妻と生まれたばかりの娘の下にたどり着いた事に気が付き、ヘラリと笑みを浮かべたが…だがやはり男の子が欲しいと言う気持ちが溢れて、今度は妻の腕に抱かれ、安らかに眠る子の金色の髪を撫でながら…思わず

「男になって見ないか?」

「いい加減になさいませ。」

「でもなぁ…マーガレット。侯爵家をあの、あのライアンのバカ息子エイブが継ぐ事になるんだぞ。あぁ…もうこの由緒あるウィンスレット侯爵家もここまでだ。百数十年つづいた武門の誉れ高きウィンスレット侯爵家も、ブクブク太って、剣どころか、馬にだって乗れるかどうかあやしいエイブが…侯爵になるんだぞ。もう、終わりだ。」

「旦那様!わかりました。そこまで仰るのでしたら、愛人の方を…」と言って涙ぐんだ妻に、慌ててウィンスレット侯爵は妻の頬にキスをすると

「すまない、マーガレット。出産を終えたばかりのお前に、私はなんてことを…ほんとうにすまない。確かに公爵家は大事だが、その為に私は、お前を泣かす事などは絶対できん。」

「旦那様…。」

ウィンスレット侯爵、あなたは良い男である。
妻を愛し、子供らを愛し、そして侯爵家を愛する良い男なのだ、だが、考えが些か…短慮。
いわゆる【短慮軽率】な御仁だから、後先考えずに行動するところが…あ、あれ?…ちょっと…ウィンスレット侯爵、あなたは今何を考えました?

(もう女の子が生まれたことは、ライアンに伝わっているはず、ならば…双子だったというのはどうだろう。女の子が生まれた後、男の子が生まれたと言うことに、そして少し小さく生まれたので、田舎で育てると言って…うんうん良い考えだ!)

やっぱり…


18歳になったら、騎士団に入隊しなければならないと言うのに…
そこまで考えは及ばなかったんですか?ウィンスレット侯爵。

さてさて、ウィンスレット侯爵の短慮から、生まれたばかりの赤ちゃんロザリー嬢は、その後一人二役を演じるトンでもない人生を歩む事になったわけで…

さてさて、複雑になってしまった赤い糸をどうやって、戻すことになるのやら…。




しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...