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やってやろうじゃん、騎士の誓い。
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お父様が連れてきた医者は…青い顔で…ぼそぼそとお父様になにか言って、部屋を出て行った。
「花影草ですか?」
私の声に、お父様は振り向くと頷き
「死をもたらすほどの毒性はないが、一時的に、体の運動機能を麻痺させ、血が止まりにくく、嘔吐感と…そして…」
「そして…なにより首筋の斑点。今のルシアン王子の容態を見ると…王家のみが、その栽培方法と、その毒の抽出方法を知る花影草しか、考えられない。」
「…その通りだ。」
「ルシアン王子は、王家の誰かから狙われていらっしゃるんですね。」
私の質問に、お父様は俯き
「お前はルシアン王子のあの髪や、瞳、そして肌の色をどう思う?」
「…仰られている意味がわかりません。お亡くなりになられた、ルシアン王子のご生母スミラ様の色を受け継いでおられることに…なにか?」
そう答えた私にお父様は
「お前が優しく、そして真っ直ぐ育った事を神に感謝したい。」
と言って微笑むと
「スミラ様は南の国ローランから、この北の国ブラチフォードに来られた方だ。南に住む人は、その気候に合う髪や、瞳、そして肌の色を、北に住む人は、その気候に合う髪や、瞳、そして肌の色を持つように、神はわれわれをお作りになられたと私は思っている。だから、その色合いに上下などないとな。だが…薄い色合いの髪や、瞳、そして肌の色を持つブラチフォード国こそが、もっとも神の姿に近い尊い人間だと…王太后や王妃様は思われているのだ。」
神の姿に近い?はぁ?
呆然としている私にお父様は
「私を初めとする一部の貴族は、気が弱い王太子様より、剣の腕もそしてその知力も、優れているルシアン王子が、次の王にと密かに願っていた。だが…ルシアン王子自体が次の王位を望まれておられない。自分は第二王子、王太子がいるのを差し置いて王位に付けば、混乱を招くだけだと仰られて…だが、王太后様や王妃様はそうは思ってはおられなかった。」
王太后様や王妃様が忌み嫌う色を持つ、ルシアン王子。
だが、剣の腕やそしてその知力が、お父様のような貴族を…庶民を魅了している。
それは…ルシアン王子がその身に纏う色も含めてだ。
その実情に、王太后様や王妃様は恐れておられるのだろう。
「三年前、国王陛下が寝込まれてから、王太后様や王妃様の動きは、眼に余るほどになったきた。
気の弱い王太子様では押さえ切れぬほどにな。」
「それで…私が…ルシアン王子付きに」
「あぁ、信じられる者をルシアン王子の側に、置いておきたいのだ。お前なら、その剣の腕も含めて信用できる。」
「でもお父様…ひとつわからないことが…ルシアン王子は90日後、婿入りをなされます。なのに…なぜ今、王太后や王妃様は、お命を狙おうとなされるのでしょうか?」
「この婚姻は、ルシアン王子自らお決めになられたのだ。私のようにルシアン王子を次の王に望む貴族の気持ちを変えるために…。なんの差し障りもなく、王太子に次の王位について戴くために…。自らこの国を去ろうとして、スミラ様の母国ローランに自分の結婚をご相談され、ローラン王は、ルシアン王子の願いをお聞きになり、自国の貴族の令嬢との婚姻を進められたのだ。だが…王太后や王妃様は、どうやら、その婚姻をルシアン王子が挙兵するつもりだと考えられたようだ。だから、その前に…と思われたのであろう。」
そっと、眠るルシアン王子へと視線を移した。
お優しいのだ、ルシアン王子は…。
でもその優しさが仇となったのかも知れない。
まさか、今回も…?
その優しさが…要因なんだろうか?
「お父様…」
「なんだ、ロザリー?」
「狙われている事をご存知なら、毒を盛られることもあるとお分かりだったと思うのですが…もしかして……」
でも、それ以上言えなくて、口籠もった私に、お父様は青い顔で…
「お前の思っている通りだ。ルシアン王子の優しいお気持ちを利用された。」
そう言って、息を吐き
「…ミランダ姫だ。」
「王太子様のご息女…。ルシアン王子にとっては姪にあたるミランダ姫ですか?」
「まだ3つのミランダ姫に、毒の入った飲み物を、とても珍しいお酒だから、ルシアン王子に差し上げたらと、王妃様はミランダ姫に仰られたと、配下のものが言っておった。ルシアン王子に懐いていらっしゃる、幼い姫を利用されるとは…ひどいことをなされるお方だ。おそらく、危ないと思っても、ルシアン王子は幼い姫の差し出す飲み物を、無下に断る事ができなかったのであろう。そして毒が回る頃に、殿下は襲われたのだ。」
「王太后様や王妃様の動きを、いち早く知る事はできないのですか?!そうすれば、防げていたかもしれないのに。」
お父様は頭を振りながら…
「侍女として、数人送り込んだのが…失敗だった。」
「ならば、お父様!」
「ロザリー?」
「お忘れですか?!私は女です。私なら王太后様や王妃様のお近くで、その動きを調べることができます。なにより…剣の腕があります。」
「だが、ルシアン王子の警護はどうするんだ?」
「ルシアン王子の警護は6人。そして二人一組の交代制です。だから、勤務がない時は侍女として、後宮に…。」
「だが、一人二役なんて…」
「18年やっております。」
「…ぁ、そうだったな。すまん…」
お父様の萎れた顔に、気にしていないと言うように、笑って
「毎日、後宮で働く事は無理ですが…その辺はお父様、お願い出来ますでしょうか。」
「あぁ…わかった。」
と言って、じっと私を見つめると…
「娘を危険な目に合わせようとする私は、父親としては最低だな。だが…だが、頼む。」
私は頭を横に振り、
「お父様、私はこのために18年、男と女の一人二役をやってきたのかもしれないと、今思っています。ルシアン王子を守れる私だけです。男と女を演じる事が出来る私だけ。」
私はもう一度、笑ってお父様を見た。
でも、お父様は顔を歪ませ…なにか言おうとしては…迷っているようだった。
それなら…私は、お父様がいるこの場で、ルシアン王子の前で…覚悟をみせるしかない。
ハイヒールを脱ぎ傍らに置くと、片膝をつき、眠るルシアン王子の手に自分の手を重ね…。
「謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となり、主の敵を討つ矛となり、騎士である身を忘れることなく、この命を主に…尽くすことを誓う。」
騎士の誓いを立てたからには、もう後戻りはできない。
命を懸けてルシアン王子を守る。
だから…
目の端に映ったハイヒールに【さよなら】と呟いた…。
「花影草ですか?」
私の声に、お父様は振り向くと頷き
「死をもたらすほどの毒性はないが、一時的に、体の運動機能を麻痺させ、血が止まりにくく、嘔吐感と…そして…」
「そして…なにより首筋の斑点。今のルシアン王子の容態を見ると…王家のみが、その栽培方法と、その毒の抽出方法を知る花影草しか、考えられない。」
「…その通りだ。」
「ルシアン王子は、王家の誰かから狙われていらっしゃるんですね。」
私の質問に、お父様は俯き
「お前はルシアン王子のあの髪や、瞳、そして肌の色をどう思う?」
「…仰られている意味がわかりません。お亡くなりになられた、ルシアン王子のご生母スミラ様の色を受け継いでおられることに…なにか?」
そう答えた私にお父様は
「お前が優しく、そして真っ直ぐ育った事を神に感謝したい。」
と言って微笑むと
「スミラ様は南の国ローランから、この北の国ブラチフォードに来られた方だ。南に住む人は、その気候に合う髪や、瞳、そして肌の色を、北に住む人は、その気候に合う髪や、瞳、そして肌の色を持つように、神はわれわれをお作りになられたと私は思っている。だから、その色合いに上下などないとな。だが…薄い色合いの髪や、瞳、そして肌の色を持つブラチフォード国こそが、もっとも神の姿に近い尊い人間だと…王太后や王妃様は思われているのだ。」
神の姿に近い?はぁ?
呆然としている私にお父様は
「私を初めとする一部の貴族は、気が弱い王太子様より、剣の腕もそしてその知力も、優れているルシアン王子が、次の王にと密かに願っていた。だが…ルシアン王子自体が次の王位を望まれておられない。自分は第二王子、王太子がいるのを差し置いて王位に付けば、混乱を招くだけだと仰られて…だが、王太后様や王妃様はそうは思ってはおられなかった。」
王太后様や王妃様が忌み嫌う色を持つ、ルシアン王子。
だが、剣の腕やそしてその知力が、お父様のような貴族を…庶民を魅了している。
それは…ルシアン王子がその身に纏う色も含めてだ。
その実情に、王太后様や王妃様は恐れておられるのだろう。
「三年前、国王陛下が寝込まれてから、王太后様や王妃様の動きは、眼に余るほどになったきた。
気の弱い王太子様では押さえ切れぬほどにな。」
「それで…私が…ルシアン王子付きに」
「あぁ、信じられる者をルシアン王子の側に、置いておきたいのだ。お前なら、その剣の腕も含めて信用できる。」
「でもお父様…ひとつわからないことが…ルシアン王子は90日後、婿入りをなされます。なのに…なぜ今、王太后や王妃様は、お命を狙おうとなされるのでしょうか?」
「この婚姻は、ルシアン王子自らお決めになられたのだ。私のようにルシアン王子を次の王に望む貴族の気持ちを変えるために…。なんの差し障りもなく、王太子に次の王位について戴くために…。自らこの国を去ろうとして、スミラ様の母国ローランに自分の結婚をご相談され、ローラン王は、ルシアン王子の願いをお聞きになり、自国の貴族の令嬢との婚姻を進められたのだ。だが…王太后や王妃様は、どうやら、その婚姻をルシアン王子が挙兵するつもりだと考えられたようだ。だから、その前に…と思われたのであろう。」
そっと、眠るルシアン王子へと視線を移した。
お優しいのだ、ルシアン王子は…。
でもその優しさが仇となったのかも知れない。
まさか、今回も…?
その優しさが…要因なんだろうか?
「お父様…」
「なんだ、ロザリー?」
「狙われている事をご存知なら、毒を盛られることもあるとお分かりだったと思うのですが…もしかして……」
でも、それ以上言えなくて、口籠もった私に、お父様は青い顔で…
「お前の思っている通りだ。ルシアン王子の優しいお気持ちを利用された。」
そう言って、息を吐き
「…ミランダ姫だ。」
「王太子様のご息女…。ルシアン王子にとっては姪にあたるミランダ姫ですか?」
「まだ3つのミランダ姫に、毒の入った飲み物を、とても珍しいお酒だから、ルシアン王子に差し上げたらと、王妃様はミランダ姫に仰られたと、配下のものが言っておった。ルシアン王子に懐いていらっしゃる、幼い姫を利用されるとは…ひどいことをなされるお方だ。おそらく、危ないと思っても、ルシアン王子は幼い姫の差し出す飲み物を、無下に断る事ができなかったのであろう。そして毒が回る頃に、殿下は襲われたのだ。」
「王太后様や王妃様の動きを、いち早く知る事はできないのですか?!そうすれば、防げていたかもしれないのに。」
お父様は頭を振りながら…
「侍女として、数人送り込んだのが…失敗だった。」
「ならば、お父様!」
「ロザリー?」
「お忘れですか?!私は女です。私なら王太后様や王妃様のお近くで、その動きを調べることができます。なにより…剣の腕があります。」
「だが、ルシアン王子の警護はどうするんだ?」
「ルシアン王子の警護は6人。そして二人一組の交代制です。だから、勤務がない時は侍女として、後宮に…。」
「だが、一人二役なんて…」
「18年やっております。」
「…ぁ、そうだったな。すまん…」
お父様の萎れた顔に、気にしていないと言うように、笑って
「毎日、後宮で働く事は無理ですが…その辺はお父様、お願い出来ますでしょうか。」
「あぁ…わかった。」
と言って、じっと私を見つめると…
「娘を危険な目に合わせようとする私は、父親としては最低だな。だが…だが、頼む。」
私は頭を横に振り、
「お父様、私はこのために18年、男と女の一人二役をやってきたのかもしれないと、今思っています。ルシアン王子を守れる私だけです。男と女を演じる事が出来る私だけ。」
私はもう一度、笑ってお父様を見た。
でも、お父様は顔を歪ませ…なにか言おうとしては…迷っているようだった。
それなら…私は、お父様がいるこの場で、ルシアン王子の前で…覚悟をみせるしかない。
ハイヒールを脱ぎ傍らに置くと、片膝をつき、眠るルシアン王子の手に自分の手を重ね…。
「謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となり、主の敵を討つ矛となり、騎士である身を忘れることなく、この命を主に…尽くすことを誓う。」
騎士の誓いを立てたからには、もう後戻りはできない。
命を懸けてルシアン王子を守る。
だから…
目の端に映ったハイヒールに【さよなら】と呟いた…。
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