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双子の気配。

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それは…突然背中に走った。


私はゆっくりと振り返りながら、ミランダ姫を私の後ろに隠すと、私の背後に現れた人物は、驚いたように…いや面白そうに少し弾んだような声で私を呼んだ。

「お前がロザリーか…。」

その声の持ち主を私の後ろから見たミランダ姫は、真っ青な顔で慌てて私の後ろに隠れ、震えるような小さな声で私を呼ぶと、私の腰にしがみ付かれた。

(カルヴィン・アストン)

心の中でその人物の名を呼ぶと、私は軽く頭を下げ
「はい、ミランダ姫の侍女をしております。ロザリーでございますが、なにか私に御用でしょうか?」

「ふ~ん、その身のこなし…やれそうだな。俺の気配を感じ、自ら主君の盾になるつもりだったか。」

「それほどでも…ございませんが、少々は…。」

「少々?」

「はい。援軍が来る間ぐらいは、どうにかお相手できるくらいの腕で、ございますから、まだまだでございます。」

「おいおい、謙遜するな。かなりだと思うが…」

「とんでもございません。」

カルヴィン・アストンは、クックッと笑うと
「そんなことを言ったら、お前の従兄はどうする?ひどいぜ。そう言えば…お前の弟とも会ったが…」

そう言って、舐めるように私を見ると
「双子を見るのは、初めてだが…こんなに似ているものなのか?」

「他の双子の方は存じませんが、私と弟はよく似ているとは言われます。」

カルヴィン・アストンは、軽く頭を横に振り
「顔ではない。その細い体から感じる気配はまったく同じだと言っているんだ。」

気配…

私もカルヴィン・アストンの気配を背中に感じたから、ミランダ姫を隠したんだけど…。
あれほどの腕だ、私に出来ることは…この男もできるはず。

マズい、気づかれるかもしれない。

どうする?
どうやってこの場を離れたらいいんだろうか?

焦る私の気持ちがわかっているのだろう、カルヴィン・アストンがうっすら笑みを浮かべ
「なぁ…剣を交えないか?」

「どういう意味でしょうか?あなた様と剣を交える理由はありませんが?」

「相手をしろよ。見たいんだ。お前の腕を…いや、お前とあのシリルと、どう違うのか見たい。双子は気配も、剣さばきも同じなのか見てみたい。」

「私はほんの少し剣が扱えると言う程度でございます。そんな私が騎士の方となんて…お相手などできるはずはありません。どうぞご容赦を…」

「どうしてもか?」

「はい。」

「ならば…相手をできるようにしてやろうか?」そう言って、剣を抜いた。


この男…おかしい。
ただの人斬りだ。
強い相手を求めて、血を求めて、剣を振る…化け物。

そんな相手を前にして、私の手元にあるのは、短剣だけだ。剣さえあれば…いや、剣であっても…人を殺めることをなんとも思わない男に、勝てる自信などない。

自分の荒い息遣いが聞こえるようだった…その時


「アストン。俺の警護を離れて、何をしている。」
低い声が投げかけられた。

「私の娘と、剣を交える前に…父親である私とどうであろうか。」

「侯爵、待て。主君の断りなしに、職務を離れるような者には、俺が自ら、騎士とはなんであるか、教えないとな。アストン…俺とはどうだ。剣を交えるのは。」

アストンは、顔を歪め
「…もし訳ありません。」と言って跪いた。

そんなアストンを横目で見て、小さく息を吐きながら
「…殿下、お父様…。」と、ようやく言葉を発すると、ルシアン王子と眼があった。私をじっと見られ…。

「ロザリー…。」
と言われると、視線を外すことなく、ゆっくりと私に近寄って来られる。

一瞬…アストンが言った言葉が頭を過ぎった。

『顔ではない。その細い体から感じる気配はまったく同じだと言っているんだ。』

今まで、シリルとロザリーの気配なんて考えた事もなかった、だか気配を読めるほどの腕を持つ人なら…アストンがそうであるように

気づかれるかも知れない。

どうしよう。

毒で、意識がはっきりしていなかった時とは違う。
遥かに私より強いルシアン王子だ、そんな方が私の気配を読み違えるとは思えない。

おそらく、シリルだった時の私と同じだとわかっていらっしゃる。
それを、ルシアン王子はどう思われるだろうか。

双子だから似ていると…。
あるいは…同一人物だと…。

私はだだその場に跪き、眼を瞑った。
18年間付いていた嘘が、暴かれるのだろうか。




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