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本気が見てみたい。
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今日はシリルとして、ルシアン王子の警護に入るのに、昨日の事が頭を過ぎり、とうとう眠れないまま、夜明けを迎えてしまい……
朝の柔らかい日差しでさえ、今は目が痛い。
ちゃんと頭の中で、整理できていたはずだったのに…ベットに横になるといろんな事が頭に浮かんでしまい、そのうちいったいどんな顔をして、ルシアン王子の前に行ったらいいのかわからなくなってしまった。
足元にあった小石をつま先で転がしながら
「大丈夫、私は大丈夫!」
…と大きな声で言ったものの…言葉とは裏腹に、足は止まったまま一歩も進めない。
下を向いていた顔をゆっくりと上げると、ルシアン王子の部屋が見えた。
『…俺は必ず、この国を守る。』
あぁ…ダメだなぁ…。
なにを動揺しているの。
まだ、これからだと言うのに…今はそう、ルシアン王子の仰るとおり、
この国を守る事を…ルシアン王子やミランダ姫を守る事を…考えるべきなのに。
あの時、ルシアン王子との間に流れた風は…
女の姿の私との間にあったもの。
今の私はシリル。
ルシアン王子とミランダ姫を守る騎士。
どんな顔をして会おうが…関係ない。その動揺は必ずルシアン王子に気づかれる。
それは…
シリルとロザリーは同一人物とバレるということに繋がってゆく。
しっかりしろ!私!
大きく息を吸ってもう一度、「大丈夫!」と叫んで、小石を蹴り上げた。
小石は青い空に放物線を描き、
綺麗に刈り込まれたイヌツゲの垣根を越え…
淡いピンクの花をつけたチェリーツリーを超え…
ガシャ~ン!
と見事な音と立て、ルシアン王子の部屋へと飛び込んでいった。
「誰だ!ルシアン殿下のお部屋に向かって、石を投げたのは!」
その怒鳴り声に、思わず両膝を地面につくと、四つん這いになって植え込みに移動し
……口にした。
「…嘘…」
頭を振りながら、植え込みの隙間に隠れるように、両膝を抱えて体を小さくして……もう一度
「嘘~」
ルシアン王子の部屋から、聞こえる怒鳴り声に、抱え込んだ両膝に頭をつけ
「うぅっ~、わかっています。騎士なのに、窓ガラスを割って逃げるなんて最低だって…でも、出て行けないよ。こんな気持ちのままで行ったら、ボロがでそうなんだもん。だけど窓ガラスを割って逃げるとは…トホホ…カッコ悪。」
ルシアン王子と顔を合わせづらいからと、逃げてるなんて…私はなにやってんだか…
はぁ~と大きな溜め息を吐き出した時…
私の頭に温もりを感じ、そして……聞こえた。
「シリル。おまえはいったいなにをしている?」
ルシアン王子…
声に出ない。
私はあの時のように、赤い瞳に魅入られたように見つめると
赤い瞳の主君は、額に薄っすらと掻いた汗を、私の頭に置いていた左手を動かし拭うと、右手に持った剣を鞘に収められた。
「どうした?シリル?」
「ぁ…ぁ…今、そう今、殿下のお部屋に行く所だったんです!本日は私が殿下の警護に入るので…」
「ふ~ん。俺の警護をするのに…なぜこんなところにいるのだ?」
「いや…そ、それは…。」
「そう言えば…今、バートが叫んでいたな。」
「うっ…。」
「誰だ!ルシアン殿下のお部屋に向かって、石を投げたのは!…と」
「そ、そうみたいでしたね。」
「おまえか。」
「…そ、そうみたいです。」
「なにをやってるんだ?!」
「いや…その、小石をですね。コツンと蹴ったら…あのガシャンだったんです。す、すみません!!」
「…あの窓ガラスは…青味がかっていたんだ。」
「そうだったんですか…」
「…俺が生まれた時に、母と陛下が西の国から、わざわざ取り寄せたと聞いた。」
「あぁ…そんな貴重な…それも思い出が詰まった…も、もし訳ありません!」
「フッ…あはは…」
「殿下?!」
「良いさ。気にするな。それより、俺の剣の相手を頼む。どうせ…バートが、仁王立ちしている俺の部屋には、まだ行けないだろう?」
剣の相手…
ルシアン王子の…あの剣捌きを直に見れる?!
いや、それいじょうだ。剣を交えるなんて…
「あの毒のせいで、ずっと横になっていたせいか、体が鈍っているんだ。シリル、剣の相手をしてくれるか?」
「いいんですか?!私で!」
「おまえだからだ。」
「わたしだから…?」
「エイブとやっていた遊びのようなものではない。お前の本気を見てみたいんだ。」
ゴクンと息を呑んだ。
本気でと言われた…と言うことは…ルシアン王子の本気も見れるということ。
「俺に本気で掛かって来い。」
「本気…」
「ビビるなよ。」
そう言って、ニヤリと笑われると…剣を肩に担がれ
「やるか?!」
「御意!」
そう言って、立ち上がった私の顔を見たルシアン王子は
「その面構え…肝が据わった良い表情だ。来い!シリル!」
「私は今や師でもある父より、剣の腕は数段上だと思っております。殿下…手加減は必要ですか?」
「まさか、俺に勝つつもりか?」
「御意。」
「楽しみだ。」
悩むことなどなかった。
今ルシアン王子の前にいる私は…ロザリーではない。
でも…
ホッとしたと同時に、少し寂しいと思ってしまい、胸が…小さく疼いた。
立ち止まって胸を押さえていた私に、ルシアン王子が振り返って
「どうした?」
「…いえ、武者震いが抑え切れなくて」
「口では負けそうだが…剣ではそうはいかないぞ。」
そう言って笑われたルシアン王子に、私も笑って返した。
朝の柔らかい日差しでさえ、今は目が痛い。
ちゃんと頭の中で、整理できていたはずだったのに…ベットに横になるといろんな事が頭に浮かんでしまい、そのうちいったいどんな顔をして、ルシアン王子の前に行ったらいいのかわからなくなってしまった。
足元にあった小石をつま先で転がしながら
「大丈夫、私は大丈夫!」
…と大きな声で言ったものの…言葉とは裏腹に、足は止まったまま一歩も進めない。
下を向いていた顔をゆっくりと上げると、ルシアン王子の部屋が見えた。
『…俺は必ず、この国を守る。』
あぁ…ダメだなぁ…。
なにを動揺しているの。
まだ、これからだと言うのに…今はそう、ルシアン王子の仰るとおり、
この国を守る事を…ルシアン王子やミランダ姫を守る事を…考えるべきなのに。
あの時、ルシアン王子との間に流れた風は…
女の姿の私との間にあったもの。
今の私はシリル。
ルシアン王子とミランダ姫を守る騎士。
どんな顔をして会おうが…関係ない。その動揺は必ずルシアン王子に気づかれる。
それは…
シリルとロザリーは同一人物とバレるということに繋がってゆく。
しっかりしろ!私!
大きく息を吸ってもう一度、「大丈夫!」と叫んで、小石を蹴り上げた。
小石は青い空に放物線を描き、
綺麗に刈り込まれたイヌツゲの垣根を越え…
淡いピンクの花をつけたチェリーツリーを超え…
ガシャ~ン!
と見事な音と立て、ルシアン王子の部屋へと飛び込んでいった。
「誰だ!ルシアン殿下のお部屋に向かって、石を投げたのは!」
その怒鳴り声に、思わず両膝を地面につくと、四つん這いになって植え込みに移動し
……口にした。
「…嘘…」
頭を振りながら、植え込みの隙間に隠れるように、両膝を抱えて体を小さくして……もう一度
「嘘~」
ルシアン王子の部屋から、聞こえる怒鳴り声に、抱え込んだ両膝に頭をつけ
「うぅっ~、わかっています。騎士なのに、窓ガラスを割って逃げるなんて最低だって…でも、出て行けないよ。こんな気持ちのままで行ったら、ボロがでそうなんだもん。だけど窓ガラスを割って逃げるとは…トホホ…カッコ悪。」
ルシアン王子と顔を合わせづらいからと、逃げてるなんて…私はなにやってんだか…
はぁ~と大きな溜め息を吐き出した時…
私の頭に温もりを感じ、そして……聞こえた。
「シリル。おまえはいったいなにをしている?」
ルシアン王子…
声に出ない。
私はあの時のように、赤い瞳に魅入られたように見つめると
赤い瞳の主君は、額に薄っすらと掻いた汗を、私の頭に置いていた左手を動かし拭うと、右手に持った剣を鞘に収められた。
「どうした?シリル?」
「ぁ…ぁ…今、そう今、殿下のお部屋に行く所だったんです!本日は私が殿下の警護に入るので…」
「ふ~ん。俺の警護をするのに…なぜこんなところにいるのだ?」
「いや…そ、それは…。」
「そう言えば…今、バートが叫んでいたな。」
「うっ…。」
「誰だ!ルシアン殿下のお部屋に向かって、石を投げたのは!…と」
「そ、そうみたいでしたね。」
「おまえか。」
「…そ、そうみたいです。」
「なにをやってるんだ?!」
「いや…その、小石をですね。コツンと蹴ったら…あのガシャンだったんです。す、すみません!!」
「…あの窓ガラスは…青味がかっていたんだ。」
「そうだったんですか…」
「…俺が生まれた時に、母と陛下が西の国から、わざわざ取り寄せたと聞いた。」
「あぁ…そんな貴重な…それも思い出が詰まった…も、もし訳ありません!」
「フッ…あはは…」
「殿下?!」
「良いさ。気にするな。それより、俺の剣の相手を頼む。どうせ…バートが、仁王立ちしている俺の部屋には、まだ行けないだろう?」
剣の相手…
ルシアン王子の…あの剣捌きを直に見れる?!
いや、それいじょうだ。剣を交えるなんて…
「あの毒のせいで、ずっと横になっていたせいか、体が鈍っているんだ。シリル、剣の相手をしてくれるか?」
「いいんですか?!私で!」
「おまえだからだ。」
「わたしだから…?」
「エイブとやっていた遊びのようなものではない。お前の本気を見てみたいんだ。」
ゴクンと息を呑んだ。
本気でと言われた…と言うことは…ルシアン王子の本気も見れるということ。
「俺に本気で掛かって来い。」
「本気…」
「ビビるなよ。」
そう言って、ニヤリと笑われると…剣を肩に担がれ
「やるか?!」
「御意!」
そう言って、立ち上がった私の顔を見たルシアン王子は
「その面構え…肝が据わった良い表情だ。来い!シリル!」
「私は今や師でもある父より、剣の腕は数段上だと思っております。殿下…手加減は必要ですか?」
「まさか、俺に勝つつもりか?」
「御意。」
「楽しみだ。」
悩むことなどなかった。
今ルシアン王子の前にいる私は…ロザリーではない。
でも…
ホッとしたと同時に、少し寂しいと思ってしまい、胸が…小さく疼いた。
立ち止まって胸を押さえていた私に、ルシアン王子が振り返って
「どうした?」
「…いえ、武者震いが抑え切れなくて」
「口では負けそうだが…剣ではそうはいかないぞ。」
そう言って笑われたルシアン王子に、私も笑って返した。
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