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【閑話】暗躍する者たち⑦

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「…で、どうするんですか。

そう呼ばれたローラン王は、片方の口角を少し上げ
「この城の者達に婚約者だと紹介したいと言われて、有頂天になったあの女をどうやって止める。止めるようなことをしたら、あの女に殺されるぞ。」

「ふぅ~まったく、どこがいいのかね。あの王子様のどこが…。自分にまったく惚れていない男を追いかけて、悪魔にその魂を売るなんて…俺には分から…な…い…。」


語尾が掠れたアストンの声に、ローラン王はニヤリと笑うと
「アストン、今何を思った?」

「…別に…何も思ってなどいませんよ。」

ローラン王は今度は大きな声で笑いながら
「そうか。」と一言いって、アストンの胸に手を置き

「心臓の規則正しい音は良いものだなぁ。」

アストンは意外なローラン王の言葉に、目を見張るとなんとも言えない笑みを浮かべたが、その笑みを見たローラン王は眼を細め
「なぁアストン、お前は…どうして不死身の身体を手に入れようとはしなかったんだ。不死身の体を手に入れれば、どんな相手と戦っても負けはないぞ。」

「俺は命の駆け引きが好きなんですよ。剣一本で相手のすべてを奪う…いやヘタをすると奪われるかもしれない、そんな駆け引きが…。それが不死身の体じゃ味わえない。」

そう言って、アストンは腰に下げている剣に手を添え
「命に限りがあるほうが、人は熱く生きられる。」

「まぁ一理あるな。だが…報われない恋はどうしたらいいのだ。熱くなって行く心に、どうやってその思いは虚しいと納得させたらいいのだ。」

その言葉に、アストンは一瞬顔を歪ませたが、ローランはクスリと笑うと
「お前があのロザリーに惹かれているのは、わかっておる。報われない思いをどう納得させて、惚れた女に剣を向けるのか…お前に教えてもらおうか。」

アストンは…フンと鼻で笑い、
「確かに…俺はロザリーに興味はありますが、恋とか愛とか、そんな不確かものなど信じちゃいない。ただ俺は、あいつと剣を交えると思うだけで、体が痺れるんですよ。だから誰にもあいつは殺させない。この痺れるほどの快感は誰にもやりたくない。」

「お前も…かなりだな。」

「王様こそ…実の妹とは知らなかったとはいえ、そこまで入れ込むなんざ…かなりですよ。」

そう言ったアストンには、ローラン王が微かに笑っていたように見えた。

「でも、なぜロザリーを殺したいんです。最初の計画じゃ、チビ姫だけの予定だったじゃないですか?さすがに主君を守る騎士のあいつとは遣りあうことになるだろうと思ってはいましたが、でも…どうしてそこまであいつを…?」

ローラン王は、突然アストンに背を向けたかと思うと、扉に向かって歩きながら
「人の心を色として見る事が出来るミランダ姫を…殺すことは今も変わらん。だが、その前に殺らねばならない者が現れた。何者かがこの城を浄化していると、10年ほど前から感じてはいたが、大したことはなかった。だがそれが急に強くなったのだ。なにかが、その者の浄化の力を強くしたのかはわからん。だから俺は確かめにきた、誰が浄化しているのか、なぜその力が強くなったのか…」

「…それをやっているのが…ロザリーだと?!」

「あぁ…今回、ロザリーに会って確信した。間違いないロザリーだとな。その力は日々強くなって来ている。このままだと俺とあの女が掛けていた呪が…消え、ブラチフォード国王が目覚めてしまう。だからその前に殺してもらいたい。」

呆然とするアストンに、微かに笑みを浮かべると
「私はそろそろ夜会に行く。」

「あのチビ姫が…」

「あぁ…いるだろうな。」

「いいんですか?!」

「力の差を見せてやろうと思う。いくら人の心を見る力があっても、私やあの修道女には手も足も出せないことをな。」

「……でも王様も怖いんでしょう。ロザリーが…。ヘタしたら、浄化されるかもしれませんしね。」

「お前も言うな…。だが、私よりもあの修道女がロザリーを怖がるだろうな。まさに…天敵現るだからな。」

「天敵?」

「運命とは、恐ろしいものよのう。数百年前に命をかけて、引き裂いた男女が、また同じ時代に生まれ、そしてめぐり合い…恋をする。まさしく神の領域だな、それに気付いた時、あの女はどう動くかな。」

「修道女は知らないですか?」

「あぁ…言ってない。」

「何故、言ってやらないですか?」

「…つまらんだろう?」

「えっ?」

「見てみたのだよ。恋という物はどんなに、美しくて、どんなに残酷な事をするのか。」

そう言って、部屋を出て行ったローラン王の背中をアストンは黙ってみていたが、ガタンと扉が閉まった音にフッと息を吐き

「ローラン王は、自分がどんなに愚かを事をしているのかわかっているから、その結末を見たいのかも知れんな。恋の終わり方を見たいのかも…。まぁ…どうでもいいさ。俺は…ローラン王のようにはならないから…ロザリーを切る事に躊躇など……しない。するものか…。」


アストンは窓から見える灯りと、流れて来たバイオリンの音に、声をあげて笑うと部屋の扉に手をかけた。


一同が揃う夜会が始まろうとしていた。
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