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過去に縛られる人
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私の心と体を緩やかに目覚めさせるようにと、温かい手が私の頭を撫でる、その心地よさにゆっくりと私の意識は戻ってきた。
「気がついた?」
「江口さん…ここは?」
「病院だよ。怪我はないみたいだったけど、念のために。」
「すみません。」
「何で、謝るの?千佳ちゃんが悪いわけじゃぁないじゃん。 悪いのはあのバイクだ!」
「すみません…ぁ…。」
そんな千佳に、困ったように黙り込んだ江口の代わりに「君が謝るのは変だよ。」と他の人の声が聞こえた。
「黒田主任?」
江口は、大きな溜め息を吐きながら
「同期会に行けないと連絡したら、海斗が来ちゃったんだよ。」
「おい、湊。余計なことを言わず、篠崎課長代理に野村さんが気がついたといって来い。下のロビーで電話されているから。」
「えっ?!篠崎課長代理も来られてるんですか。すみません。」
「千佳ちゃん、また謝ってるよ。」
「湊、早く行って来い」
「はいはい、主任」と江口はふざけた様子で病室を出て行き、し~んとした病室は、なんだか気まずかった。どうしようと思ったときだった。
「無理することはないから。」
「えっ?」
「人と接するの苦手なんだろう、ましてや俺とはほとんど仕事以外で、話したことないからなぁ…悪かった。俺が篠崎課長代理のところに行けばよかったよなぁ。」
下唇を噛んでいる姿は、大きな体の黒田主任が、妙に可愛く見えた。 大きくて恐そうなんだけど、仕草が可愛い。やっぱり黒い大型犬みたいだ。
そう思ったら自然と言葉が出てきた。
「黒田主任も私と同じで、人と接するの苦手なんですね。だから私のことがわかるんですね。そんな黒田主任が一緒にいてくださったら安心です。黒田主任で良かったです。」
そう言った私を呆然と見ていた黒田主任は、あっと小さな声を出すと
「と、とにかくもう少し、寝てろ。」と言いながら背を向けた。
意識を失うほど怖かったのに、今は真っ赤な顔で、早口で話す黒田主任の態度がおかしくて、口元が緩んでくるのがわかった。 笑い声が出そうだったので急いで掛け布団をかぶり手で口を押さえた。
そんな私の様子に気がついたのか、大きな手がコツンと頭を弾いて行った。
それは、同じだった…。
高校3年の時のように、泣いていた私の頭をぽんぽんと軽く叩いた先生と…同じだった。
それは…不器用だけどあたたかい優しさだった。この人といると落ち着く。きっと黒田さんは、繕うことができない人なんだ、だから嘘がない…だから単純に信じられるのかもしれない。
無口で一見恐そうに見える黒田 海斗が、 本当は無骨だけど優しい男だと気づいた千佳だった。
だが、気づかなかったこともあった。
それは…。黒田 海斗と始めて会ったのは職場ではなく、別の場所…だったということを。
そして…。意識を失う前に聞いた
「ち…千佳ちゃん…犯 人 が… 犯 人 が も ど っ て き た。」と言った牧野 凛の言葉が真実だったことに…。
そう…犯人は、千佳に会いに戻ってきた。
22年前のあの日から…戻ってきた。
「気がついた?」
「江口さん…ここは?」
「病院だよ。怪我はないみたいだったけど、念のために。」
「すみません。」
「何で、謝るの?千佳ちゃんが悪いわけじゃぁないじゃん。 悪いのはあのバイクだ!」
「すみません…ぁ…。」
そんな千佳に、困ったように黙り込んだ江口の代わりに「君が謝るのは変だよ。」と他の人の声が聞こえた。
「黒田主任?」
江口は、大きな溜め息を吐きながら
「同期会に行けないと連絡したら、海斗が来ちゃったんだよ。」
「おい、湊。余計なことを言わず、篠崎課長代理に野村さんが気がついたといって来い。下のロビーで電話されているから。」
「えっ?!篠崎課長代理も来られてるんですか。すみません。」
「千佳ちゃん、また謝ってるよ。」
「湊、早く行って来い」
「はいはい、主任」と江口はふざけた様子で病室を出て行き、し~んとした病室は、なんだか気まずかった。どうしようと思ったときだった。
「無理することはないから。」
「えっ?」
「人と接するの苦手なんだろう、ましてや俺とはほとんど仕事以外で、話したことないからなぁ…悪かった。俺が篠崎課長代理のところに行けばよかったよなぁ。」
下唇を噛んでいる姿は、大きな体の黒田主任が、妙に可愛く見えた。 大きくて恐そうなんだけど、仕草が可愛い。やっぱり黒い大型犬みたいだ。
そう思ったら自然と言葉が出てきた。
「黒田主任も私と同じで、人と接するの苦手なんですね。だから私のことがわかるんですね。そんな黒田主任が一緒にいてくださったら安心です。黒田主任で良かったです。」
そう言った私を呆然と見ていた黒田主任は、あっと小さな声を出すと
「と、とにかくもう少し、寝てろ。」と言いながら背を向けた。
意識を失うほど怖かったのに、今は真っ赤な顔で、早口で話す黒田主任の態度がおかしくて、口元が緩んでくるのがわかった。 笑い声が出そうだったので急いで掛け布団をかぶり手で口を押さえた。
そんな私の様子に気がついたのか、大きな手がコツンと頭を弾いて行った。
それは、同じだった…。
高校3年の時のように、泣いていた私の頭をぽんぽんと軽く叩いた先生と…同じだった。
それは…不器用だけどあたたかい優しさだった。この人といると落ち着く。きっと黒田さんは、繕うことができない人なんだ、だから嘘がない…だから単純に信じられるのかもしれない。
無口で一見恐そうに見える黒田 海斗が、 本当は無骨だけど優しい男だと気づいた千佳だった。
だが、気づかなかったこともあった。
それは…。黒田 海斗と始めて会ったのは職場ではなく、別の場所…だったということを。
そして…。意識を失う前に聞いた
「ち…千佳ちゃん…犯 人 が… 犯 人 が も ど っ て き た。」と言った牧野 凛の言葉が真実だったことに…。
そう…犯人は、千佳に会いに戻ってきた。
22年前のあの日から…戻ってきた。
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