紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
69 / 78

68

しおりを挟む
アークフリードは、エリザベスの紫の髪を触りながら…ポツリと言った。

「13年前、この場所はエリザベス…君と別れた場所だろうか?」


エリザベスは、アークフリードが覚えていたことに驚いた。




この部屋は一見、神殿のような感じで建てられていたが、ここは王一族が何らかの事情で、王宮を秘密裏に出るためにエリザベスの6代前の王の時代に作られた部屋だったが、今までにここから外へと脱出した王はいなかった為か、この部屋の本当の意味での役割を知る者はほとんどいなかった。

だからマールバラ王は、コンウォール男爵にいざと言うときには、この部屋でリリスとエリザベス、そしてアークを王宮からの脱出を頼んでいたのだが…。マールバラ王の願いは叶わなかった。

マールバラ王とリリス、アークの異変を感じたエリザベスは、コンウォールをこの部屋に残して飛んだのだ。
だが、両親の気配は消え、そしてアークはせっかくマールバラ王が塞いでくれた傷が開き、ぐったりとしていた。13年前、エリザベスはそんなアークフリードにもう一度治癒魔法をかけ、コンウォールにアークを助け出す手配を頼む為に、この部屋に魔法で移動したのだった。





本来の紫の髪と瞳でもなく、対外的に見せていたブロンドの髪と青い瞳でもない、赤い髪と緑の瞳で現れたエリザベスを見て、あの時コンウォール男爵はエリザベスが何をしたいのかすべてわかったようだった。

『アークフリード様とご一緒には行かれないのですね。わかりました。アークフリード様は、私の命に代えましても、必ず…ノーフォーク王国にお連れ致します。』

ー 私は、あの時…マールバラ王国のエリザベスは行方不明…いや死んだと思われたかった。


そうなるとアークフリードとは一緒にいられない。


アークフリードの顔を両手で挟み、

『アーク…我儘ばかり言って困らせてばかりの私を、いつも笑って許してくれてたわね。でも今度ばかりは、叔母様を嵌めるために《王華》をあなたの中に残し、囮にした事を…あなたは許してはくれるはずは…ないわね…きっと。でもアーク。 あなたにひどい事をする私だけど、本当に、本当に、あなたが大好きだった。』



エリザベスは、アークフリードの唇に始めて触れた。ファーストキスだった。



アークフリードが覚えているのは…。
エリザベスの最後の言葉…大好きだったと言う涙声と拙いキス。
そして、あの女神像の中に、消えていく赤い髪のエリザベスの姿だった。

ずっと、夢だと思っていた。だがコンウォール男爵からの知らせで、この隠し部屋の存在を知り進入し…この女神像を見て夢でなかったことを知った。







アークフリードの言葉に紫色の瞳を揺らしながら、エリザベスはアークフリードに言った。

「あの時、意識は戻っていたの…?」

「半分ぐらいは朦朧としていたよ。でも君が大好きと言って熱烈なキスをしてくれたところは、はっきり覚えている」と青い瞳が悪戯ぽく輝いた。

「ぁ、アーク!!!熱烈じゃないわ。ちょっと触れただけよ。だって初めてだったのよ。ファーストキスだったんだもん、そんな…熱烈なんてできないわ。」


エリザベスのその言葉に…アークフリードはバツが悪そうに、「…ファーストキスじゃない…」とボソッと呟くように言った。


「えっ?」

「君が!君が5歳の誕生日の時に、そのペンダントをプレゼントしたときだ。はしゃぎすぎて、眠ってしまった君に…」

「眠った私に?」

「…俺はキスをしたんだ……だからファーストキスじゃない。」

「えっ?!ええええっ~!!!」」




扉の外までも聞こえるふたりの会話に、聞いてられないと真っ赤な顔でライドはため息をついた。

ーこんな非常時になにやってんだよ!!これはもう止めないと、真っ赤な顔の両頬を叩き部屋に入ろうとしたときだ。 体が突然震えた…これは尋常じゃない殺気だと感じ…ゆっくりを剣に手を伸ばせば…。

「アーガイル伯爵。その手を剣から遠ざけては貰えなかなぁ。」

背後から聞こえた声は、やっぱり…あの人か…「バクルー王…。」搾り出すような声でライド言った。


「おや、私を声だけだわかってもらえるとは…。」

ライドは背中に固い剣先を感じ、額から汗が流れるのを感じた。


「どうしてここが…」

「この王宮を再建した折になぁ、この部屋を見つけた。そして、この男…」と言って蹴り上げた。

男の呻く声が聞こえた…バクルー王が蹴った男は両腕を縛られ、足に怪我を負ったフリールだった。

「この男が教えてくれた。そこの馬鹿なレジスタンス活動家が、エリザベスを連れて王宮の奥に行ったと。」


そう言って、今度は腰を抜かし…ヒィヒィと泣くジェラルトを蹴った。

「…嫌だと言ったら」

「困ったなぁ、おまえを切ればまたエリザベスに恨まれるだろうなぁ、う~ん…じゃぁこの男を憂さ晴らしに切る。」と言って躊躇なくジェイドの顔を切った。


うぎゃぁ!!と叫び声を上げ、ジェイドが顔を抑えた。どうやら…眼までやられたのだろう…。狂ったように、床を転げまわっている。


ライドは、こんな男を助ける気はなかったが、目の前で狂ったように、床を転げまわる姿は居た堪れなかった。ライドは、アークフリードがペンダントをエリザベス様に渡したことは、外に聞こえる会話でわかっていた。どうする?アークフリードを、エリザベス様を信じるしかないのか…それでも迷った。


いや、ダメだ!開けたらダメだ。エリザベス様が、もう一つの《王華》を身に纏ったか確認していない以上、開けてはいけない。切り札のエリザベス様をここで失うわけにはいかない。ライドの決意が、バクルー王にもわかったのだろう、彼の目が忌々しげに歪んだ。ライドは…覚悟を決めた…だが…パタンと言う音が聞こえ、眼の前の扉が開いた…。


謁見の間で見たエリザベスの紫の髪や瞳より、鮮やかな紫にバクルー王は声が出なかった。


あの時はお腹の子に魔力を取られていたこともあったが、エリザベスは魔力を全部解放していなかったのだ、だからライラックのような柔らかい紫だったが、今、目の前にいるエリザベスは…自分の中の《王華》とマールバラ王が代々受け継いできた《王華》の力で、魔力がすべて解放され、その威力も増大した…ヴィオレと呼ばれる鮮やかな紫を纏った姿エリザベスだった。


鮮やかな紫の瞳でバクルー王を見つめ

「バクルー王…決着をつけましょう。」


「その姿が本当の姿か…だが…まだだ。」そう言うとバクルー王は、にやりと笑うと「パメラ!」と叫んだ。



そこにコンウォール夫人を連れたパメラが、一陣の風と共に現れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ
恋愛
18歳の近衛兵士アツリュウは、恋する王女の兄の命を救ったことで、兄王子の護衛官になる。王女を遠くから見られるだけで幸せだと思っていた。けれど王女は幼い頃から館に閉じ込められ、精神を病んだ祖父の世話を押し付けられて自由に外に出れない身だと知る。彼女の優しさを知るごとに想いは募る。そんなアツリュウの王女への想いを利用して、兄王子はアツリュウに命がけの戦をさせる。勝ったら王女の婚約者にしてやろうと約束するも、兄王子はアツリュウの秘密を知っていた。彼は王女に触れることができないことを。婚約者になっても王女を自分では幸せにできない秘密を抱え、遠くから見るだけでいいと諦めるアツリュウ。自信がなく、自分には価値がないと思い込んでいる王女は、アツリュウの命を守りたい、その思いだけを胸に1人で離宮を抜け出して、アツリュウに会いに行く。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。 だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。 プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。 そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。 しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。 後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。 「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。 でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。 約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。 時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。 そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。 最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。 ※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

忘れられたら苦労しない

菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。 似ている、私たち…… でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。 別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語 「……まだいいよ──会えたら……」 「え?」 あなたには忘れらない人が、いますか?──

処理中です...