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夢の中で。
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あれから後は…病人扱いだった。
「だから、昨夜は頭が痛かったんだ。」と翔兄に言われた。
はい、痛かったです。でも、頭じゃなくて、胸が!すっごく痛かったです!
イギリスに行ってしまうと聞いて、翔兄には私のことは頭になかったんだと思うとね!翔兄の鈍感!
はぁ~もうなんなのよ。
翔兄に無理やり寝かされたベットの上で、ゴロゴロと転がり、自分の手を天井へとかざすと、黒い毛で覆われていた小さな猫の手が浮かんだ。
本当にあったことなんだろうかと何度も思ったこともあった。でも平蔵は確かにいた。そして平蔵は私が翔兄を助けたいと願った時に奇蹟を起こした。
翔兄のお母さん、黒峰 美鈴の黒峰から…付けられた愛称…ミネ。フランス語で猫を可愛らしく呼ぶことを(ミネ)というらしい、それからとった愛称だったと言う。
それは…平蔵の謎の部分を埋めるのに、ことごとく嵌っていく。
いや、それだけじゃない。
黒い子猫の平蔵が…翔兄のお母さん…だったらいいなと思うからだ。
私がこんなに、おばちゃんに会いたんだもん。翔兄はきっともっと会いたいはずだ。
おばちゃん…翔兄に会いにきて。
ベットのぬくもりが、昨夜眠れなかった私を夢の世界へと連れて行く。
浅い眠りと覚醒を繰り返していたせいか、現実と夢との境があいまいの不思議な気分だった。
だから…これは現実なんだろうか。
眠っている私の顔をやさしく撫でる黒く短い手は…。
「平蔵?」と呼ぶと「にゃぁ~ん」と答える。
「翔兄の…お母さん?」と呼ぶとピンク色の舌で私の頬を舐めた。
この黒い子猫は…いや、平蔵は本当に今、ここにいるのだろうか。
そう考えているうちに、私は深い眠りの中へと落ちて行った。
*****
そして…その頃
1年の間、ひとりで住んでいた家だったのに、じいちゃんがもうこの世にいないと思うと、その広さが、心細さを感じるくらいに広くそして寒かった。
ボストンバックから、じいちゃんを出して仏壇にあげた。
「ごめんね。いろいろあって、自宅に戻るのが遅くなっちゃったけど…じいちゃん、お帰り。」
白木の箱は、まだじいちゃんとは思えなかった。だが俺は、その箱を見ていたら自然と言葉が出てきた。
「じいちゃん、明日、松宮さんに会いに行くよ。
真一が言ったんだ。(大人を巻き込んで考えようぜ。俺たちはまだ…子供だ。頼っていいんだよ。いろんな人に、頼っていいんだ。どうせ、もう数年でその恩恵は終わるんだ。大いに利用させて貰おう。その後は、俺たちの後ろに続く子供らに、恩恵で受けた知恵を使い、助けてやって、カッコ良く生きようぜ。)って、俺は助けてもらうよ…。俺ひとりではできないことは、誰かに手を伸ばすよ。ひとりになったら、なんでもひとりで乗り越えなくてはいけないとずっと思っていた。花音が、真一が教えてくれたんだ。じいちゃん…俺、ひとりじゃないんだね。」
ひとりじゃないと口にしたら、体全体があたたかく感じる。
「明日は、俺のこれからのことを相談しようと思う。いや、もう一歩進んで、できれば明日、留学の話を決めて、花音に告白するつもりなんだ。留学して会えなくなるのに大丈夫か…と思ってる?そうだね。留学から帰ってくるまで…5年。待っててと言っても5年じゃ、花音が受け入れてくれるかは半分半分かも…。いや、もっと低いかもなあ。でも将来、花音と一緒に生きて行きたいから、俺は仕事ができる男に、花音を守れる男になりたい。だから最低5年は必要な時間なんだ。」
じいちゃんの写真そして両親の写真が、心配そうに俺を見ている気がして
「仕事ができる男だったら、花音を守れるというわけじゃないことは、ちゃんとわかってるよ。でも、揺るぎない自信をつけておくべきだと思う。人として、男として、ひとりの女性を守れる自信を。その一歩が留学なんだ。」
耳元で、じいちゃんが呆れたように笑った気がした。
「なに小難しい事を言ってんだ。好きなら、好きだと言えばいいのに、何カッコつけてるんだと…笑ってる?でも男はカッコつけてナンボだって俺は思っている、特に告白はね。だからここは譲れないよ。」
と自分で言って、なんだか可笑しくなってしまい、声を出して笑ってしまった。
誰もいない部屋で響いた俺の笑い声に…失ったものの大きさをまた感じた。
「…俺は、もう失いたくない。この手の中から幸せが零れ落ちて行く様は見たくない。幸せを掴むためにはどうしたらいいという答えは、きっと一生でないだろうと思う。ただ後悔はしたくない。やれることは全部やって、どんな困難でも乗り越えられる力と自信は必要だと思うんだ…その為にはやるべきだと、そしてそれは今だと思う。」
俺は手を合わせ、目を瞑り
「じいちゃん、父さん、母さん、見守っていて。俺が一人前になるのをどこかで見守っていて。」
その夜、俺は夢を見た。
父さんがじいちゃんとそして、松宮さんとお酒を酌み交わしていて、真一が理香に百人一首の講釈を偉そうに話をしていた。
そして花音が台所でぎこちない手つきで、なにやら怪し気な料理を作っている。
「か、花音?」
「翔兄…。お腹壊したら…ごめん。」
「マジで?」
「…うん、マジで。」
「ちょ、ちょっと待ってて、母さんを呼ぶから、取りあえず呼ぶから…母さん!」
何度か母さんを呼ぶが、母さんはいなくて…代わりに俺の足元に平蔵が現れ、尻尾を絡めて甘えてきた。
「平蔵、ごめん、母さんを捜しているんだ。」と言ったら、俺の後ろから「なに?」と言って、俺の背中に母さんが抱きついてきた。
「母さん、重い。」と言うと、母さんが「翔太ったらひどいのよ、花音ちゃん~」と言って台所の花音のところに、泣きまねをしながら、今度は花音に抱きついていた。
母さんの背中を見て…やれやれと言いながら、足元の平蔵に眼をやったら…あいつは…いなかった。
「母さん、平蔵見なかった?」俺の問いに母さんが振り向いた。
母さんの顔が…笑っていた。すごく楽しそうに…11年前に見ていたあの笑顔で。
俺はなんだか胸が一杯で…もう一度大きな声で呼んだ。
「母さん!!」
「だから、昨夜は頭が痛かったんだ。」と翔兄に言われた。
はい、痛かったです。でも、頭じゃなくて、胸が!すっごく痛かったです!
イギリスに行ってしまうと聞いて、翔兄には私のことは頭になかったんだと思うとね!翔兄の鈍感!
はぁ~もうなんなのよ。
翔兄に無理やり寝かされたベットの上で、ゴロゴロと転がり、自分の手を天井へとかざすと、黒い毛で覆われていた小さな猫の手が浮かんだ。
本当にあったことなんだろうかと何度も思ったこともあった。でも平蔵は確かにいた。そして平蔵は私が翔兄を助けたいと願った時に奇蹟を起こした。
翔兄のお母さん、黒峰 美鈴の黒峰から…付けられた愛称…ミネ。フランス語で猫を可愛らしく呼ぶことを(ミネ)というらしい、それからとった愛称だったと言う。
それは…平蔵の謎の部分を埋めるのに、ことごとく嵌っていく。
いや、それだけじゃない。
黒い子猫の平蔵が…翔兄のお母さん…だったらいいなと思うからだ。
私がこんなに、おばちゃんに会いたんだもん。翔兄はきっともっと会いたいはずだ。
おばちゃん…翔兄に会いにきて。
ベットのぬくもりが、昨夜眠れなかった私を夢の世界へと連れて行く。
浅い眠りと覚醒を繰り返していたせいか、現実と夢との境があいまいの不思議な気分だった。
だから…これは現実なんだろうか。
眠っている私の顔をやさしく撫でる黒く短い手は…。
「平蔵?」と呼ぶと「にゃぁ~ん」と答える。
「翔兄の…お母さん?」と呼ぶとピンク色の舌で私の頬を舐めた。
この黒い子猫は…いや、平蔵は本当に今、ここにいるのだろうか。
そう考えているうちに、私は深い眠りの中へと落ちて行った。
*****
そして…その頃
1年の間、ひとりで住んでいた家だったのに、じいちゃんがもうこの世にいないと思うと、その広さが、心細さを感じるくらいに広くそして寒かった。
ボストンバックから、じいちゃんを出して仏壇にあげた。
「ごめんね。いろいろあって、自宅に戻るのが遅くなっちゃったけど…じいちゃん、お帰り。」
白木の箱は、まだじいちゃんとは思えなかった。だが俺は、その箱を見ていたら自然と言葉が出てきた。
「じいちゃん、明日、松宮さんに会いに行くよ。
真一が言ったんだ。(大人を巻き込んで考えようぜ。俺たちはまだ…子供だ。頼っていいんだよ。いろんな人に、頼っていいんだ。どうせ、もう数年でその恩恵は終わるんだ。大いに利用させて貰おう。その後は、俺たちの後ろに続く子供らに、恩恵で受けた知恵を使い、助けてやって、カッコ良く生きようぜ。)って、俺は助けてもらうよ…。俺ひとりではできないことは、誰かに手を伸ばすよ。ひとりになったら、なんでもひとりで乗り越えなくてはいけないとずっと思っていた。花音が、真一が教えてくれたんだ。じいちゃん…俺、ひとりじゃないんだね。」
ひとりじゃないと口にしたら、体全体があたたかく感じる。
「明日は、俺のこれからのことを相談しようと思う。いや、もう一歩進んで、できれば明日、留学の話を決めて、花音に告白するつもりなんだ。留学して会えなくなるのに大丈夫か…と思ってる?そうだね。留学から帰ってくるまで…5年。待っててと言っても5年じゃ、花音が受け入れてくれるかは半分半分かも…。いや、もっと低いかもなあ。でも将来、花音と一緒に生きて行きたいから、俺は仕事ができる男に、花音を守れる男になりたい。だから最低5年は必要な時間なんだ。」
じいちゃんの写真そして両親の写真が、心配そうに俺を見ている気がして
「仕事ができる男だったら、花音を守れるというわけじゃないことは、ちゃんとわかってるよ。でも、揺るぎない自信をつけておくべきだと思う。人として、男として、ひとりの女性を守れる自信を。その一歩が留学なんだ。」
耳元で、じいちゃんが呆れたように笑った気がした。
「なに小難しい事を言ってんだ。好きなら、好きだと言えばいいのに、何カッコつけてるんだと…笑ってる?でも男はカッコつけてナンボだって俺は思っている、特に告白はね。だからここは譲れないよ。」
と自分で言って、なんだか可笑しくなってしまい、声を出して笑ってしまった。
誰もいない部屋で響いた俺の笑い声に…失ったものの大きさをまた感じた。
「…俺は、もう失いたくない。この手の中から幸せが零れ落ちて行く様は見たくない。幸せを掴むためにはどうしたらいいという答えは、きっと一生でないだろうと思う。ただ後悔はしたくない。やれることは全部やって、どんな困難でも乗り越えられる力と自信は必要だと思うんだ…その為にはやるべきだと、そしてそれは今だと思う。」
俺は手を合わせ、目を瞑り
「じいちゃん、父さん、母さん、見守っていて。俺が一人前になるのをどこかで見守っていて。」
その夜、俺は夢を見た。
父さんがじいちゃんとそして、松宮さんとお酒を酌み交わしていて、真一が理香に百人一首の講釈を偉そうに話をしていた。
そして花音が台所でぎこちない手つきで、なにやら怪し気な料理を作っている。
「か、花音?」
「翔兄…。お腹壊したら…ごめん。」
「マジで?」
「…うん、マジで。」
「ちょ、ちょっと待ってて、母さんを呼ぶから、取りあえず呼ぶから…母さん!」
何度か母さんを呼ぶが、母さんはいなくて…代わりに俺の足元に平蔵が現れ、尻尾を絡めて甘えてきた。
「平蔵、ごめん、母さんを捜しているんだ。」と言ったら、俺の後ろから「なに?」と言って、俺の背中に母さんが抱きついてきた。
「母さん、重い。」と言うと、母さんが「翔太ったらひどいのよ、花音ちゃん~」と言って台所の花音のところに、泣きまねをしながら、今度は花音に抱きついていた。
母さんの背中を見て…やれやれと言いながら、足元の平蔵に眼をやったら…あいつは…いなかった。
「母さん、平蔵見なかった?」俺の問いに母さんが振り向いた。
母さんの顔が…笑っていた。すごく楽しそうに…11年前に見ていたあの笑顔で。
俺はなんだか胸が一杯で…もう一度大きな声で呼んだ。
「母さん!!」
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