恋する唇💋 ~短編集~

秋野 林檎 

文字の大きさ
19 / 32

年上の女の唇(後編)

しおりを挟む
うっ…嘘だろう、その…台詞。マジ?…あんたもあの場にいたのかよ…。
俺は座り込み、頭を抱え込んだ。

「いたんだ…。全然気が付かなかった」と口にして、ハッとして彼女を見た。

この人は…どんな気持ちで聞いていたんだろう。

だが吹っ切れたように彼女は笑うと
「中学、高校、大学で、いつも言われてたわ。エロいって…。あいつなら誰でもいいんじゃないと言われて…。お付き合いだってしたことがないのにね。だから嫌だった。この容姿がすっごく嫌だった!だから男の人が口にする(好き)という言葉が信じられなかった。」

そう言って、彼女はベットにゴロンと横になり
「だから春夏冬さんに恋心を持っていた訳じゃないけれど、春夏冬さんは私の内面を見てくれた人だったの。だからこの人ならこれからの人生を一緒に歩めると思ったわ。」


噂では婚約は解消となり、理恵と春夏秋(あきなし)も大学から去ったことは知ってはいたが、正直その後の吉田教授の娘さんのことは、気の毒にとは思ったがそれほど関心はなかった。


「でも、どうして俺を知ってんの?!」

「前にね、お父さんが言っていたの。ゼミに面白い奴がいる。見かけはカッコ良くて、チャラそうな今時の子なんだけどな。中味はおっさんなんだよ。浪花節のような性格で、義理人情に厚い男だって。」


爺さん教授から…おっさんと呼ばれるとは…。ひでぇ…。


ふくれっツラの俺を見ながら彼女は微笑むと

「先日、あなたのバイト先(コンビニ)の店長が訪ねてこられ…突然、頭を下げられて言われたそうよ。
『吉浦君が学校に来れなかったのは、私共のせいなんです。すみません…。人手が足らなくて、廃業を考えていたんですが、でも退職金を全部つぎ込んだあのコンビニが潰れたら、自分たち夫婦が路頭に迷うと思った吉浦君が、大学を休んでバイトに来てくれて、おまけにバイトができる学生までを捜してくれたんです。学校は大丈夫なのかと聞いても、大丈夫だと言って…おかしいと思っていたのですが、甘えてしまい…。でも先日、吉浦君の紹介で入ってくれたバイトの子から、留年しそうだと聞いて…すみません。吉浦君のご両親にも申し訳ない…先生どうにか助けてください。』


お父さんは前々から、学校にちゃんと来いと、あなたには言っていたそうね。でもあなたは生返事で。
でも店長さんから事情を聞いたあと、お父さんはあなたに言ったんでしょう?
『あと2単位なんだから、大学に来いと…ここでお前が留年したら、店長は一生罪の意識を感じるぞ。』って

そうしたら、あなたは顔を歪めて
『来月、いや…あと2週間待っててください。店長の奥さんがインフルエンザで、寝込んでいるんです。俺が休むとここまでやった事が水の泡になってしまう。』と言って…お父さんに頭を下げたんですってね。」

だってしょうがねぇだろう。あのおっちゃん夫婦、子供がいないから老後は誰からの助けてもらえないんだから…見捨てるわけいかないし…、俺もバイトをまた探すのは面倒だし…まぁそんなだし…。

「だから春夏秋さんと女性を責めて、知り合いでもない私のことを心配してくれるあなたを見て、すぐに誰だかわかったの。お父さんが言っていた人だって。」

「じゃぁ、がっかりしたよな?俺めっちゃあんたを外見で判断し、ここへ誘ったんだもんな。」

「でも…でも、私が経験ないとわかったら、説教までして…何もしなかったじゃない。」

「俺…そんな高潔な男じゃないよ。…今でも…チャンスがあればなんて思っている野郎です。」と言いながら、俺はそっと自分の下半身を隠した。…もう最悪。心は折れているのに、あれは…まだ勃ってるって…この状況ってカオスだ。


俺の不自然な動きに気が付いた女は、顔を赤くし…

「誰でも簡単に誘う人は今も嫌。でもあなたは浪花節のような性格で、義理人情に厚い人だって、知ってるから…。」そう言って俯き、小さく息を吐くと「私の…外見は…あなたの好みだった?私を誘ったのは…好みだったから?」

見透かされていたんだ。スケベな顔で誘ったんだろうな。はぁ~額に手を当て項垂れると正直に答えた。
「はい!ど真ん中です。ど真ん中の女性に声をかけないという選択肢はありませんでした。」

クスクスと笑う女の声に驚き、顔を見ようと額の手を降ろそうとしたが、その手の上に女の手が重なり、俺の唇に柔らかいものがそっと触れ

「私もあなたがど真ん中です。だからついていかないという選択肢はありませんでした。」

「えっ?」

「でもこれ以上は…もう少しお付き合いしてからでもいいですか?」


あの爺さん教授の顔がチラリと横切ったが、俺は自分の唇に触れて大きく頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

ズルいズルいっていつも言うけれど、意味を知っていて?

ユウキ
恋愛
今夜は、一組の婚約者の発表が行われるために夜会が開催された。 贅を凝らしているが、上品な誂え、淑やかで慎ましい令嬢と、見目麗しい子息の披露目に、次代の安寧と、羨望の眼差しを向ける。 発表も無事終わり、和やかに進行する夜会の最中、甲高い大声が響いた。 「なんでー!ズルいズルイですわぁぁぁ!お姉様ばっかりずるいですわぁぁぁぁぁ!!」

処理中です...