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躊躇した唇(4/8)
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彩矢が高倉と会ったのはあれは8月の後半、大きな案件が片付き、部内が高揚感に包まれた日だった。
それも翌日の仕事を考えることもない金曜日だったからだろう。ひとりが今日は呑むぞと言いだしたら、誰もが賛成の声の声を上げ、急遽呑み会が決まった日だ。
「えっ?!吉崎、おまえ参加しないのか?」
「あいつは金曜日はダメなんだよ。なんたって彼女がやってくる日だから。俺達とより彼女と祝杯をあげたいんだろう。」
「はぁ~?!このリア充爆発しろ~!」
そんな部内の声に俺は一言、「お疲れです!」と叫んで、みんなの恨み節をしり目に出て行ったのを覚えている。
人によっては会社の仲間、友人らとの時間が取れないことを付き合いが悪いという奴もいる、彼女も仕事が終わってバタバタと出てくるより、土曜日に出てきたほうが良いんじゃないか…と言う奴もいた。だが少しでも一緒にいたい俺達には時間が惜しかった。だから何をどう言われても、俺は平気だった。仕事も順調だし、あとは結婚へとコマを進めるだけだと思っていた。だが今思えば仕事の成功とは裏腹に、この日を境に得体のしれない靄が、俺と彩矢の間に広がり始めたのかもしれない。
その始まりが…改札口の前で彩矢が来るのを待っていた俺に、後ろから声がかかったあの瞬間からだ。
「吉崎さん?!」
「えっ?」
後ろを振り向き、その声の持ち主を見て思ず「高倉?おまえ呑み会は?」と大きな声で叫んでしまった。高倉は右手に持った旅行カバンを見せながら、「父親の体調が良くないので、これからしばらく週末は実家に通うつもりなの。」と言ってまた旅行カバンを見せ、「彼女さんのお迎え?」と言いながら、彩矢が改札口から出てくるまで俺の横で話を始めたおかげで、俺を見つけて、彩矢が満面の笑顔に変わる瞬間を見損なってしまった。
俺と彩矢の間に広がり始めた靄のようなものはやっぱり、あの時から始まっていたのだろうか。俯いていた彩矢が顔を上げフロントガラスを見つめながら、
「私…改札口で私を待つ彰吾を見るのが大好きだったの。でもお盆過ぎてからは、あなたを見るのが辛くなってしまったの。金曜日は大切な日だった。5日振りにあなたと会える喜びと私を待っている改札口のあなたの笑顔…大切だったの。そしてあなたも私と同じ気持ちでいてくれてるって思っていたから幸せだった。でも…8月を境にあなたは私と同じ気持ちではないんだ、大切な日じゃないんだと…変わっていったわ。」
「何を言ってるんだよ。俺だって彩矢と会える金曜日が大切だった!」
「…うそ…。じゃぁなぜ…毎回高倉さんが毎回一緒だったの?楽しそうにふたりで話しながら、改札口を見ようとしない彰吾を…私はどう信じたらよかったの?嫌だった、高倉さんと一緒に改札口で待っているあなたを見るのが嫌だった。だから…。」
…彩矢の言葉に俺は顔を歪めた。
やっぱり…そうなんだ。あの日以来高倉は、金曜日になると改札口の前で彩矢を待っている俺のところに現れるようになった。父親の体調が良くなくて週末実家に帰るから、金曜日の夜にJRに乗る、だから駅で会うんだろうなと思いながらも(また…か)と心の中でため息をついていたが、面と向かって話を拒絶する事はできなかった。それは同じ経営戦略部の人間だという事もあった。
何故気が付かなかったんだろう。
傍から見ると、高倉を見送る様に見えていたかもしれないのに。そんな俺と高倉を見て彩矢は嫌だったことをどうして気付こうとしなかったんだろう。
「…だから土曜日に来るようにしたの。…ごめんなさい。」
土曜日に来るようになったのは、そのせいだったんだ。…ぁ、でも10月の下旬までは土曜日に来て、日曜日に帰ってたのが、どうして土曜日の始発で来て後発で帰る日帰りになったんだ?
戸惑う俺の顔に気が付いたんのだろう。彩矢はポツリと言った。
「先月…11月の第一日曜日いつものように、改札口の前であなたに手を振って、3番線のホームへと歩いていたら…高倉さんに声を掛けられたの…。その時彼女から…。」
そう言って両手で顔を覆い、少し曇った声で高倉が彩矢に言った言葉を震えながら言った。
「あなた、まだ彰吾さんのところ行ってたの?!私が実家に行っている間にこそこそと…。彰吾さんは悩んでいるのよ。地方都市で知り合ったあなたと縁が切れないことを。彼ってやさしいからあなたを簡単に切れないのね。だからあなたから身を引いて。あなたがいるから私と彰吾さんはお付き合いが進められない……って。」
それも翌日の仕事を考えることもない金曜日だったからだろう。ひとりが今日は呑むぞと言いだしたら、誰もが賛成の声の声を上げ、急遽呑み会が決まった日だ。
「えっ?!吉崎、おまえ参加しないのか?」
「あいつは金曜日はダメなんだよ。なんたって彼女がやってくる日だから。俺達とより彼女と祝杯をあげたいんだろう。」
「はぁ~?!このリア充爆発しろ~!」
そんな部内の声に俺は一言、「お疲れです!」と叫んで、みんなの恨み節をしり目に出て行ったのを覚えている。
人によっては会社の仲間、友人らとの時間が取れないことを付き合いが悪いという奴もいる、彼女も仕事が終わってバタバタと出てくるより、土曜日に出てきたほうが良いんじゃないか…と言う奴もいた。だが少しでも一緒にいたい俺達には時間が惜しかった。だから何をどう言われても、俺は平気だった。仕事も順調だし、あとは結婚へとコマを進めるだけだと思っていた。だが今思えば仕事の成功とは裏腹に、この日を境に得体のしれない靄が、俺と彩矢の間に広がり始めたのかもしれない。
その始まりが…改札口の前で彩矢が来るのを待っていた俺に、後ろから声がかかったあの瞬間からだ。
「吉崎さん?!」
「えっ?」
後ろを振り向き、その声の持ち主を見て思ず「高倉?おまえ呑み会は?」と大きな声で叫んでしまった。高倉は右手に持った旅行カバンを見せながら、「父親の体調が良くないので、これからしばらく週末は実家に通うつもりなの。」と言ってまた旅行カバンを見せ、「彼女さんのお迎え?」と言いながら、彩矢が改札口から出てくるまで俺の横で話を始めたおかげで、俺を見つけて、彩矢が満面の笑顔に変わる瞬間を見損なってしまった。
俺と彩矢の間に広がり始めた靄のようなものはやっぱり、あの時から始まっていたのだろうか。俯いていた彩矢が顔を上げフロントガラスを見つめながら、
「私…改札口で私を待つ彰吾を見るのが大好きだったの。でもお盆過ぎてからは、あなたを見るのが辛くなってしまったの。金曜日は大切な日だった。5日振りにあなたと会える喜びと私を待っている改札口のあなたの笑顔…大切だったの。そしてあなたも私と同じ気持ちでいてくれてるって思っていたから幸せだった。でも…8月を境にあなたは私と同じ気持ちではないんだ、大切な日じゃないんだと…変わっていったわ。」
「何を言ってるんだよ。俺だって彩矢と会える金曜日が大切だった!」
「…うそ…。じゃぁなぜ…毎回高倉さんが毎回一緒だったの?楽しそうにふたりで話しながら、改札口を見ようとしない彰吾を…私はどう信じたらよかったの?嫌だった、高倉さんと一緒に改札口で待っているあなたを見るのが嫌だった。だから…。」
…彩矢の言葉に俺は顔を歪めた。
やっぱり…そうなんだ。あの日以来高倉は、金曜日になると改札口の前で彩矢を待っている俺のところに現れるようになった。父親の体調が良くなくて週末実家に帰るから、金曜日の夜にJRに乗る、だから駅で会うんだろうなと思いながらも(また…か)と心の中でため息をついていたが、面と向かって話を拒絶する事はできなかった。それは同じ経営戦略部の人間だという事もあった。
何故気が付かなかったんだろう。
傍から見ると、高倉を見送る様に見えていたかもしれないのに。そんな俺と高倉を見て彩矢は嫌だったことをどうして気付こうとしなかったんだろう。
「…だから土曜日に来るようにしたの。…ごめんなさい。」
土曜日に来るようになったのは、そのせいだったんだ。…ぁ、でも10月の下旬までは土曜日に来て、日曜日に帰ってたのが、どうして土曜日の始発で来て後発で帰る日帰りになったんだ?
戸惑う俺の顔に気が付いたんのだろう。彩矢はポツリと言った。
「先月…11月の第一日曜日いつものように、改札口の前であなたに手を振って、3番線のホームへと歩いていたら…高倉さんに声を掛けられたの…。その時彼女から…。」
そう言って両手で顔を覆い、少し曇った声で高倉が彩矢に言った言葉を震えながら言った。
「あなた、まだ彰吾さんのところ行ってたの?!私が実家に行っている間にこそこそと…。彰吾さんは悩んでいるのよ。地方都市で知り合ったあなたと縁が切れないことを。彼ってやさしいからあなたを簡単に切れないのね。だからあなたから身を引いて。あなたがいるから私と彰吾さんはお付き合いが進められない……って。」
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