恋する唇💋 ~短編集~

秋野 林檎 

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約束の唇(中編)

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「…おまえ…本当に香月か?香月麻美か?」

俺が思っていた香月とは違い過ぎて思わずそんな言葉が出てきてしまった。香月は一瞬大きく目を見開き

「こうでもしないと、先生は私に踏み込んできてくれないと思ったんですが、これでもやっぱりダメみたいですね。」

そう言って眼を伏せたが、フウ~と息を吐くと口元に笑みを浮かべ
「先生が思っていた私とはそんなに違いますか?それってがっかりってことですか?」

大きな目が俺を見る。

「いや、がっかりとかじゃなくて…。」
まったく年上の威厳も、教師としても威厳もない。押されぱっなしじゃん。

香月は一歩俺に近づき
「もう、私は生徒じゃないから、先生って呼ぶのは変ですよね。梶谷さん。」

…いや、先生と呼んでくれ。

「…せ、先生でも…俺は…構わないんだけど…。」


俺の叫びのような声も香月は笑ってながし、また一歩俺に近づくと小首を傾げ
「3年…う~ん、厳しいかなぁ。飛び級で行くつもりなんですが…。院まで行くので5年…5年待っててくれませんか?」

「5年?」

「はい、5年待っててください。それなら私は23歳ですし、梶谷さんが言うガキではないでしょう?」

完全に押され気味の俺は、「いや、あの…いや…」と繰り返す言葉しか出て来なくて、香月はそんな俺に微笑み俺の胸元に手を置くと、唇に触れるようなキスをした。

「約束ですよ。5年後文化祭が終わった後、この教室で…返事を下さい。」

香月はそう言って、俺の唇を細く白い指で触れ、俺に背を向け教室を出て行った。




■■■■■■■■


胸が張り裂けそう。私は教室を出ると走った。今日が最後、おそらく先生と会えるのもこれが最後。

父とアメリカに行くと決めた時、これが最後なら賭けに出ることにした。でも大失敗。

【嫌われてはいない】それだけで賭けに出た自分を嘲笑い、顔を覆った。

「心臓が変な音を立てていませんか…なんて、偉そうに言って、変な音を立ててるのは自分なのにね。」
嫌われてはいないとは思っていた、でもそれが恋愛に結びつくものとは限らない。当たり前だ。おまけに10歳下でそれも先生と生徒。どう考えたってうまく行くはずはない。ぎりぎりまで迷った。でも今日で最後なら、もう会えないのなら、最後に先生の中で忘れられない女性になりたい。

後夜祭には先生が参加しないだろうことは予想していた。先生は…本当は人見知りだから、大勢の人の中では緊張してお腹が痛いくなる人だ、例えそれが自分の教え子ばかりでも。
…3年近く先生を見ていたから、小さなことでもわかるのに…先生は私の事はおそらく学年と名前ぐらいしか知らなかったんだろうな。5年…待っててと勝手に約束を交わし、そして……あぁ最悪。


「昼間は暑いのに…10月の夜は寒いな。」そう言って、見上げた空は満面の星空。でも霞んで見えない。溢れる涙を拭った指で、そっと自分の唇に触れた。そこにはまだ先生の温もりが残っている気がした。



■■■■■■■■



Wishing you a wonderful Christmas and a happy new year.

Warmest greetings and best wishes for the holidays and the New Year.
心を込めてホリデーシーズンと新年のご多幸をお祈り申し上げます。

在学中は先生方には大変お世話になりました。この学校での思い出は私の宝物です。この思い出と先生方の教えを胸にアメリカでも頑張ります。

PS)
無事○○大学へ早期出願をしました。香月麻美

12月、終業式前に学校に香月からクリスマスカードが送られてきた。




クリスマスカードはそれ以来、毎年学校に送られてくる。5年目の今年もだ。


PSに書かれているたった1行が香月の近況を知らせてくる。でも香月は俺の近況を知ることない。…いやあいつなら、親指と人さし指で丸をつくり「これで先生の近況はわかります。」とかいうかも…。そう思ったら、思わず笑ってしまった。

あの時は10代の気まぐれに付き合うつもりはなかった。だから彼女もその間にできたが…うまく行かなかった。どうやらいつも俺が上の空で相手の話を聞いていたらしく「いつもいい加減な相槌で、私の話をちゃんと聞いてない。」と言われあっけなく振られた。…どうもあの日の出来事が頭から離れなくて、あっという間に5年立ってしまった。5年経った今、俺も、そして香月も変わったはずだ。だからあの日のような気持ちで香月がいるとは思えない。でも、俺もあの日をちゃんと終わらせたい。結果がどうあれキスをされて逃げられた年上の男としては、けじめをつけたい。でもあいつは…来ないかもしれないなぁ。いや来たとしてもよりおじさん化した俺にがっくりかもな。

「どうあれ、5年たったぞ。」そう言って、俺は教室の窓から外を見た。

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