~短編集~恋する唇

秋野 林檎 

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年上の女の唇(前編)

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握った手が…震えていた。

「…なぁ、もしかして…初めて?」

「…違うわ。」

【違うわ。】と言ってる声も震えてるじゃん。

あぁ…マジで変なのを捕まえちゃったよ。見た目がモロ好みだったから、声を掛けたんだけど、参ったなぁ。どうやって、逃げるかなぁ。

でも、おしいなぁ。手足が長くて、出るとこは出て、締まるところはギュッとしまってて。
その長い黒髪も…すこし垂れた眼も…アヒル口も…そして…年上の女。

スゲェ好みなんだけど…。
でもダメだ。バージンはダメだ。

そんな女と寝ちゃったら、気分的にその人の人生まで背負ったような気分になりそうだもんなぁ。
気楽にセックスして、楽しんで(じゃぁまた、どこかで)という関係が楽でいいのに…

あんなに真剣な顔で、ブルブル震えちゃって…
さぁ、どうぞやっちゃってください。と言われても…なぁ。


「し、し下着だって!勝負下着だし、大丈夫!」

「えっ?…」

なんにも言ぇねぇ…。

唖然とした俺に、その女は俯き頭を横に振り
「…ごめんなさい。」

「へぇ?」
何で、あんたが謝る?

「私みたいなおばさんじゃ、やっぱりその気になれないのは当然よね。」

「いやいや、めちゃ好みだったから、声をかけたんだけど…でも、初めてなんだろう。俺…始めての女性はどうも…」

「やっぱり…ダメ?」

「い…や…ダメというんじゃないんだよ。ただあんたを抱けば、あんたの…人生まで背負ったような気分になりそうで…」


そう、潤んだ眼で見ないでくれよ。好みの女性からそんな眼で見られたら、そ、そりゃ、俺は男ですから…
気持ちも体もその気充分!になっちゃうじゃんか。参ったな。

「そのバックや、服を見ると…良いところのお嬢さんなんだろう?自分で言うのも、虚しいけどさ、三流大学のおまけに留年決定の俺なんかに抱かれたら、もったいないよ。あんたみたいなタイプは、結婚を前提に付き合う真面目な男に、心も体も捧げて結婚するのが一番だと思う。」

「…」

「えっ?なに?」

「…そうなる予定だった。」

「予定?!」

「そう、叔母の紹介で知り合った方と、お付き合いしていたの。お見合いみたいな形だったけど、私は…好きだった。一年、お付き合いしていた。もうそろそろと言う話になり、結納が二週間前に終わったの。」

「まったくなにやってんだよ。あんた…。これは裏切りだろう?!」

いやいや、自分がナンパした相手に説教する俺が…【なにやってんだよ。】だ。

女はクスリと笑うと
「見た目は…軽そうな男の子みたいだったけど…あの人より…ずっとあなたのほうが誠実なんだ。」

茶髪のマッシュヘアー、耳にはピアスが二つ…これは普通だと思っていたんだけど、この人にとっては軽そうな…それも男の子かよ。はぁ~ガキ扱いだ。

あれっ…?

俺のほうが誠実?って言ったよね。それって…裏切られた?!


「…うん、いまあなたが思った通り。見事裏切られました。なんと二股どころが三股でした。」

「み、三股って…マジで?」

「うん、…その…マジで…です。」
俺に合わせようと無理して使った言葉に、彼女は照れたように笑い

「そのひとりが妊娠。それも六ヶ月。どうするつもりだったのか…いい加減な人だった。おまけにね、『どうして、私を裏切ったの』と聞いた私に、『一年付き合って、キス止まりで…寂しかった。君が早く自分のものになればこんな事はしなかった』と。」

「いや…だからといって、三股はないな。」

そう言いながら…俺は女を見た。
おそらく20代後半、俺より5つぐらい上。長い黒髪も…すこし垂れた眼も…アヒル口も…

やっぱり好みだ。

いい女だよな。

こんな女が将来、手に入るんだぜ。それも真っ白で。
俺なら我慢するな。まぁ…その男は辛抱が足りなかったということか…


「…で、ヤケになって、誰かにバージンをやろうと思った。そんな時に俺が誘ったと言うわけか。」

女は俯き、かすかに頷いた。

俺は溜め息をつき…
声をかけて付いてきたから、少しは俺を気に入ったのかと思っていたが…まぁ仕方ないか…
年下でチャラチャラしてる男を、こんなタイプの女が気に入るわけないか。

これでも女には不自由していなかったから、ナンパなんてしたことなかったんだけど…つい好みの…いや理想の女を目にして、体が勝手に女に近づき、口が勝手に声をかけていた。

…認めたくねぇけど…ひとめ惚れで、すぐに撃沈という状況か。


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