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1章 葉月と樹
葉月・・・最下位。
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「…えっと…私、施設にいたんです。父はよく覚えていなくて、母とも一緒に暮らしたのも長くなかったので…」
「えっ?…悪りぃ…」
「あ、あっ!、いいんです。」
「だが…」
「ほんとに、大丈夫です。」
そう言って、少しわざとらしいと思ったけど、にっこりと笑った。でもどうやら効果は今ひとつだったようで、私の笑みに弟久住さんは黙って、あの切れ長の眼で私の心を覗くように見てきた。
その視線に耐え切れなくて少し下を向くと、小さな声でまた弟久住さんの声が聞こえた。
「…ごめんな。」…と、でもその声が一瞬
・
・
・
『ごめんね。ウェンディ』と変わって聞こえた。
髪と瞳の色を言われたせいなのかなぁ。
久しぶりに思い出しちゃった。
『ウェンディ』
それは、私を呼んでいるとは思えないけど…。
でも昔その声を、大きな腕の中で聞いたような気がしていた。
でもその人が、私の父親なのかはわからない。
覚えているのはその声と鮮やかな色。
それは金色と…青い色。
私は軽く頭を振り…
その人がどんな人だか、どこに暮らしているのか…何も知らない。
幼い頃はよく思い出していたが、どうしても母には聞けなかった。
それは…その映像の最後は、母がその人の背中を見て泣いていたから…。
それからもう…思い出す事をやめた。
母との間に何があったかはわからない、でも、もしその人が父親なら、その背中を見つめてただ泣く母は、その人を愛していたからだ、そう思うと母が可哀想で、そんな思いを母に残したまま出て行った父を…思い出したくはなかった。
お母さん、ごめんね。忘れるから…
『ごめんね。ウェンディ』と謝るあの声と、金と青の鮮やかな色を忘れるから…ごめんね。
拳を作り頭の中から追い出そうと、二三度小突いたら、訝しそうな響きをのせて、弟久住さんが聞いてきた。
「何してんの?」
「へぇ?」
「いや、なに頭を小突いてんの?」
「いや、あの…気合をですね、入れてまして…」
「…高宮 葉月。そうか、わかった。」
「えっ?なにがですか?」
「この塀を乗り越えるために、気合を入れていたんだろう?!」
「えっ?いや、あの…、だから私はワンピースに、ハイヒールだから…」
「そうか!ワンピースにハイヒールだから、気合を入れていたのか、なるほど…」
なるほどじゃないし!
さっきまで、私を傷つけたんじゃないかと、小さな声で『ごめんな。』と言った、あの神妙な顔はどこにいった?!!なんなの、この弟久住さんは体育会系なの?!
呆然と見つめる私に
「先に塀に上って、手を引いてやるからなぁ。」とにっこり笑うその顔が、妙に久住さんに似ていて…つい…微笑んでしまった。
あぁっ!!違う!違う!ここは微笑むところじゃない!
そう思った瞬間、弟久住さんは
「やる気満々のいい笑顔だ。任せろ!」と言って、塀によじ登り、私に手を差し伸べてきた。
差し出された手を見ながら
【やる気満々…って、わけないじゃん。】とは思ったが…
久住さんにちょっぴり似た笑顔に、刃向かえることが出来なくて…
あぁ……。マジですか。登るんですか、この塀を…この格好で…
はぁ~大きく息を吐き、ハイヒールを脱ぐと、弟久住さんに預け
「弟久住さん、頼みますよ。落とさないでくださいよ。」
「大丈夫だって!」
「もう~安易に言わないでください。」
嫌な予感はしていた。
いつも見ている朝のテレビ番組での星占いで、9位までは見ていたが、なかなか私の星座は出てこなくて、今から久住さんの家に行くのに、これはマズイと思って、テレビを消したんだけど…もしかして…最下位だったのかもしれない。
あぁ…付いていない。
そう思いつつ、私は手を伸ばした。
『今日の最下位は、てんびん座のあ・な・た』
「えっ?」
それは弟久住さんが、私を引き上げようと手を握った瞬間だった。
突然聞こえた天の声に…まるで時間がゆっくりと時を刻み始めたかのように、弟久住さんが切れ長の眼を見開き、口が【あ】の形を作ると……私の上に落ちて来た。
「あぁっ!わあっ!」
「キャァ~!!!」
ガタン!!!
「…痛~い。」
「…痛てぇ~。高宮 葉月、お前重いぞ!」
「ひ、ひどい!」
「小さいから、軽いと思ったら…油断した。」
「も、もう…どうでも良いから、私の上からどいてください!!」
「……。」
「何、黙っているんですか!どいてください!」
「…兄さん…由梨菜…」
「えっ?…」
弟久住さんに圧し掛かれ動けない私は、眼だけ動かすと、そこに黒い紳士靴と青い着物が見え…体が固まった。久住さんと…由梨菜さんだ。なんで…こんなときに会うの。
絶対、今日の星占いは…最下位だったんだ。
『今日の最下位は、てんびん座のあ・な・た。大事な人と心がすれ違う出来事がおきそう。特に知らない異性には近づかないこと。なるべく今日は、家から出ないほうがいいかもよ。』
「えっ?…悪りぃ…」
「あ、あっ!、いいんです。」
「だが…」
「ほんとに、大丈夫です。」
そう言って、少しわざとらしいと思ったけど、にっこりと笑った。でもどうやら効果は今ひとつだったようで、私の笑みに弟久住さんは黙って、あの切れ長の眼で私の心を覗くように見てきた。
その視線に耐え切れなくて少し下を向くと、小さな声でまた弟久住さんの声が聞こえた。
「…ごめんな。」…と、でもその声が一瞬
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『ごめんね。ウェンディ』と変わって聞こえた。
髪と瞳の色を言われたせいなのかなぁ。
久しぶりに思い出しちゃった。
『ウェンディ』
それは、私を呼んでいるとは思えないけど…。
でも昔その声を、大きな腕の中で聞いたような気がしていた。
でもその人が、私の父親なのかはわからない。
覚えているのはその声と鮮やかな色。
それは金色と…青い色。
私は軽く頭を振り…
その人がどんな人だか、どこに暮らしているのか…何も知らない。
幼い頃はよく思い出していたが、どうしても母には聞けなかった。
それは…その映像の最後は、母がその人の背中を見て泣いていたから…。
それからもう…思い出す事をやめた。
母との間に何があったかはわからない、でも、もしその人が父親なら、その背中を見つめてただ泣く母は、その人を愛していたからだ、そう思うと母が可哀想で、そんな思いを母に残したまま出て行った父を…思い出したくはなかった。
お母さん、ごめんね。忘れるから…
『ごめんね。ウェンディ』と謝るあの声と、金と青の鮮やかな色を忘れるから…ごめんね。
拳を作り頭の中から追い出そうと、二三度小突いたら、訝しそうな響きをのせて、弟久住さんが聞いてきた。
「何してんの?」
「へぇ?」
「いや、なに頭を小突いてんの?」
「いや、あの…気合をですね、入れてまして…」
「…高宮 葉月。そうか、わかった。」
「えっ?なにがですか?」
「この塀を乗り越えるために、気合を入れていたんだろう?!」
「えっ?いや、あの…、だから私はワンピースに、ハイヒールだから…」
「そうか!ワンピースにハイヒールだから、気合を入れていたのか、なるほど…」
なるほどじゃないし!
さっきまで、私を傷つけたんじゃないかと、小さな声で『ごめんな。』と言った、あの神妙な顔はどこにいった?!!なんなの、この弟久住さんは体育会系なの?!
呆然と見つめる私に
「先に塀に上って、手を引いてやるからなぁ。」とにっこり笑うその顔が、妙に久住さんに似ていて…つい…微笑んでしまった。
あぁっ!!違う!違う!ここは微笑むところじゃない!
そう思った瞬間、弟久住さんは
「やる気満々のいい笑顔だ。任せろ!」と言って、塀によじ登り、私に手を差し伸べてきた。
差し出された手を見ながら
【やる気満々…って、わけないじゃん。】とは思ったが…
久住さんにちょっぴり似た笑顔に、刃向かえることが出来なくて…
あぁ……。マジですか。登るんですか、この塀を…この格好で…
はぁ~大きく息を吐き、ハイヒールを脱ぐと、弟久住さんに預け
「弟久住さん、頼みますよ。落とさないでくださいよ。」
「大丈夫だって!」
「もう~安易に言わないでください。」
嫌な予感はしていた。
いつも見ている朝のテレビ番組での星占いで、9位までは見ていたが、なかなか私の星座は出てこなくて、今から久住さんの家に行くのに、これはマズイと思って、テレビを消したんだけど…もしかして…最下位だったのかもしれない。
あぁ…付いていない。
そう思いつつ、私は手を伸ばした。
『今日の最下位は、てんびん座のあ・な・た』
「えっ?」
それは弟久住さんが、私を引き上げようと手を握った瞬間だった。
突然聞こえた天の声に…まるで時間がゆっくりと時を刻み始めたかのように、弟久住さんが切れ長の眼を見開き、口が【あ】の形を作ると……私の上に落ちて来た。
「あぁっ!わあっ!」
「キャァ~!!!」
ガタン!!!
「…痛~い。」
「…痛てぇ~。高宮 葉月、お前重いぞ!」
「ひ、ひどい!」
「小さいから、軽いと思ったら…油断した。」
「も、もう…どうでも良いから、私の上からどいてください!!」
「……。」
「何、黙っているんですか!どいてください!」
「…兄さん…由梨菜…」
「えっ?…」
弟久住さんに圧し掛かれ動けない私は、眼だけ動かすと、そこに黒い紳士靴と青い着物が見え…体が固まった。久住さんと…由梨菜さんだ。なんで…こんなときに会うの。
絶対、今日の星占いは…最下位だったんだ。
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