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1章 葉月と樹
樹・・・俯く。
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私はあなたが…
突然、葉月ちゃんの声が聞こえた気がして、葉月ちゃん達が歩いていった方向に目をやった。
「樹、どうした?」
「いえ…」
有り得ない。葉月ちゃんが俺を呼ぶことは…
でもそう聞こえた気がして、俺はまだ視線を動かす事が出来なかった。
そんな俺に理香さんは
「お前も、葉月も…やっかいな人生だよなぁ。」
「理香さん…」
「樹、今から話す事は、葉月はもちろん大吾も知らない。」
「ジョセフィーヌさんもですか?!」
「あぁ、大吾は優しいから顔に出るということもあるが…。なにより葉月の父親に、大吾も関係していると知られたら、大吾の立場がない。あいつの親父は政治家だから…マズいんだよ。」
背筋が震えた。いったい…どんな人物なんだ。
理香さんは唇を舐め
「あのボンボンもあれ以上は、気づいていない。だから今のうちに、手を打ちたいと思う。頼む、力を貸してくれ。」
そう言って、微かに震える左手を俺に隠すように右手で押さえながら
「あたしは書類に書かれていた葉月の両親しか知らない。だからその時に、葉月の父親や母親がどんな思いだったかは想像さえつかない。だが、葉月のためには、その行動の裏には愛があって欲しいと願うから…言葉を操る仕事をしていながら、正直うまく事実だけを話せるか自信がないんだ。あたしの感情が入りすぎるかもしれない。そこは…すまない。汲み取ってくれ。」
俺は、静かに頷いた。
「葉月の母親、弥生さんは、○○大学の近くの寿司屋の娘さんだった。写真だけだが、綺麗な人だったよ。でも清楚というより、活発って感じだったらしい、どうやらその辺は葉月がしっかり受け継いでいる。」
そう理香さんは言って、少し笑みを見せたが、すぐに大きく息を吐き
「父親は…樹の弟が言っていたとおり、外国人だ。」
やっぱり、そうだったのか…。俺は自分自身の瞳の色が薄いせいか、葉月ちゃんの瞳の色が多少違っていても、不思議とは思わなかった。九州ではそんな瞳を持つ人もいるし、だからただ…綺麗なへーゼル色だとしか…
理香さんは、俺の考えている事がわかったのか、苦笑気味に
「長崎出身のうちの所長もへーゼルのような色味の瞳だ。あたしもだから…気づかなかった。ましてや、葉月は父親というより、その高祖母にあたる人に似ている。
「葉月の高祖母は…。」と言って、理香さんは眼を瞑ると、こう言った。
「葉月の高祖母…ウッドフォード国、第28代国王の王太后は、日本人だったそうだ。」
「理香さん…それって、葉月ちゃんの父親は…まさか王家の…」
「あぁ…お前の思っている通りだ。葉月の父親は現国王。第33代ウッドフォード国王、セオドール国王陛下だ。」
もうそれ以上、言葉が出なかった。
ウッドフォード国は小国だが、豊かな地下資源と温暖な気候に恵まれた国で、ヨーロッパではリゾート地としても有名で、そして何より親日国だ。あぁそうだ。昔、何かで読んだ事がある、ウッドフォード国に、日本人の王妃がいたと言う話を…。でも、まさかこんなことって…」
頭の中が整理できない俺に気づき、理香さんは顔を歪めたが、一気に話してしまいたいのか、続けて話しだした。
「当時、セオドール陛下は第三王子だったので、かなり自由だったらしい。日本の○○大学に留学する事ができたのもその一端だろう。日本の普通の学生のように、大学生活を満喫し、大学の友人達とカラオケにも行っていたそうだ。教授達とも仲がよかったらしい、教授らの行きつけの寿司屋によく連れて行かれていたことも、調査書には書いてあった。おそらく、その寿司屋が弥生さんの父親の店で、ふたりはそこで知り合ったんだろう。」
落ち着かないのだろう。理香さんはバックから、またタバコを出すと口に咥え
「王子といっても第三王子…ましてや過去に日本人の血を引く方がいた王家だ。きっと殿下は、このまま弥生さんと付き合っていても、なにも心配はいらないと思っていたんだろうなぁ。確かにこのまま行けば、王位を継ぐことはなかったし、弥生さんと幸せな家庭を築けていたかもしれない。だが、二人が結婚を意識し始めた頃、ウッドフォード国で軍部によるクーデターが起こった。」
その話は知っている。セオドール陛下の父王が、飛行機事故で亡くなったのを機に、第二王子が軍部と一緒に起こしたクーデター。だが、そのクーデターは失敗に終わったんだ、第二王子は亡命し、王太子が揺れ動く国を見事に治め、これからと言うときに…そうだ、病で倒れたんだ。
「樹、これは…弥生さんの遺骨を預かってくれていた、スナックのママさんから聞いた話だ。」
『弥生は、あんまり身の上を話す人じゃなかったんだけどね、珍しく酔ってね、私に言ったことがあるんだ。あの時、好きな人のキスを拒んでいたら、どうなっていたんだろうかって。あんまり何度も言うから、あたし言ったんだよ。あんたはキスをしても、しなくても、その人にめちゃめちゃ惚れていたみたいだから、なんにも変わんなかったと思うよ。そうしたら、弥生は…そうだよね、でも…と言って泣いてさぁ…そして言ったんだよ。』
『あの人のお父さんが、事故で亡くなる半年前だったわ。大学の授業が終わったあの人と、いつものように、ただ…家までの道を歩くだけの逢瀬に、あの日も私はドキドキしていたの。好きな人だもの、キスをされたい、手を握って欲しいと思うこともあったけど、私の下らない話や、その日あったお店での出来事を話すと、楽しそうに青い瞳を細め、微笑む顔を見るのが幸せで…。一緒にいる、それだけもう充分幸せだったの。でもあの日は…いつも微笑で私を見るあの人が、苦しそうに私を見るのよ。心配で(どうしたの?)って聞いたら、あの人は、急に私を抱きしめて、キスをしようとしたの。キスどころか、手さえ握らなかったあの人だったから、驚いたけど、あの人にキスをされたいと、ずっと願っていたから嬉しかった。
でもあの人は私の唇に触れる寸前に…キスをする寸前に…こう言ったの。
自分の祖国に不穏な動きがある、だから君をこれ以上愛したら、君を不幸にするかもしれない。
でも君が欲しい、その唇が欲しいんだ。キスをしたら、もう気持ちを止められない。
…5秒待つ、返事をしてくれ。そうあの人は言ったの。
何も考えらなかった。私は自分からあの人を求めてキスをしたの。5秒という時間なんて、いらなかった。あの時、私もあの人が欲しかった。』
突然、葉月ちゃんの声が聞こえた気がして、葉月ちゃん達が歩いていった方向に目をやった。
「樹、どうした?」
「いえ…」
有り得ない。葉月ちゃんが俺を呼ぶことは…
でもそう聞こえた気がして、俺はまだ視線を動かす事が出来なかった。
そんな俺に理香さんは
「お前も、葉月も…やっかいな人生だよなぁ。」
「理香さん…」
「樹、今から話す事は、葉月はもちろん大吾も知らない。」
「ジョセフィーヌさんもですか?!」
「あぁ、大吾は優しいから顔に出るということもあるが…。なにより葉月の父親に、大吾も関係していると知られたら、大吾の立場がない。あいつの親父は政治家だから…マズいんだよ。」
背筋が震えた。いったい…どんな人物なんだ。
理香さんは唇を舐め
「あのボンボンもあれ以上は、気づいていない。だから今のうちに、手を打ちたいと思う。頼む、力を貸してくれ。」
そう言って、微かに震える左手を俺に隠すように右手で押さえながら
「あたしは書類に書かれていた葉月の両親しか知らない。だからその時に、葉月の父親や母親がどんな思いだったかは想像さえつかない。だが、葉月のためには、その行動の裏には愛があって欲しいと願うから…言葉を操る仕事をしていながら、正直うまく事実だけを話せるか自信がないんだ。あたしの感情が入りすぎるかもしれない。そこは…すまない。汲み取ってくれ。」
俺は、静かに頷いた。
「葉月の母親、弥生さんは、○○大学の近くの寿司屋の娘さんだった。写真だけだが、綺麗な人だったよ。でも清楚というより、活発って感じだったらしい、どうやらその辺は葉月がしっかり受け継いでいる。」
そう理香さんは言って、少し笑みを見せたが、すぐに大きく息を吐き
「父親は…樹の弟が言っていたとおり、外国人だ。」
やっぱり、そうだったのか…。俺は自分自身の瞳の色が薄いせいか、葉月ちゃんの瞳の色が多少違っていても、不思議とは思わなかった。九州ではそんな瞳を持つ人もいるし、だからただ…綺麗なへーゼル色だとしか…
理香さんは、俺の考えている事がわかったのか、苦笑気味に
「長崎出身のうちの所長もへーゼルのような色味の瞳だ。あたしもだから…気づかなかった。ましてや、葉月は父親というより、その高祖母にあたる人に似ている。
「葉月の高祖母は…。」と言って、理香さんは眼を瞑ると、こう言った。
「葉月の高祖母…ウッドフォード国、第28代国王の王太后は、日本人だったそうだ。」
「理香さん…それって、葉月ちゃんの父親は…まさか王家の…」
「あぁ…お前の思っている通りだ。葉月の父親は現国王。第33代ウッドフォード国王、セオドール国王陛下だ。」
もうそれ以上、言葉が出なかった。
ウッドフォード国は小国だが、豊かな地下資源と温暖な気候に恵まれた国で、ヨーロッパではリゾート地としても有名で、そして何より親日国だ。あぁそうだ。昔、何かで読んだ事がある、ウッドフォード国に、日本人の王妃がいたと言う話を…。でも、まさかこんなことって…」
頭の中が整理できない俺に気づき、理香さんは顔を歪めたが、一気に話してしまいたいのか、続けて話しだした。
「当時、セオドール陛下は第三王子だったので、かなり自由だったらしい。日本の○○大学に留学する事ができたのもその一端だろう。日本の普通の学生のように、大学生活を満喫し、大学の友人達とカラオケにも行っていたそうだ。教授達とも仲がよかったらしい、教授らの行きつけの寿司屋によく連れて行かれていたことも、調査書には書いてあった。おそらく、その寿司屋が弥生さんの父親の店で、ふたりはそこで知り合ったんだろう。」
落ち着かないのだろう。理香さんはバックから、またタバコを出すと口に咥え
「王子といっても第三王子…ましてや過去に日本人の血を引く方がいた王家だ。きっと殿下は、このまま弥生さんと付き合っていても、なにも心配はいらないと思っていたんだろうなぁ。確かにこのまま行けば、王位を継ぐことはなかったし、弥生さんと幸せな家庭を築けていたかもしれない。だが、二人が結婚を意識し始めた頃、ウッドフォード国で軍部によるクーデターが起こった。」
その話は知っている。セオドール陛下の父王が、飛行機事故で亡くなったのを機に、第二王子が軍部と一緒に起こしたクーデター。だが、そのクーデターは失敗に終わったんだ、第二王子は亡命し、王太子が揺れ動く国を見事に治め、これからと言うときに…そうだ、病で倒れたんだ。
「樹、これは…弥生さんの遺骨を預かってくれていた、スナックのママさんから聞いた話だ。」
『弥生は、あんまり身の上を話す人じゃなかったんだけどね、珍しく酔ってね、私に言ったことがあるんだ。あの時、好きな人のキスを拒んでいたら、どうなっていたんだろうかって。あんまり何度も言うから、あたし言ったんだよ。あんたはキスをしても、しなくても、その人にめちゃめちゃ惚れていたみたいだから、なんにも変わんなかったと思うよ。そうしたら、弥生は…そうだよね、でも…と言って泣いてさぁ…そして言ったんだよ。』
『あの人のお父さんが、事故で亡くなる半年前だったわ。大学の授業が終わったあの人と、いつものように、ただ…家までの道を歩くだけの逢瀬に、あの日も私はドキドキしていたの。好きな人だもの、キスをされたい、手を握って欲しいと思うこともあったけど、私の下らない話や、その日あったお店での出来事を話すと、楽しそうに青い瞳を細め、微笑む顔を見るのが幸せで…。一緒にいる、それだけもう充分幸せだったの。でもあの日は…いつも微笑で私を見るあの人が、苦しそうに私を見るのよ。心配で(どうしたの?)って聞いたら、あの人は、急に私を抱きしめて、キスをしようとしたの。キスどころか、手さえ握らなかったあの人だったから、驚いたけど、あの人にキスをされたいと、ずっと願っていたから嬉しかった。
でもあの人は私の唇に触れる寸前に…キスをする寸前に…こう言ったの。
自分の祖国に不穏な動きがある、だから君をこれ以上愛したら、君を不幸にするかもしれない。
でも君が欲しい、その唇が欲しいんだ。キスをしたら、もう気持ちを止められない。
…5秒待つ、返事をしてくれ。そうあの人は言ったの。
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