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1章 葉月と樹
葉月・・・笑う。
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急に立ち止まった私に、ジョセフィーヌさんは、ポンポンと私の頭を軽く叩くと
「大丈夫?」
「ジョ、じゃなくて、東条さん…」
「無理しなくていいのよ。第一私だって、この物言いに戻っちゃったし。」
そう言って、ジョセフィーヌさんは笑うと…私を見つめ
「聞いていい?久住さんと由梨奈さんの話。」
いつもとは違う姿のジョセフィーヌさんだけど、優しい声と優しい眼は、いつもと同じで、私が話し出すまで、黙って待っててくれた。だから口にできたのかもしれない。
「詳しい話は聞けませんでした。でも…赤いルージュが…久住さんの唇に付いていて。」
ジョセフィーヌさんは、顔を顰めて何か言おうとしたけど、言葉が出ないようで…詰まりながら
「その事をなんて、久住さんは言ったの?」
「弁解はしないって…」
「えっ?」
「弁解はしないって、久住さんは言ったんです。それって、由梨奈さんを今でも好きなんだって思ったんですが…久住さんは、由梨奈さんに久住家のしがらみから出たいと言う思いは応援するし、助けもするけど、それは救ってくれる人を待つんじゃなくて、自分でやる事だって言うのを聞いて、何かあったんだと…あの赤いルージュは久住さんが自ら求めたキスじゃなかったと…ちゃんと10年前の恋を整理しようとしていると…。」
「…でも辛かったわね。」
そう、本当はすごく辛かったのに、私は…
「ジョセフィーヌさん、私って…ほんとにどこか抜けてます。」
「葉月ちゃん?」
「すごく辛かったのに、平気な振りをして、胸の中に押し込めようとしました。押し込めるなら絶対に出しちゃいけなかったのに…父親の話が出た途端、押し込めていた黒い物も一緒に出てしまって…私は…」
「それのどこが抜けてるの?好きな人の唇に、元恋人とのキスをした跡を見たのよ。達観するほうが可笑しいわ。どうして抑えたの?」
「えっ?」
「あっ…ごめんなさい。自分だって抑えて生きているくせに、偉そうなことを言って…」
私は、力一杯頭を横に振り
「私は!」
そう叫び、ジョセフィーヌさんを見た。
でもそれ以上の言葉は出てこなくて、出てきたのは涙だけで、それがとっても情けなくて、慌てて手の甲で拭おうとしたら、ジョセフィーヌさんが微笑ながら、ハンカチを差し出し
「恋をしても、必ずしも結ばれるわけじゃない。でも恋をしたことを後悔したくないから、
『その人の幸せのために、自分の力が少しでも役にたって、その人の顔に笑顔が広がったら…その笑顔の何十分の一ぐらいかは、自分がその人にあげることが出来た幸せだと思わない。そのときって、すっごく幸せを私は感じるわよ。』って、私は言ったけど、でもそれは少し老成した考え方だったかも。だから葉月ちゃんは、まだそんな風になるのには早いわ。素直に恋をしなさい。始めての恋なんだもの、自分の心に素直に…ね。」
「素直に…?」
「久住さんが由梨奈さんとキスをしたのは嫌!すごくムカつく!って…ね。」
「ジョセフィーヌさん…。」
「ムカついた?」
私は…頷き
「…ムカついた。」
「久住さんは、押しに弱すぎ!」
「ジョセフィーヌさん…?!」
「言っちゃいなさい。胸の中に溜まっているものを」
「…優柔不断。」
「そうそう、なんだかフラフラしてるわね。」
「…子供っぽい。」
「確かに!すぐに顔に出るものね。」
「…ヘタレ。」
「……結構…言うわね。葉月ちゃん…。」
「うふふ…あはは…」
なんだか、可笑しくなって、笑ってしまった。
「葉月ちゃん…?!」
そう言って、目を丸くしたジョセイフィーヌさんだったけど、ゆっくりと口元を緩ませ、私の頭をポンポンとまた軽く叩き、
「まさか…最後は笑うことになるとは…」と言って、一緒に笑ってくれた。
胸の中の黒い物は、どうやら笑顔には弱いらしい、あっという間に黒い物は消え、胸の中には今、久住さんをただ好きと言う気持ちだけ。
私はあなたが好き。
そう…それだけ。
「大丈夫?」
「ジョ、じゃなくて、東条さん…」
「無理しなくていいのよ。第一私だって、この物言いに戻っちゃったし。」
そう言って、ジョセフィーヌさんは笑うと…私を見つめ
「聞いていい?久住さんと由梨奈さんの話。」
いつもとは違う姿のジョセフィーヌさんだけど、優しい声と優しい眼は、いつもと同じで、私が話し出すまで、黙って待っててくれた。だから口にできたのかもしれない。
「詳しい話は聞けませんでした。でも…赤いルージュが…久住さんの唇に付いていて。」
ジョセフィーヌさんは、顔を顰めて何か言おうとしたけど、言葉が出ないようで…詰まりながら
「その事をなんて、久住さんは言ったの?」
「弁解はしないって…」
「えっ?」
「弁解はしないって、久住さんは言ったんです。それって、由梨奈さんを今でも好きなんだって思ったんですが…久住さんは、由梨奈さんに久住家のしがらみから出たいと言う思いは応援するし、助けもするけど、それは救ってくれる人を待つんじゃなくて、自分でやる事だって言うのを聞いて、何かあったんだと…あの赤いルージュは久住さんが自ら求めたキスじゃなかったと…ちゃんと10年前の恋を整理しようとしていると…。」
「…でも辛かったわね。」
そう、本当はすごく辛かったのに、私は…
「ジョセフィーヌさん、私って…ほんとにどこか抜けてます。」
「葉月ちゃん?」
「すごく辛かったのに、平気な振りをして、胸の中に押し込めようとしました。押し込めるなら絶対に出しちゃいけなかったのに…父親の話が出た途端、押し込めていた黒い物も一緒に出てしまって…私は…」
「それのどこが抜けてるの?好きな人の唇に、元恋人とのキスをした跡を見たのよ。達観するほうが可笑しいわ。どうして抑えたの?」
「えっ?」
「あっ…ごめんなさい。自分だって抑えて生きているくせに、偉そうなことを言って…」
私は、力一杯頭を横に振り
「私は!」
そう叫び、ジョセフィーヌさんを見た。
でもそれ以上の言葉は出てこなくて、出てきたのは涙だけで、それがとっても情けなくて、慌てて手の甲で拭おうとしたら、ジョセフィーヌさんが微笑ながら、ハンカチを差し出し
「恋をしても、必ずしも結ばれるわけじゃない。でも恋をしたことを後悔したくないから、
『その人の幸せのために、自分の力が少しでも役にたって、その人の顔に笑顔が広がったら…その笑顔の何十分の一ぐらいかは、自分がその人にあげることが出来た幸せだと思わない。そのときって、すっごく幸せを私は感じるわよ。』って、私は言ったけど、でもそれは少し老成した考え方だったかも。だから葉月ちゃんは、まだそんな風になるのには早いわ。素直に恋をしなさい。始めての恋なんだもの、自分の心に素直に…ね。」
「素直に…?」
「久住さんが由梨奈さんとキスをしたのは嫌!すごくムカつく!って…ね。」
「ジョセフィーヌさん…。」
「ムカついた?」
私は…頷き
「…ムカついた。」
「久住さんは、押しに弱すぎ!」
「ジョセフィーヌさん…?!」
「言っちゃいなさい。胸の中に溜まっているものを」
「…優柔不断。」
「そうそう、なんだかフラフラしてるわね。」
「…子供っぽい。」
「確かに!すぐに顔に出るものね。」
「…ヘタレ。」
「……結構…言うわね。葉月ちゃん…。」
「うふふ…あはは…」
なんだか、可笑しくなって、笑ってしまった。
「葉月ちゃん…?!」
そう言って、目を丸くしたジョセイフィーヌさんだったけど、ゆっくりと口元を緩ませ、私の頭をポンポンとまた軽く叩き、
「まさか…最後は笑うことになるとは…」と言って、一緒に笑ってくれた。
胸の中の黒い物は、どうやら笑顔には弱いらしい、あっという間に黒い物は消え、胸の中には今、久住さんをただ好きと言う気持ちだけ。
私はあなたが好き。
そう…それだけ。
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