38 / 67
1章 葉月と樹
樹・・・聞く。
しおりを挟む
「なぁ…樹。」
「…はい。」
「お前…葉月を…」と言って、俺を見つめた理香さんだったが、軽く頭を横に振ると
「いや、なんでもない。」
そう言ってタバコをバックから出すと、火をつけずに咥え、しばらくぼんやりと空を見ていた理香さんだったが、視線を俺に移すと苦笑しながら
「考えるときは、タバコはかかせなかったんだ。だけど葉月が…体に悪いからやめてと頼むから…でも、ニコチンガムとか電子タバコとかに変えたら、私の言うことを、理香さんが聞いてくれたとか言って、葉月が調子にのるだろう…しょうがねぇから、こうやって徐々にやってる。」
「葉月ちゃんが、可愛くてしょうがないんですね。」
そう言うと、タバコを口元から外し、俺を見つめ「あぁ…」と頷くと
「お前には悪いが、大吾にとっても、私にとっても、お前より葉月のほうが大事だ。本当はこんな集まりに出したくはなかったよ。少人数のホームパーティいえ、主催者はあの久住家だ。いろんな国で、いろんな人が注視しているはず、それは…葉月に一番会わせたくないあの人に気づかれてしまう可能性があるからなぁ。まぁ、気づかれる可能性をパーセントで表すなら、ほぼ0に近い数字だとは思う。だが、完全に0ではない。なんたって、お前のところの婆さんが絡んでいるからなぁ。そして…あのぼんぼんもなんとなく気が付いたかもしれないしなぁ。」
理香さんはそう言って、少し悲しそうに笑うと
「お前が血だらけになると、わかっていても、葉月を守ってくれと頼む事になるかも知れん。お前を助ける為に、ここに来たんだが、その時はすまない、あいつを守ってやってくれ。それは、お前が願う、久住家のしがらみから逃れることと、相反する事になるかも知れないが…」
俺は理香さんのその言葉を聞いて…うっすらと見えた気がした。
葉月ちゃんには…やっぱり、久住本家と張り合うほどの人物が関わっている。
いや、それ以上かもしれない。
俺は、静かに頷き
「教えて頂けますか…葉月ちゃんの両親の話。」
理香さんは…
「禁煙をやらなきゃよかった。落ち着いて話せないぜ。」
と言ってタバコを咥えなおすと、俺を見ながら大きく溜め息を吐いた。
*****
葉月とは…2年前に花見中央駅西側の歓楽街で会った。
二人の男らに支えられるように歩く姿は、最初は酔っ払った大学生たちだと思ったよ。だが路地裏へと入ってゆく三人連れに、あたしと大吾は、嫌な予感がして、少しあとを付いていったら…泥水の中で押し倒されてもぼんやりしている葉月がいたんだ。
驚いたよ。押し倒されても…人形のように動かない葉月を見て、クスリでもやってるのかと思った。そんな輩とは係わり合いたく無くて、警察に電話をしようとした時だ、葉月が白い布に包まれた箱に手を伸ばしてなにか言ったんだ…あいつはその時なんて言った思う。
『いや…行かないで…もうひとりは嫌…』
そして叫んだんだ。
『お母さん!』ってな。
アパートに連れては来たが、葉月の事を調べた。大吾には…内緒だぞ、あいつはそういうのは嫌うんだよ。だけどなぁ、職業柄というより、実家の関係で、大吾や自分の周辺の人間は、もともとそれなりに調べないと…マズかったんだよ。なんだか言い訳みたいだよなぁ。
理香さんはそう言って、口に咥えたタバコを携帯灰皿に捨て、微かに笑いながら…
だから、葉月の事もいつも通りの手順で調べたんだが…どうしても、父親の事がわからなかった。まるで鍵を掛けられたようにな。
本来なら、そんな人物とは係わり合いは避けるべきだったんだが、あたしは…というより大吾がな、すげぇ、葉月を可愛がって、あんな格好で、あんな物言いでようやく話せる大吾が、めちゃめちゃ楽しそうにやってんだよ。毎日、大吾が笑ってんだ。あの人見知りで、おまけに人間嫌いの大吾がなぁ。
そう言って、理香さんもすごく綺麗な微笑みを浮かべていた。
あなたも救われたんですね、葉月ちゃんに…。
でもな…このところ思うんだよ。本当に良かったんだろうかと、葉月はあたしらと一緒にいて、よかったんだろうかと思うんだ。
第一普通じゃないからな、あたしらも…。
気が付いてたか、樹?
あのボロアパートの周りに、数人の警護がついていることを
それなりの家に生まれ育ったあたしらといれば、目立たないようにしているつもりでも、いずれは、葉月の親父にも気づかれるんじゃないかと不安なんだ。母親が隠していた葉月を、わざわざ目立つところに出したみたいで…葉月の母親に申し訳なくて…。
俺は葉月ちゃんの言葉を思い出していた。
『…私も…2年前、この花見中央で彷徨ってました。同じ……ですね。』
『もう、二度と笑う事などないと思ってました…でも、今は毎日…笑ってます。呆れるほど…毎日です。』
「理香さん…。葉月ちゃんが言ってました。」
「葉月が?」
「はい。もう、二度と笑う事などないと思っていたのに、今は毎日笑ってます。呆れるほど、毎日です…と。」
理香さんは大きく目を見開いたあと、きつく眼を瞑った。
「そうか…あいつ、そう言っていたのか…」と言って、俺に向かって理香さんは笑った。
綺麗な微笑みで…涙を零しながら
「…はい。」
「お前…葉月を…」と言って、俺を見つめた理香さんだったが、軽く頭を横に振ると
「いや、なんでもない。」
そう言ってタバコをバックから出すと、火をつけずに咥え、しばらくぼんやりと空を見ていた理香さんだったが、視線を俺に移すと苦笑しながら
「考えるときは、タバコはかかせなかったんだ。だけど葉月が…体に悪いからやめてと頼むから…でも、ニコチンガムとか電子タバコとかに変えたら、私の言うことを、理香さんが聞いてくれたとか言って、葉月が調子にのるだろう…しょうがねぇから、こうやって徐々にやってる。」
「葉月ちゃんが、可愛くてしょうがないんですね。」
そう言うと、タバコを口元から外し、俺を見つめ「あぁ…」と頷くと
「お前には悪いが、大吾にとっても、私にとっても、お前より葉月のほうが大事だ。本当はこんな集まりに出したくはなかったよ。少人数のホームパーティいえ、主催者はあの久住家だ。いろんな国で、いろんな人が注視しているはず、それは…葉月に一番会わせたくないあの人に気づかれてしまう可能性があるからなぁ。まぁ、気づかれる可能性をパーセントで表すなら、ほぼ0に近い数字だとは思う。だが、完全に0ではない。なんたって、お前のところの婆さんが絡んでいるからなぁ。そして…あのぼんぼんもなんとなく気が付いたかもしれないしなぁ。」
理香さんはそう言って、少し悲しそうに笑うと
「お前が血だらけになると、わかっていても、葉月を守ってくれと頼む事になるかも知れん。お前を助ける為に、ここに来たんだが、その時はすまない、あいつを守ってやってくれ。それは、お前が願う、久住家のしがらみから逃れることと、相反する事になるかも知れないが…」
俺は理香さんのその言葉を聞いて…うっすらと見えた気がした。
葉月ちゃんには…やっぱり、久住本家と張り合うほどの人物が関わっている。
いや、それ以上かもしれない。
俺は、静かに頷き
「教えて頂けますか…葉月ちゃんの両親の話。」
理香さんは…
「禁煙をやらなきゃよかった。落ち着いて話せないぜ。」
と言ってタバコを咥えなおすと、俺を見ながら大きく溜め息を吐いた。
*****
葉月とは…2年前に花見中央駅西側の歓楽街で会った。
二人の男らに支えられるように歩く姿は、最初は酔っ払った大学生たちだと思ったよ。だが路地裏へと入ってゆく三人連れに、あたしと大吾は、嫌な予感がして、少しあとを付いていったら…泥水の中で押し倒されてもぼんやりしている葉月がいたんだ。
驚いたよ。押し倒されても…人形のように動かない葉月を見て、クスリでもやってるのかと思った。そんな輩とは係わり合いたく無くて、警察に電話をしようとした時だ、葉月が白い布に包まれた箱に手を伸ばしてなにか言ったんだ…あいつはその時なんて言った思う。
『いや…行かないで…もうひとりは嫌…』
そして叫んだんだ。
『お母さん!』ってな。
アパートに連れては来たが、葉月の事を調べた。大吾には…内緒だぞ、あいつはそういうのは嫌うんだよ。だけどなぁ、職業柄というより、実家の関係で、大吾や自分の周辺の人間は、もともとそれなりに調べないと…マズかったんだよ。なんだか言い訳みたいだよなぁ。
理香さんはそう言って、口に咥えたタバコを携帯灰皿に捨て、微かに笑いながら…
だから、葉月の事もいつも通りの手順で調べたんだが…どうしても、父親の事がわからなかった。まるで鍵を掛けられたようにな。
本来なら、そんな人物とは係わり合いは避けるべきだったんだが、あたしは…というより大吾がな、すげぇ、葉月を可愛がって、あんな格好で、あんな物言いでようやく話せる大吾が、めちゃめちゃ楽しそうにやってんだよ。毎日、大吾が笑ってんだ。あの人見知りで、おまけに人間嫌いの大吾がなぁ。
そう言って、理香さんもすごく綺麗な微笑みを浮かべていた。
あなたも救われたんですね、葉月ちゃんに…。
でもな…このところ思うんだよ。本当に良かったんだろうかと、葉月はあたしらと一緒にいて、よかったんだろうかと思うんだ。
第一普通じゃないからな、あたしらも…。
気が付いてたか、樹?
あのボロアパートの周りに、数人の警護がついていることを
それなりの家に生まれ育ったあたしらといれば、目立たないようにしているつもりでも、いずれは、葉月の親父にも気づかれるんじゃないかと不安なんだ。母親が隠していた葉月を、わざわざ目立つところに出したみたいで…葉月の母親に申し訳なくて…。
俺は葉月ちゃんの言葉を思い出していた。
『…私も…2年前、この花見中央で彷徨ってました。同じ……ですね。』
『もう、二度と笑う事などないと思ってました…でも、今は毎日…笑ってます。呆れるほど…毎日です。』
「理香さん…。葉月ちゃんが言ってました。」
「葉月が?」
「はい。もう、二度と笑う事などないと思っていたのに、今は毎日笑ってます。呆れるほど、毎日です…と。」
理香さんは大きく目を見開いたあと、きつく眼を瞑った。
「そうか…あいつ、そう言っていたのか…」と言って、俺に向かって理香さんは笑った。
綺麗な微笑みで…涙を零しながら
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる