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1章 葉月と樹
樹・・・揺れ動く。
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「いいのか…ボンボン?」
「なにがです?」
「樹に葉月を頼むと言ったら、おまえが一番に騒ぐと思ったんだけどなぁ…おとなしいじゃん!」
「別に…それより俺、話しましたよ。高宮に…。」
「だろうなぁ…。だから樹に任せたんだ。」
「えっ?」
「あいつらは、似てんだよ。家族に恵まれず…ひとりで世間と言う波に揉まれて…。でもどこかバカみたいに純粋なんだよ。自分より他の人の為に、身を削るところがなぁ。」
『恵まれている?久住さんが?幼い頃、両親と引き離され、久住本家に連れて来られた久住さんがですか?あなたが生まれ、久住本家で居場所を無くした久住さんがですか?10年前、ようやく愛情を見つけ、好きだった人の中に、自分の居場所を見つけたのに…その好きな人が来なかった駅で、彷徨い歩き、支えていたものがなくなった久住さんがですか?!!』
『どこが恵まれているんですか!支えていたものを失ったあの喪失感を…あなたは知らないから…。』
「どうした、ボンボン?」
「いや…別に…」
「お前!【別に…】しか言えねぇーのかよ。」
「べ…。」
「バカ!また言おうとしたろう?!」
「…そんなことより!あの王子様がコンビニの店員さんに絡んでますよ。いいんですか?」
「いいんだよ。あの店員はあたしの手下だから。」
「手下?」
「そう、手下。どんな仕事を依頼しても100円均一なんだぜ。だから、密かにあたしはダ○ソー君と呼んでんだ。」
クスッ…。
「…松下さんって、面白い人ですね。…あはは…」
「なぁ、そうやってたまには笑えよ。本当のお前が見えるぞ。」
「えっ?」
「ここに来る前までは、葉月に下らん事をこれ以上、言ったり、やったりしたら、お前を潰すつもりでいたが…お前と話す葉月を見て、思ったのさ。葉月は本当に嫌だと思う相手には…無表情になってゆく。だが、お前には【弟久住さん】と訳のわからん渾名をつけて、けっこう馴染んでいるのをみたら、悪い奴じゃない、ただの不器用なバカなんだとね。」
「お、俺は…」
「秋継、ジュース奢ってやる。」
「お、俺は…」
「今なら、ケーキもつけてやるが…30秒以内に来ないと…無しだ。」
「俺は!」
「俺は?なんだ?ケーキより、シュークリームだと言ってんのか?早く来い。話を聞いてやるぞ。」
「えっ?」
「弁護士の松下 理香は、結構いい腕してんだよ。話せよ。あたしが解決してやってもいいぞ。」
*****
「なんなんでしょうね!あの、自称王子様は!」
隣を歩く葉月ちゃんは、手を大きく動かしては、先程のことを話し、相当腹をたているのだろう。
「もう、ほんとに!ほんとに!最低!」と言って、頭を上下に動かし、その度に、茶色いお団子頭が俺の肩より少し下で揺れている。
そんな仕草も可愛いとは思ったが…やっぱり無敵の笑顔が見たくて
「まだ、怒りが治まらない?」
「…久住さん。」
「?」
俺の言葉に、以外にも彼女は…落ち着いた声で俺の名を呼んだ。
「あの自称王子様のことも…あるんですけど…あの私…」
「なに?」
「ピンと来なかったんです。弟久住さんから…私は…なんとか国の王様の娘って言われても…、でもあの自称王子様が出てきて…やっぱり…本当なのかなぁって…久住さんは、なにか知っているんでしょう?理香さんも…。だから、助けに来てくれたんでしょう?弟久住さんの話の途中で、あの自称王子様が出てきたので、中途半端なんです。久住さんが言うことなら、信じられるから、だから教えてください。」
これが最後になるかもしれないのに…どうやら…無敵の笑顔は見れそうもないか…
秋継が葉月ちゃんに、彼女の出生を話すのではないかと、理香さんと急いでここに来たわけだったが、ワイアット王子の出現で、秋継は話しが出来なかったと思っていた。いや、心のどこかでそう思っていたかった。
そうか…中途半端とはいえ、やっぱり聞いていたのか…
ウッドフォード国の動きも気になるが、あのワイアット王子の様子を見たら、まだ国として動く様子は窺えない。久住家は…どうだろうか。おそらく、秋継が葉月ちゃんに中途半端とはいえ、話したことを理香さんなら気づいているだろう、今頃、秋継に婆様が気づいているかどうか、聞いているはずだ。
だが…俺は秋継ひとりで、葉月ちゃんに会いに来たところを見ると、婆様はまだ知らないのではないかと思う。
しかし、予想以上に早く、葉月ちゃんのことで、回りが騒がしくなってきた。
俺もそして理香さんも、葉月ちゃんには、このまま何にも知らずに、いつも笑っていて欲しいと願っていたが、でも、あのワイアット王子の出現で、葉月ちゃんは、不安を持ってしまうことは予想は出来た。だから、遅かれ早かれ、どんなにショックでも、中途半端でいろんなことを想像し不安に駆られ、葉月ちゃんを利用したいと思う輩の言い様にされないためにも、何れは話すべきだろうとは思ったが…
でも…その話を葉月ちゃんは、俺から聞きたいと言う。
理香さんのほうが適任だと思っていたのだが…うまく説明できるだろうか…。
くそっ…あのワイアット王子と対峙する時には、こんなに震えなかったのに、今はしっかりと手を握り締めないと震えそうだ。
…葉月ちゃんを傷つけないように…言わないと…
「…葉月ちゃんは…秋継からなんと聞かされたんだ?」
「…私の父親が王様だって…」
「どう思った?」
「だから…どうしたって…」
「えっ?!」
「だから…どうしたって…思ったの、だから…弟久住さんに
『だいたい血に拘る久住家も!王政でもないに、王位に拘る…その…ウッ…何とか国も、時代遅れよ!いったい何時代の話って感じ、バカバカしい。そんな人たちとは係わり合いになりたくないので、私は今まで通りに生きて行きます、以上!』と言ったんです。そうしたら、弟久住さんに『…はぁ?』と間抜けた返事をされました。」
えっ…
堪んない…。堪んないです、理香さん。
どうやら、俺や理香さんが思っているほど、葉月ちゃんは弱くない。いや寧ろ、俺より強いですよ。
なんだか…笑える。
「あははは……!」
「く、久住さん?!」
「…葉月ちゃん…君は、やっぱり無敵だ!」
「へっ?!なんですか!それ?!」
「君なら、きっと自分の運命に堂々と立ち向かえる。ごめん!俺はずっと君を守りたいと思っていた、でも、君は俺なんかより強くて、カッコいい。」
「…運命に堂々と立ち向かい…カッコいい…ですか?!」
「うん、カッコいい。」
「女性としては、なんか…少し複雑…」
「素敵だよ。」
「素敵?!私が…」
「あぁ…純粋だから、笑顔がいつも綺麗で、その笑顔を見るだけで力が湧いてくる。可愛くて、頼りなさそうに見えるけど、肝心なところはしっかりしていてぶれない。だから、俺は葉月ちゃんを…」
好きだ…と
好きだと言いそうになった。
「久住さん?」
ふわふわとした茶色い髪が、首をかしげて葉月ちゃんの動きに合わせ揺れた。
黒い睫毛に縁取られたへーゼル色の瞳が、大きく見開いている。
婆様は…必ず気づく。そうしたら、秋継の、いや久住の家に取り込もうとするはずだ。
そうしたら…
その茶色いふわふわの髪も…へーゼル色の瞳も…そして…ピンクの唇も…。
手が届かなくなる。葉月ちゃんを取られたくない…。
今なら手を伸ばせば…この腕で抱きしめる事が出来る。
そしてその唇に…キスが…できる。
「なにがです?」
「樹に葉月を頼むと言ったら、おまえが一番に騒ぐと思ったんだけどなぁ…おとなしいじゃん!」
「別に…それより俺、話しましたよ。高宮に…。」
「だろうなぁ…。だから樹に任せたんだ。」
「えっ?」
「あいつらは、似てんだよ。家族に恵まれず…ひとりで世間と言う波に揉まれて…。でもどこかバカみたいに純粋なんだよ。自分より他の人の為に、身を削るところがなぁ。」
『恵まれている?久住さんが?幼い頃、両親と引き離され、久住本家に連れて来られた久住さんがですか?あなたが生まれ、久住本家で居場所を無くした久住さんがですか?10年前、ようやく愛情を見つけ、好きだった人の中に、自分の居場所を見つけたのに…その好きな人が来なかった駅で、彷徨い歩き、支えていたものがなくなった久住さんがですか?!!』
『どこが恵まれているんですか!支えていたものを失ったあの喪失感を…あなたは知らないから…。』
「どうした、ボンボン?」
「いや…別に…」
「お前!【別に…】しか言えねぇーのかよ。」
「べ…。」
「バカ!また言おうとしたろう?!」
「…そんなことより!あの王子様がコンビニの店員さんに絡んでますよ。いいんですか?」
「いいんだよ。あの店員はあたしの手下だから。」
「手下?」
「そう、手下。どんな仕事を依頼しても100円均一なんだぜ。だから、密かにあたしはダ○ソー君と呼んでんだ。」
クスッ…。
「…松下さんって、面白い人ですね。…あはは…」
「なぁ、そうやってたまには笑えよ。本当のお前が見えるぞ。」
「えっ?」
「ここに来る前までは、葉月に下らん事をこれ以上、言ったり、やったりしたら、お前を潰すつもりでいたが…お前と話す葉月を見て、思ったのさ。葉月は本当に嫌だと思う相手には…無表情になってゆく。だが、お前には【弟久住さん】と訳のわからん渾名をつけて、けっこう馴染んでいるのをみたら、悪い奴じゃない、ただの不器用なバカなんだとね。」
「お、俺は…」
「秋継、ジュース奢ってやる。」
「お、俺は…」
「今なら、ケーキもつけてやるが…30秒以内に来ないと…無しだ。」
「俺は!」
「俺は?なんだ?ケーキより、シュークリームだと言ってんのか?早く来い。話を聞いてやるぞ。」
「えっ?」
「弁護士の松下 理香は、結構いい腕してんだよ。話せよ。あたしが解決してやってもいいぞ。」
*****
「なんなんでしょうね!あの、自称王子様は!」
隣を歩く葉月ちゃんは、手を大きく動かしては、先程のことを話し、相当腹をたているのだろう。
「もう、ほんとに!ほんとに!最低!」と言って、頭を上下に動かし、その度に、茶色いお団子頭が俺の肩より少し下で揺れている。
そんな仕草も可愛いとは思ったが…やっぱり無敵の笑顔が見たくて
「まだ、怒りが治まらない?」
「…久住さん。」
「?」
俺の言葉に、以外にも彼女は…落ち着いた声で俺の名を呼んだ。
「あの自称王子様のことも…あるんですけど…あの私…」
「なに?」
「ピンと来なかったんです。弟久住さんから…私は…なんとか国の王様の娘って言われても…、でもあの自称王子様が出てきて…やっぱり…本当なのかなぁって…久住さんは、なにか知っているんでしょう?理香さんも…。だから、助けに来てくれたんでしょう?弟久住さんの話の途中で、あの自称王子様が出てきたので、中途半端なんです。久住さんが言うことなら、信じられるから、だから教えてください。」
これが最後になるかもしれないのに…どうやら…無敵の笑顔は見れそうもないか…
秋継が葉月ちゃんに、彼女の出生を話すのではないかと、理香さんと急いでここに来たわけだったが、ワイアット王子の出現で、秋継は話しが出来なかったと思っていた。いや、心のどこかでそう思っていたかった。
そうか…中途半端とはいえ、やっぱり聞いていたのか…
ウッドフォード国の動きも気になるが、あのワイアット王子の様子を見たら、まだ国として動く様子は窺えない。久住家は…どうだろうか。おそらく、秋継が葉月ちゃんに中途半端とはいえ、話したことを理香さんなら気づいているだろう、今頃、秋継に婆様が気づいているかどうか、聞いているはずだ。
だが…俺は秋継ひとりで、葉月ちゃんに会いに来たところを見ると、婆様はまだ知らないのではないかと思う。
しかし、予想以上に早く、葉月ちゃんのことで、回りが騒がしくなってきた。
俺もそして理香さんも、葉月ちゃんには、このまま何にも知らずに、いつも笑っていて欲しいと願っていたが、でも、あのワイアット王子の出現で、葉月ちゃんは、不安を持ってしまうことは予想は出来た。だから、遅かれ早かれ、どんなにショックでも、中途半端でいろんなことを想像し不安に駆られ、葉月ちゃんを利用したいと思う輩の言い様にされないためにも、何れは話すべきだろうとは思ったが…
でも…その話を葉月ちゃんは、俺から聞きたいと言う。
理香さんのほうが適任だと思っていたのだが…うまく説明できるだろうか…。
くそっ…あのワイアット王子と対峙する時には、こんなに震えなかったのに、今はしっかりと手を握り締めないと震えそうだ。
…葉月ちゃんを傷つけないように…言わないと…
「…葉月ちゃんは…秋継からなんと聞かされたんだ?」
「…私の父親が王様だって…」
「どう思った?」
「だから…どうしたって…」
「えっ?!」
「だから…どうしたって…思ったの、だから…弟久住さんに
『だいたい血に拘る久住家も!王政でもないに、王位に拘る…その…ウッ…何とか国も、時代遅れよ!いったい何時代の話って感じ、バカバカしい。そんな人たちとは係わり合いになりたくないので、私は今まで通りに生きて行きます、以上!』と言ったんです。そうしたら、弟久住さんに『…はぁ?』と間抜けた返事をされました。」
えっ…
堪んない…。堪んないです、理香さん。
どうやら、俺や理香さんが思っているほど、葉月ちゃんは弱くない。いや寧ろ、俺より強いですよ。
なんだか…笑える。
「あははは……!」
「く、久住さん?!」
「…葉月ちゃん…君は、やっぱり無敵だ!」
「へっ?!なんですか!それ?!」
「君なら、きっと自分の運命に堂々と立ち向かえる。ごめん!俺はずっと君を守りたいと思っていた、でも、君は俺なんかより強くて、カッコいい。」
「…運命に堂々と立ち向かい…カッコいい…ですか?!」
「うん、カッコいい。」
「女性としては、なんか…少し複雑…」
「素敵だよ。」
「素敵?!私が…」
「あぁ…純粋だから、笑顔がいつも綺麗で、その笑顔を見るだけで力が湧いてくる。可愛くて、頼りなさそうに見えるけど、肝心なところはしっかりしていてぶれない。だから、俺は葉月ちゃんを…」
好きだ…と
好きだと言いそうになった。
「久住さん?」
ふわふわとした茶色い髪が、首をかしげて葉月ちゃんの動きに合わせ揺れた。
黒い睫毛に縁取られたへーゼル色の瞳が、大きく見開いている。
婆様は…必ず気づく。そうしたら、秋継の、いや久住の家に取り込もうとするはずだ。
そうしたら…
その茶色いふわふわの髪も…へーゼル色の瞳も…そして…ピンクの唇も…。
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