キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~

秋野 林檎 

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【閑話  1】

コンビニ店員 M君は思った。

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「おい…丸山。lirwsovcmpは、日本語で何て言うんだ。Wendyに言ってやりたいんだ。」

「はぁ~?!俺が、ウッドランド国の言葉を知るわけないでしょう!」

「ふん!日本の大学も大したことはないな。」

「だいたい!なんで、コンビニのバックヤードに、W王子がいるんですか?」

「おい、なんだ…W王子って…?」

「名前を言ってはマズいんじゃないんですか?!だからワイアット王子のW。」

「なんだ…それは?はぁ~もう、かまわん。名前を呼べ!」

「でも久住ごときに名を呼ばれたくない!と叫んでいたのはお宅でしょう。俺なんか一般市民ですから、尚更です。」

「…もうどうでもいい。それより…Wendyだ。」

「そうですね。朝からあんなふうなんですよ。店長がいろいろ話しかけてるけど…聞こえていないみたいだし。」

「昨日、久住からセクハラを…「ないです!」」

「何で、すぐ否定をする。」

「あの人は、久住さんは、葉月さんの知り合いの中では、一番常識を知っている人です。そんな人が葉月さんにセクハラなんて、ぜ・っ・た・い・ありえません。」

「ふ~ん。お前も久住の兄が一番だと言うんだな。」

「はいはい、そうです。とにかく俺は今仕事中なんです、いい加減にしてください。レジを店長と変わるんで、もう帰ってくださいよ。」




昨日は妙に日本語がうまいW王子が現れて、忙しい一日だった。いや…今も、ああやって、俺の仕事を邪魔して…ほんと参っている。いい加減な店長と…能天気な葉月さんで、日頃鍛えられている俺だけど、こう続くとほんと堪らない。…でも…かと言って、今日みたいに、能天気な葉月さんが、まったく覇気がないのも、なんだか…少々心配だ。

チラリと見た葉月さんは、現在…蝋人形だ。ここは、俺が…ひとこと言ってやらねば

「葉月さん…息をしてますよね。」

「はぁ…息をしてます。」

「レジに立っているんですから、いいですか、いろいろ悩む事はあるでしょうが、ス・マ・イ・ルでお願いします。」

「はぁ…スマイルします。」

俺を見て、わ、笑っているつもりなのだろうか、これは…なんか不気味だ。これは絶対サービス業では、浮かべてはいけない顔だ。


ピンポン~♪


「い、いらっしゃい…ませ。…はぁ~W王子…。」

今度は正面から、現れるとは…

「丸山、Smile。」

ムカつく…発音もいいし、ムカつくが店舗に現れたのなら…親の仇でも客!

「いらっしゃいませ。」

おい!無視かよ!やっぱり、葉月さんに話しかけに来ただけじゃないかよ。

「Wendy!lirwsovcmp!」

結局、和訳は諦めたんだ。だけど、意味のわからない言葉をどんなに叫んでも心には届かないと思う…ただうるさいだけ。

だから俺は店のために
「店長!なんか言ってくださ…い…。」
いない…!!また逃げた!昨日、この赤い頭の王子にビビッていたもんなぁ。
もう…ここはあんたの店なんだよ。少しは頑張れよ。まったく~

しょうがない、ここは俺が
「W王子…営業妨害になりますから、葉月さんに話があるのなら、葉月さんの勤務が終わったあとに、お願いします。」

なんだよ、そのブーたれた顔は…

「なにか…か、買えばよいのだな!じゃぁ…」

なんて言い草だ!あぁ!買えよ!買えば客だ!丁寧に接待してやる!
俺の声が聞こえたかのように、店内を右に左に走り回ると、W王子は俺に商品を差し出した。

はぁ…なんで…みんな、これを選ぶかね。
ほんと…
「葉月さんの知り合いって…なんか…残念な人、多いですよね。」

俺は、W王子の手元から商品を取ると、

ピッ!
「332円です。」と言いながら、丁寧に紙の袋に入れ、



W王子に…生理用品を差し出した。

だが、W王子は自分が何を買ったのか、わかっていないようで、その紙袋を嬉々として、葉月さんにプレゼントをしようとしている。

はぁ~なんだか、哀れだ。
「W王子…お耳を…」

俺は、なるべくソフトな表現を考えたが、W王子は外国人だ、やっぱりはっきりと教えてやったほうが…
「・・・ですよ!」

「ksnaipojneq!!」と、母国語を叫びながら…座り込んでしまった。
…だろうな…。あれを女性に嬉々としてプレゼントしていたと気が付いたら…俺ならもう死んでる。本来なら見捨てるところだが…一応客だ。

お客様のために…俺はレジの前にたつ葉月さんに
「また…葉月さんが変わりに買います?」

「はぁ…買います。」

ダメだ。こっちもダメだ。俺の言葉を繰り返しているだけだ。


ピンポン~♪


お、お客様だ!、取り合えずふたりは頬っておいて!お客様に集中!

「…なぜ…?」

えっ?今、葉月さんがなにか言った。

俺はその声を発した葉月さんへと、視線を移すと、葉月さんの顔が…だんだん青くなって行く。いったい、どうしたんだ。

お客様は商品棚には目もくれず、ゆっくりと葉月さんへと向かって歩き、葉月さんの前に立つと、
「葉月さん、それとも、レディ・ウェンディってお呼びしたらいいかしら?」

葉月さんは黙って、その女性を見ている。
そして…Y王子が言った。

「久住の魔物が、お出ましか…」と


こ、これは松下さんに…連絡をしないと!!
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