詩 にわとり

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退屈な時間の始まりを告げる鐘が鳴る

今日はなぜか教卓に布とベルトが置かれていた

教室に入ってきた先生は無造作ににわとりを持っていた

「羽をつかむなんて」誰かが詰ったが先生は何も言わなかった

にわとりは黙って教卓に置かれた

そして黙って固定具をつけられていた

先生はにわとりが驚くから起立と礼はしないと告げる

先生は聞いた「このにわとりを見て君たちはどう思いますか」

彼女は言った「可愛いです」

彼は言った「怖いです」

彼女は言った「美しいです」

彼は言った「暖かそうです」

次は私の番だったが私はためらった

「どうしましたか」先生は問う

「……美味しそうだと思います」

教室に小さな悲鳴が湧く

「そうですね」先生は眉ひとつ動かさなかった

「悲鳴をあげたあなたたちは鶏肉を食べたことがないのですか」

教室は静かだった

「あなたたちは無責任です」

「にわとりにとってあなたたちは同胞を食った化け物」

「どの面を下げてこれを慈しむのですか」

美しい子どもたちはその言葉で汚泥にまみれた

「わたしたちは化け物である」

「しかし皆そうでなければ飢えて死ぬだけです」

「だから化け物であることを認めなさい」

そして先生は奥からナイフを持ってきた

先生と目があったがわたしにはできそうもないので首を振った

「あなたがやらなくてもわたしがやるだけ」

「にわとりの向かう先は決定しているのですよ」

わたしは再び首を振った

先生は二度わたしに聞くことはしなかった

鶏は何も知らないままそこへ向かった

始まる瞬間も終わった瞬間もやはり静かだった

そしてにわとりは羽をむしられて内臓を抜かれ

手際よくにわとりだったものに変わった

みんな目を離さなかった

にわとりだったものはついに鶏肉になった

そして先生はそれをシチューにした

わたしたちはにわとりとにわとりだったものと鶏肉について考えながらシチューを食べた

鶏肉はおいしかったしにわとりもにわとりだったものもおいしかった
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