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49笑顔に覗く眼光は鋭く
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冷却時間が惜しいので水冷と送風で時短する。出来上がったものに香草の粉末を混ぜ込んで、片方にだけ回復補助の薬草をブレンドした。ようやくプレゼン用のクリームが完成だ。かなり時間が掛かった。太陽はもうすぐ真上と言う所まで来ていたのだ。
「出来上がって良かった~」
昼食後に出かけるのに、まだ出来ていないなんて言ったら俺の読みの甘さになっちゃうからな。
本当はゆっくりと昼食を取りたかったが、流石に向こうの話し合いが読めなかったので、祖父を急かせて南の詰め所へと向かった。
「心配せんでも、あやつは話の解らん者ではない。お前の作ったクリームの良さは解ってくれるじゃろ」
緊張が顔に出ていたか祖父はそう励ましてくれた。確かにクリームの出来自体は自分で言うのもなんだが悪くは無いと思う。大怪我以外であれば有効性が高い事、回復魔法でのデメリットを軽減できる事、この二つは命に直結する。
こんな魔物相手の消耗戦と言っても良い世界であれば、命が無事にある事がなにより重要で、兵士一人の命と言っても軽んずる事が出来ない。蟻の一穴なる言葉があるが、まさにその通りだと思う。
詰め所は前回来た時と変わりは無い。二週間も経っていないのだから変わりようが無いのかもしれないが、万が一が無いと言い切れない世界なのだから、このタイプの安心の仕方は間違っていないと思う。
「若いの、マリオネルはおるかの?」
「今巡回に出ておられますが、まもなく戻ってくるでしょう、中に入ってお待ち下さい」
「ここでかまわんよ」
詰め所の前に置かれた丸太椅子に腰掛けようとした祖父に対して、警備兵が若干あわてた。
「北の壁と呼ばれた方をこのようなところで待たせるなど、私が隊長に叱責されてしまいます」
「そうか。ではそうせてもらうとするかの」
ギンッとじいちゃんの眼光が鋭くなったような気がする。確か前来た時も聞いたが、ここの人は皆北の壁ってじいちゃんの事呼ぶんだよな。
「おじさん。何でここの人はみんなじいちゃんを北の壁って呼ぶの?」
まだ二十台半ばくらいの人をおじさんと躊躇い無く呼べる辺り、大分この世界に染まってきたと思う。
「い、いやそれは」
「エドも中に入って来なさい」
うん。間違いなくこれは爺ちゃんの黒歴史確定。前もそうだったけどどんだけ知られたくないんだよ。
蛇ににらまれたカエルのように、余計な事を言うなと視線を送られる警備のおっちゃんが、視線を背けながらそさくさと持ち場に戻る。俺としても聞いてみたい事柄なのだが、じいちゃんとしてはあまり触れて欲しくない事のようだ。
聞きたいけど聞けない。空気が読めるお歳が中に入っている子供としては凄く身もだえする。カチャカチャとプラスチックと金属の中間音が聞こえたのは、そんな何ともいえない空気が流れた時だった。
「今戻ったぞ。見張りご苦労。何か異常は無かったか?」
「隊長お疲れ様です。異常はありませんが、クライン殿がお見えになっています」
詰め所の中に居たので気付かなかったが、この時マリオネルの顔は尊敬する先輩に会えると少し上気したものだった。
「クライン殿ようこそ。今日はどうされました?」
「今日は孫の御付じゃわ。それと先日は助かったぞ。礼を言わねばと思ってな」
若干お付という言葉に疑問符が付いた顔をされてしまった。
「いえいえ礼などと、南の守りが我々の仕事ですので、・・・確かエドワード君だったかな?ではキミが私に用があるのかな?」
「危ない所を助けて頂いて有難うございました。今日はこれを試して貰いたくて持ってきました」
ゴトッと音をたてて置かれたものは、中身を知っているものでなければ只の小さな木箱にしか見えない。その蓋がずれないように縛っていた蔦紐をほどき上蓋をはぐった。
「エドワード君。キミの丁寧な言葉はいつ聞いても驚かされるよ。それでこの白いものは何なのだい?」
「軟膏と名付けました。これは傷に塗りこみ使う回復薬とお思って下さい」
思ったとおりだ反応は芳しくない。回復魔法があるのだ何故こんなものが必要といった顔をしている。まさに想定していた通りでプレゼンのしがいがあるってものだよ。
「う~ん、キミも回復魔法は受けた事があるんじゃないのかい?それならこれが必要かどうかは解ると思うのだが?」
「もちろん回復魔法は受けた事があります。でも一日に何度も受ける事が出来るかと言ったら、僕は遠慮したいですね」
「そうだな2回受ければ魔力酔いで動けなくなる」
「そこでこれです。あまり大きな怪我は治せませんが、多少の傷であれば回復魔法に頼らなくても良くなります。常に万全の体制で魔物と向き合うことが出来るのは、魅力だと思いませんか?」
「確かに。それでこれを使って、私に何をさせたいのかな?」
「作り方をお教えしますので、伐採の警備をお願いします」
優しい笑みの後ろに含む所のある目をエドワードに向けるマリオネルは、流石は権力の近くにいる男と言った所かもしれない鋭さを持っていた。
「出来上がって良かった~」
昼食後に出かけるのに、まだ出来ていないなんて言ったら俺の読みの甘さになっちゃうからな。
本当はゆっくりと昼食を取りたかったが、流石に向こうの話し合いが読めなかったので、祖父を急かせて南の詰め所へと向かった。
「心配せんでも、あやつは話の解らん者ではない。お前の作ったクリームの良さは解ってくれるじゃろ」
緊張が顔に出ていたか祖父はそう励ましてくれた。確かにクリームの出来自体は自分で言うのもなんだが悪くは無いと思う。大怪我以外であれば有効性が高い事、回復魔法でのデメリットを軽減できる事、この二つは命に直結する。
こんな魔物相手の消耗戦と言っても良い世界であれば、命が無事にある事がなにより重要で、兵士一人の命と言っても軽んずる事が出来ない。蟻の一穴なる言葉があるが、まさにその通りだと思う。
詰め所は前回来た時と変わりは無い。二週間も経っていないのだから変わりようが無いのかもしれないが、万が一が無いと言い切れない世界なのだから、このタイプの安心の仕方は間違っていないと思う。
「若いの、マリオネルはおるかの?」
「今巡回に出ておられますが、まもなく戻ってくるでしょう、中に入ってお待ち下さい」
「ここでかまわんよ」
詰め所の前に置かれた丸太椅子に腰掛けようとした祖父に対して、警備兵が若干あわてた。
「北の壁と呼ばれた方をこのようなところで待たせるなど、私が隊長に叱責されてしまいます」
「そうか。ではそうせてもらうとするかの」
ギンッとじいちゃんの眼光が鋭くなったような気がする。確か前来た時も聞いたが、ここの人は皆北の壁ってじいちゃんの事呼ぶんだよな。
「おじさん。何でここの人はみんなじいちゃんを北の壁って呼ぶの?」
まだ二十台半ばくらいの人をおじさんと躊躇い無く呼べる辺り、大分この世界に染まってきたと思う。
「い、いやそれは」
「エドも中に入って来なさい」
うん。間違いなくこれは爺ちゃんの黒歴史確定。前もそうだったけどどんだけ知られたくないんだよ。
蛇ににらまれたカエルのように、余計な事を言うなと視線を送られる警備のおっちゃんが、視線を背けながらそさくさと持ち場に戻る。俺としても聞いてみたい事柄なのだが、じいちゃんとしてはあまり触れて欲しくない事のようだ。
聞きたいけど聞けない。空気が読めるお歳が中に入っている子供としては凄く身もだえする。カチャカチャとプラスチックと金属の中間音が聞こえたのは、そんな何ともいえない空気が流れた時だった。
「今戻ったぞ。見張りご苦労。何か異常は無かったか?」
「隊長お疲れ様です。異常はありませんが、クライン殿がお見えになっています」
詰め所の中に居たので気付かなかったが、この時マリオネルの顔は尊敬する先輩に会えると少し上気したものだった。
「クライン殿ようこそ。今日はどうされました?」
「今日は孫の御付じゃわ。それと先日は助かったぞ。礼を言わねばと思ってな」
若干お付という言葉に疑問符が付いた顔をされてしまった。
「いえいえ礼などと、南の守りが我々の仕事ですので、・・・確かエドワード君だったかな?ではキミが私に用があるのかな?」
「危ない所を助けて頂いて有難うございました。今日はこれを試して貰いたくて持ってきました」
ゴトッと音をたてて置かれたものは、中身を知っているものでなければ只の小さな木箱にしか見えない。その蓋がずれないように縛っていた蔦紐をほどき上蓋をはぐった。
「エドワード君。キミの丁寧な言葉はいつ聞いても驚かされるよ。それでこの白いものは何なのだい?」
「軟膏と名付けました。これは傷に塗りこみ使う回復薬とお思って下さい」
思ったとおりだ反応は芳しくない。回復魔法があるのだ何故こんなものが必要といった顔をしている。まさに想定していた通りでプレゼンのしがいがあるってものだよ。
「う~ん、キミも回復魔法は受けた事があるんじゃないのかい?それならこれが必要かどうかは解ると思うのだが?」
「もちろん回復魔法は受けた事があります。でも一日に何度も受ける事が出来るかと言ったら、僕は遠慮したいですね」
「そうだな2回受ければ魔力酔いで動けなくなる」
「そこでこれです。あまり大きな怪我は治せませんが、多少の傷であれば回復魔法に頼らなくても良くなります。常に万全の体制で魔物と向き合うことが出来るのは、魅力だと思いませんか?」
「確かに。それでこれを使って、私に何をさせたいのかな?」
「作り方をお教えしますので、伐採の警備をお願いします」
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