異世界生活物語

花屋の息子

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75隊長は海賊?

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 父に無理を言い連れて来て貰った北の詰め所は、南と変わりは無く詰め所と門があるだけの代わり映えはしないところ。
 北の魔物は強い物が多いと聞いていたので、もっと要塞化されていたり城門張りの守備力があるのかと思っていたが、そこに詰める兵達も見たところは南と変わりは無いので、聞いていた話し通りなら大丈夫かと心配になる。
 それに対して大きく違ったのは守備隊の隊長である。
 南門の隊長はそれでも将校のような雰囲気が感じられたが、この北面の隊長は、揉み上げからつながるゴツイヒゲを生やしたゴリゴリの海賊顔をした大男だった。
 このおっさんとお話が出来るのかな?最低限の文官能力の事など頭から抜けるほどの、インパクトしかない顔を目の前に俺の決意は揺らぎ始めていた。
(イカンイカン、ここで気圧されたらここまで来た意味がなくなる)

「はじめまして、グラハムの息子でエドワードと言います」
「うんうん、小さいのにちゃんと挨拶が出来るなんて偉いな~。僕はこの隊の隊長をしているハワードです。宜しくね」
「よ、よろしくお願いします」

 顔と中身が違うのでは?そんな失礼な事を思ってしまうほど、その話し方は穏やかなもので声も若々しい、好青年がゴリラの皮を纏っているような印象を受けたのは気のせいでは無いだろう。あまりのギャップに少し噛んでしまった。

「それで、君は今日はどうしたのかな?」
「はい、昨日さくじつこちらの隊の方が、僕のところに緊急だと軟膏を取りに来られまして」
「スクイールが大量に出た時の話だね。迷惑を掛けたね。責任は僕にある。すまなかった」
「いえ。それは仕方の無い事ですから」

 スッと頭を下げる辺り本当に良い人の印象を崩さない。これで顔がもしイケメンであったら、さぞ若い女性にモテモテなのだろうな。
 もしかしたらヒゲを剃ったら中身はそうなのか?

「そうすると君は文句を言いに来た。と言う事では無いのかい?」
「はい、スクイール自体はこの隊であれば、それほどの被害を出す事無く倒せる魔獣だとか?」
「そうだね。今は捕らえてあるおバカをしたヤツラの暴走が無ければ、こんな問題は無かったかもしれないね」
「若い戦士隊が手柄欲しさに突っ込んだと聞きました」
「君は本当に子供なのかい?まあそうだね。この北門は魔物や獣の襲撃が激しいから、戦力を補うために戦士団からかなりの人数を入れているのだけれども、その中の一隊が勝手な事をしたんだよ。ギリギリ死人は出なかったけど、そう考えると被害は大きいものだった。君に迷惑を掛けたのもそのせいなんだ」
「その戦士隊は全員絞首刑になるとか?」
「当然だね。最初にも彼らには言ってある事だからね。自分の勝手で仲間に被害を与える事は許されない」

 魔物に利する事と仲間に対して害を与える行為=ヒト族への反逆だと言われてしまえば、それまでの行為という事なのだろう。
 死を持ってそれを償わせるのも、ユルイ規律では命令が担保できないからだろう。仕方の無い事だ。
 だがしかし、まだ若い労働力をここで失うには惜しすぎるではないか。

「そこでお願いなのですが、死で償わせるよりも、彼らを僕にくれませんか?」

 こいつは何を言い出だすんだ?と言う顔をされたが、大丈夫。隊長さんの説明はちゃんと聞いていたよ。

「エドワード君と話をするから全員出て行きなさい。終わったら声を掛けるから、それまではここへの近寄りを禁止する。良いな」

 流石は隊長というだけの貫禄がある。そう命令を下すとウチの親父を含めた数名の兵士も、何も言わずに詰め所から出て行くのだ。
 ウチの親父素直すぎるんじゃないか?と思わなくも無いが、上の命令は絶対である軍属の上下関係って、こんなモノなのかも知れない。

「さて、君が言う彼らを許せと言うのは、どう言う事かな?」
「問題を起こした戦士隊を許せと言っているんじゃないです。ただ彼らには別の形で償いをさせると言うのはどうですか?と言うお話です。只殺してしまっては何の役にも立たない死体の出来上がりですが、生きていれば皆さんの役に立つ事も出来ると思うのです」
「それで?どうやって償わせると言うのかな?」
「正直な所、僕が作った軟膏は多くの皆さんに喜んで貰ってますが、僕の思っていた以上に多く材料が出て行くもので、このままでは・・・と言う状態です」
「何が言いたいのか良く分からないが、その材料は彼らが居れば何とかなるのかな?」
「そう思ってます。もしその彼らがイヤだというなら、それは僕では何とも出来ませんし、引き取って逃げたらそれまでになってしまいますけど」
「逃げる事は出来ないから心配しなくても良いよ。我々もそうだがクラリオン戦士団は彼らを許す事は無いからね。逃げれば彼らの命が尽きるまでクラリオンの名に掛けて、戦士団が追い続けてくれるさ」
「クラリオン戦士団ですか?」
「聞いた事が無いかな?このクラリオンで我ら領兵の次に力を持っている戦士団だよ。もちろん入るにはそれなりの力を示さなければならないが、今回の彼らのような戦士団に入らず、戦士団の席者に親になって貰う者もそれなりに居るんだ。今回はその親にツバを吐いたみたいなものだからね。彼らが逃げようとも戦士団の誇りに掛けて、その首を打ってくれるよ」

 初めてこの街の名を聞いたな。戦士団の制度は、昔のヤ〇ザの杯みたいなものかな?あの世界も入るのは難しくないけど、抜けるのは大変だって言うし。
 逃げられない?逃げ出せないって言った方が良いのかな?どっちでも良いけど俺にしたら助かる。
 子供が大人数人に勝てるなんって事は無い訳で、逃げ出そうとされたらどうやっても逃がしてしまう、それで終わりでは今後の評判に傷が付いてしまうからな。
「それで、どうでしょう?皆さんも今回のような事になっても大丈夫なようになっていた方が助かる事ですし、子供のお遊びに付き合ってみませんか?」
「ふっふふふ、わぁははは。君は面白いね。少し話を聞いてみてだけど具体的に何をさせるのかな?それが罰になるなら許可をしよう」
「はい。作業に関しては具体的に畑仕事と変わらないのですが、作るものは税分のカイバク以外は、軟膏に入っている香草ですね。これからもっといろいろ使える組み合わせを試さなければいけませんが、そのたびにいちいち香草の生えている東の草原まで行っていたのでは、皆さんに渡す分に遅れがでるかもしれませんので。それを彼らに畑で作って貰う、その他にも獣脂を集めて来て貰うと言った所でしょうか、後は薪も足りませんから、それを切りに行って貰うのも良いですね。もしこれからもっと軟膏を欲しいと言う人が増えた時には、カマドも鍋も増やさなければいけませんから、そちらにも力を使って欲しいですね。後は・・・」
「あぁ~分かった。もう良いよ。作業が罰になるかは少し頭をひねる感じではあるけど、キミのような子供に良いように使われるのは、彼らの罰としては良いだろう」
「では、問題を起こした戦士隊に会わせて下さい。あまりヒドイ方達ですと僕の方でも困りますから」
「活かすも殺すも君次第か・・・、本当に子供だよね?」

 生殺与奪メチャクチャ物騒なモノを握ってみたけど、こちらの世界に来てからというもの何度も言われた言葉だけど。
 れっきとした5歳児です。
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