36 / 51
第一章 再び始まった戦争
第六話 禍根
しおりを挟む
アウスール連合国の宣戦布告から一週間後、エミリア・アークウィンは自身の部隊を引き連れ連邦軍第一艦隊旗艦、レーイプツィクと合流していた。
「遠路はるばるありがとうございます、エミリア・アークウィン大佐。」
エニシエト連邦で政府に近く、また辺境伯の中で最も権力を持っている人物であるエフゲニー・バラノフはそう腰を低くして応対をしていた。これは帝国が格上とかそのようなことではなく、ただ対外的にこういう態度を取る男であるだけだった。
「いえ、こちらこそお忙しい中協力していただきありがとうございます。」
エミリアも丁寧に応対する。しかしその声は普段の声音とは違うとても冷たいものだった。
「君が噂の……。」
そしてバラノフはそう言うとアルバートを見る。一見すると友好的な顔に見えるが、その瞳には様々な思惑があるのをエミリアは悟っていた。白々しいと思うもののやることはやらなきゃと思う。
「アルバート・デグレア少佐です。」
エミリアはアルバートの代わりに対応をする。一方でアルバートはバラノフの底知れなさに少し怯むように彼女の後ろに隠れる。ただこれは同時にこの場をうまく乗り切るには必要であることと彼女から教えられていたのでそこに躊躇いは無かった。
ただあったのは男のプライドが傷つけられたことと、本当にこれでいいのだろうかという思いだった。
「貴官のことはよく聞いているよ。」
相変わらず白々しいことをと思う。
前の大戦でアルバートを引き立てた家の癖にと。
バラノフ家が現在ベッソノワ家が管理しているアクタール基地を治めていた。そのため、基地間の距離が近い両家がよく争いをしていた。その中でアルバートはその能力を開花させていったのだった。
そして前の大戦で最後の舞台となったバラノフ家が保有していたロンギヌス要塞でアルバートは記憶を失っていたのだった。ただし記憶喪失の件はバラノフ達に伝えてはいなかった。だからアルバートには記憶を失う前に彼が良くしていた仕草を教え込んでいた。
(後は悟られないようにサポートしていくだけか。)
エミリアはアルバートの一挙手一投足に意識を傾ける。
「いえ、上官や周囲の方のご助力があってこそだと思っております。」
彼女が用意した定型文をアルバートは端的に返す。
「謙虚なものだな。大佐にも見習ってもらいたいものだ。」
そう言ってバラノフは横に立っているアインを見ながら笑う。その冗談にこの場では誰一人反応しなかった。
「それで状況はどうなっているんですか? アークウィン大佐。」
そしてバラノフの義理の息子であるアイン・バラノフはエミリアに対し威圧的に質問をした。
「それでしたらこちらの方に。」
一方でエミリアもいつもと違いかなり怖い顔で現在の状況について説明を始めるのでアルバートも緊張感をもって臨む。
状況についての説明をしている間も普段と違う彼女の雰囲気にアルバートは圧され気味だった。
「つまり二手に分かれて攻撃をすると?」
バラノフがそう問う。これに関しては聞いていなかったのだろう。驚いたといった表情をしていた。
当然だ。こんなことを予め公開すれば対策され反撃を食らう。
「はい。こちらとしても背後から撃たれたらたまりませんから。」
エミリアの答えはバラノフたちに不信感を抱かせるには十分だった。
「それは私の部下が君たちに危害を加えるということかな?」
バラノフが苛立った声ではあるものの冷静にしながら返す。
「その可能性が否定できないということです。バラノフ大将には申し訳ありませんが私とアルバート・デグレア、そしてそちらのアイン・バラノフ大佐とはかなりの禍根がありますので。」
「それを克服しての軍人だと思うが?」
挑発するような言葉にエミリアは表情一つ変えない。
「予見できることを避けるのも軍人の資質だと思いますが?」
そしてはっきりとノーと答える。それ以上追求しても意味がないと示す。そこまでやっても問題は無いというのが今の彼女の考えだった。いくら停戦して味方になったとは言え、そう安々とかつての敵を信じることは出来ないと。
「わかった。いいだろう。」
「ではよろしくお願いします。」
エミリアはそう返すと足早に作戦室を出るのでアルバートもそれを追いかけた。
その二人を見てバラノフは艦橋で不機嫌そうにアインに話しかける。
「相当嫌われているみたいだな。」
「仕方ありません。こちらとしても共に作戦をすると背後から撃ちかねませんから。」
バラノフもそれに頷く。
「なぜベッソノワ候とは上手くいってこっちとは上手くいかないのだろうな。」
「流石にこちらとは因縁が深すぎるからでしょう。先程言った背後からも撃ちかねないというのも本当のことですから。」
アインの言葉にバラノフは笑う。
「確かにな。デグレア、あの親子には借りがある。父であるアレニス・デグレアに私は敗北した。そして息子には娘を殺された。これで協力しろというのは不可能に近いか。」
だが別々に行動したところで作戦が成功しさえすればいいのだとバラノフは考え直す。
「できないものはできない。作戦さえ成功すれば問題は無いからな。」
「そうですね。」
二人は扉の向こうを忌々し気に見つめていた。
*
コンゴウから乗ってきた連絡邸でアルバートとエミリアは帰路についていた。
「なんかベッソノワ家と凄い違いでしたね。こちらにもかなり敵意を剥き出しにしていましたし。」
アルバートは隣に座っているエミリアに話しかける。
「当然よ。」
彼女は海を見たまま端的に答えた。
「なにか因縁とかあるのですか?」
「あの大佐が前話をした前の大戦の発端を作ったのよ。」
「イルキア基地の天使シリーズでしたっけ?」
「そうよ。そしてスパイ容疑をかけられてあなたはすぐに前線に出された。帝国は殺す気で出したのよ。それをはね除けて強くなって、逆にあなたがその大佐が好きな人を殺した、それだけの関係よ。」
どこがそれだけなのだろうと思いながらもアルバートはエミリアの後ろをついていく。しかしエミリアの考えていることまでは分からなかった。
一方でエミリアは以前の調査結果を思い出していた。アイン・ダール、かつてそう呼ばれていたパイロットのことをエミリアは前の大戦が終わってすぐに調べた。
連邦の首都モスキュール近郊の地で生まれた彼は三歳のときに両親が戦争の爆撃に巻き込まれ死亡、孤児院に入った。ダールと言う苗字もそのとき孤児院でつけられたらしいということまで分かっていた。
そして孤児院で三歳から十一歳まで過ごした後にアークウィン家の幼年学校に入学したということまで調べていたものの、どこでスパイとして訓練されたかまではよく分からなかった。その孤児院も特にスパイ養成所という記録も無いので、もしかしたら別人の記録を掴まされている可能性も排除しきれなかった。
「アルバート。」
エミリアは急にアルバートの方を見る。その表情は普段の優しそうな笑みが消えたひどく真面目なものだった。
「なんでしょうか。」
エミリアの気迫に圧されながらもアルバートはなんとか声を出す。
「今度の戦い、気をつけなさい。あなたはバラノフ家の一人娘、ヴィエント・バラノフを殺した。その彼女が好きだったアインと彼女の実家であるバラノフ家、そこと協力するのだから。」
気を付けると言ってもどうすればよいのだろうかと思うが、彼は頷く以外は出来なかった。
*
戦艦レーイプツィクの格納庫でアイン・バラノフは乗機のメルジアのコックピットでセッティングを行っていた。
「大分念入りに準備しているのね。」
アズリト・アースが茶色い長い髪を跳ねさせながらコクピットハッチを開いたままのメルジアに体を入れて覗き込んだ。
「別にいつも通りだと思いますが。」
アインの方が上官ではあるのだが数年間アズリトのが階級が上だったので、二人とも中々その癖が抜けなった。
「今回戦うのは帝国ではなく連合よ。そんなに気負い過ぎても意味は無いと思うけど? それに今回はガブリエルではなくメルジアの実験なんだから。」
「まぁ、そうなんですけどね。あいつがいるなら……。」
アズリトはアインの言葉にそうと言うとコックピットから外に出た。そしてメルジアを見上げた。
「それにしても上もけちよね。ガブリエルを出させてくれないなんて。」
「あれ宇宙専用ですよ。まえに一回重力下での運用試験をしましたが無理でした。」
「そうなの。」
「それでどうかされたんですか?」
「作戦会議まであとちょっとよ。走れば間に合うけど。」
「そう言うのは早く言ってください……。」
アインはため息をつくとすぐにコクピットから出た。
*
「じゃあ気をつけてね、アルバート。いくら敵の機体と性能差があると言っても安心しちゃ駄目よ。」
エミリアはアルバートに対して注意点を説明していた。今回の作戦で彼女は出撃するが、大隊長としての任務になるため、アルバートと共に戦う予定は無かった。
「分かっています。大丈夫です。」
そうアルバートが投げやりに答えるのを見て、エミリアは更に心配になる。
「本当に大丈夫? やっぱり私が一緒に行った方が……。」
「大丈夫ですよ。」
心配するエミリアにアルバートは大丈夫だといった感じで返す。
「では自分はそろそろ行きます。エチュート大尉に怒られるので。」
「そうね。じゃあ、気を付けて。」
エミリアは背中を向けて振り返るアルバートを見送る。
彼女としては本当にアルバート一人で行かせてしまって大丈夫だろうかと不安になる。ただいつまでも自分が傍にいてやれるか分からない。だから今回の選択は間違っていないのだと自分に言い聞かせる。
それでも尚、不安は止まなかった。
また一人で行かせてしまったら、今度はもう帰って来ないんじゃないかと。
前の戦争で記憶を失ったときよりも酷いことになるのではないかと、そう思ってしまう。
それが意味のないことだと分かっていても、その不安は払拭出来なかった。
「大丈夫。今度こそ必ず。」
エミリアはそう小さな声で自分の決心を口にしたのだった。
*
「大丈夫か、ラウダ。」
連合国に戻ったアドハムは同僚であるラウダが作戦失敗の責を問われているのを聞き、彼女の元に向かっていた。幸いにも尋問はすぐ終わったのか、彼女と会うことは容易かった。
「えぇ。大丈夫よ。」
しかしラウダの言葉とは裏腹に表情は暗いものになっていた。それにアインはすぐにあることに思い至った。
「あの新型機に乗るのか?」
アドハムは連合国の新型機であるギデオンについて尋ねる。その噂は悪いものばかりであった。
一度乗ってしまえば生きて帰ることは出来ない、そういう機体であると。
「えぇ。私は大丈夫。今度こそエミリア・アークウィンとアルバート・デグレアを倒してみせる。だから、アドハム、この国をなんとしても変えて。」
「あぁ、約束しよう。」
アドハムの言葉にラウダは少し笑みを浮かべるとキャスターがある格納庫へ向かった。
「だが俺もこの国を変えられるまで生き残ることは出来るのかな。」
アドハムは先ほど自分が受けた内示を思い出してそう呟いた。
「遠路はるばるありがとうございます、エミリア・アークウィン大佐。」
エニシエト連邦で政府に近く、また辺境伯の中で最も権力を持っている人物であるエフゲニー・バラノフはそう腰を低くして応対をしていた。これは帝国が格上とかそのようなことではなく、ただ対外的にこういう態度を取る男であるだけだった。
「いえ、こちらこそお忙しい中協力していただきありがとうございます。」
エミリアも丁寧に応対する。しかしその声は普段の声音とは違うとても冷たいものだった。
「君が噂の……。」
そしてバラノフはそう言うとアルバートを見る。一見すると友好的な顔に見えるが、その瞳には様々な思惑があるのをエミリアは悟っていた。白々しいと思うもののやることはやらなきゃと思う。
「アルバート・デグレア少佐です。」
エミリアはアルバートの代わりに対応をする。一方でアルバートはバラノフの底知れなさに少し怯むように彼女の後ろに隠れる。ただこれは同時にこの場をうまく乗り切るには必要であることと彼女から教えられていたのでそこに躊躇いは無かった。
ただあったのは男のプライドが傷つけられたことと、本当にこれでいいのだろうかという思いだった。
「貴官のことはよく聞いているよ。」
相変わらず白々しいことをと思う。
前の大戦でアルバートを引き立てた家の癖にと。
バラノフ家が現在ベッソノワ家が管理しているアクタール基地を治めていた。そのため、基地間の距離が近い両家がよく争いをしていた。その中でアルバートはその能力を開花させていったのだった。
そして前の大戦で最後の舞台となったバラノフ家が保有していたロンギヌス要塞でアルバートは記憶を失っていたのだった。ただし記憶喪失の件はバラノフ達に伝えてはいなかった。だからアルバートには記憶を失う前に彼が良くしていた仕草を教え込んでいた。
(後は悟られないようにサポートしていくだけか。)
エミリアはアルバートの一挙手一投足に意識を傾ける。
「いえ、上官や周囲の方のご助力があってこそだと思っております。」
彼女が用意した定型文をアルバートは端的に返す。
「謙虚なものだな。大佐にも見習ってもらいたいものだ。」
そう言ってバラノフは横に立っているアインを見ながら笑う。その冗談にこの場では誰一人反応しなかった。
「それで状況はどうなっているんですか? アークウィン大佐。」
そしてバラノフの義理の息子であるアイン・バラノフはエミリアに対し威圧的に質問をした。
「それでしたらこちらの方に。」
一方でエミリアもいつもと違いかなり怖い顔で現在の状況について説明を始めるのでアルバートも緊張感をもって臨む。
状況についての説明をしている間も普段と違う彼女の雰囲気にアルバートは圧され気味だった。
「つまり二手に分かれて攻撃をすると?」
バラノフがそう問う。これに関しては聞いていなかったのだろう。驚いたといった表情をしていた。
当然だ。こんなことを予め公開すれば対策され反撃を食らう。
「はい。こちらとしても背後から撃たれたらたまりませんから。」
エミリアの答えはバラノフたちに不信感を抱かせるには十分だった。
「それは私の部下が君たちに危害を加えるということかな?」
バラノフが苛立った声ではあるものの冷静にしながら返す。
「その可能性が否定できないということです。バラノフ大将には申し訳ありませんが私とアルバート・デグレア、そしてそちらのアイン・バラノフ大佐とはかなりの禍根がありますので。」
「それを克服しての軍人だと思うが?」
挑発するような言葉にエミリアは表情一つ変えない。
「予見できることを避けるのも軍人の資質だと思いますが?」
そしてはっきりとノーと答える。それ以上追求しても意味がないと示す。そこまでやっても問題は無いというのが今の彼女の考えだった。いくら停戦して味方になったとは言え、そう安々とかつての敵を信じることは出来ないと。
「わかった。いいだろう。」
「ではよろしくお願いします。」
エミリアはそう返すと足早に作戦室を出るのでアルバートもそれを追いかけた。
その二人を見てバラノフは艦橋で不機嫌そうにアインに話しかける。
「相当嫌われているみたいだな。」
「仕方ありません。こちらとしても共に作戦をすると背後から撃ちかねませんから。」
バラノフもそれに頷く。
「なぜベッソノワ候とは上手くいってこっちとは上手くいかないのだろうな。」
「流石にこちらとは因縁が深すぎるからでしょう。先程言った背後からも撃ちかねないというのも本当のことですから。」
アインの言葉にバラノフは笑う。
「確かにな。デグレア、あの親子には借りがある。父であるアレニス・デグレアに私は敗北した。そして息子には娘を殺された。これで協力しろというのは不可能に近いか。」
だが別々に行動したところで作戦が成功しさえすればいいのだとバラノフは考え直す。
「できないものはできない。作戦さえ成功すれば問題は無いからな。」
「そうですね。」
二人は扉の向こうを忌々し気に見つめていた。
*
コンゴウから乗ってきた連絡邸でアルバートとエミリアは帰路についていた。
「なんかベッソノワ家と凄い違いでしたね。こちらにもかなり敵意を剥き出しにしていましたし。」
アルバートは隣に座っているエミリアに話しかける。
「当然よ。」
彼女は海を見たまま端的に答えた。
「なにか因縁とかあるのですか?」
「あの大佐が前話をした前の大戦の発端を作ったのよ。」
「イルキア基地の天使シリーズでしたっけ?」
「そうよ。そしてスパイ容疑をかけられてあなたはすぐに前線に出された。帝国は殺す気で出したのよ。それをはね除けて強くなって、逆にあなたがその大佐が好きな人を殺した、それだけの関係よ。」
どこがそれだけなのだろうと思いながらもアルバートはエミリアの後ろをついていく。しかしエミリアの考えていることまでは分からなかった。
一方でエミリアは以前の調査結果を思い出していた。アイン・ダール、かつてそう呼ばれていたパイロットのことをエミリアは前の大戦が終わってすぐに調べた。
連邦の首都モスキュール近郊の地で生まれた彼は三歳のときに両親が戦争の爆撃に巻き込まれ死亡、孤児院に入った。ダールと言う苗字もそのとき孤児院でつけられたらしいということまで分かっていた。
そして孤児院で三歳から十一歳まで過ごした後にアークウィン家の幼年学校に入学したということまで調べていたものの、どこでスパイとして訓練されたかまではよく分からなかった。その孤児院も特にスパイ養成所という記録も無いので、もしかしたら別人の記録を掴まされている可能性も排除しきれなかった。
「アルバート。」
エミリアは急にアルバートの方を見る。その表情は普段の優しそうな笑みが消えたひどく真面目なものだった。
「なんでしょうか。」
エミリアの気迫に圧されながらもアルバートはなんとか声を出す。
「今度の戦い、気をつけなさい。あなたはバラノフ家の一人娘、ヴィエント・バラノフを殺した。その彼女が好きだったアインと彼女の実家であるバラノフ家、そこと協力するのだから。」
気を付けると言ってもどうすればよいのだろうかと思うが、彼は頷く以外は出来なかった。
*
戦艦レーイプツィクの格納庫でアイン・バラノフは乗機のメルジアのコックピットでセッティングを行っていた。
「大分念入りに準備しているのね。」
アズリト・アースが茶色い長い髪を跳ねさせながらコクピットハッチを開いたままのメルジアに体を入れて覗き込んだ。
「別にいつも通りだと思いますが。」
アインの方が上官ではあるのだが数年間アズリトのが階級が上だったので、二人とも中々その癖が抜けなった。
「今回戦うのは帝国ではなく連合よ。そんなに気負い過ぎても意味は無いと思うけど? それに今回はガブリエルではなくメルジアの実験なんだから。」
「まぁ、そうなんですけどね。あいつがいるなら……。」
アズリトはアインの言葉にそうと言うとコックピットから外に出た。そしてメルジアを見上げた。
「それにしても上もけちよね。ガブリエルを出させてくれないなんて。」
「あれ宇宙専用ですよ。まえに一回重力下での運用試験をしましたが無理でした。」
「そうなの。」
「それでどうかされたんですか?」
「作戦会議まであとちょっとよ。走れば間に合うけど。」
「そう言うのは早く言ってください……。」
アインはため息をつくとすぐにコクピットから出た。
*
「じゃあ気をつけてね、アルバート。いくら敵の機体と性能差があると言っても安心しちゃ駄目よ。」
エミリアはアルバートに対して注意点を説明していた。今回の作戦で彼女は出撃するが、大隊長としての任務になるため、アルバートと共に戦う予定は無かった。
「分かっています。大丈夫です。」
そうアルバートが投げやりに答えるのを見て、エミリアは更に心配になる。
「本当に大丈夫? やっぱり私が一緒に行った方が……。」
「大丈夫ですよ。」
心配するエミリアにアルバートは大丈夫だといった感じで返す。
「では自分はそろそろ行きます。エチュート大尉に怒られるので。」
「そうね。じゃあ、気を付けて。」
エミリアは背中を向けて振り返るアルバートを見送る。
彼女としては本当にアルバート一人で行かせてしまって大丈夫だろうかと不安になる。ただいつまでも自分が傍にいてやれるか分からない。だから今回の選択は間違っていないのだと自分に言い聞かせる。
それでも尚、不安は止まなかった。
また一人で行かせてしまったら、今度はもう帰って来ないんじゃないかと。
前の戦争で記憶を失ったときよりも酷いことになるのではないかと、そう思ってしまう。
それが意味のないことだと分かっていても、その不安は払拭出来なかった。
「大丈夫。今度こそ必ず。」
エミリアはそう小さな声で自分の決心を口にしたのだった。
*
「大丈夫か、ラウダ。」
連合国に戻ったアドハムは同僚であるラウダが作戦失敗の責を問われているのを聞き、彼女の元に向かっていた。幸いにも尋問はすぐ終わったのか、彼女と会うことは容易かった。
「えぇ。大丈夫よ。」
しかしラウダの言葉とは裏腹に表情は暗いものになっていた。それにアインはすぐにあることに思い至った。
「あの新型機に乗るのか?」
アドハムは連合国の新型機であるギデオンについて尋ねる。その噂は悪いものばかりであった。
一度乗ってしまえば生きて帰ることは出来ない、そういう機体であると。
「えぇ。私は大丈夫。今度こそエミリア・アークウィンとアルバート・デグレアを倒してみせる。だから、アドハム、この国をなんとしても変えて。」
「あぁ、約束しよう。」
アドハムの言葉にラウダは少し笑みを浮かべるとキャスターがある格納庫へ向かった。
「だが俺もこの国を変えられるまで生き残ることは出来るのかな。」
アドハムは先ほど自分が受けた内示を思い出してそう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
兄貴のお嫁さんは異世界のセクシー・エルフ! 巨乳の兄嫁にひと目惚れ!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ファンタジー
夏休み前、友朗は祖父の屋敷の留守を預かっていた。
その屋敷に兄貴と共に兄嫁が現れた。シェリーと言う名の巨乳の美少女エルフだった。
友朗はシェリーにひと目惚れしたが、もちろん兄嫁だ。好きだと告白する事は出来ない。
兄貴とシェリーが仲良くしているのを見ると友朗は嫉妬心が芽生えた。
そして兄貴が事故に遭い、両足を骨折し入院してしまった。
当分の間、友朗はセクシー・エルフのシェリーとふたりっきりで暮らすことになった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる