魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

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第一章 再び始まった戦争

第六話 禍根

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 アウスール連合国の宣戦布告から一週間後、エミリア・アークウィンは自身の部隊を引き連れ連邦軍第一艦隊旗艦、レーイプツィクと合流していた。

「遠路はるばるありがとうございます、エミリア・アークウィン大佐。」

 エニシエト連邦で政府に近く、また辺境伯の中で最も権力を持っている人物であるエフゲニー・バラノフはそう腰を低くして応対をしていた。これは帝国が格上とかそのようなことではなく、ただ対外的にこういう態度を取る男であるだけだった。

「いえ、こちらこそお忙しい中協力していただきありがとうございます。」

 エミリアも丁寧に応対する。しかしその声は普段の声音とは違うとても冷たいものだった。

「君が噂の……。」

 そしてバラノフはそう言うとアルバートを見る。一見すると友好的な顔に見えるが、その瞳には様々な思惑があるのをエミリアは悟っていた。白々しいと思うもののやることはやらなきゃと思う。

「アルバート・デグレア少佐です。」

 エミリアはアルバートの代わりに対応をする。一方でアルバートはバラノフの底知れなさに少し怯むように彼女の後ろに隠れる。ただこれは同時にこの場をうまく乗り切るには必要であることと彼女から教えられていたのでそこに躊躇いは無かった。

 ただあったのは男のプライドが傷つけられたことと、本当にこれでいいのだろうかという思いだった。

「貴官のことはよく聞いているよ。」

 相変わらず白々しいことをと思う。
 前の大戦でアルバートを引き立てた家の癖にと。
 バラノフ家が現在ベッソノワ家が管理しているアクタール基地を治めていた。そのため、基地間の距離が近い両家がよく争いをしていた。その中でアルバートはその能力を開花させていったのだった。
 そして前の大戦で最後の舞台となったバラノフ家が保有していたロンギヌス要塞でアルバートは記憶を失っていたのだった。ただし記憶喪失の件はバラノフ達に伝えてはいなかった。だからアルバートには記憶を失う前に彼が良くしていた仕草を教え込んでいた。
 
(後は悟られないようにサポートしていくだけか。)

 エミリアはアルバートの一挙手一投足に意識を傾ける。

「いえ、上官や周囲の方のご助力があってこそだと思っております。」

 彼女が用意した定型文をアルバートは端的に返す。

「謙虚なものだな。大佐にも見習ってもらいたいものだ。」

 そう言ってバラノフは横に立っているアインを見ながら笑う。その冗談にこの場では誰一人反応しなかった。

「それで状況はどうなっているんですか? アークウィン大佐。」

 そしてバラノフの義理の息子であるアイン・バラノフはエミリアに対し威圧的に質問をした。

「それでしたらこちらの方に。」

 一方でエミリアもいつもと違いかなり怖い顔で現在の状況について説明を始めるのでアルバートも緊張感をもって臨む。
 状況についての説明をしている間も普段と違う彼女の雰囲気にアルバートは圧され気味だった。

「つまり二手に分かれて攻撃をすると?」

 バラノフがそう問う。これに関しては聞いていなかったのだろう。驚いたといった表情をしていた。
 当然だ。こんなことを予め公開すれば対策され反撃を食らう。

「はい。こちらとしても背後から撃たれたらたまりませんから。」

 エミリアの答えはバラノフたちに不信感を抱かせるには十分だった。

「それは私の部下が君たちに危害を加えるということかな?」

 バラノフが苛立った声ではあるものの冷静にしながら返す。

「その可能性が否定できないということです。バラノフ大将には申し訳ありませんが私とアルバート・デグレア、そしてそちらのアイン・バラノフ大佐とはかなりの禍根がありますので。」
「それを克服しての軍人だと思うが?」

 挑発するような言葉にエミリアは表情一つ変えない。

「予見できることを避けるのも軍人の資質だと思いますが?」

 そしてはっきりとノーと答える。それ以上追求しても意味がないと示す。そこまでやっても問題は無いというのが今の彼女の考えだった。いくら停戦して味方になったとは言え、そう安々とかつての敵を信じることは出来ないと。

「わかった。いいだろう。」
「ではよろしくお願いします。」

 エミリアはそう返すと足早に作戦室を出るのでアルバートもそれを追いかけた。
その二人を見てバラノフは艦橋で不機嫌そうにアインに話しかける。

「相当嫌われているみたいだな。」
「仕方ありません。こちらとしても共に作戦をすると背後から撃ちかねませんから。」

 バラノフもそれに頷く。

「なぜベッソノワ候とは上手くいってこっちとは上手くいかないのだろうな。」
「流石にこちらとは因縁が深すぎるからでしょう。先程言った背後からも撃ちかねないというのも本当のことですから。」

アインの言葉にバラノフは笑う。

「確かにな。デグレア、あの親子には借りがある。父であるアレニス・デグレアに私は敗北した。そして息子には娘を殺された。これで協力しろというのは不可能に近いか。」

 だが別々に行動したところで作戦が成功しさえすればいいのだとバラノフは考え直す。

「できないものはできない。作戦さえ成功すれば問題は無いからな。」
「そうですね。」

 二人は扉の向こうを忌々し気に見つめていた。



 コンゴウから乗ってきた連絡邸でアルバートとエミリアは帰路についていた。

「なんかベッソノワ家と凄い違いでしたね。こちらにもかなり敵意を剥き出しにしていましたし。」

 アルバートは隣に座っているエミリアに話しかける。

「当然よ。」

彼女は海を見たまま端的に答えた。

「なにか因縁とかあるのですか?」
「あの大佐が前話をした前の大戦の発端を作ったのよ。」
「イルキア基地の天使シリーズでしたっけ?」
「そうよ。そしてスパイ容疑をかけられてあなたはすぐに前線に出された。帝国は殺す気で出したのよ。それをはね除けて強くなって、逆にあなたがその大佐が好きな人を殺した、それだけの関係よ。」

 どこがそれだけなのだろうと思いながらもアルバートはエミリアの後ろをついていく。しかしエミリアの考えていることまでは分からなかった。
 一方でエミリアは以前の調査結果を思い出していた。アイン・ダール、かつてそう呼ばれていたパイロットのことをエミリアは前の大戦が終わってすぐに調べた。

 連邦の首都モスキュール近郊の地で生まれた彼は三歳のときに両親が戦争の爆撃に巻き込まれ死亡、孤児院に入った。ダールと言う苗字もそのとき孤児院でつけられたらしいということまで分かっていた。

 そして孤児院で三歳から十一歳まで過ごした後にアークウィン家の幼年学校に入学したということまで調べていたものの、どこでスパイとして訓練されたかまではよく分からなかった。その孤児院も特にスパイ養成所という記録も無いので、もしかしたら別人の記録を掴まされている可能性も排除しきれなかった。

「アルバート。」

 エミリアは急にアルバートの方を見る。その表情は普段の優しそうな笑みが消えたひどく真面目なものだった。

「なんでしょうか。」

 エミリアの気迫に圧されながらもアルバートはなんとか声を出す。

「今度の戦い、気をつけなさい。あなたはバラノフ家の一人娘、ヴィエント・バラノフを殺した。その彼女が好きだったアインと彼女の実家であるバラノフ家、そこと協力するのだから。」

 気を付けると言ってもどうすればよいのだろうかと思うが、彼は頷く以外は出来なかった。



 戦艦レーイプツィクの格納庫でアイン・バラノフは乗機のメルジアのコックピットでセッティングを行っていた。

「大分念入りに準備しているのね。」

 アズリト・アースが茶色い長い髪を跳ねさせながらコクピットハッチを開いたままのメルジアに体を入れて覗き込んだ。

「別にいつも通りだと思いますが。」

 アインの方が上官ではあるのだが数年間アズリトのが階級が上だったので、二人とも中々その癖が抜けなった。

「今回戦うのは帝国ではなく連合よ。そんなに気負い過ぎても意味は無いと思うけど? それに今回はガブリエルではなくメルジアの実験なんだから。」
「まぁ、そうなんですけどね。あいつがいるなら……。」

 アズリトはアインの言葉にそうと言うとコックピットから外に出た。そしてメルジアを見上げた。

「それにしても上もけちよね。ガブリエルを出させてくれないなんて。」
「あれ宇宙専用ですよ。まえに一回重力下での運用試験をしましたが無理でした。」
「そうなの。」
「それでどうかされたんですか?」
「作戦会議まであとちょっとよ。走れば間に合うけど。」
「そう言うのは早く言ってください……。」

 アインはため息をつくとすぐにコクピットから出た。



「じゃあ気をつけてね、アルバート。いくら敵の機体と性能差があると言っても安心しちゃ駄目よ。」

 エミリアはアルバートに対して注意点を説明していた。今回の作戦で彼女は出撃するが、大隊長としての任務になるため、アルバートと共に戦う予定は無かった。

「分かっています。大丈夫です。」

 そうアルバートが投げやりに答えるのを見て、エミリアは更に心配になる。

「本当に大丈夫? やっぱり私が一緒に行った方が……。」
「大丈夫ですよ。」

 心配するエミリアにアルバートは大丈夫だといった感じで返す。

「では自分はそろそろ行きます。エチュート大尉に怒られるので。」
「そうね。じゃあ、気を付けて。」

 エミリアは背中を向けて振り返るアルバートを見送る。
 彼女としては本当にアルバート一人で行かせてしまって大丈夫だろうかと不安になる。ただいつまでも自分が傍にいてやれるか分からない。だから今回の選択は間違っていないのだと自分に言い聞かせる。
 それでも尚、不安は止まなかった。
 また一人で行かせてしまったら、今度はもう帰って来ないんじゃないかと。
 前の戦争で記憶を失ったときよりも酷いことになるのではないかと、そう思ってしまう。
 それが意味のないことだと分かっていても、その不安は払拭出来なかった。

「大丈夫。今度こそ必ず。」

 エミリアはそう小さな声で自分の決心を口にしたのだった。



「大丈夫か、ラウダ。」

 連合国に戻ったアドハムは同僚であるラウダが作戦失敗の責を問われているのを聞き、彼女の元に向かっていた。幸いにも尋問はすぐ終わったのか、彼女と会うことは容易かった。

「えぇ。大丈夫よ。」

 しかしラウダの言葉とは裏腹に表情は暗いものになっていた。それにアインはすぐにあることに思い至った。

「あの新型機に乗るのか?」

 アドハムは連合国の新型機であるギデオンについて尋ねる。その噂は悪いものばかりであった。
 一度乗ってしまえば生きて帰ることは出来ない、そういう機体であると。

「えぇ。私は大丈夫。今度こそエミリア・アークウィンとアルバート・デグレアを倒してみせる。だから、アドハム、この国をなんとしても変えて。」
「あぁ、約束しよう。」

 アドハムの言葉にラウダは少し笑みを浮かべるとキャスターがある格納庫へ向かった。

「だが俺もこの国を変えられるまで生き残ることは出来るのかな。」

 アドハムは先ほど自分が受けた内示を思い出してそう呟いた。
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