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第一章 再び始まった戦争
第七話 目覚め
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初めての大規模作戦にアルバートは緊張していた。いつもと同じアレースのコックピットのはずなのに、なんか落ち着かなかった。
『デグレア少佐、大丈夫そうですか?』
同じ部隊に所属しているエマソン・エチュートからの何回目かの言葉にアルバートは顔を上げた。
「はい。問題ありません。」
緊張を悟られないように平静な声を出す。それが寧ろ緊張している証拠だと、エマソンは数年来に及ぶ付き合いから感じていたがあえて口には出さない。それが彼女なりの気の使い方だった。
『別に緊張するなとか言う気は無いです。ただ流れ弾には気をつけてくださいね。アレースの装甲であれば敵からの攻撃はなんともありませんが、味方からの攻撃だとどうなるか分からないので。』
エマソンの言葉は半分冗談であったが、もう半分は本気だった。実際に以前の戦争でアルバートは味方から攻撃をされていたこともあった。だからこその言葉でもあった。そしてアルバートが理解する以上にエマソンは自分の気を引き締め直す。
「流れ弾に気をつけると。」
一方でアルバートはエマソンの意図を汲み取っていなかった。そして言葉の意味通りの意図で受け取った。特に味方からの流れ弾で撃墜など目も当てられない事態になることは明らかなので、とにかく祈るほか無かった。
『敵部隊、四百機を確認。大隊各機、敵部隊の排除を行うぞ。だが場所が場所だ。街の中にはあまり落とすなよ!』
親衛隊と他の部隊を組み合わせた一個大隊を率いたエミリア・アークウィンからの指示にアルバートはアレースのセーフティを解除する。
そして連合国の主力キャスターであるエイノールの一機に照準を合わせトリガーに指をかける。
『全機攻撃開始!』
その言葉に合わせて、帝国軍のキャスター部隊は敵の射程圏外から一斉にライフルを発射する。
その矛先には前方に爆炎が上がる。同時に帝国軍部隊はエネルギーがライフルに充填されたのを確認し、再度目標を定め撃つ。
遠距離からの一方的な攻撃が十回ほど繰り返されたところでエイノールはようやく帝国軍のキャスターを射程圏内に捕える。ただしその頃には十分の一以下に減っていた。
しかしそんな一方的な状況は終わりだとばかりにエイノールは実弾のライフルを撃つ。しかしその攻撃はアルバート達の乗るアレースや帝国軍の主力部隊であるクロノスの部隊に有効な攻撃となることは無くそのままエネルギーライフルの斉射でどんどんと数が減っていく。この一方的な戦況によって帝国軍の優位性は揺らぐことがないほどに絶対的になっていた。
思ったよりなにもなくアルバートは拍子抜けする。
「奪取した機体は首都攻略まで温存する気か?」
アルバートは訝しみながらも更に攻撃をしようとした時だった。
『前方より敵新型機三機が接近。その後方からエイノール及び旧世代機のナメルの混合部隊六百機を確認。』
指揮官機としてセンサーを強化されているエミリアの機体が新しい部隊を発見する。
「戦力が減って敵が焦った? あるいはなにか他に目的が?」
『その中に紛れて新型機が三機接近、これにはデグレア少佐とエチュート大尉が当たれ。」
「了解です。」
『全機ブリーフィング通りに分かれて作戦を開始。』
アルバートはエマソンの機体の後ろに着くと一緒に行動する。
「分隊で行動するなんて珍しいですね。」
『今接近している機体の速度が速すぎるのよ。現行の主力キャスターの速度どころか新型機よりも。』
エマソンもそう言っていた時だった。正面から太い筋が来る。
それを二人はバレルロールしながら回避する。
「敵との距離は?」
アルバートは狙撃した機体を探すが、レーダに反応は無かった。
『敵はこちらの射程圏外から攻撃をしていますね。』
「つまり近づかなければなにもできないということですか。」
『そうです。だからブースターの消費を抑えながら接近するしかないですが……!』
エマソンは敵からの遠距離攻撃をギリギリで回避する。
それと同時にアルバートのアレースにも敵の様子が表示される。アルバートは敵からの攻撃を慎重に回避すると距離を詰めていく。接近して漸く勝てる見込みがある、分が悪い賭けであった。
*
「倒してもキリがないか。」
エニシエト連邦辺境伯であるエフゲニー・バラノフの義息であるアイン・バラノフは三十機目のエイノールを切り伏せる。しかし乗っている機体が普段の超高性能機である天使シリーズの一機、ガブリエルではないため戦い辛くはあった。そのせいか、普段に比べて部隊の陣形も思いどおりにはいかないものの、作戦自体は順調に進んでいた。
「他の機体も特に大きな損傷はなさそうですね。」
『このまま何事もなく終わればいいですけど。』
「特になにもないと思いますよ。向こうの方も順調に事が進んでいるようだし。」
アインはそう言ってアルバート達の戦いを遠方からであるが確認する。
「向こうの方に新型機が回ったみたいですね。」
アインはそう言って一度だけレーダに目を落とす。
目の前の艦隊に対してどうしたら勝てるのか考える。
『じゃあ私たちはこのまま敵艦隊を攻撃する?』
「まぁ、彼等なら支援は要らないでしょうしそれでいいでしょう。」
アインはそれだけ言うと直進する。
「自分が敵艦隊を叩きます。」
『一機で大丈夫?』
「問題ありません。メルジアの最高速力なら敵艦隊もロックすら出来ないでしょうし。」
スラスターのペダルを踏み、機体を一気に加速させる。
そして部隊から離れると敵母艦を視認する。旧世代の艦艇であれば現行のキャスターを捕捉することは出来ない。後は突破するだけだと機体を更に前に進めた。
*
「なんで落ちないのよ!」
連合国の新型機であるギデオンに乗っていたラウダは苛立ちを露にする。ギデオンは明らかに自分たちが奪取した帝国の新型機の一機であるフォルセティよりも性能は高かった。
それは応答性からも明らかであった。にも関わらず目の前にいる二機のアレースに対し三機で当たっても勝てなかった。
戦況自体は彼女たちに優勢ではあった。それでも押し込むことが出来なかった。
その原因は明らかに三機の連携が取れていなかったからであるが、そのことを隊長としての経験が無い彼女に判断することは出来なかった。
「アドハムと約束したのに。」
このまま無駄死にをすることだけは出来ない。私が目の前のこの機体を撃破して、連合国が戦争に勝てば後はアドハムが変えてくれる。
そう信じられるほどのカリスマ性が彼にはあった。
「落ちろ!」
そう叫ぶものの、アルバート達の乗るアレースに致命打を与えることもできなかった。むしろ動きが徐々によくなっていくアレース達に苛立ちを隠せなかった。
*
なんとか射程距離まで近づくことが出来たアルバートとエマソンはギデオン三機の部隊をなんとか相手にしていた。
『少佐! 上!』
エマソンの言葉にアルバートは即座にアレースのプラズマサーベルを引き抜く。そして上に突き立てる。
接近戦を仕掛けたギデオンの一機はそれを躱しきることが出来ず、深々とプラズマサーベルが突き刺さっていた。
「これで一機! 後は一人一機ずつですね。」
『分かりました。一機は押さえますからもう一機は倒してくださいね。』
「もちろんです。」
そう肯定しながらもアルバートは目の前の敵をどうするか考える。
彼が今相対しているギデオンは明らかに他のギデオンよりも高性能であった。それ
は分かっていた。だからこそ次の一手をと思う。ただそれは思い浮かばなかった。
「方法は無いか。」
いや、もう既に戦う方法はあった。後は自分がそれを出来るか試してみるだけだった。
「昔の俺は出来ていたんだ。今の俺に出来ないわけがない。」
今まで練習はしていた。ただうまくいかなかった。記憶を失う前のアルバートがよく行っていた機体の限界まで能力を引き出す戦い方。
シミュレーションではうまくいったことは一度も無かった。
エミリアにも何度もその戦い方は辞めた方がいいとも言われた。それでもやってみる価値があると思った。
アレースのメインブースターの出力を上げていく。機体の動きは徐々に不安定になる。それを強引にサブスラスターで制御していく。
その結果連合国の新型機になんとかついていくことは出来ていた。しかし機体の安定性はとうに失っていた。
いつもより操縦を慎重に行う。その結果攻撃が覚束無いものとなるが、気にする余裕は無かった。
かつての自分ほどの力があれば良かったのにと何回も思う。
「だけど、ここは!」
譲れない意地があった。その意地のみで目の前の機体に食らいついていく。最初は届かないと思っていた攻撃も徐々に当たるようになる。その感触に高揚感を覚えながらもアルバートは目の前の機体に攻撃を当てていく。
その動きはかつての彼の動きとは違うものの、明らかに今までよりも一つ上の段階に進んでいた。
ギデオンの部隊を撃墜することは出来なかったが、完全に抑え込んでいた。
目の前の敵に集中する。
動きに癖は無いか、どこかに弱点はないか。
なにか隙はないのかと、目の前を見続ける。
機体はついてくる。まだいける。
「ここまで来て、負けてたまるか! 俺は!」
アルバートは今までの劣等感を払拭すべく戦った。
『ここまで出来れば上出来よ、デグレア少佐。』
エミリアのその声とともに、彼女のアレースが狙撃を行っていた。その一発はギデオンの脆くなっていた装甲を貫く。そのままラウダが乗っていたギデオンは力を失ったようにブースタの出力を落としていった。そしてその数瞬後に爆発を起こした。
*
「第七エリアの部隊から砲撃を!」
『分かりました。』
エミリアは司令部に対し指示を出し、連合国への侵攻が有利な状況で戦えるように戦線を整える。
当初百機を誇っていた帝国軍の部隊の数は二割ほど減少していた。
「これを倒せれば……。敵の前線突破も容易に!」
エミリアは結局これでは今までみたいにアルバートに頼りっぱなしだと思いながらも戦いに勝つことだけを考えていた。
ライフルをギデオンに対してひたすらに撃つ。
徐々に削られてきた装甲から内部のケーブルを確認する。
『大佐!』
「分かっている!」
エミリアはアルバートの言葉より先にプラズマサーベルを引き抜くと露出したケーブルに突き刺す。
それによって装甲内部から小規模な爆発が起こり、より大きく装甲内部のケーブルが露出する。
「これで!」
エミリアは大きく露出したジェネレータに直結されているケーブルを破壊する。
それによってギデオンの部隊を殲滅した。
「これで後は連邦と協力して敵部隊を!」
エミリアが連合国の残存部隊に更に攻撃をしようとした時だった。
『アークウィン大佐! 撤退してください!』
コンゴウから緊急通信が来る。
「なにがあった!」
『連邦が敵艦隊を撃破したのですが、それと同時に敵遠方からの攻撃を受けています!』
「了解、各機撤退をしろ!」
エミリアは自分の部隊に対して撤退の指示を出しながらも、遠距離からの攻撃に慌てて撤退をしている連邦軍の部隊を見る。
「どこから?」
攻撃している方角は分かってはいたので、エミリアはすぐにその方向のカメラを確認する。するとかなり遠くで黒煙が上がっているのを確認する。しかしその黒煙と攻撃をしている物体の大きさがほぼ同じことに気づく。
「あの大きさは一体?」
エミリアはコンピュータで計算させながらも、その大きさを頭の中ではじき出す。
「やっぱりkm単位での大きさか。」
その表情は苦々しいものであった。
「破壊するのに、面倒なものを……。」
*
「全機、急いで撤退をするんだ!」
アイン・ダールは遠距離からの攻撃にどうすることも出来ず、撤退の指示を出す。しかし、遠方から放たれる砲弾にランダムにウルなどが撃墜されていく。
「この距離で直撃させることができる敵など……。」
『大佐! 敵の新型機がこちらに一機接近してきます!』
アインはその言葉に目を大きく見開く。
「これ以上、撤退を遅らせるわけには……。」
その場でどうすることがこの場で最適なのかを考える。
「アース少佐。撤退の指揮を頼む。ここは私が当たる。」
『ですが……! いえ、了解しました。』
アインとずっと一緒に戦ってきたアズリトだからこそ、彼と今共に戦ったところで足手まといにしかならないことをすぐに理解する。
『死なないでくださいね、大佐。』
「分かっています。敵射程から離れたら教えてください。それに合わせて撤退をします。」
アインはそれだけ言うと接近してくる敵に向かえ撃つ形で攻撃を始める。
「やはりこの機体は天使シリーズに準じる機体か。」
高い移動速度を誇っている目の前の機体を冷静に分析する。同時に外部からの情報をとにかく収集する。機体のデザインは白色、所持している武装はライフルとシールドといった一般的なものであることを確認する。
「武装はオーソドックスなものか。」
だとすればまだやりようはあると感じる。
「アルバートの真似事などしたくもないが。」
アインはそれだけ言うと目の前にいる連合軍の新型機を相手に戦闘を挑んだ。
*
「作戦は失敗か。」
母艦であるコンゴウに着艦したエミリアはため息を吐く。今回ばかりはどうしようもないものではあった。
高性能な新型機ギデオンとアインが戦った新型機、そして遠距離からキャスターの装甲を破壊可能な要塞。連合の戦力として当初予定すらしていなかったものだった。それを踏まえれば今回の結果はまぁ許されるだろうという判断はあった。
今エミリアが危惧していたのはそういう類のものではなく、今後更に戦火が大きくなっていくことに対してであった。
「あんな新型機が量産されているとなれば、いくら帝国と連邦が協力しても……。」
大きな被害が出るだろうし、下手すれば敗北する。
その考えが否定できなかった。
それだけは避けなければいけないのは分かっていた。
「どうしたものか……。」
その答えは考えてもなにひとつ出なかった。
『デグレア少佐、大丈夫そうですか?』
同じ部隊に所属しているエマソン・エチュートからの何回目かの言葉にアルバートは顔を上げた。
「はい。問題ありません。」
緊張を悟られないように平静な声を出す。それが寧ろ緊張している証拠だと、エマソンは数年来に及ぶ付き合いから感じていたがあえて口には出さない。それが彼女なりの気の使い方だった。
『別に緊張するなとか言う気は無いです。ただ流れ弾には気をつけてくださいね。アレースの装甲であれば敵からの攻撃はなんともありませんが、味方からの攻撃だとどうなるか分からないので。』
エマソンの言葉は半分冗談であったが、もう半分は本気だった。実際に以前の戦争でアルバートは味方から攻撃をされていたこともあった。だからこその言葉でもあった。そしてアルバートが理解する以上にエマソンは自分の気を引き締め直す。
「流れ弾に気をつけると。」
一方でアルバートはエマソンの意図を汲み取っていなかった。そして言葉の意味通りの意図で受け取った。特に味方からの流れ弾で撃墜など目も当てられない事態になることは明らかなので、とにかく祈るほか無かった。
『敵部隊、四百機を確認。大隊各機、敵部隊の排除を行うぞ。だが場所が場所だ。街の中にはあまり落とすなよ!』
親衛隊と他の部隊を組み合わせた一個大隊を率いたエミリア・アークウィンからの指示にアルバートはアレースのセーフティを解除する。
そして連合国の主力キャスターであるエイノールの一機に照準を合わせトリガーに指をかける。
『全機攻撃開始!』
その言葉に合わせて、帝国軍のキャスター部隊は敵の射程圏外から一斉にライフルを発射する。
その矛先には前方に爆炎が上がる。同時に帝国軍部隊はエネルギーがライフルに充填されたのを確認し、再度目標を定め撃つ。
遠距離からの一方的な攻撃が十回ほど繰り返されたところでエイノールはようやく帝国軍のキャスターを射程圏内に捕える。ただしその頃には十分の一以下に減っていた。
しかしそんな一方的な状況は終わりだとばかりにエイノールは実弾のライフルを撃つ。しかしその攻撃はアルバート達の乗るアレースや帝国軍の主力部隊であるクロノスの部隊に有効な攻撃となることは無くそのままエネルギーライフルの斉射でどんどんと数が減っていく。この一方的な戦況によって帝国軍の優位性は揺らぐことがないほどに絶対的になっていた。
思ったよりなにもなくアルバートは拍子抜けする。
「奪取した機体は首都攻略まで温存する気か?」
アルバートは訝しみながらも更に攻撃をしようとした時だった。
『前方より敵新型機三機が接近。その後方からエイノール及び旧世代機のナメルの混合部隊六百機を確認。』
指揮官機としてセンサーを強化されているエミリアの機体が新しい部隊を発見する。
「戦力が減って敵が焦った? あるいはなにか他に目的が?」
『その中に紛れて新型機が三機接近、これにはデグレア少佐とエチュート大尉が当たれ。」
「了解です。」
『全機ブリーフィング通りに分かれて作戦を開始。』
アルバートはエマソンの機体の後ろに着くと一緒に行動する。
「分隊で行動するなんて珍しいですね。」
『今接近している機体の速度が速すぎるのよ。現行の主力キャスターの速度どころか新型機よりも。』
エマソンもそう言っていた時だった。正面から太い筋が来る。
それを二人はバレルロールしながら回避する。
「敵との距離は?」
アルバートは狙撃した機体を探すが、レーダに反応は無かった。
『敵はこちらの射程圏外から攻撃をしていますね。』
「つまり近づかなければなにもできないということですか。」
『そうです。だからブースターの消費を抑えながら接近するしかないですが……!』
エマソンは敵からの遠距離攻撃をギリギリで回避する。
それと同時にアルバートのアレースにも敵の様子が表示される。アルバートは敵からの攻撃を慎重に回避すると距離を詰めていく。接近して漸く勝てる見込みがある、分が悪い賭けであった。
*
「倒してもキリがないか。」
エニシエト連邦辺境伯であるエフゲニー・バラノフの義息であるアイン・バラノフは三十機目のエイノールを切り伏せる。しかし乗っている機体が普段の超高性能機である天使シリーズの一機、ガブリエルではないため戦い辛くはあった。そのせいか、普段に比べて部隊の陣形も思いどおりにはいかないものの、作戦自体は順調に進んでいた。
「他の機体も特に大きな損傷はなさそうですね。」
『このまま何事もなく終わればいいですけど。』
「特になにもないと思いますよ。向こうの方も順調に事が進んでいるようだし。」
アインはそう言ってアルバート達の戦いを遠方からであるが確認する。
「向こうの方に新型機が回ったみたいですね。」
アインはそう言って一度だけレーダに目を落とす。
目の前の艦隊に対してどうしたら勝てるのか考える。
『じゃあ私たちはこのまま敵艦隊を攻撃する?』
「まぁ、彼等なら支援は要らないでしょうしそれでいいでしょう。」
アインはそれだけ言うと直進する。
「自分が敵艦隊を叩きます。」
『一機で大丈夫?』
「問題ありません。メルジアの最高速力なら敵艦隊もロックすら出来ないでしょうし。」
スラスターのペダルを踏み、機体を一気に加速させる。
そして部隊から離れると敵母艦を視認する。旧世代の艦艇であれば現行のキャスターを捕捉することは出来ない。後は突破するだけだと機体を更に前に進めた。
*
「なんで落ちないのよ!」
連合国の新型機であるギデオンに乗っていたラウダは苛立ちを露にする。ギデオンは明らかに自分たちが奪取した帝国の新型機の一機であるフォルセティよりも性能は高かった。
それは応答性からも明らかであった。にも関わらず目の前にいる二機のアレースに対し三機で当たっても勝てなかった。
戦況自体は彼女たちに優勢ではあった。それでも押し込むことが出来なかった。
その原因は明らかに三機の連携が取れていなかったからであるが、そのことを隊長としての経験が無い彼女に判断することは出来なかった。
「アドハムと約束したのに。」
このまま無駄死にをすることだけは出来ない。私が目の前のこの機体を撃破して、連合国が戦争に勝てば後はアドハムが変えてくれる。
そう信じられるほどのカリスマ性が彼にはあった。
「落ちろ!」
そう叫ぶものの、アルバート達の乗るアレースに致命打を与えることもできなかった。むしろ動きが徐々によくなっていくアレース達に苛立ちを隠せなかった。
*
なんとか射程距離まで近づくことが出来たアルバートとエマソンはギデオン三機の部隊をなんとか相手にしていた。
『少佐! 上!』
エマソンの言葉にアルバートは即座にアレースのプラズマサーベルを引き抜く。そして上に突き立てる。
接近戦を仕掛けたギデオンの一機はそれを躱しきることが出来ず、深々とプラズマサーベルが突き刺さっていた。
「これで一機! 後は一人一機ずつですね。」
『分かりました。一機は押さえますからもう一機は倒してくださいね。』
「もちろんです。」
そう肯定しながらもアルバートは目の前の敵をどうするか考える。
彼が今相対しているギデオンは明らかに他のギデオンよりも高性能であった。それ
は分かっていた。だからこそ次の一手をと思う。ただそれは思い浮かばなかった。
「方法は無いか。」
いや、もう既に戦う方法はあった。後は自分がそれを出来るか試してみるだけだった。
「昔の俺は出来ていたんだ。今の俺に出来ないわけがない。」
今まで練習はしていた。ただうまくいかなかった。記憶を失う前のアルバートがよく行っていた機体の限界まで能力を引き出す戦い方。
シミュレーションではうまくいったことは一度も無かった。
エミリアにも何度もその戦い方は辞めた方がいいとも言われた。それでもやってみる価値があると思った。
アレースのメインブースターの出力を上げていく。機体の動きは徐々に不安定になる。それを強引にサブスラスターで制御していく。
その結果連合国の新型機になんとかついていくことは出来ていた。しかし機体の安定性はとうに失っていた。
いつもより操縦を慎重に行う。その結果攻撃が覚束無いものとなるが、気にする余裕は無かった。
かつての自分ほどの力があれば良かったのにと何回も思う。
「だけど、ここは!」
譲れない意地があった。その意地のみで目の前の機体に食らいついていく。最初は届かないと思っていた攻撃も徐々に当たるようになる。その感触に高揚感を覚えながらもアルバートは目の前の機体に攻撃を当てていく。
その動きはかつての彼の動きとは違うものの、明らかに今までよりも一つ上の段階に進んでいた。
ギデオンの部隊を撃墜することは出来なかったが、完全に抑え込んでいた。
目の前の敵に集中する。
動きに癖は無いか、どこかに弱点はないか。
なにか隙はないのかと、目の前を見続ける。
機体はついてくる。まだいける。
「ここまで来て、負けてたまるか! 俺は!」
アルバートは今までの劣等感を払拭すべく戦った。
『ここまで出来れば上出来よ、デグレア少佐。』
エミリアのその声とともに、彼女のアレースが狙撃を行っていた。その一発はギデオンの脆くなっていた装甲を貫く。そのままラウダが乗っていたギデオンは力を失ったようにブースタの出力を落としていった。そしてその数瞬後に爆発を起こした。
*
「第七エリアの部隊から砲撃を!」
『分かりました。』
エミリアは司令部に対し指示を出し、連合国への侵攻が有利な状況で戦えるように戦線を整える。
当初百機を誇っていた帝国軍の部隊の数は二割ほど減少していた。
「これを倒せれば……。敵の前線突破も容易に!」
エミリアは結局これでは今までみたいにアルバートに頼りっぱなしだと思いながらも戦いに勝つことだけを考えていた。
ライフルをギデオンに対してひたすらに撃つ。
徐々に削られてきた装甲から内部のケーブルを確認する。
『大佐!』
「分かっている!」
エミリアはアルバートの言葉より先にプラズマサーベルを引き抜くと露出したケーブルに突き刺す。
それによって装甲内部から小規模な爆発が起こり、より大きく装甲内部のケーブルが露出する。
「これで!」
エミリアは大きく露出したジェネレータに直結されているケーブルを破壊する。
それによってギデオンの部隊を殲滅した。
「これで後は連邦と協力して敵部隊を!」
エミリアが連合国の残存部隊に更に攻撃をしようとした時だった。
『アークウィン大佐! 撤退してください!』
コンゴウから緊急通信が来る。
「なにがあった!」
『連邦が敵艦隊を撃破したのですが、それと同時に敵遠方からの攻撃を受けています!』
「了解、各機撤退をしろ!」
エミリアは自分の部隊に対して撤退の指示を出しながらも、遠距離からの攻撃に慌てて撤退をしている連邦軍の部隊を見る。
「どこから?」
攻撃している方角は分かってはいたので、エミリアはすぐにその方向のカメラを確認する。するとかなり遠くで黒煙が上がっているのを確認する。しかしその黒煙と攻撃をしている物体の大きさがほぼ同じことに気づく。
「あの大きさは一体?」
エミリアはコンピュータで計算させながらも、その大きさを頭の中ではじき出す。
「やっぱりkm単位での大きさか。」
その表情は苦々しいものであった。
「破壊するのに、面倒なものを……。」
*
「全機、急いで撤退をするんだ!」
アイン・ダールは遠距離からの攻撃にどうすることも出来ず、撤退の指示を出す。しかし、遠方から放たれる砲弾にランダムにウルなどが撃墜されていく。
「この距離で直撃させることができる敵など……。」
『大佐! 敵の新型機がこちらに一機接近してきます!』
アインはその言葉に目を大きく見開く。
「これ以上、撤退を遅らせるわけには……。」
その場でどうすることがこの場で最適なのかを考える。
「アース少佐。撤退の指揮を頼む。ここは私が当たる。」
『ですが……! いえ、了解しました。』
アインとずっと一緒に戦ってきたアズリトだからこそ、彼と今共に戦ったところで足手まといにしかならないことをすぐに理解する。
『死なないでくださいね、大佐。』
「分かっています。敵射程から離れたら教えてください。それに合わせて撤退をします。」
アインはそれだけ言うと接近してくる敵に向かえ撃つ形で攻撃を始める。
「やはりこの機体は天使シリーズに準じる機体か。」
高い移動速度を誇っている目の前の機体を冷静に分析する。同時に外部からの情報をとにかく収集する。機体のデザインは白色、所持している武装はライフルとシールドといった一般的なものであることを確認する。
「武装はオーソドックスなものか。」
だとすればまだやりようはあると感じる。
「アルバートの真似事などしたくもないが。」
アインはそれだけ言うと目の前にいる連合軍の新型機を相手に戦闘を挑んだ。
*
「作戦は失敗か。」
母艦であるコンゴウに着艦したエミリアはため息を吐く。今回ばかりはどうしようもないものではあった。
高性能な新型機ギデオンとアインが戦った新型機、そして遠距離からキャスターの装甲を破壊可能な要塞。連合の戦力として当初予定すらしていなかったものだった。それを踏まえれば今回の結果はまぁ許されるだろうという判断はあった。
今エミリアが危惧していたのはそういう類のものではなく、今後更に戦火が大きくなっていくことに対してであった。
「あんな新型機が量産されているとなれば、いくら帝国と連邦が協力しても……。」
大きな被害が出るだろうし、下手すれば敗北する。
その考えが否定できなかった。
それだけは避けなければいけないのは分かっていた。
「どうしたものか……。」
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