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第0章 始まりの戦い
第七話 入隊初日
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「アークウィン少尉、デグレア准尉。貴官らは本来であればもう少し勉強してからパイロットになるべきだが、状況が状況のため仕方あるまい。貴官らにはこれから親衛隊の隊員となって任務に当たってもらう。」
入隊初日、エミリアとアルバートは入隊時に本来受けるべき訓練を飛ばして部隊配属となっていた。ただ軍事行動をするのに必要な訓練は幼年学校で修了しているため、無くても問題ないものであった。
「親衛隊といっても基本的には普通の部隊のように作戦行動を行う。実際今も新しい任務が与えられている。そのため、貴官らがすぐに出れるように訓練する。十分後にパイロットスーツに着替えて二人ともここに集合するように。解散!」
「ありがとうございます!」
それから五時間、アルバートとエミリアの二人をキツイしごきが待っていた。
*
「疲れたな……、エミリア。」
「そう……ね。」
入隊初日からキツイ訓練をエミリアと受けたアルバートは彼女に肩を貸しながらなんとか部屋まで歩いていた。
「エミリア、自分で歩けない?」
「いや、流石に無理。」
エミリアの言葉にため息をつくと、再び彼女の身体を支えながら引き摺る。
ただ如何せん重い。人の体などどんなに頑張っても40後半は行く。エミリアの体重が何キロかなんて聞いたことも無いが、感覚的には五十キロは超えていると思う。それに加えてエミリアのが身長が高いのもあり、心理的にも余計に辛かった。
「結構膝に来るな。」
ゼェゼェと息を吐きながらなんとかエミリアを運んでいたときだった。
「なにをやっているんですか?」
意識が朦朧としており、目もチカチカしてよく見えないが声から女性だと判断する。
「なにってエミ……アークウィン少尉がもう歩けないって言うから運んで……。」
「それでそんなにベタベタ触っていると。何様のつもりですか?」
「仲間ですよ……。」
「仲間? あぁそういうことか。じゃああなたがデグレア准尉ですか?」
女性は一人で合点がいったという声を出すと今度はアルバートにそう尋ねた。
「はい。」
「失礼しました。私はエマソン・エチュード少佐です。あなたやエミリア様と同じく親衛隊の一員となります。手伝いましょうか?」
「お願いしてもいいですか?」
アルバートは嬉しそうに言う。それがエマソンには不満だった。一応エミリアから彼のことは散々聞いてた。それこそ幼年学校に入ってすぐの頃に面白い男の子がいるといってたときから嫌な予感がしていた。その後あれよあれよという間に彼氏が出来たと言っていた。
それがアルバートだった。
幼少期から彼女の面倒を見て実の妹のように可愛がっていたエマソンにとって彼は対面前から印象はあまりよくない。別に人物的に優れていないからとかそういう理由ではなく、エミリアと付き合っているのがエマソンには気に食わなかった。
そういう意味では将来エミリアの結婚相手が出来たらエマソンは一回くらいならその相手を殴ってもいいんじゃないかと考えていた。それほどまでに彼女はエミリアを崇拝していた。
「右から支えますね。」
エマソンはエミリアの右側に立つと彼女の身体に手を回す。彼女がしっかりとエミリアを支えたことを確認するとアルバートはエミリアを支えていた手を放し、その場に座り込んだ。
「ここで座り込まないで部屋に戻ってください。というかなんで二人ともこんなに疲れ果てているんですか?」
「エイブラウ大佐の訓練ですね。」
「そういうことですか。」
エマソンは全てが納得いった。
パイロットの極限の状態を見た上での行動パターンを把握していたのだろうと。
これでエミリア達を作戦に出すかどうか決めるんだろうなと彼女はその結果がどうなるか気になりながらエミリアの部屋までアルバートと一緒に向かったのだった。
*
「アーレイ基地の奪還とマリノアス基地の占領に向けたキャスターの部隊編成か。」
ブライムはもう何杯目か分からないコーヒーに口をつける。
方針は決まった。後はやるだけだと自分を鼓舞する。
部屋にコール音が響く。親衛隊の副隊長にしてブライムの副官であるエマソンであった。
「失礼します。」
部屋に入ってきた彼女にブライムは手に顎をのせたまま質問をする。
「悪いな、急に呼び出して。今呼んだのは少し相談したいことがあったからだ。私の小隊に二人新入りを入れ、二人を別の小隊に配備することについてどう思う。」
その質問にエマソンはあのことかと思う。
「そうですね。不可能ではないかと思いますが人員に余裕があるのならやはり五人で一つの部隊にするのが良いかと思います。」
恐らくここまではブライムは分かっているのだとエマソンは思う。
しかしそうでないということは人数が足りていないということなので一個小隊が定数通りの四機で動く可能性が高いということだ。
「じゃあ単刀直入に聞こう。俺と中尉の二人でエミリア様とアルバートの面倒を見ることは可能か。」
「限界状態での適性を確認したのですか?」
「あぁ。模擬戦ではあるが、データとしては充分に戦える。そう判断をした。二人とも特にあせるとかいうことも無かったしな。もしこれが無理そうな結果だったら遠慮なく今回の作戦から外せたのだが、それも出木なさそうなくらいのいい成績だった。」
だから悩んでいたのかとエマソンは思う。
模擬戦のデータである程度の能力は把握できる。そしてその判断をブライムがしたというのが更に重要なことであった。
「不可能ではないと思います。私としてもエミリア様と二機で分隊組みたいですし。」
「貴官は相変わらずだな。」
ブライムはそう笑うが心は決まった。
「指揮権については司令に完全に一任するのが良いかと。」
「司令か。司令なぁ。」
ブライムはそう考えるようにつぶやく。
「そうか、でも基本的なことは向こうに任せてしまえばいいか。ならば行けなくもないな。」
そう小声で何かを言っているのがエマソンには聞こえなかったが次に顔を上げた時にはすっきりしたかのような顔だった。
「ありがとう中尉。」
「いえ、自分は大したことはしていません。要件はそれだけですか? 私はエミリア様のところに用があるので。」
「あぁ構わない。」
エマソンはそれだけ言うと部屋を後にする。ブライムは彼女を見送ると椅子の背もたれに全体重をかけて伸びをする。
「さてと久しぶりに本気で作戦を考えるか。」
一度あくびをして姿勢を正し再びコーヒーカップに口をつける。
「あっつ!」
思ったよりも冷めていないコーヒーの温度に驚き、先程まで少し感じていた眠気が消えた。
*
イルキア基地司令室でブライムはオズワルド・アークウィンに作戦の説明をしていた。
「本当にこれだけの人数でいけるのか?」
オズワルド・アークウィンの問いかけにブライムは毅然とした態度で答える。
「はい。恐らくアーレイ基地奪還にはこのくらいの人数でいいかと思われます。まだあくまで局地戦ですから向こうもそんなに戦力を出してくるとは考えづらいですし。それにあまり多くの部隊をここから出して攻め込まれたら元も子もないので。」
「だが娘に何かあった場合、分かっているな。」
ブライムはそんなことは百も承知であった。だが子を持つ親としてはこの心配もまた当然なものだろうと判断する。
「はい。それについては自分とエチュート中尉が責任を持って対処させていただきます。」
「分かっているだろうな? アレニスの息子より優先すべきことだということは。」
「重々承知しています。」
「分かった。これで行こう。」
少しの間それについてオズワルドは考えるがゆっくりと頷いた。
入隊初日、エミリアとアルバートは入隊時に本来受けるべき訓練を飛ばして部隊配属となっていた。ただ軍事行動をするのに必要な訓練は幼年学校で修了しているため、無くても問題ないものであった。
「親衛隊といっても基本的には普通の部隊のように作戦行動を行う。実際今も新しい任務が与えられている。そのため、貴官らがすぐに出れるように訓練する。十分後にパイロットスーツに着替えて二人ともここに集合するように。解散!」
「ありがとうございます!」
それから五時間、アルバートとエミリアの二人をキツイしごきが待っていた。
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「疲れたな……、エミリア。」
「そう……ね。」
入隊初日からキツイ訓練をエミリアと受けたアルバートは彼女に肩を貸しながらなんとか部屋まで歩いていた。
「エミリア、自分で歩けない?」
「いや、流石に無理。」
エミリアの言葉にため息をつくと、再び彼女の身体を支えながら引き摺る。
ただ如何せん重い。人の体などどんなに頑張っても40後半は行く。エミリアの体重が何キロかなんて聞いたことも無いが、感覚的には五十キロは超えていると思う。それに加えてエミリアのが身長が高いのもあり、心理的にも余計に辛かった。
「結構膝に来るな。」
ゼェゼェと息を吐きながらなんとかエミリアを運んでいたときだった。
「なにをやっているんですか?」
意識が朦朧としており、目もチカチカしてよく見えないが声から女性だと判断する。
「なにってエミ……アークウィン少尉がもう歩けないって言うから運んで……。」
「それでそんなにベタベタ触っていると。何様のつもりですか?」
「仲間ですよ……。」
「仲間? あぁそういうことか。じゃああなたがデグレア准尉ですか?」
女性は一人で合点がいったという声を出すと今度はアルバートにそう尋ねた。
「はい。」
「失礼しました。私はエマソン・エチュード少佐です。あなたやエミリア様と同じく親衛隊の一員となります。手伝いましょうか?」
「お願いしてもいいですか?」
アルバートは嬉しそうに言う。それがエマソンには不満だった。一応エミリアから彼のことは散々聞いてた。それこそ幼年学校に入ってすぐの頃に面白い男の子がいるといってたときから嫌な予感がしていた。その後あれよあれよという間に彼氏が出来たと言っていた。
それがアルバートだった。
幼少期から彼女の面倒を見て実の妹のように可愛がっていたエマソンにとって彼は対面前から印象はあまりよくない。別に人物的に優れていないからとかそういう理由ではなく、エミリアと付き合っているのがエマソンには気に食わなかった。
そういう意味では将来エミリアの結婚相手が出来たらエマソンは一回くらいならその相手を殴ってもいいんじゃないかと考えていた。それほどまでに彼女はエミリアを崇拝していた。
「右から支えますね。」
エマソンはエミリアの右側に立つと彼女の身体に手を回す。彼女がしっかりとエミリアを支えたことを確認するとアルバートはエミリアを支えていた手を放し、その場に座り込んだ。
「ここで座り込まないで部屋に戻ってください。というかなんで二人ともこんなに疲れ果てているんですか?」
「エイブラウ大佐の訓練ですね。」
「そういうことですか。」
エマソンは全てが納得いった。
パイロットの極限の状態を見た上での行動パターンを把握していたのだろうと。
これでエミリア達を作戦に出すかどうか決めるんだろうなと彼女はその結果がどうなるか気になりながらエミリアの部屋までアルバートと一緒に向かったのだった。
*
「アーレイ基地の奪還とマリノアス基地の占領に向けたキャスターの部隊編成か。」
ブライムはもう何杯目か分からないコーヒーに口をつける。
方針は決まった。後はやるだけだと自分を鼓舞する。
部屋にコール音が響く。親衛隊の副隊長にしてブライムの副官であるエマソンであった。
「失礼します。」
部屋に入ってきた彼女にブライムは手に顎をのせたまま質問をする。
「悪いな、急に呼び出して。今呼んだのは少し相談したいことがあったからだ。私の小隊に二人新入りを入れ、二人を別の小隊に配備することについてどう思う。」
その質問にエマソンはあのことかと思う。
「そうですね。不可能ではないかと思いますが人員に余裕があるのならやはり五人で一つの部隊にするのが良いかと思います。」
恐らくここまではブライムは分かっているのだとエマソンは思う。
しかしそうでないということは人数が足りていないということなので一個小隊が定数通りの四機で動く可能性が高いということだ。
「じゃあ単刀直入に聞こう。俺と中尉の二人でエミリア様とアルバートの面倒を見ることは可能か。」
「限界状態での適性を確認したのですか?」
「あぁ。模擬戦ではあるが、データとしては充分に戦える。そう判断をした。二人とも特にあせるとかいうことも無かったしな。もしこれが無理そうな結果だったら遠慮なく今回の作戦から外せたのだが、それも出木なさそうなくらいのいい成績だった。」
だから悩んでいたのかとエマソンは思う。
模擬戦のデータである程度の能力は把握できる。そしてその判断をブライムがしたというのが更に重要なことであった。
「不可能ではないと思います。私としてもエミリア様と二機で分隊組みたいですし。」
「貴官は相変わらずだな。」
ブライムはそう笑うが心は決まった。
「指揮権については司令に完全に一任するのが良いかと。」
「司令か。司令なぁ。」
ブライムはそう考えるようにつぶやく。
「そうか、でも基本的なことは向こうに任せてしまえばいいか。ならば行けなくもないな。」
そう小声で何かを言っているのがエマソンには聞こえなかったが次に顔を上げた時にはすっきりしたかのような顔だった。
「ありがとう中尉。」
「いえ、自分は大したことはしていません。要件はそれだけですか? 私はエミリア様のところに用があるので。」
「あぁ構わない。」
エマソンはそれだけ言うと部屋を後にする。ブライムは彼女を見送ると椅子の背もたれに全体重をかけて伸びをする。
「さてと久しぶりに本気で作戦を考えるか。」
一度あくびをして姿勢を正し再びコーヒーカップに口をつける。
「あっつ!」
思ったよりも冷めていないコーヒーの温度に驚き、先程まで少し感じていた眠気が消えた。
*
イルキア基地司令室でブライムはオズワルド・アークウィンに作戦の説明をしていた。
「本当にこれだけの人数でいけるのか?」
オズワルド・アークウィンの問いかけにブライムは毅然とした態度で答える。
「はい。恐らくアーレイ基地奪還にはこのくらいの人数でいいかと思われます。まだあくまで局地戦ですから向こうもそんなに戦力を出してくるとは考えづらいですし。それにあまり多くの部隊をここから出して攻め込まれたら元も子もないので。」
「だが娘に何かあった場合、分かっているな。」
ブライムはそんなことは百も承知であった。だが子を持つ親としてはこの心配もまた当然なものだろうと判断する。
「はい。それについては自分とエチュート中尉が責任を持って対処させていただきます。」
「分かっているだろうな? アレニスの息子より優先すべきことだということは。」
「重々承知しています。」
「分かった。これで行こう。」
少しの間それについてオズワルドは考えるがゆっくりと頷いた。
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