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第0章 始まりの戦い

第二十三話 過去

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「度々呼び出して悪いな少尉。」

ブライム・エイブラウは自室にアルバートを呼び出していた。

「実はな、アークウィン少佐から分隊のメンバーを変えてほしいという申し出があった。」
「やっぱりそうなりますか。」
「貴官もそう思うか。」

 ブライムは大きくため息をついた。やっぱりアルバートとエミリア、二人で立てた手柄を彼女一人のものにするのは失敗だったかという後悔を今更する。せめてもう少し耐えてほしいというのが本音だった。

「それで相談というのは彼女の意思を変えてほしいということですか?」
「あぁ。もし変えなければ隊を別にしてもらうと。」

 流石にそれは笑えない状況だという感じでブライムは言う。

「変えろと言われても……。多分今のアークウィン少佐の状態だと泣きおどししか通用しないのであまりやりたくありません。」
「そうか。」

 泣きおどししたことがあるのかとブライムは思うがなにも言うことはしなかった。

「それに流石にそこまで従う気にはなれませんし。」
「やっぱりそうだろうな。もし俺が少尉の立場でもそうする。だがこれはアークウィン中将の意向でもある。」
「そうでしょうね。」
「そして少尉もあいつには気をつけたほうがいい。」

 ブライムが自分の上司でもあるオズワルドのことをあいつと言ったことをアルバートは怪訝に思う。

「どういう意味ですか?」
「俺はアレニス・デグレア大佐が死んだのはあいつのせいだと俺は睨んでいる。」

 急に出てきた父親の名前にアルバートは余計に怪訝そうな顔をする。

「俺の昔の話だ。そしてこれから先に生きていくうえで少尉にとって役に立つかもしれないことだ。」
「役に立つ?」

その言葉にアルバートは素直な疑問が口から出ていた。

「今から十三年前の戦争で俺が所属していた部隊は、親衛隊隊長を退いたアレニス・デグレア大佐が隊長をしていた。その部隊にはオリバー・パトン中佐もいた。」

 アルバートはその名前から誤射をされたり、尋問を受けた嫌な記憶を思い出す。

「まだ士官学校を卒業して間もなかった俺と中佐がいたからか最初はあまり激しい戦線には出されなかった。しかし戦争は徐々に泥沼化していき、最後の方には俺たちも過酷な前線に出ることになった。そして作戦名フォーリンゴッド作戦。その作戦がが様々なものを変えた。」
「フォーリンゴッド作戦?」
「あぁ。ロンギヌスの槍って分かるか?」
「はい。衛星軌道上から地上に向かってタングステン製の金属棒を落す攻撃兵器ですよね? 言うならば人工隕石みたいな。」
「そうだ。それを扱っている宇宙要塞ヘズ、それを落とすための作戦だ。」

 神を陥落するからフォーリンゴッドかとアルバートは少し納得をした。

「因みにだがその作戦で今の連邦の七家門であるバラノフ家当主エフゲニー・バラノフと、同じく連邦七家門の一つであるベッソノワの息子、フィリップ・ベッソノワとかと戦ったがそれはまぁいいか。」

そういえばあの島であったパイロットもベッソノワだったなと考える。

「そこで何かあったのですか?」

だがすぐにこの話がどこに帰着するか分からないのでアルバートも聞く。

「その作戦で連邦の部隊と戦っていた俺たちは味方に核による攻撃をされた。そして俺とパトン中佐を守るために大佐は死んだ。」
「なぜ、味方から攻撃を?」
「前の大戦では戦争の長期化による魔術師の排斥運動が起こったんだ。」

アルバートもそのことは覚えていた。人類解放戦線という名の団体が戦争を起こしている原因は魔術師だとして糾弾しだした。
そのとき迫害されたのはアルバートも同じだった。またそれが原因で現在帝国でも連邦でも基本的に魔術師と非魔術師は隔離されていた。

「知っているとは思うがその排斥運動には帝国・連邦の両政府も参加していた。」
「そうでしょうね。基本的に官僚は非魔術師から選ばれますから。」
「そこは昔から変わらない帝国・連邦双方の歪んだシステムだからな。」
「それにしてもなぜ政府が関係あるのですか?」
「帝国政府は国直轄部隊である行政局特殊部隊にある命令を出した。連邦と協力し、連邦七家門、帝国七家門を排除しろという命令だった。そしてその命令通り俺たちがアルクニドで戦闘をしているとき核が撃ち込まれた。恐らくターゲットはバラノフとフィリップ・ベッソノワだろう。」

ここでブライムは一度言葉を区切る。

「このとき誰があの場所に俺たちの部隊を送り込んだのか、正確な情報は分からない。だが俺はオズワルド・アークウィンが怪しいと感じている。」
「そういえば先程父が親衛隊から退いたと言っていましたよね?」
「そうだ。普通は親衛隊の隊長を退くのと同時にパイロットとして退役する。だが、デグレア大佐が退いたのはあいつといざこざがあったことが原因だとは聞いている。」
「なにでいざこざがあったのですか?」
「流石にそこまでは分からなかった。たが恐らく非魔術師団体に対する立場の違いだろうな。排除すべきか放置すべきか。」
「父は排除すべきという立場だったと。」
「あぁ。逆に今いる上層部は放置すべきという立場だな。じゃなければ今のような状況が許されるとは思えないしな。」
「そうですか。」

 ブライムはそこまで言い終えると一旦コーヒーを飲む。

「そして少尉にはもう一つ話さなければならないことがある。今回はこちらが本題だ。」

ブライムがそういうのでアルバートも顔を引き締める。

「大尉が死んだときオズワルドはあることを言っていた。惜しい人材を亡くしたと。当時は白々しいがそのままの意味で私も考えていた。だが実際は違ったんだ。」

 ブライムはそう言ってアルバートにある写真を見せる。
 その写真を見ると映っていたのはある研究施設のようなものにカプセルだった。

「これは何ですか?」
「これは連邦のクローン人間の研究施設、いや少し違うな。クローンを元に遺伝子改造した兵士の研究開発施設、そして人体改造を行う施設だ。」

 それはアルバートには衝撃的な回答だった。

「つまり強化兵ということですか?」
「そんなところだ。少尉は前の大戦が始まった原因を知っているか?」
「連邦のキャスターが帝国側に攻撃を仕掛けたことしか知りませんが。」
「そのキャスターについてはやはり知らないか。」
「はい。ですがそのキャスターとなにか関係があるのですか?」
「そうだ。初期型のキャスターは数百年前に作れられたもので多量の魔力を必要とした。しかしその魔力が十分に供給されれば今のキャスターの性能を優に超える。だがどうしても適性のないパイロットの魔力では足りない、かといってパイロットを二入にしても魔力は反発して魔力の供給量が低くなってしまう。そして問題を起こした機体にはデザイナーベイビーではなく、人体改造を行ったパイロットが乗っていた。」
「そのパイロットがなにかしらの要因で攻撃を始めたと?」
「結果的にはそうだ。だがこの機体にはもっと重大な倫理違反があった。一人のパイロットに加えて一人の魔術師の脳をコクピットに組み込んだんだ。」
「そんなことをしたら。」
「当然人権問題になる。だから連邦は極秘裏にこの研究をしていた。だが結果的にこのキャスターが暴走してな。そしてそれに目を付けたのが帝国のアニクウェス家とアークウィン家だ。この二つの家は終戦時に完全降伏を申し入れない代わりにこの研究データの提供を要求した。そしてこの研究を行っていたバラノフ家はそれに賛同したというわけだ。そして君はその新しいパイロットとして狙われていることを覚えておいた方がいい。」

その唐突な言葉にアルバートは驚く。

「自分がですか?」
「そうだ。デグレア大尉がその初期型キャスターを操れるパイロットだったといえば大体は分かるだろう。」
「はい。ですが一つだけ疑問に思うのですが、帝国もまだ連邦と同じように初期型キャスターに執着していると?」
「そういうことだ。」
「ですがなんのためにそんなことを?」
「俺が思うにアークウィンとアニクウェスは恐らく初期型キャスターの改良版の登場と共にこの戦争を終わらせるはずだ。魔術師に勝てる兵器は無いということを世界に示した上でな。」

アルバートはそれに興味を持ったのか無言でそれを促す。

「そしてあいつらの目的は恐らく魔術師の地位向上だろう。キャスターによって核のように戦争を抑止する。そんなことをしても魔術師が社会から迫害されて終わりだと思うがな。」

ブライムはそんなの幻想だと吐き捨てるように冷たく言い放った。

「ですが自分には分からない気持でもありません。」
「そうだな。これに関しては人それぞれの考え方だ。だが理想と違って現実にはギャップがあることが多い。そしてそれは人数が多くなればなるほど複雑な要因が絡み合ってそして少尉、もし君がこれからも戦場に立つことになるのならそのうち立場をはっきりさせなえればならない時がある。そしてその時を見誤るな。でないと一生後悔することになるぞ。」

そうブライムはアルバートに警告するように言った。

「だからオズワルド・アークウィンには気をつけておけ、少尉。特に次の作戦は恐らく宇宙要塞ヘズ関連だろうしな。もしかしたらなにかしらの動きがあるのかもしれん。」



 アイン・ダールは宇宙要塞ヘズの廊下を気まずそうに歩いていた。

「バラノフ少佐、あまりダール少尉にベタベタしないでください。」
「それはアース少尉の方では?」

 同じ部隊の隊員であるアズリト・アースとヴィエント・バラノフがアインを巡って争っていた。
 普通であれば嬉しい状況なのであろうが、アインにとっては辛かった。

「あの、バラノフ少佐、アース少尉、そろそろ格納庫の前に着くんですが……。」

 その言葉に合わせて二人は機嫌が悪そうにそっぽを向いた。

「それにしても新型機ってなんなのでしょうね?」
「さぁ? ただ今までの訓練の傾向からすると多分天使シリーズかしらね。」

 ヴィエントは事も無げに言う。

「天使シリーズですか。」

 アインは初めての任務、天使シリーズの機体を奪取したときのことを思い出す。そして戦場で会った幼年学校の親友であるアルバートを思い出す。

(今の俺には関係ないことだ。)

 しかし、その顔が険しいものになっていることに気づいたヴィエントはアインの手を握る。

「中に入りましょう?」

 格納庫の中は既に明かりがついていた。そしてそこには三機の純白の機体が並んでいた。

「これが……。」
「そうだ。これがAN-1ミカエル、AN-2ガブリエル、 AN-3ラファエルだ。」

 アクタール基地司令官であり、ヴィエントの父でもあるエフゲニー・バラノフが機体名を述べた。

「君たちにはこの慣熟訓練を行ってもらった後に帝国への進攻作戦に参加してもらいたい。」

 バラノフはそう告げた。



「エミリア。」

 アルバートはエミリアに話しかけるが彼女に無視される。こんなに怒ったのは幼年学校でエミリアに告白する直前以来かと少し感傷に浸ってしまう。
 だけど、あのときと違い彼女に向き合うことは出来るようになっていた。

「ねぇ、ちょっとだけ話を……。」
「触らないで。」

 アルバートが彼女の肩に置いた手を振り払われてしまう。

「え?」

 エミリアの行動にアルバートは戸惑う。今までそんな反応をされたことは無かった。
 唖然とした表情をしているアルバートを一瞥することなく、エミリアはその場を去っていった。
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