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第0章 始まりの戦い
第二十八話
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「どこへ行くつもりだ、パトン中佐。」
ブライムは部隊から離れようとしていたオリバー・パトンの後を追った。
『いや、補給を受けに行こうかと。それよりも大佐こそいいんですか? 自分の仕事を放棄して。』
「だとしたら方向が違うと思うが。それにどうせ目的は違うだろうしな。なぜそこまでデグレア少尉を殺すことに拘る?」
『確かに俺は上からそういう指示を受けた。まぁ俺にはそんなこと関係ないことだが。』
ブライムはその言葉を聞いて訝しむ。同時にパトンに対して剣を向ける。
『今の俺とやりあうつもりか?』
「あぁ。今のお前を少尉の元に行かせるわけにはいかない。」
『そうか。まぁいい。どのみちお前はもう既に邪魔だしな。』
「それはどういう意味だ?」
『いつも周りに対して口出しばかりして何一つやろうとしない。そしていいところばかり持っていく。デグレア隊長が言っていた通りの人間だ。』
「なんだと?」
『まぁいい。この機体、ケルビムの練習相手になってもらう。』
パトンの乗る機体ケルビムがブライムのクロノスに照準を定める。
「ふざけたことを!」
まだ要塞の攻略を行っていないのにも関わらず、二機は戦闘を始めた。
*
「アース少佐は一旦下がってさい! こいつは! こいつだけは俺が!」
アインはボロボロになったアズリトのガブリエルにそう言うとアルバートのクロノスに突進する。
「アルバート! お前だけは!」
これは今までアルバートを撃つのをためらってきた自身の行動が引き起こした結果だと分かっていた。
「お前さえいなければ! 少佐は!」
ラファエルの加速力を生かしてアルバートの乗るクロノスを圧倒する。しかしクロノスもその動きになんとか対応をしていた。
*
「これほどまでとは!」
ブライムはクロノスでケルビムの攻撃を所々に受けていた。
「ここまで追い込まれるとは……。」
アルバートが同様の機体相手に善戦しているのを見て自分でも対処できると思っていた。
『お前には無理だよ、ブライム。天使シリーズへの適性もなく、パイロットとしての腕もたかが知れている。』
「ならばお前はその適性があると?」
『どうだかな。色々と調整はされたみたいだが。』
ブライムはその言葉に驚きながらも戦い続けた。
『だが、そんなことを必要とし続けている帝国は変えなければならないと思うがな。』
「まさか、貴様!」
『お前も色々と考えていたようだが、動くのが遅すぎだ。お前の居場所はもうない。』
「しまっ!」
ケルビムはエネルギーサーベルを引き抜くと、クロノスのコックピットを貫いた。
*
「アイン!」
アルバートはかつての友からの攻撃に対し、かなり押され気味であった。
『アルバート! お前さえいなければ!』
アインの言葉から察するに恐らくさっきの機体のパイロットとかなり親交を深めていたのだろう。もし彼もまたアインにエミリアを殺されていたら同じような反応をしていたと思う。
しかし、だからといってアインに今殺される訳にはいかなかった。
「戦争に巻き込んだ人間が偉そうに!」
二機は互いにエネルギーサーベルでつばぜり合いをしては離れてを繰り返す。
『貴様を、あのとき殺していれば!』
アインは初めての実戦でアルバートと戦ったときのことを思い出す。
アルバートを殺す寸前まで追い込んでいた。しかし殺せなかった。
スパイとして潜入していた敵国の幼年学校で出来た数少ない仲の良い友人であったためだった。 そのときの迷いが全ての元凶だった。
そして殺せるときに殺さなかったから取り戻しのつかないことになった。
「お前さえいなければ!」
アルバートもまたこれまでやってきたことを思い出す。アインによる新型機強奪に巻き込まれてから常に戦争の中心を渡り歩いてきた。心なんて何度も折れそうになったし、死にかけたことなんて数えきれないほど経験した。それでもここまでやってこれたのは好きな人を守るためだった。彼女の隣にいるためだった。だからここで負けるわけには、死ぬわけにはいかなかった。今度こそ戦争を終わらせて、あの日の、平穏な日常を取り戻したいと心の底から思っていた。
アルバートは傍から見ても冷静さを欠いているアインの機体を、機体性能の差を感じさせないくらいに対処していた。しかし彼とて冷静でいられるかというとそういうわけでもなかった。
アインの乗る機体との性能差を抑えるために必死に戦っていた彼の方も集中力が限界であった。もし、後少しでも長引けば負ける、そういった予感すらあった。
その余裕の無さが、一瞬だけ機体の動きに影響する。
アインはその隙を逃さず攻撃をする。
しかしチャンスだと構えた彼の機体の動きは大振りであった。
それを見てアルバートはその隙を突こうとした。
この一撃がこの死闘の終わりだ。
二人は直感的に感じる。
『アルバートォォォォ!』
「アインっ!」
二機はそのままエネルギーサーベルでお互いのコクピットを狙った。
その言葉とともに宇宙空間で二機が激突し火花が散る。
次の瞬間二機には光の剣が深々と突き刺さっていた。
各種制御系統を破壊され、姿勢制御システムも移動手段も失った二機はそのままぴったりと機体をくっつけた。
二機の機体の頭部にあるツインアイの光は点滅しながらもゆっくりと消えていく。
そして両機に搭載されていたバッテリーパックが大きな爆発を起こした。
*
ガゴン。
アルバートは機体が大きく振動する音で目を開ける。
「ここは……。」
目を開けると真っ暗な空間にまだ辛うじて生きているコンソール類だけが小さく、そして白く光っていた。そしてその灯りだけを頼りに周囲を確認する。
コックピット内で周囲を映すモニターは全て割れていて外の状況が分からない。レーダーも壊れていて、機体の外ではどのようなことが起きているのかなにひとつ分からなかった。
「俺は……、一体なにを……。」
先程までなにをしようとしていたか思い出そうとするが、なにも思い出せなかった。
「エミ……リア……。」
呟く名前が誰の名前か分からないままアルバートは再び襲ってきた眠気に耐えられず再び目を閉じた。
ブライムは部隊から離れようとしていたオリバー・パトンの後を追った。
『いや、補給を受けに行こうかと。それよりも大佐こそいいんですか? 自分の仕事を放棄して。』
「だとしたら方向が違うと思うが。それにどうせ目的は違うだろうしな。なぜそこまでデグレア少尉を殺すことに拘る?」
『確かに俺は上からそういう指示を受けた。まぁ俺にはそんなこと関係ないことだが。』
ブライムはその言葉を聞いて訝しむ。同時にパトンに対して剣を向ける。
『今の俺とやりあうつもりか?』
「あぁ。今のお前を少尉の元に行かせるわけにはいかない。」
『そうか。まぁいい。どのみちお前はもう既に邪魔だしな。』
「それはどういう意味だ?」
『いつも周りに対して口出しばかりして何一つやろうとしない。そしていいところばかり持っていく。デグレア隊長が言っていた通りの人間だ。』
「なんだと?」
『まぁいい。この機体、ケルビムの練習相手になってもらう。』
パトンの乗る機体ケルビムがブライムのクロノスに照準を定める。
「ふざけたことを!」
まだ要塞の攻略を行っていないのにも関わらず、二機は戦闘を始めた。
*
「アース少佐は一旦下がってさい! こいつは! こいつだけは俺が!」
アインはボロボロになったアズリトのガブリエルにそう言うとアルバートのクロノスに突進する。
「アルバート! お前だけは!」
これは今までアルバートを撃つのをためらってきた自身の行動が引き起こした結果だと分かっていた。
「お前さえいなければ! 少佐は!」
ラファエルの加速力を生かしてアルバートの乗るクロノスを圧倒する。しかしクロノスもその動きになんとか対応をしていた。
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「これほどまでとは!」
ブライムはクロノスでケルビムの攻撃を所々に受けていた。
「ここまで追い込まれるとは……。」
アルバートが同様の機体相手に善戦しているのを見て自分でも対処できると思っていた。
『お前には無理だよ、ブライム。天使シリーズへの適性もなく、パイロットとしての腕もたかが知れている。』
「ならばお前はその適性があると?」
『どうだかな。色々と調整はされたみたいだが。』
ブライムはその言葉に驚きながらも戦い続けた。
『だが、そんなことを必要とし続けている帝国は変えなければならないと思うがな。』
「まさか、貴様!」
『お前も色々と考えていたようだが、動くのが遅すぎだ。お前の居場所はもうない。』
「しまっ!」
ケルビムはエネルギーサーベルを引き抜くと、クロノスのコックピットを貫いた。
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「アイン!」
アルバートはかつての友からの攻撃に対し、かなり押され気味であった。
『アルバート! お前さえいなければ!』
アインの言葉から察するに恐らくさっきの機体のパイロットとかなり親交を深めていたのだろう。もし彼もまたアインにエミリアを殺されていたら同じような反応をしていたと思う。
しかし、だからといってアインに今殺される訳にはいかなかった。
「戦争に巻き込んだ人間が偉そうに!」
二機は互いにエネルギーサーベルでつばぜり合いをしては離れてを繰り返す。
『貴様を、あのとき殺していれば!』
アインは初めての実戦でアルバートと戦ったときのことを思い出す。
アルバートを殺す寸前まで追い込んでいた。しかし殺せなかった。
スパイとして潜入していた敵国の幼年学校で出来た数少ない仲の良い友人であったためだった。 そのときの迷いが全ての元凶だった。
そして殺せるときに殺さなかったから取り戻しのつかないことになった。
「お前さえいなければ!」
アルバートもまたこれまでやってきたことを思い出す。アインによる新型機強奪に巻き込まれてから常に戦争の中心を渡り歩いてきた。心なんて何度も折れそうになったし、死にかけたことなんて数えきれないほど経験した。それでもここまでやってこれたのは好きな人を守るためだった。彼女の隣にいるためだった。だからここで負けるわけには、死ぬわけにはいかなかった。今度こそ戦争を終わらせて、あの日の、平穏な日常を取り戻したいと心の底から思っていた。
アルバートは傍から見ても冷静さを欠いているアインの機体を、機体性能の差を感じさせないくらいに対処していた。しかし彼とて冷静でいられるかというとそういうわけでもなかった。
アインの乗る機体との性能差を抑えるために必死に戦っていた彼の方も集中力が限界であった。もし、後少しでも長引けば負ける、そういった予感すらあった。
その余裕の無さが、一瞬だけ機体の動きに影響する。
アインはその隙を逃さず攻撃をする。
しかしチャンスだと構えた彼の機体の動きは大振りであった。
それを見てアルバートはその隙を突こうとした。
この一撃がこの死闘の終わりだ。
二人は直感的に感じる。
『アルバートォォォォ!』
「アインっ!」
二機はそのままエネルギーサーベルでお互いのコクピットを狙った。
その言葉とともに宇宙空間で二機が激突し火花が散る。
次の瞬間二機には光の剣が深々と突き刺さっていた。
各種制御系統を破壊され、姿勢制御システムも移動手段も失った二機はそのままぴったりと機体をくっつけた。
二機の機体の頭部にあるツインアイの光は点滅しながらもゆっくりと消えていく。
そして両機に搭載されていたバッテリーパックが大きな爆発を起こした。
*
ガゴン。
アルバートは機体が大きく振動する音で目を開ける。
「ここは……。」
目を開けると真っ暗な空間にまだ辛うじて生きているコンソール類だけが小さく、そして白く光っていた。そしてその灯りだけを頼りに周囲を確認する。
コックピット内で周囲を映すモニターは全て割れていて外の状況が分からない。レーダーも壊れていて、機体の外ではどのようなことが起きているのかなにひとつ分からなかった。
「俺は……、一体なにを……。」
先程までなにをしようとしていたか思い出そうとするが、なにも思い出せなかった。
「エミ……リア……。」
呟く名前が誰の名前か分からないままアルバートは再び襲ってきた眠気に耐えられず再び目を閉じた。
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