お子さ魔王は引き籠れない!

まんどう

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お子さ魔王の足たるソイツ

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「っつーかサノン方面の漁村じゃ、仕掛けた網が破れるってんで大迷惑な厄介者扱いですぜ、それ」

「「おアナタ何を言って……」」

 話が噛み合わないというか理解できない魔王とレグインは、その詳しい内容を聞き出さんと言葉を絞り出す。

「え? あれ? エジエーバって、でっけークラゲの魔獣化し損ねた・・・・・・・奴でしょ? クラゲなんて時期が合えばわんさかいるし、成り損ないだって年に1回位はかかりますって。漁師達にとっては迷惑なだけで捨てられちまう運命でしょうが……」

「「………………」」

「あんれぇ?」

 反応を返さない二人にサイラスは首を傾げる。もちろん肩に乗せたちんちくりんは落とさないようにである。気配りのできる大人の男であった!

「く……くらげ……ですか……」

「成り損ね……じゃったとわ……。なる、ほど、のぉ……。っちゅーか、希少な素材であるなら、同じく希少な存在が素材の元である可能性があったということを、何故今まで気づかなんだんじゃ……。くっ、言われてみれば至極納得いく話じゃわい」

 魔獣……それは大気に満ちるマナにより生み出されるもの。マナは魔法の源だけあって、ありとあらゆるものを変質させる力を持つ。そのため、どんな生物でも多少は取り込むことになるが、その殆どを無害化する能力を元々備えている。ただ、無害化できる許容を超えてマナを取り込み過ぎる個体もおり、それが進むとやがてその生物に変化をもたらしていく。その多くはただ大きくなったり、同種の生物と何かが少し違ったりするだけで、周りに害をもたらす程の危険性はない。普通は変化に伴い無害化できる許容量も増えるからだ。しかし何らかの原因で過剰にマナを取り込み続けると、変化は加速度的にその生物を蝕んでいき、やがて見境なく周りのものを襲う獣となる。それが魔獣である。
 成り損ね……それは明らかに魔物になっていないとおかしいレベルのマナを吸収しているはずの生物であり、それでいて魔獣に至っていないもののことを指す。ようは魔獣とも呼べない特別な何かである。勿論滅多にいるものではない。
 ……それを知ってか知らずか、爆弾を投じてしまったサイラスは、乾いた笑いを浮かべて見せるしか無かった。

「あ、あはは?」

「のぅ、レグインや」

「……何でしょう」

「依頼をした以上はこの素材は買い取る。しかし、今ここでごねるのなら……」

「いえ、これ以上は無粋というもの。すぐお持ちしましょう」

 そう言うと、魔王の意を読み取り無駄話を止めたレグインは店の奥へと引っ込んでいった。どうやらサイラスの言葉は、二人を納得させてしまうのに十分な内容であったらしい。そして再び姿を見せたレグインは、厳重に封のされた箱を開けて中身を魔王に確認させる。魔王は魔王でしっかり見ているわけではないが、何か素材に特徴でもあるのか確信を持って頷いた。

「うむ、確かにこの感じ、依頼した品に相違ないの。また何かあったら頼む」

「……はい」

「で、サイラスよ。これはお主の知るエジエーバの触手であっておるか?」

 品物をサイラスに引き寄せさせた魔王は、足……ではなく護衛の男に、箱の中の物を確認させた。そこには保存状態が良いからか今にも動きそうな、赤黒く所々血管のようなものが浮き出ていてぷるぷるとしたグロい触手があった。魔王は彼の知っているものと同じか確認したくて問い質したのだ。

「えーっと……うん? ……あー違う、みたいです。あっはっは、すみません」

「「………………はぁ!?」」

 二人にとっては衝撃の軽い告白に、魔王と商人が一瞬固まると、同時に叫んだのであった。

「見覚えのある成り損ねの触手とは、どうも見た目が違ってるようです」

「な、なんで、すって……」

「お主………………はっ!? 取引は終えた! 金は既に支払っておるしの! では! さらばじゃ! ゆくぞサイラス!」

 サイラスに対し、固まるレグインと呆れる魔王。しかし一瞬早く魔王は状況を理解してこの場を脱さんと、足こと護衛のサイラスにぺしぺしとムチならぬ平手を打って移動を急かす。

「うわっ! ちょっ! 暴れんなって! ……いやー、なんかすんません。では……」

「………………」

 呆然と固まり続けるレグインを尻目に、二人は商会を出ていったのであった。そしてそそくさと店から少し離れた所で、自称魔王が堪らずといった感じで呵々大笑する。

「うわっはっは! 愉快愉快じゃ! くぅっそ長引くと思っとった取引も、あんなに早くに終わるとは!」

「へいへい、良うござんした」

 耳元で大声で笑う魔王に、少々うんざりしながらもサイラスは相槌を打っておく。

「しかし勘違いとは……レグインの奴には悪いが、何時もが何時もじゃったから、良い気味じゃったわい。はぁーっはっは」

「いや、本当はその何とかっていう奴の事、何にも知らないけどな」

「っは………………は? な、なんと? 知らぬ、じゃと? ど、どういう意味、じゃ?」

 今日一番どでかい爆弾発言に、ちんちくりんは笑い声を途切れさせながら、その真意を問う。

「俺はこの素材の元となった奴の事、全く知らないんだ。あんたらの会話からレアな素材なんだなぁって思った位だよ。まぁそんなにレアっていうんなら、何らかの触手を持つ生物の成り損ないなんじゃないかって当たりはつけたんだけど……。でも実物を見てみた感想だが、こりゃあどう見てもクラゲの触手じゃないだろう。っつかそもそも、クラゲの成り損ねなんてものも見たことないしな」

「お、おまっ……。……はぁ何という奴じゃ、全てが嘘とは全く。だがのぉ、お主の投じた成り損ねの説には確かに一理あったんじゃよな。なんせレア物をよく知る儂やあ奴が納得してしまう程なのじゃから。それにしても確かにのぅ……これはクラゲの触手に見えんわなぁ。何で納得してもうたんじゃろ? ……つか、なんで嘘なんぞ吐いたんじゃ?」

「そりゃあなぁ? あえて言えば……こほん。やつがれめはご依頼者様の護衛が任務でございやすので、心の安寧の方をもお護りしてみやした、ってことでどうよ?」

 優しい理由からくるあんまりな返答に、ちんちくりんの目が大きく見開かれ……

「は……ふははっ! やるのお! お主! でかした!」

「お褒め頂き恐悦至極」

 足をパタパタさせながら大絶賛するのであった。そして調子に乗ったお子様は、

「うむうむ! 儂は今とても気分が良い! なので街に繰り出したい気分じゃ! どうじゃ? 報酬は上乗せするし、何なら道中の飲み喰い位は奢ってやる故、もそっと付き合うてくれんか?」

「構わねえけど、あんた人混みの方は大丈夫なのか?」

「ふふん。先程の一幕で途轍もなく鋭気が漲っておる! それにお主という頼れる優秀な護衛がおるのじゃ。何の問題ないであろう?」

「ま、そう言ってくれるんなら良いけどさ」

「決まりじゃな!」

 こうして上機嫌なちんちくりん魔王と、その足たる護衛で気遣いのできる大人な冒険者は、市場へと繰り出いていくのだった。

 ――その一方、まんまとしてやられたレグインであったが、それでもただやり込められている訳ではなかった。あの後、気を持ち直したレグインは手下達に二人の様子を探らせ、逐次報告させていたのだ。

「そうですか、あの彼はそんな事を……」

「どうしましょう? 潰しますか?」

 手下は何の感情もなく、サイラスを潰す提案を出す。レグイン商会は魔法素材部門こそ小さな佇まいではあったが、本来の姿は大陸を股にかける大商会である。通常店舗もどでかいのを街の大通りに構えていた。つまりあのちんちくりんのためだけに、人通りの多い場所に小っさな店を構えたのである。……紛うことなき変人である。

「それは止めておきなさい。かの魔王様は彼のことを気に入って……気に! 入って! しまった! ……以上は、ね。……はぁ。……そもそも魔王様が我々の動向に気付かない訳がない。こちらで何かをするのは龍の逆鱗に触れるかの如く、愚かな行為というものです」

「は、はぁ……」

 鼻息荒く語るボスの様子に、手下は「そんなに好きならあんなにいじめなきゃ良いのに」と思うのだったが、口には出さない、出せないのだった。

「不思議に思ったんですが、何故中身の確認を取ってからにしなかったんです?」

「……大きな理由としては納得してしまったからでしょうかね」

「納得、ですか」

「私も魔王様も、彼の説に一定の理があるということに気付いてしまった。仮にあそこでゴネれば、魔王様は品は預けたと言って飛び出していったでしょう。そうなればどの道しばらくは帰ってきません。下手をすれば、本当に見つけてきてしまう可能性だってあるのです。あの方は我々以上に見識の深い方です。それに到底ではないにしても及ばない我々は、数で対抗する以外ないのですよ」

「なるほど」

「だいたいあの品は元々、魔王様を釣るためだけの餌。安くはありませんが、本業の利益から見れば取るに足らないレベル。極端な話、貴重かどうかなど私にとっては些末なことです。しかし……成り損ねへの着眼点は悪くないですね。良い機会ですから成り損ねの情報を集めて、できる限り囲い込みましょう。それこそ数を当てれば何の苦もなく集まるでしょう。
 ……それより、あのように機転の利く人物というのは貴重です。むしろ幾つかこちらから仕事を振ってみて、問題なく使えるようなら取り込んでしまう方が良いかもしれませんね」

「取り込む、ですか」

「かの魔王様がこの都市に訪れる際、きっとあの人物に今日のような依頼を持ちかけるでしょうから」

「なるほど……」

 その辺りの算段をさっさと付けてしまえる辺り、やはり自分のボスは凄い人だと再認識する手下だったが……

「はぁ……しかし今回の所は完敗ですね。しかし、次は、きっと……楽しませてもらいますからねぇ? 魔王様……」

 そこはかとなく暗いくっら~い笑みを浮かべるボスの様子に思わず先程の認識を、凄いド変態のサド野郎に塗り替え、顔には出さずにドン引きする手下であった。


 ………
 ……
 …


「(ぶるっ)へあぅっ!?」

「なんだっ? どうした?」

「いや、凄まじく厭ぁらしい悪寒がのぉ……」

 もしかしなくてもレグインのせいである。一方、よく分かっていないサイラスは気遣わしげに、後ろを気にしながら魔王に問いかける。

「そうか……。後ろの連中のせいかと思ったぞ」

「おう気付いとったか。……っちゅーかあ奴等、特に隠れることなくついてきているしのぉ。お主が気付いても当然か。恐らく儂が相手じゃと、少々の隠密技能では無駄でしかないので、レグインの奴めがそう指示しとるんじゃろうがな」

「どうする? 散策は止めとくか?」

「……いや! もう頭の中は楽しみで一杯にしてしまっておる! 滅多な事では自ら雑踏の中へと踏み込むようなまねはせんのでの! いざ行かん! なのじゃ!」

「へいへい、仰せのままにご主人様」

 テンションアゲアゲで手も足もぶん回して落ちそうで危ないお子様魔王を支えつつ、大人な冒険者は街の中心へと歩を進めるのだった。
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