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キノコ娘が現れた!
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「なぁ、こういう所で金を見せびらかせるの止めろよ? 余計なトラブルを招きかねない。あんたは良いかも知れないが、カモと思って手を出す奴等……は、どうでも良いが、巻き添えを食うやつが出たらかわいそうだ」
本を売っていた露店から離れると、先程の行為をサイラスは注意するのだった。
「ぬ? 何じゃ、そんな事を心配しとったのか。安心せえ、あの店主とお主にしか見せておらん」
「は? ……あー、そういう魔法か何かか」
「如何にもそうじゃ。儂は万能……に近いのじゃ」
自称魔王は言い切りかけて、言葉を濁した。見た目は子供だが、自覚はできる大人ではあったようだ。
「へぇ? 言い切らないんだな」
「儂は謙虚じゃからな!」
謙虚な者は、自らを謙虚であると言わないだろう。そんなお子様に、大人なサイラスは苦笑するに留める。
「っつか、良かったのか?」
「何がじゃ?」
「あの本、実際に珍しいもんなんだろう?」
サイラスとしては、肩に乗るおチビの最初の食いつきを知っていたため、仕方なく諦めたようにも思えていたのだ。
「ふむ。確かに珍しいもんではあった故、少しばかり興奮したことは事実じゃ。じゃがのぉ……元々儂の欲する対象はあくまで素材であって本では無いんじゃよな。勿論あれを適当な好事家達の下に持ってけば大金に変わるじゃろう。それこそ金貨200枚や300枚では利かぬやもしれぬ。じゃが、儂にしてみればどっちみち端金じゃし、本の方もおもちゃでしか無い。そんなもののために家の中にスペースを取ってやりたいかと言われれば……微妙じゃな」
「端金……まじか……。さすがランク7って所なのかね。……にしても好事家、ねぇ」
「なんじゃお主? 興味あるのかの? 奴等はのぅ、この世で魔法を極めつつある者達である魔導師共……それも歴史や考古学といった特定の分野を究める者達、じゃよ。ま、分かった所であの店の主人にそんな伝手は無かろうよ」
「……てことは、あんたにはあるんだな?」
「あるっちゃああるんじゃが……彼奴らの所になんぞ、わざわざ持ってってやる義理はこれっぽぉっちも無いわい」
「ふーん……そっか」
軽く溜め息を漏らすサイラスに、肩の居候は問いかける。
「なんじゃい? あの店主、知り合いか? それともお主が金を欲しておるのか?」
「いや、そういう訳じゃない。あと今はその日暮しができりゃ十分だよ」
今はの部分に引っかかりつつも、ちんちくりんはサイラスに見えていないだろうに、目を細めて戒めの言葉を吐く。
「……お主が気の良い事は好ましいがの、それでも大概にしておいた方が良いぞ? 手の届く所までにしておけ」
「……ランク7の忠告か?」
「一般論じゃ」
「……ま、確かにな」
誰にでも彼にでも良い顔をしていては自分が持たない。そんな事は分かっている。そう思いつつもサイラスは癖になっているのか、苦笑いを漏らす。思案する大人のサイラスの肩で、お子様センサーが次の何かを発見してしまったらしく、わちゃわちゃと騒ぎ出す。
「む、あそこの露店が気になるぞ! 早う行くのじゃ!」
「分かった分かった! だから一々暴れたり叩いたりすんなって!」
急かされて向かった先にあったのは、大きなキノコのオブジェと、ケースに収められたやはり大きな細長いキノコである。わざわざケースに一本ずつ入れてる当たり、理由があるのだろうが、素材なのか食品なのか……。
「ほーむ……これは……どっちなんじゃいの?」
「いや、俺に聞かれても」
「喰いもんは得意じゃろうが?」
「そりゃあ街で売られてるものに限った話だよ。誰でも物を持ち寄って売れるここの事まで網羅できる訳がないだろう。そもそも、こんな見た目のキノコ見たことねえよ」
「それわぁ、うちで育ててるキノコちゃんですぅ」
二人が言い合っている所に、大きなキノコのオブジェがくるんと振り返り、話しかけてきたのだった。
「にょわぁっ!?」
「キノコが喋った!?」
「いえいえ、私はキノコ大好きですが、残念ながらキノコそのものではないのです。これは着られるぬいぐるみ、着ぐるみですよぉ?」
「……これはまた、妙ちくりんなのが出てきたのぉ」
着られるぬいぐるみを身に纏ったメガネの女性は、のほほ~んとした口調で語り、サイラスの肩に居候しているお子様をして妙ちくりんと言わしめた。……が、宿主であるサイラスは、どっちもどっちだよと心の中で突っ込むのだった。
「何じゃい、言いたいことがあるなら言ってもええんじゃぞ?」
「いやぁ……なんでも」
自称魔王の座ってる逆側に顔を背けるサイラスに、見えてはいないのもお構いなしにじっとりとした目で見やるちんちくりん。キノコ女は微笑ましげにその様子をただ見つめていた。
「時にこれは何のキノコじゃ? 素材か? 食用か? なんと言うきのこじゃ?」
「どちらにもご利用頂けますがぁ、食用利用がオススメですぅ。名前は、え・の・き、っていうんですってぇ。何を基準にして東方と呼ばれるのか分かりませんがぁ、とにかく東方と呼ばれる国で取れるものらしいですぅ」
キノコ女がそういったのを聞いて、自称魔王が自身の記憶との齟齬に数瞬固まり、再起動するやいなや早口でまくしたてた。
「………………ま、待て待て待て!? 儂の知るそれとは全く違うわい!? あれはこう、小さなキノコが密集してるもんじゃろうが??」
「ちぃ……? どう見ても一本物のすっげー立派なキノコだが……」
エノキを知らなかったサイラスは、おチビの言葉から小さなという部分を抜き出して首を傾げる。どう見ても立派な……見るものが見ればマツタケレベルだと口にするレベルの大きさなのだから。
「品種改良致しましたぁ」
「サラッと凄いこと言ったな!? お主! そんなことできる……っ! ……もんなのか?」
「頑張りましたぁ」
できるはずがない! と言いたげな自称魔王だったが、実際に目の前に実物がある。確かめようはないものの、自分の知らぬ技術の一端でも聞けたなら……そう思って聞いてみると、何とも気の抜けた答えが帰ってきた。
「……はぁ、もうええわい。で? エノキなら喰えるはずじゃが、これも喰える……のか?」
「食用にもって言ってたもんな。喰えるんだろう」
「はい、食べられますよぉ? ほくっ、として、ぷりっ、として、ほわぁっ、と香りが立って絶品なんですぅ」
見た目もアレで口調もアレなのに、何故か食レポだけは、ダイレクトにお腹に響くのであった。あれだろうか。キノコ娘の恍惚とした表情に引き込まれてしまっているのだろうか?
「(ゴクリ)の、のう?」
「ああ、皆まで言うな。俺も食べたい。これも買おう」
「毎度有難う御座いますぅ」
こうしてまんまとキノコを買わされる二人であった。……が、肩の居候はそれだけでは終わらない。気になるワードを聞いていたからだ。
「で、素材に、とも言うておったがどういう意味じゃ?」
「『マイコニドの幼生』素材の代わりにお使い頂けますぅ」
「……は? はああ!? なんじゃとぉ!?」
『マイコニドの幼生』という素材はある種の希少素材である。マイコニド自体はキノコの魔物化したものであり、人の形を取って移動も可能になった種である。高温多湿の密室内では、彼等の放つ胞子の量が尋常ではなく増えるため、無類の強さを誇る。……のだが、それ以外の環境下では格別強い魔物というわけではない。この素材、幼生というのがネックで、通常マイコニドは生まれた時点で人の姿を取るというか、人の姿を取れるものをマイコニドと認識されている。つまり、幼生は次世代が生まれた時にしか現れないのだが、余程安定した環境下でもないと次世代など生まれてこない。更には幼生の状態では人の形を取らない。見つけられず、見つからず、故に希少。
「そそそ、そんな、事が……」
今しがた買ったばかりのエノキを手にじっくり観察するちんちくりん。すると驚愕に見開かれていた目が、すっと細められたかと思うと、その口から出てきたのはキノコ娘の言葉への肯定と、キノコ娘へのやんわりとした否定の言葉であった。
「……ああ、たしかにこれは代わりに成り得るのぉ。……のうお主、悪いことは言わん。これは売ってはならん類のものじゃ」
「……なぜでしょう~?」
「品種改良? そりゃあ出来てしまうじゃろう。己が眷属なのじゃから。眷属の主ともなれば、その子たる胞子を最も良い条件で育てられるというもの。更には育ったキノコそのものも、直接の眷属にして幼生の代わりにしてしまえておる」
「……博識でいらっしゃいますねぇ」
自称魔王の言葉に、キノコ娘……いや、マイコニドの娘の目の方も細められていく。
「これは危険じゃ。売るのも生み出すのも。……お主、狩られるぞ?」
「貴方が狩る、とは言わないのですねぇ」
「儂は狩りなどせん。力は持っておっても、命を狩るのは趣味ではないのでの」
「お優しいんですねぇ?」
「正直に言っても良いのじゃぞ? なんせ儂は狩りはせずとも肉は食らうからの。そのくせ命を取りたくないだなどとのたまう、臆病で卑怯な偽善者じゃでの。で、どうするのじゃ?」
「……せっかくのご忠告ですので店を畳むことにしますぅ。はぁ、上手く行くと思ったのになぁ。まさか種の繁栄の代価として作り出したものが、追われる理由を作っていただなんてぇ。
……それにしてもお付きの方は静かですねぇ。こんな話聞いちゃったら、普通の人は目の色変えそうですがぁ?」
「儂とお主の会話は周りの誰にも聞かせておらぬ故な」
肩の上のちんちくりんがサイラスの頭をぽんぽんと叩くと、何だいとばかりに視線を上に上げるが、それだけである。
「……凄い方だったのですねぇ。でもそれなら尚更その方が気にしそうですぅ?」
「いや、こ奴は儂が意味もなく会話を隠匿するとは考えもせんよ」
「……信頼、されておられるのですねぇ」
「信用もしておるよ。最初に気分を悪くして蹲っとる所を拾ってもらったでな」
「あらあらぁ」
微笑ましいものを見るかのような表情を作るマイコニド娘。一方の自称魔王は何故かドヤ顔である。
「……で、お主。行くあてはあるのか?」
「ありませんねぇ。これはぁ、というものを作り上げて、文字通り命懸けでここまでやってきましたからぁ。定住するつもりでしたしねぇ。……これから何処にどう逃げれば良いのやらぁ」
「……儂の山に来るか? 大抵のことは何とかなる故、基本的には安全じゃぞ?」
「……良いんですぅ? 環境の選り好み、激しいのですがぁ」
「そうじゃな……好みの場所は森か? 洞窟か?」
「洞窟が良いですねぇ。あ、ある程度光が差し込んでくれれば最高ですぅ」
「うむ、任せておけ。我が山で好きなように暮らすと良かろう。よし、サイラス。この娘も一緒に飯にするぞ!」
自称魔王はマイコニド娘に太鼓判を押すと、置物と化していた足ことサイラスに声を掛けた。先程まで何も聞こえなかった所に降ってきた声に、すぐさま了承の意を示すも……
「おう? そりゃあ、まぁ、良いけどさ……」
「なんじゃい、煮え切らんのぉ。嫌なのか?」
「……その格好で?」
「む。……確かにの」
二人の視線がきのこの着ぐるみを着たキノコ娘に注がれる。
「ああ、これですかぁ? 目立つようでしたら脱いでいきますよぉ? んしょっと……」
「ふむ、脱げるそうじゃ。じゃから心配なぁぅゎああああ!? こりゃ! 待て! 待てと言うに! きぐるみとやらの中はすっぽんぽんではないか! サイラス! 服じゃ、服! これで服買ってこい!」
あまりの事に目を丸くしてるサイラスの方から飛び降り、例のポーチを顔面にぶつけて指示を出すちんちくりん。
「……うごわっ! ぁかったああ!? 行ってくる!」
「……えーっと? 拙かったですぅ?」
「当たり前じゃ、たわけが。……まずは常識から教え込まねばならぬかのぉ」
少しばかり先行きを不安に思う、自称魔王なのであった。
本を売っていた露店から離れると、先程の行為をサイラスは注意するのだった。
「ぬ? 何じゃ、そんな事を心配しとったのか。安心せえ、あの店主とお主にしか見せておらん」
「は? ……あー、そういう魔法か何かか」
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「へぇ? 言い切らないんだな」
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謙虚な者は、自らを謙虚であると言わないだろう。そんなお子様に、大人なサイラスは苦笑するに留める。
「っつか、良かったのか?」
「何がじゃ?」
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サイラスとしては、肩に乗るおチビの最初の食いつきを知っていたため、仕方なく諦めたようにも思えていたのだ。
「ふむ。確かに珍しいもんではあった故、少しばかり興奮したことは事実じゃ。じゃがのぉ……元々儂の欲する対象はあくまで素材であって本では無いんじゃよな。勿論あれを適当な好事家達の下に持ってけば大金に変わるじゃろう。それこそ金貨200枚や300枚では利かぬやもしれぬ。じゃが、儂にしてみればどっちみち端金じゃし、本の方もおもちゃでしか無い。そんなもののために家の中にスペースを取ってやりたいかと言われれば……微妙じゃな」
「端金……まじか……。さすがランク7って所なのかね。……にしても好事家、ねぇ」
「なんじゃお主? 興味あるのかの? 奴等はのぅ、この世で魔法を極めつつある者達である魔導師共……それも歴史や考古学といった特定の分野を究める者達、じゃよ。ま、分かった所であの店の主人にそんな伝手は無かろうよ」
「……てことは、あんたにはあるんだな?」
「あるっちゃああるんじゃが……彼奴らの所になんぞ、わざわざ持ってってやる義理はこれっぽぉっちも無いわい」
「ふーん……そっか」
軽く溜め息を漏らすサイラスに、肩の居候は問いかける。
「なんじゃい? あの店主、知り合いか? それともお主が金を欲しておるのか?」
「いや、そういう訳じゃない。あと今はその日暮しができりゃ十分だよ」
今はの部分に引っかかりつつも、ちんちくりんはサイラスに見えていないだろうに、目を細めて戒めの言葉を吐く。
「……お主が気の良い事は好ましいがの、それでも大概にしておいた方が良いぞ? 手の届く所までにしておけ」
「……ランク7の忠告か?」
「一般論じゃ」
「……ま、確かにな」
誰にでも彼にでも良い顔をしていては自分が持たない。そんな事は分かっている。そう思いつつもサイラスは癖になっているのか、苦笑いを漏らす。思案する大人のサイラスの肩で、お子様センサーが次の何かを発見してしまったらしく、わちゃわちゃと騒ぎ出す。
「む、あそこの露店が気になるぞ! 早う行くのじゃ!」
「分かった分かった! だから一々暴れたり叩いたりすんなって!」
急かされて向かった先にあったのは、大きなキノコのオブジェと、ケースに収められたやはり大きな細長いキノコである。わざわざケースに一本ずつ入れてる当たり、理由があるのだろうが、素材なのか食品なのか……。
「ほーむ……これは……どっちなんじゃいの?」
「いや、俺に聞かれても」
「喰いもんは得意じゃろうが?」
「そりゃあ街で売られてるものに限った話だよ。誰でも物を持ち寄って売れるここの事まで網羅できる訳がないだろう。そもそも、こんな見た目のキノコ見たことねえよ」
「それわぁ、うちで育ててるキノコちゃんですぅ」
二人が言い合っている所に、大きなキノコのオブジェがくるんと振り返り、話しかけてきたのだった。
「にょわぁっ!?」
「キノコが喋った!?」
「いえいえ、私はキノコ大好きですが、残念ながらキノコそのものではないのです。これは着られるぬいぐるみ、着ぐるみですよぉ?」
「……これはまた、妙ちくりんなのが出てきたのぉ」
着られるぬいぐるみを身に纏ったメガネの女性は、のほほ~んとした口調で語り、サイラスの肩に居候しているお子様をして妙ちくりんと言わしめた。……が、宿主であるサイラスは、どっちもどっちだよと心の中で突っ込むのだった。
「何じゃい、言いたいことがあるなら言ってもええんじゃぞ?」
「いやぁ……なんでも」
自称魔王の座ってる逆側に顔を背けるサイラスに、見えてはいないのもお構いなしにじっとりとした目で見やるちんちくりん。キノコ女は微笑ましげにその様子をただ見つめていた。
「時にこれは何のキノコじゃ? 素材か? 食用か? なんと言うきのこじゃ?」
「どちらにもご利用頂けますがぁ、食用利用がオススメですぅ。名前は、え・の・き、っていうんですってぇ。何を基準にして東方と呼ばれるのか分かりませんがぁ、とにかく東方と呼ばれる国で取れるものらしいですぅ」
キノコ女がそういったのを聞いて、自称魔王が自身の記憶との齟齬に数瞬固まり、再起動するやいなや早口でまくしたてた。
「………………ま、待て待て待て!? 儂の知るそれとは全く違うわい!? あれはこう、小さなキノコが密集してるもんじゃろうが??」
「ちぃ……? どう見ても一本物のすっげー立派なキノコだが……」
エノキを知らなかったサイラスは、おチビの言葉から小さなという部分を抜き出して首を傾げる。どう見ても立派な……見るものが見ればマツタケレベルだと口にするレベルの大きさなのだから。
「品種改良致しましたぁ」
「サラッと凄いこと言ったな!? お主! そんなことできる……っ! ……もんなのか?」
「頑張りましたぁ」
できるはずがない! と言いたげな自称魔王だったが、実際に目の前に実物がある。確かめようはないものの、自分の知らぬ技術の一端でも聞けたなら……そう思って聞いてみると、何とも気の抜けた答えが帰ってきた。
「……はぁ、もうええわい。で? エノキなら喰えるはずじゃが、これも喰える……のか?」
「食用にもって言ってたもんな。喰えるんだろう」
「はい、食べられますよぉ? ほくっ、として、ぷりっ、として、ほわぁっ、と香りが立って絶品なんですぅ」
見た目もアレで口調もアレなのに、何故か食レポだけは、ダイレクトにお腹に響くのであった。あれだろうか。キノコ娘の恍惚とした表情に引き込まれてしまっているのだろうか?
「(ゴクリ)の、のう?」
「ああ、皆まで言うな。俺も食べたい。これも買おう」
「毎度有難う御座いますぅ」
こうしてまんまとキノコを買わされる二人であった。……が、肩の居候はそれだけでは終わらない。気になるワードを聞いていたからだ。
「で、素材に、とも言うておったがどういう意味じゃ?」
「『マイコニドの幼生』素材の代わりにお使い頂けますぅ」
「……は? はああ!? なんじゃとぉ!?」
『マイコニドの幼生』という素材はある種の希少素材である。マイコニド自体はキノコの魔物化したものであり、人の形を取って移動も可能になった種である。高温多湿の密室内では、彼等の放つ胞子の量が尋常ではなく増えるため、無類の強さを誇る。……のだが、それ以外の環境下では格別強い魔物というわけではない。この素材、幼生というのがネックで、通常マイコニドは生まれた時点で人の姿を取るというか、人の姿を取れるものをマイコニドと認識されている。つまり、幼生は次世代が生まれた時にしか現れないのだが、余程安定した環境下でもないと次世代など生まれてこない。更には幼生の状態では人の形を取らない。見つけられず、見つからず、故に希少。
「そそそ、そんな、事が……」
今しがた買ったばかりのエノキを手にじっくり観察するちんちくりん。すると驚愕に見開かれていた目が、すっと細められたかと思うと、その口から出てきたのはキノコ娘の言葉への肯定と、キノコ娘へのやんわりとした否定の言葉であった。
「……ああ、たしかにこれは代わりに成り得るのぉ。……のうお主、悪いことは言わん。これは売ってはならん類のものじゃ」
「……なぜでしょう~?」
「品種改良? そりゃあ出来てしまうじゃろう。己が眷属なのじゃから。眷属の主ともなれば、その子たる胞子を最も良い条件で育てられるというもの。更には育ったキノコそのものも、直接の眷属にして幼生の代わりにしてしまえておる」
「……博識でいらっしゃいますねぇ」
自称魔王の言葉に、キノコ娘……いや、マイコニドの娘の目の方も細められていく。
「これは危険じゃ。売るのも生み出すのも。……お主、狩られるぞ?」
「貴方が狩る、とは言わないのですねぇ」
「儂は狩りなどせん。力は持っておっても、命を狩るのは趣味ではないのでの」
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「正直に言っても良いのじゃぞ? なんせ儂は狩りはせずとも肉は食らうからの。そのくせ命を取りたくないだなどとのたまう、臆病で卑怯な偽善者じゃでの。で、どうするのじゃ?」
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「……信頼、されておられるのですねぇ」
「信用もしておるよ。最初に気分を悪くして蹲っとる所を拾ってもらったでな」
「あらあらぁ」
微笑ましいものを見るかのような表情を作るマイコニド娘。一方の自称魔王は何故かドヤ顔である。
「……で、お主。行くあてはあるのか?」
「ありませんねぇ。これはぁ、というものを作り上げて、文字通り命懸けでここまでやってきましたからぁ。定住するつもりでしたしねぇ。……これから何処にどう逃げれば良いのやらぁ」
「……儂の山に来るか? 大抵のことは何とかなる故、基本的には安全じゃぞ?」
「……良いんですぅ? 環境の選り好み、激しいのですがぁ」
「そうじゃな……好みの場所は森か? 洞窟か?」
「洞窟が良いですねぇ。あ、ある程度光が差し込んでくれれば最高ですぅ」
「うむ、任せておけ。我が山で好きなように暮らすと良かろう。よし、サイラス。この娘も一緒に飯にするぞ!」
自称魔王はマイコニド娘に太鼓判を押すと、置物と化していた足ことサイラスに声を掛けた。先程まで何も聞こえなかった所に降ってきた声に、すぐさま了承の意を示すも……
「おう? そりゃあ、まぁ、良いけどさ……」
「なんじゃい、煮え切らんのぉ。嫌なのか?」
「……その格好で?」
「む。……確かにの」
二人の視線がきのこの着ぐるみを着たキノコ娘に注がれる。
「ああ、これですかぁ? 目立つようでしたら脱いでいきますよぉ? んしょっと……」
「ふむ、脱げるそうじゃ。じゃから心配なぁぅゎああああ!? こりゃ! 待て! 待てと言うに! きぐるみとやらの中はすっぽんぽんではないか! サイラス! 服じゃ、服! これで服買ってこい!」
あまりの事に目を丸くしてるサイラスの方から飛び降り、例のポーチを顔面にぶつけて指示を出すちんちくりん。
「……うごわっ! ぁかったああ!? 行ってくる!」
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