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4、わたしがあなたを助けます!
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アイリスはしばらくチャリオス王子の話し相手として隣に座っていた。もちろん、チャリオス王子との会話はできていない。
「今日の髪飾りは青薔薇なんだな。俺は今、自然の青薔薇を咲かせられないか研究中なんだ」
「……」
「猫、可愛いな!」
膝の上でアイリスに撫でてもらっていたララに、チャリオス王子が手を伸ばしてくる。
王子は猫の扱いが下手だ。物珍しそうに尻尾やヒゲをひっぱるので、ララはネコパンチをお見舞いした。
「フシャー!(痛いにゃ!)」
すると、王子は指先で応戦してくる。
「おっ、遊んでほしいのか? おらおらおらー、王子パンチだぞぉ?」
「にゃにゃにゃ!」
しばらくじゃれあっていると、アイリスがくすくすと笑う。
チャリオス王子はそれを見て「アイリスが笑った!」と大喜びした。
……この二人、普通に相思相愛なんじゃ? アイリスと別行動して、王子側の事情を探ってみたいかも?
ララはそんな衝動を抱き、二人のもとを離れた。
「あっ、猫くんが部屋の外に出てしまったぞ」
ララは使用人が給仕しに来たタイミングで扉の隙間からびゅっと廊下に飛び出した。
「猫くん、出ておいで~」
「王子殿下、猫のことは気になさらずに。気を使わせてしまって申し訳ありません」
「いやいや、俺が猫くんのネコパンチで『や、ら、れ、た~~』って倒れなかったのが悪かったに違いない。申し訳なかった!」
人間たちが探しにくるので、あっちへこっちへと走り回る。
逃げたり隠れたりを繰り返しながら、外へ外へと出て行った。
外には、王室の紋章入り馬車がある。王子が乗ってきた馬車だ。車窓がちょっと開いている。
馬車によじのぼり、車窓から中に忍び込んで椅子の下に身を隠したタイミングで、王子が公爵邸から出てきた。帰宅するらしい。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
馬車を見送るフェアリーグローム公爵とアイリスにチャリオス王子が感謝を告げる。そして、御者が馬車を出発させた。
馬車の中に潜むララは、チャリオス王子が従者に話しかける声に耳をそばだてた。
「今日はアイリスの好みがまたひとつ知れたぞ。それに、彼女が笑ったんだ!」
声は、嬉しそうだ。
「彼女、猫をやさしく撫でていた。猫は小さくて可愛かったな。可愛い生き物同士がくっついてて、俺は非常に庇護欲をそそられた」
会話を聞いていると、チャリオス王子はやっぱりアイリスに好意がある。
ふむふむ、と聞いていると、従者が声をあげた。
「あっ、王子殿下。子猫が馬車の中にいますよ」
見つかった! ララはぎくりとした。
「おや。大変だ。公爵家に戻してあげないと」
チャリオス王子はララを抱き上げ、よしよしと撫でた。手付きは、やさしい。
「王子殿下。お待ちください。その首輪から魔力を感じます」
従者は首輪に気付いて、眉を寄せている。
どうやらこの従者は魔法使いらしい。ララは目を輝かせた。
「にゃー!(取ってくださいっ)」
「ほう。この首輪を取ってほしいのか。よしよし、今外してやるぞ」
おねだりすると、チャリオス王子はあっさりと首輪を外してくれた。
「にゃああああ!(チャ、チャリオス王子~! いい人~っ!)」
「ん、嬉しいのか? よかったなー、首輪は嫌だったんだなー、気づくのが遅れてごめんなぁ」
従者が首輪をつまみ、「魔力を吸い取る首輪でしょうか」と分析している。有能そうだ。
「それにしても、庭園の件は失敗だったな。アイリスに赤い薔薇の花束をプレゼントしたら喜んだから、アイリスの好きな花でいっぱいにしようと思って植え替えただけなのに」
チャリオス王子はララをアイリスに返してから、帰って行った。
なるほど、噂の真相がわかった。花を薔薇にした理由は、ロザリア姫を想ってのことではなく、アイリスのためだったのだ。
「猫さん、脱走しちゃだめよ。王子殿下の馬車に乗っちゃうなんて……殿下がおおらかな方でよかったわ」
二人きりになった部屋でアイリスが言うので、ララは張り切って返事をした。
「ごめんなさい、アイリスさま!」
「えっ――?」
猫が人間の言葉を突然話したので、アイリスはびっくりしている。
「びっくりさせてごめんなさい」
ララは変身を解いて人間の姿になった。
ネコ耳フードの魔法使いローブを着た13歳の女の子の姿のララは、白髪の毛先をオレンジに染めていて、瞳はローズクォーツに似たピンク色。
そばかすがチャームポイントの、元気いっぱいの魔女だ。
「はじめまして、アイリスさま。わたしは魔女のララです。猫に変身していたら、意地悪な魔女にいたずらされて元に戻れなくなっていたのです」
伝統的な挨拶であるカーテシーを披露すると、アイリスの後ろの檻の中でハシビロコウがお辞儀した。
「助けてくれて、ありがとうございました」
感謝を告げて、ララはにっこりとした。
「助けていただいたお礼に、わたしがあなたを助けます!」
パパは「ほっとけば原作通りになって終わるだろう」と言ったけど、アイリスはいい人で、可哀想だ。チャリオス王子もいい人で、アイリスへの好意があるように思われた。
だから、ララは悪役令嬢を幸せにすることにした。
その始まりとして「王子が庭園の青い花を赤い花に変えた理由」を教えてあげると、アイリスは頬を赤くして涙を浮かべ、喜んだ。
「今日の髪飾りは青薔薇なんだな。俺は今、自然の青薔薇を咲かせられないか研究中なんだ」
「……」
「猫、可愛いな!」
膝の上でアイリスに撫でてもらっていたララに、チャリオス王子が手を伸ばしてくる。
王子は猫の扱いが下手だ。物珍しそうに尻尾やヒゲをひっぱるので、ララはネコパンチをお見舞いした。
「フシャー!(痛いにゃ!)」
すると、王子は指先で応戦してくる。
「おっ、遊んでほしいのか? おらおらおらー、王子パンチだぞぉ?」
「にゃにゃにゃ!」
しばらくじゃれあっていると、アイリスがくすくすと笑う。
チャリオス王子はそれを見て「アイリスが笑った!」と大喜びした。
……この二人、普通に相思相愛なんじゃ? アイリスと別行動して、王子側の事情を探ってみたいかも?
ララはそんな衝動を抱き、二人のもとを離れた。
「あっ、猫くんが部屋の外に出てしまったぞ」
ララは使用人が給仕しに来たタイミングで扉の隙間からびゅっと廊下に飛び出した。
「猫くん、出ておいで~」
「王子殿下、猫のことは気になさらずに。気を使わせてしまって申し訳ありません」
「いやいや、俺が猫くんのネコパンチで『や、ら、れ、た~~』って倒れなかったのが悪かったに違いない。申し訳なかった!」
人間たちが探しにくるので、あっちへこっちへと走り回る。
逃げたり隠れたりを繰り返しながら、外へ外へと出て行った。
外には、王室の紋章入り馬車がある。王子が乗ってきた馬車だ。車窓がちょっと開いている。
馬車によじのぼり、車窓から中に忍び込んで椅子の下に身を隠したタイミングで、王子が公爵邸から出てきた。帰宅するらしい。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
馬車を見送るフェアリーグローム公爵とアイリスにチャリオス王子が感謝を告げる。そして、御者が馬車を出発させた。
馬車の中に潜むララは、チャリオス王子が従者に話しかける声に耳をそばだてた。
「今日はアイリスの好みがまたひとつ知れたぞ。それに、彼女が笑ったんだ!」
声は、嬉しそうだ。
「彼女、猫をやさしく撫でていた。猫は小さくて可愛かったな。可愛い生き物同士がくっついてて、俺は非常に庇護欲をそそられた」
会話を聞いていると、チャリオス王子はやっぱりアイリスに好意がある。
ふむふむ、と聞いていると、従者が声をあげた。
「あっ、王子殿下。子猫が馬車の中にいますよ」
見つかった! ララはぎくりとした。
「おや。大変だ。公爵家に戻してあげないと」
チャリオス王子はララを抱き上げ、よしよしと撫でた。手付きは、やさしい。
「王子殿下。お待ちください。その首輪から魔力を感じます」
従者は首輪に気付いて、眉を寄せている。
どうやらこの従者は魔法使いらしい。ララは目を輝かせた。
「にゃー!(取ってくださいっ)」
「ほう。この首輪を取ってほしいのか。よしよし、今外してやるぞ」
おねだりすると、チャリオス王子はあっさりと首輪を外してくれた。
「にゃああああ!(チャ、チャリオス王子~! いい人~っ!)」
「ん、嬉しいのか? よかったなー、首輪は嫌だったんだなー、気づくのが遅れてごめんなぁ」
従者が首輪をつまみ、「魔力を吸い取る首輪でしょうか」と分析している。有能そうだ。
「それにしても、庭園の件は失敗だったな。アイリスに赤い薔薇の花束をプレゼントしたら喜んだから、アイリスの好きな花でいっぱいにしようと思って植え替えただけなのに」
チャリオス王子はララをアイリスに返してから、帰って行った。
なるほど、噂の真相がわかった。花を薔薇にした理由は、ロザリア姫を想ってのことではなく、アイリスのためだったのだ。
「猫さん、脱走しちゃだめよ。王子殿下の馬車に乗っちゃうなんて……殿下がおおらかな方でよかったわ」
二人きりになった部屋でアイリスが言うので、ララは張り切って返事をした。
「ごめんなさい、アイリスさま!」
「えっ――?」
猫が人間の言葉を突然話したので、アイリスはびっくりしている。
「びっくりさせてごめんなさい」
ララは変身を解いて人間の姿になった。
ネコ耳フードの魔法使いローブを着た13歳の女の子の姿のララは、白髪の毛先をオレンジに染めていて、瞳はローズクォーツに似たピンク色。
そばかすがチャームポイントの、元気いっぱいの魔女だ。
「はじめまして、アイリスさま。わたしは魔女のララです。猫に変身していたら、意地悪な魔女にいたずらされて元に戻れなくなっていたのです」
伝統的な挨拶であるカーテシーを披露すると、アイリスの後ろの檻の中でハシビロコウがお辞儀した。
「助けてくれて、ありがとうございました」
感謝を告げて、ララはにっこりとした。
「助けていただいたお礼に、わたしがあなたを助けます!」
パパは「ほっとけば原作通りになって終わるだろう」と言ったけど、アイリスはいい人で、可哀想だ。チャリオス王子もいい人で、アイリスへの好意があるように思われた。
だから、ララは悪役令嬢を幸せにすることにした。
その始まりとして「王子が庭園の青い花を赤い花に変えた理由」を教えてあげると、アイリスは頬を赤くして涙を浮かべ、喜んだ。
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