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1章

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 私は占いが苦手だ。
 あれは、ガセだと思う人も多いし、実際に適当なことを言っているだけの占い師も多いのだが、意外と当ててくるのである。

「おや、私の占いによると至近に妖狐が一匹……いや、なんでもないよ。私の近くにいるのは人間だけだ」

 独り言のように言うのは、仕事仲間の美男子だ。
 天文密奏という、天の声を読み解いて皇帝に伝える仕事をする寵臣。未来に起きる出来事を予知して数々の悲劇を防いできたという、『先見の公子』。
 その正体は私の保護者である白 霞幽ハク カユウ様だ。

紺紺コンコンさん、こちらへ来なさい。身固めをしてあげよう」
 
 紺紺というのは、私が五歳の時……今から十年前に彼がつけてくれた私の名前だ。
 
「ありがとうございます、ふにゅっ」
「先見の公子と呼びなさい」

 霞幽様は、名前を呼ぼうとする私の頬をふにっと押えて止めた。そして、私を抱きしめた。
 
 身固めというのは、邪気を祓ったり凶事から守ったりしてくれる護身の術だ。
 効くんだろうなあ。
 彼は天仙(天から降りてきた仙人)と噂されるほどの実力者らしいから。
 
「後宮に侍女として潜入するんだ。いいね。私は宦官ということにするから。我々には主上の後ろ盾があることだし、多少の無理は金と権力と術でごり押ししよう。君の幻惑の術には期待しているよ」
  
 私たちは、皇帝の妃たちが済む後宮調査を任じられた仕事仲間だ。
 
「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」

 大陸の東側にある国、東晋。またの名を当晋国とうしんこくの皇帝は、そんな命令を下したのである。
 
 ちなみに、私は過去を捨てた身なのだけど、西側にある西晋、正晋国せいしんこくの元王族だ。
 その国は十年前に臣下の下克上で滅びてしまって、父や母、兄とは反逆した臣下の手にかかってしまったのだと思われる。二度と会えない。
 
 過去を捨てたといっても、思い出はいつも胸にある。
 私は真珠の花釵かんざしを荷の中に入れながら、国が滅びてから後宮調査を命じられるまでの日々を振り返った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

 作品に興味を持ってくださり、ありがとうございます。
 この「0」のエピソードは、本編完結後にアドバイスをいただいて追加したオープニングエピソードです。
 作品を楽しんでいただけたら、嬉しいです。(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ぺこり
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