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2、この病、治るんです!!

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 今はまだ、ゲームが始まる前の時期。
 シリル王子殿下はヒロインに会ってもいない。
 レイナも嫉妬に駆られたり罪に手を染めたりしていない。
 せいぜい、身分や能力を笠に着て高慢な態度を取っていて周囲の評判がちょっと悪いかな、程度だ。
 
 でも、数日後、祝祭の朝にヒロインが王都に来る。
 そして、全てが始まるのだ。

 婚約者が他の令嬢に恋をする姿を近くで見るのって、つらくない?
 ……始まる前に逃げてしまったらいいんじゃない?
 
『不治の病なので、もう婚約者ではいられません。さようなら! 私は療養します。療養先は秘密です、探さないでください』
 そんな手紙を残して、私は殿下の元から去ることにした。
 
「なんとレイナが不治の病だと!?」
「お父様、ご心配なさらず。でも、婚約は破棄したいです、よしなに」
「レイナ、どこへ行くというのだ。レイナ――!?」
「お父様、大丈夫ですわ。詳しくは後でお手紙書きますから」
   
 私は推しキャラである執事セバスチャンと共に、王都を離れて南の島に向かった。
 ちょっと強引な出発になったけど、なにせ病の身には時間がない。急がないと。

「お嬢様、一体何をお考えなのです?」
「ふふ、セバスチャン。私は今、すごい知識を持っているの」
  
 私は覚えていたのだ。
 ゲームにはライバル令嬢レイナ以外にも不治の病に苦しむ攻略キャラがいた。
 そのキャラのルートで、ヒロインは治療方法を発見する――

 そう、この病、治るんです!!

「セバスチャン! この病……治るの!!」
「お、お嬢様」 
 セバスチャンは可哀想な子を見る眼で私を見ている。ねえ、信じて? 
 レイナはツンケンして高飛車な令嬢だったので、たぶんセバスチャンからの好感度があまり高くない。残念。
 
「お嬢様、お体の具合はいかがですか? ご無理はなさらないでください。ああっ、鼻血が出ています。起きていてはいけません、ベッドに横になってください。私がベッドごとかつぎますから」
「大丈夫よ、セバスチャン。今日も顔が綺麗ね。そのちょっと困った感じの顔、私は好きよ。担がれたら顔が見えないから嫌。というか、ベッドごと担ぐって意外とワイルドなのね」
 
 ライバル令嬢レイナの執事セバスチャンは、いつもレイナの斜め後ろに控えているイケメン執事。
 原作ではセリフも出番もほとんどない。でもその存在感の控えめなところがいい。
 活躍しなくてもいいの。イケメンで執事なだけで推せるの! 
 
 ああ、思い出す。
 二次創作のイラストを毎日検索して神絵師に感謝していた日々を。
 それが今では毎秒動く推しが鑑賞し放題よ! すごい。
 
「レイナお嬢様、なぜ海に行かれるのですか? 危険でございます。まさか病状が悪化する前に海に身投げしようなどとお考えではありませんか?」
「身投げはしないわ。この海に人魚がいるのよ」

 前世のゲーム知識を活かして、私はイベントが起きる予定の海に出た。
 乗り込むのは見た目も優美で綺麗なスワン号という我が家の船。
 
 使用人もたくさん乗り込んで、私の体調を気遣ってくれる。
 ちゃぷ、ちゃぷという癒し系の波音が、耳に心地よい。水の音って、独特の安らぎ効果があると思う。
 海面もおだやかで、お日様を浴びた水がきらきらしてて、とっても綺麗。視界いっぱいの海景色は、開放的な気分になる。
 
「お嬢様は思い出作りをなさっているのだな」
「お体が動く間にできる体験をしておきたいというお考えなのだろうな」
「お可哀想に……」
 
 あっ、使用人たちに可哀想な子を見るような目で見られている!
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