4 / 5

4、ここには、世間体も争いも何もない

しおりを挟む
 透明な海を鑑賞しながら、白砂の浜辺での日光浴やボート遊びを楽しんだり。
 島内の自然に囲まれた小道を歩いたり。
 使用人たちをチーム分けして、島の洞窟探検大会をしたり。近くの小島をひとつひとつ探索したり。

「お嬢様、本日の特製ドリンクでございます」 
 セバスチャンは新鮮なフルーツをブレンドしてフルーツスムージーを作ってくれる。これが見た目も綺麗で、味も美味しい。
 使用人の中で魔法に長けた者が氷魔法で冷やしてくれるので、ひんやりしてて最高!
 
 セバスチャンは従者の一線をわきまえていて、恋愛関係に発展しそうな気配が全くない。でも、そこがいい。
 主の令嬢が隙を見せたからって軽はずみに手を出してくるセバスチャンは、私が推しているセバスチャンではないの。
 セバスチャンはあくまで執事として仕えてくれるところがいいの。
 
「お嬢様、王都へはいつ戻られるのですか。療養場所を婚約者の殿下に内緒になさる理由はなんでしょうか」
  
「死ぬはずだった命が助かっているのだもの。生きているだけで私、満たされている。幸せよ。今日もお日様は眩しいし、潮風はちょっとべたべたしていて、暑い。でも、暑いなって思いながら浜辺を歩いて波に足を晒してみたらとっても冷たくて気持いいの。すべては生きているから感じられることなのよね。冷たい感覚を気持ちよく思えるのは、暑いからなのだわ。生きているって、楽しい」
 
 ふふ、と笑うと、セバスチャンは眩しそうに私を見た。
 
「レイナお嬢様は、お変わりになりました。以前はもっと……いえ、失礼いたしました」
「ううん。いいのよ。私、セバスチャンの言いたいことがわかるわ」

 前のレイナは、他者に「レイナはすごい」と思われたくて必死で、心に余裕がなかった。
 
「私は由緒正しき血統。生まれながらの特別な存在。一流の教育を受けて、人の何倍も努力をしたの。私は他者よりも優れているの。他者は私より劣っている――……私は、そう思っていたのだわ」

 自尊心がすごくて、「私は他の令嬢より優れているのよ」という気持ちが強くて。
 他人を見下していて、……私、嫌なお嬢様だった。

「血統なんて、教養なんて。こうして大自然の中で潮風に吹かれて波の冷たさに足を浸していると、意味がないことのように思えるわ。ここには、世間体も争いも何もない……」
 私は、のんびりと微笑んだ。
 
 と、そこへ。

「レイナ……!!」
 とても聞き覚えのある声がした。
 
「――シリル殿下!?」

 振り返ると、懐かしい人がいた。

 神々が丹精込めて造形した至高の芸術品めいた美貌の王子様。
 明るい世界がよく似合う、陽光の中で光輝くような美男子。
 でも、こんなところにいるはずのない、……シリル殿下だ。

 急いで走ってきた、という格好で汗をかいていて。
 いつも整っている装いも着崩れたりしていて。
 眠れていないのだろうか、目の下には、濃い隈がある。
 頬がこけた感じもある。
 
 夢?
 幻?
 呆然と目を瞠る私の身体が、駆け寄ってきた殿下に抱きすくめられる。

「きゃっ……」
「探したのだぞ。とても、とても心配したのだぞ」

 熱い体温と、ぜえはあと乱れた殿下の吐息が、私の情緒をかき乱した。

 シリル殿下は、いつも余裕で、落ち着いていて。
 何があっても慌てたりしない、頼りになる王子殿下――……なのに。今は。

 ばさばさと、紙の束が周囲に散らばる。
 殿下の筆跡でびっしりと文字が書いてある紙――手紙だ。いっぱいある。

『レイナ 今 どこにいるのだ?』

『体調はどうだ?』
『苦しくないか? つらくないか?』
『どうして ひとりで死のうとするのだ』 

 ――私にあてた想いが、手紙が、たくさん、たくさん。
 風に煽られながら視界を舞って、波に乗って、ぷかぷかと流れていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された悪役令嬢、実は最強聖女でした〜辺境で拾った彼に一途に愛され、元婚約者が泣きついてきてももう遅い〜

usako
恋愛
王太子の婚約者でありながら「悪女」と呼ばれ婚約破棄された公爵令嬢リディア。 国外追放されたその日、命を救ってくれたのは無骨な騎士ルークだった。 彼に導かれた辺境の地で、本来の力――“聖女”としての奇跡が目覚める。 新たな人生を歩み始めた矢先、かつて自分を貶めた王太子が後悔とともに現れるが……。 もう遅い。彼女は真の愛を知ってしまったから――。 ざまぁと溺愛が交錯する、爽快逆転ラブファンタジー。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

冷徹公爵様は、捨てられた私が『治癒』するまで離してくれません

咲月ねむと
恋愛
聖女候補だったエルナは、「魔力がない」という理由で婚約破棄され、実家からも追放される。厄介払いとして嫁がされたのは、国境を守る「冷徹公爵」ジークハルトのもと。 「氷の彫像」と恐れられる彼は、実は強大すぎる魔力のせいで常に高熱と不眠に苛まれていた。しかし、魔力がないエルナが触れると、なぜか彼の魔力が中和され、安眠できることが判明! 「君がいないと眠れない」と、毎晩抱き枕にされるうちに、冷徹だったはずの彼は甘々な過保護夫に変貌していき……?

処理中です...