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5、こんなイベントは、ゲームにもなかった

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「どこに出せばいいのかわからない手紙を、書いた。毎日書いた。たくさん、……たくさん書いた!!」

 シリル殿下が、必死に叫んで、顔を歪めている。
 泣きだしそうな顔で、一生懸命に私を見ている。美しい瞳に悲しみと深い愛情を溢れさせている。

「どうしていなくなるんだ。最高の治療を手配しようと思ったのに。なぜいなくなったんだ。俺がどれだけ……もう、会えないのかと……俺は、病が感染っても構わない! お前が死ぬなら、一緒に死ぬ。最期までお前といる。お前が死んだら、俺は共に死ぬ!!」 
「な、なんです? なんですか、殿下。えっ? なにを?」
  
 抑えきれないといった様子で、殿下が想いを響かせている。
 
 こんなイベントは、ゲームにもなかった。
 
 ううん、違う。この人、人間だ。キャラクターじゃない。
 そうだ。私、ゲームゲームってそればかり考えていたけど、今、この瞬間をこの世界で生きているこの人は、生身の人間だ。
 私は、強く現実を意識した。

「あ……っ、ごめんなさい。私、……す、すごく、心配してくださったの、です、ね」
「当然だ……っ」

 宝物を慈しむように、シリル殿下が私の手のひらにキスをする。
 息が、くすぐったい。思わず身体が震えてしまう。
 
「俺に隠れてひとりで死のうというのか。そんなのはあまりに悲しい。寂しい。嫌だ。俺はお前のそばにいる! そばにいさせてくれ!」  
 シリル殿下の大きな手が、頬を包んでそっと上を向かせる。祈るような眼差しで私の目を覗き込んでくる。
 ――頬が燃えるように熱い。
 
「あっ……」 
 吐息が鼻先をかすめて、頬へと柔らかなものが触れる。神聖な口付けに、切ない声が続く。
「愛してる、レイナ」 
 シリル殿下の瞳から透明な涙がこぼれて、私は胸を突かれた。
 
 抱きしめられた肩越しにセバスチャンが見える。
 紙を手に持って見せてくる。

『私が場所を教えました』
 ……犯人はあなたなのね! 場所を教えるなら、治ったことも教えてあげればいいじゃない!

 ――ぐすぐすと泣いているシリル殿下は、グッと胸にせまるものがあるけれど。
 正直、嬉しいと思ったりしてしまうけれど……!! 
 
「でででで殿下、ご、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。あの、……私、死にません。治ったので」
「そんな嘘言わなくていいんだ、無理しなくていいっ!」
「う、嘘ではありません……これから病を治す薬草を広める予定もあるのです。私だけではなく、みんなの病が治ります」 
「う……ん? そうだな、みんなの病が治ればいいな……神々よ、われらの祈りをききたまえ……」
「本当です、薬草をお見せしますから、ちょっとこちらにいらしてください……!!」
 
 シリル殿下は、その日から付きっ切りで私と過ごした。
 過保護になった殿下はなかなか私の病が完治したことを信じてくれなかったのだけど、やがて大丈夫だとわかってくれた。
 
「よかった。レイナ。よかった……」
「ご、ご心配をおかけしました……」

 
 王都に帰った私たちは結婚した。
 
 気になるヒロインはというと、「私、前世でライバル令嬢推しだったの」と言いながら近づいてきたので、前世の記憶持ち友達として仲良くなりました。
 
「現実とゲームって、違うのね」
「私もそう思っていたわ」

 ゲーム通りだな、と思うこともあるけれど、この世界はゲームじゃない。
 モブだったひとりひとりに人生があって、ゲームのことなんて何も知らずにたった一度の人生を一生懸命、生きている。
 
「このドリンク、美味しい……!」
「でしょう? 私もお気に入りなの」
 
 ヒロインちゃんと一緒におしゃべりを楽しみながら、私は自分のお腹を撫でた。
 そこには、新しい命が宿っているのだ。
 

 めでたし、めでたし――Happy End!
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