3 / 9

3、パパは、ニッコニコ

しおりを挟む
 公爵家の応接室は、白を基調とした優美な内装だ。

「ロザリットおぉぉぉ!」

 令嬢としてふさわしい装いをさせてもらった私を見て、パパはぎゅうっと両腕で私を抱きしめた。

「ああっ、なんてことだ。ロザリットだ。ロザリットがここにいるじゃないか!」

 使用人たちはその姿を見て、困惑した気配。でも、今のところ仕事に徹する様子でお菓子やお茶を用意してくれている。
 
 猫脚のテーブルの上に、銀製のトレイに美しく盛り付けられたお菓子が置かれる。
 シナモン入りのビスケットは、ロザリットの好物だ。

「お前が好きなのはどれかな、ロザリット? パパに教えてごらん」
「ビスケットがいい」
「おお、おお。そうだったね。ロザリットはそうだったね!」
   
 パパ、大興奮。
 応接室のふかふかソファに座らせてお菓子を食べさせてくれながら、パパは現実と夢のはざまをさまようように「この子はロザリットなんだ」「いや、違うだろ、正気に戻れ、落ち着け」とぶつぶつとつぶやいてから、私を撫でる。
 
「ロザリット、怖かっただろう。痛かっただろう。怪我はすぐに治るからね。パパが守ってやれなくて悪かった。パパって呼んでくれ」
「パパ……」
「ああ……っ、ロザリットだ。間違いないっ! 生きてる。よかった、ロザリット!」
  
 感極まったようにぎゅっと抱きしめられる。
 あったかい。なんだか私もうるうるとしてしまう。

「だ、旦那様、何を仰っているのですか?」
「どうか、お気を確かに……」
 
 家令やメイド長が心配そうにしている。ちなみに、家令はパパの気の置けない親友という設定があったはず。
  
「わが娘ロザリットは生きている。いいな」

 パパは断固とした口調で指示を出した。

「招待状があっただろう。返事がまだ間に合うはずだ、持ってきてくれ」
 
 メイド長はすぐに招待状を持ってきた。

「これは二か月後にあるパーティの招待状だよ。パパと一緒に参加しまちょうねえ~~っ」

 顔をすりすりされて、お髭がチクチクする。いちゃい。

 助けを求めて周囲を見ると。
 
「旦那様のあんなに嬉しそうなお顔は久しぶりに見た……」
「なんて幸せそうなんだ」
「それにしてもあのお嬢様、本当にロザリット様によく似ているわね……」

 家令とメイドは「現実を突きつけるべきだと思うが、あんなに嬉しそうで水を差すのが悩ましい」と悩ましげに視線を交わし合い、結局、何も言わないことを選んだ様子。

 原作と違って、パパがニッコニコ。

 よかった。きっと、これでちょっと悲劇から遠ざかったことでしょう! 
 ……だよね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

なんでも私のせいにする姉に婚約者を奪われました。分かり合えることはなさそうなので、姉妹の関係を終わらせようと思います。

冬吹せいら
恋愛
侯爵家令嬢のミゼス・ワグナーは、何かあるとすぐに妹のリズのせいにして八つ当たりをした。 ある日ミゼスは、リズの態度に腹を立て、婚約者を奪おうとする。 リズはこれまで黙って耐えていた分、全てやり返すことにした……。

白い結婚のはずでしたが、いつの間にか選ぶ側になっていました

ふわふわ
恋愛
王太子アレクシオンとの婚約を、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された 侯爵令嬢リオネッタ・ラーヴェンシュタイン。 涙を流しながらも、彼女の内心は静かだった。 ――これで、ようやく“選ばれる人生”から解放される。 新たに提示されたのは、冷徹無比と名高い公爵アレスト・グラーフとの 白い結婚という契約。 干渉せず、縛られず、期待もしない―― それは、リオネッタにとって理想的な条件だった。 しかし、穏やかな日々の中で、 彼女は少しずつ気づいていく。 誰かに価値を決められる人生ではなく、 自分で選び、立ち、並ぶという生き方に。 一方、彼女を切り捨てた王太子と王城は、 静かに、しかし確実に崩れていく。 これは、派手な復讐ではない。 何も奪わず、すべてを手に入れた令嬢の物語。

「君の話はつまらない」と言われて婚約を破棄されましたが、本当につまらないのはあなたの方ですよ。

冬吹せいら
恋愛
「君の話はつまらない」  公爵令息のハメッド・リベルトンに婚約破棄をされた伯爵令嬢、リゼッタ・アリスベル。  リゼッタは聡明な美少女だ。  しかし、ハメッドはそんなリゼッタと婚約を破棄し、子爵令嬢のアイナ・ゴールドハンと婚約を結び直す。  その一方、リゼッタに好意を寄せていた侯爵家の令息が、彼女の家を訪れて……?

処理中です...