悪辣王の二人の娘 ~真実を知った聖女は悪を討つ~

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

文字の大きさ
244 / 384
4、奪還のベリル

241、預言者ネネイの提案/ 私はくやしい……

しおりを挟む
 フィロシュネーはもっとダーウッドに栄養を摂らせようと、料理を次々と勧めた。
 この預言者は、基本的に言いなりだ。従順に、勧められるがまま、スプーンを動かして味見してくれる。
 
「スープも美味しいですわよ」
「いただきましょう。そうそう、ネネイが相談をしてきたのですが……」
「まあ。なあに」

 ダーウッドは、空国の預言者ネネイと同業者だ。
 《輝きのネクロシス》の仲間であり、共に預言者をかたる仲である。

あの小娘ネネイは、考えが浅いと思うのです」

 これは愚痴だ。悪口を言いたいのだ。
 フィロシュネーはうんうんと相槌を打った。
 どうもこの預言者は、実際に生きてきた年月の割りに人間味にあふれている。精神年齢が低いと感じるときがある。

「ネネイは、『アルブレヒト王とアーサー様が生きていて、臣下の迎えを待っている』という預言をしてみたらどうかと提案してきたのです」

 ダーウッドの愚痴に、フィロシュネーは首をかしげた。

「それ、よいアイディアではなくて? 捜索を継続しやすいじゃない」

 すると、ダーウッドは驚いた様子でスプーンを止めた。

「その預言をしますと、即位なさったハルシオン陛下とフィロシュネー陛下の求心力が下がります」
  
「わたくし、即位式で『お兄様は生きています、王位はお返しする予定です』とはっきりと宣言しましたわよ」

 マロンスコーンをひとくちかじると、香ばしいバターの香りが口の中にふわっと広がる。
 外側はさくさくとしていて、内側はしっとり。栗のピースが入っていて、栗の風味が独特で――美味しい!

「ダーウッド、このスコーンも美味しいですわ」
「いただきましょう」

 美味しい料理は、元気をくれる。
 フィロシュネーは料理人に感謝した。
 
「即位式の宣言は、個人的には心に響きましたが……預言者が選ばなかった、などとはおっしゃらないでいただきたかったです」

 ダーウッドは「スコーンは確かに美味しいですね」とコメントを付けたし、優雅にもうひとくち味わっている。フィロシュネーはうんうんと頷いた。
  
「反省しますわ。けれど、預言がわたくしの宣言を裏付けてくださったら、わたくしが現実を受け止められず妄言を吐いたとご心配の方々も安心なさるのではないかしら」
 
 ダーウッドは少し考えると答えて、食事の後にアルダーマールを栽培しているスペースに寄った。

 一年前に緑の若芽だったアルダーマールは、成長していた。
 今は、フィロシュネーと同じくらいの丈があって、幹も太い。

 このアルダーマールには、水をやるだけではなく、魔力も与えている。

「ダーウッドは捜索の魔法で疲れているのではなくて? わたくしが魔力を注ぎます」

 フィロシュネーは痩せたダーウッドを気遣い、さっと手をかざしてアルダーマールに魔力を注いだ。
 すると。
 
「俺も魔力を注ぎましょうか? 姫君たち?」
 ふわりと風が吹いたかと思えば、空気が姿を変えたみたいに、気づけば隣に『紅国の預言者』がいた。
 
「ひゃっ!」
「――何者!」

 フィロシュネーが驚き、ダーウッドが杖を振ってなにか攻撃的な魔法を仕掛ける中、『紅国の預言者』は片手で結界を張って攻撃を防ぎつつ、器用にアルダーマールへと魔力を注いだ。

「このご褒美は、パーティでダンスをしてくれればいいですよ」
 
 一方的に言って、『紅国の預言者』は風に溶けるようにその姿を消した。

「あれ、やっぱりサイラスじゃないかしら。ダーウッド、どう思う?」
「……城内の魔法警備を強くしましょう。ポッと湧いて言うだけ言って消えるなど、私は許しません!」

 ダーウッドは怒りに燃えて、宮廷魔法使いたちと魔法警備について緊急改善討論会をひらいてしまった。

「城下でも魔法仕掛けによる被害が出たというではありませんか。私は、私は――く、く、……」

 無能、怠慢と言われて悔しいのだ。

 普段は神秘的で冷淡な預言者が怒る姿を見て、誰もがその心情を察したが、口にする者はいなかった。

「くやしい……」

 代わりに、本人が正直に心情を吐露して、本当に悔しそうに俯いた。

「ダ、ダーウッド様」
「お気を確かに。無礼者に青国魔法使いの本気をみせてやりましょう」  
 
 魔法使いたちは自国の預言者の珍しい姿に心を打たれたらしく、我先にと案を出し、青国の魔法警備は見直されたのだった。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

日向はび
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...